魔法の使えない無能と呼ばれた私は実は歴代最強でした。

こずえ

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魔王都市とルネリス

58話

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「失礼します…」

私はファルトの家の中に入る。

パリス以外の他の皆は村の子供たちと遊んでいた。

パリスは私を見つけるとすぐに着いてきたので、そのままだ。

「まずはその辺に座りなされ。時期にアークも戻ってくるはずじゃ…」

ファルトがそう言って三人分のお茶を入れる。

私のはほどよく冷めたものを用意してくれてたみたいだ。

「パリスちゃんにアリスさんや。熱かったりしたら、遠慮なく言ってくだされ。ジジイの加減じゃから気をつけるのじゃぞ。」

ファルトは「ウルフフフ…」と楽しげに笑いながら言う。

「お気遣いありがとうございます。では、早速いただきますね。」

私は一口飲んだ瞬間に衝撃を受けた。

隣でパリスも驚いた様に目を見開いていた。

ファルトが「ウルフフフ!」と笑いながら言う。

「ちょっと苦過ぎましたかな?」

「いえ、そんな事は無いです。むしろ、王都でも味わった事が無いほどに美味しいお茶が飲めてびっくりしています。」

私がそう言うとパリスもとても嬉しそうに言う。

「ファルトさん、パリスのお茶ってカララキの葉から焙煎してませんか?」

「ウルフフフ!カララキが何かはワシはわかりませぬが、この辺りではカイライと呼ばれている葉を使いましたのじゃ。昔、この村に来た兎人うさぎびとが好きだったんじゃよ。ちなみにアリスさんの方には何が入っているかわかりますかな?」

ファルトは嬉しそうに言うとパリスに聞く。


ちなみに兎人とは兎族の古い呼び名なのだ。

他にも私のような猫族は猫人ねこびとの様に族が人に変わった呼び方をされていたんだ。


「アリスさん、ちょっと失礼しますね。」

パリスは私のお茶を少し飲んで匂いを嗅ぐ。

「こちらもカララキ…ではなくて、カイライですね。しかし、焙煎方法が違うみたいです。異なる焙煎方法を利用した味の変化を黄金比とも呼べる比率でブレンドしているのでしょうか…そして、少量ですが蜂蜜も使用されていますね。」

パリスは今までに見た事が無いくらい、とても楽しそうに言う。

「ウルフフフ…正解ですじゃ。パリスちゃんの味覚は鋭いのぅ!」

私はあまり違いがわからなかったので、少し悔しい気持ちになった。

ファルトは嬉しそうに微笑みながら言う。

「余程、茶に精通してない限りはわからないほどの違いですじゃ。それぞれが一番よく味わえる比率なんて、もはや経験がものを言うからのぅ。冒険者なら、調合が一番イメージが着きやすいのでは無いかのぅ?」

「調合…ですか…私の場合、調合は全く出来ないので、難しそうな感じがします…」


調合は冒険者なら全員が出来ると言っても過言ではない。

市場に出回らない様なものは調合で作るのが常識だと言われるほどには誰でも出来るのが調合なのだ。

しかし、私はその調合が出来ないのだ。

知識はあるし、分量も間違えていないはずなのにどうしても爆発してしまう。

ある時は回復薬ポーションを作ろうとして、借家を爆発させてしまった事があるし、ある時はもっと簡単な小回復薬ミニポーションを作ろうとして借りていたそこそこ頑丈に出来てる部屋を吹き飛ばした事もある。

これ以降は危険なので調合はやってないが、どれを作ろうとしても必ず爆発して周囲が吹き飛ぶのがお決まりだった。

逆に調合以外はわりと何でもこなせるくらいには得意だったんだ。

だから、唯一調合関連のスキルだけは何も覚えていない。


そんな苦い過去を思い出しているとパリスが言う。

「パリスも調合は得意では無いんですけど、料理だと思ってやれと教わってからは調合もかなりの精度で出来る様になりましたよ。とは言っても、知識不足で失敗しちゃったりとかするんですけどね。」

「なるほど…調合は料理…か…料理なら、私はかなり得意だから出来るかも?」


…まあ、オリュンやアルの方が私よりもずっと美味しく料理出来るんだけどね。

そこは経験や知識の差もあるのかもしれないけど…

メイドと冒険者じゃ、料理する頻度も違うしね。


「ウルフフフ…仲間同士で意見を出し合うのも良いのぅ…ワシも昔はギルドでバリバリ言わしとったわい。」

ファルトは懐かしそうに目を細めていた。

「ホッホッホー!皆さん、お集まりの様ですな!」

アークが楽しげに戻ってくる。

手には皮を剥いだドリルラビットと思われる血まみれの物体が握られていて、パリスが驚いて気絶してしまった。

「これっ!パリスちゃんが気絶してしまったではないか!」

ファルトがそう言うとアークは楽しげに笑いながら言う。

「ホッホッホー!いやぁ、すみませんな。普段から見慣れた光景でしたので、ついそのまま持ってきてしまいましたな。」

「いえ…私は大丈夫です。パリスは驚いた時に気絶しやすいみたいですので…」

私は気絶したパリスを抱き抱える。

「アリスさんや、そこに布団が敷いてあるでな。そこにパリスちゃんを寝かせてあげなさい。」

「すみません…」

私は言われた通りにパリスを寝かせる。

「ホッホッホー!では、話をさせてもらってもよろしいですかな?」

私はアークとファルトに向き合う。

「ホッホッホー!私からはちょっとした質問をさせてもらいますかな。アリスさん、貴方のその体質についてですな。」

アークは結果はわかっていると言いたげに言う。

「私の体質…ですか?」

「左様ですな。アリスさんのその右腕からは悪魔と妖精の力を感じますな。故に少し気になった次第ですな。」

「そういう事でしたか…てっきり、この体質が良くないのかと思って少し身構えちゃいました。」

私は自身の生まれについて軽く説明する。

「ホッホッホー!悪魔王と妖精王の子ですな!」

ファルトが楽しそうに笑うアークに言う。

「アークや。やはり、神託の子はこの子で間違いないようじゃな。」

「ホッホッホー!そうですな。」

私が首を傾げているとファルトが言う。

「実はのぅ…数日前にワシに獣神様からお告げがあったのじゃ。『魔と精の力を持つ者、来たれり、汝らの役目を果たせ』とな。」

「ホッホッホー!私たちに課せられた役目、それはウルカを無事に貴方に引き渡す事ですな。ウルカは元々この村の生まれでは無いのですな。ある日、突然、獣神様の祠に赤子が現れましてな。それがウルカだったのですな。」

アークは懐かしむ様に目を細めながら言う。

「ウルフフフ…ワシらが大事に育てたウルカをどうかよろしくお願いしますじゃ。」

ファルトは寂しそうな声を出しながらも頭を深々と下げて言う。

「それについてはウルカさんの意見もあると思いますし、私がここでウルカさん抜きでお答えする事は出来ませんが、ウルカさんが来ると言うのであれば、私は歓迎したいと思います。しかし、この先の旅は長く危険なものになるでしょう…この村もウルカさんが居なくなる事による魔物の侵入や侵攻が増えるかもしれません。それを知ってて、大事な故郷でもあるこの村を離れてまで見ず知らずの私に着いてきたいと思うでしょうか?」

私は静かに首を振る。

「私がウルカさんの立場なら、故郷と見ず知らずの余所者、どちらを取るかと言われたら、確実に故郷を取ります。例え、世界が滅ぶとわかっていたとしても大切な人の存在は失いたくないものです。私は過去に大切な人を失くしてしまった事があります。だから、それを失う事の辛さはわかっているつもりです…なので、ウルカさんの意見を聞いてからにしてあげてください。」

私がそこまで言うとアークが少し考えるように言う。

「それもそうですな。ウルカの気持ちを考えずに決めてしまってはウルカに悲しい思いをさせてしまうかもしれませんな。」

「ウルフフフ…ワシらもお告げばかりに気を取られずにウルカの事を第一に考えてやらねばいけないのぅ…」

アークとファルトが心の底からウルカを大事に思っているかがここにいるだけでもひしひしと伝わってくる。

それほどウルカの存在は特別なものなのだろう。

そこにウルカが駆け込んでくる。

「大変だ!でっけぇイノシシがこっち来てる!」

私はすぐに立ち上がって言う。

「ウルカさん!そのイノシシの所まで連れて行ってください!私が倒します!」

「…わかった!こっちだぜ!」

ウルカに案内されて私はイノシシの所まで案内してもらう。

「あれは…キングボアね。」


キングボアは単独だとS級に分類される凶悪なモンスターだ。

素の身体能力が高いのはもちろんだが、恐るべきはその分厚く頑丈な皮膚にあるだろう。

分厚い為、多少の打撃ではビクともしないし、並の剣ではその分厚い皮膚を引き裂く事はおろか、傷をつけることさえ困難を極めると言われている。

もちろん、拳による打撃が中心の私にはその辺のドラゴンよりも戦いにくい相手となるわけだが…

まあ、私の場合は固有能力のおかげでたいした相手ではない事は確かだ。


「お前らのところではキングボアって言うのか?あいつ、皮膚がめちゃくちゃ硬くて、俺でも追い払うしか出来ねぇんだ。」

ウルカが嫌そうな顔で言う。

「大丈夫よ。自分で言うのもアレだけど、私、すっごく強いからね。」

私はキングボアに向かって飛びかかる。

「ブルァァァァァァァ!!!」

キングボアが雄叫びを上げるがお構い無しに拳を構える。

「おりゃあ!」

力一杯にキングボアの顔面をぶん殴る。

「ブルァァァ?!」

キングボアは驚きの声を上げて吹っ飛んで絶命する。

「うっし!食料ゲットだぜ!」

ウルカが驚いた様にその光景を見ていた。

「あのイノシシを一撃だなんて…バケモンじゃねぇか…しかも、スキルも何も使ってないし…」

「アッハハ!確かに!普通に考えると化け物だね!私たちの中では当たり前だから、ついつい忘れちゃってるけど…」

私は手早くキングボアを解体しながら、ウルカに言う。

「あれが当たり前なのか…」

ウルカは思うところがあったのか、少し考える様な仕草をしていた。

「はい!ウルカさん」

私は解体したイノシシ肉をウルカに差し出す。

「…良いのか?」

ウルカは私の顔色を伺う様な目をしながら言う。

「うん!ウルカさんのおかげで手早く倒せたからね!」

私が笑顔でそう言うとウルカは少し嬉しそうに尻尾を振りながら言う。

「そこまで言うなら、もらってやるよ。」

ウルカは私からイノシシ肉を受け取ると嬉しそうに微笑んでいた。

そして、少し前を歩きながらウルカが言う。

「アリス、ありがとな…」

「どういたしまして!」

ウルカと手分けして周囲のモンスターを数体狩って、村に帰るまでにそれ以上の会話をする事は無かったが、不思議とウルカが少し心を開いてくれた様な気がする。



2023/07/21 一部でパリスの一人称に間違いがあったので修正しました。
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