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進み行く世界
77話
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翌日…
「ふわぁ…」
アリスは大きな欠伸をする。
「うっし、今日もダンジョン行こうかな。」
そんな事を言いながら、両端の少女を避け…
「…?」
避けようとした手の感触に違和感を感じて見る。
「…ん?」
アリスは隣に居るのがいつもの少女(リリア)でない事に気がつく。
逆に反対側はいつも通りのパリスで足元に何故か全裸で寝てるリリアが居た。
「…どうなってるの?」
アリスは寝起きの頭をフル回転させて、このわけのわからない状況を理解しようとする。
※
普段なら右側にリリア、左側にパリスが居る状況で右側に見知らぬ少女、左側にパリス、足元に震えるリリア。
パリスはいつも通りに薄っぺらいシャツとパンツ姿だ。
リリアは何故か服を着ていないどころか、下着すらも着ていない。
リリアが服を着てないのはよくある事だが、下着すら着てないのは初めてだ。
最後に隣の見知らぬ少女だが、背中のガッツリ開いたメイド服を着た姿でどことなく見覚えがある顔をしていたが、背中に白い翼、夜明け前の月光に照らされて煌めく左半分が瑠璃色で右半分が猩々緋の長い髪、背丈は小さいが胸には確かな膨らみがあった。
なんか皆、私よりも胸があるの腹たってくるな…
まあ、良いけど。
※
アリスが状況を理解するのを待っていたかのように少女が起きる。
「ん…おはよう…」
少女の無機質な声が聞こえる。
少女の目は髪の色とは反対の猩々緋の左眼と瑠璃色の右眼だった。
「あ、おはようございます?」
アリスが若干疑問形な口調で挨拶した事で少女が思い出したように言う。
「ん…君、誰?」
少女はアリスを指さして言うと周囲を見回して、不思議そうな表情をしていた。
「私はアリスですけど…貴方は?」
「ん…ボクは…」
少女はそこまで言って首を傾げる。
「ん…わからない…」
「記憶喪失って事ですか?」
「ん…そう…かも?」
少女はさほど気にしてない様子で言う。
「待って…ネルちゃん…むにゃむにゃ…」
パリスの寝言に一瞬少女が反応する。
(心当たりがあるのかな?)
アリスは少女に言う。
「じゃあ、とりあえず、ネルさんって呼んでも良いかな?本当の名前を思い出すまでで良いからさ。」
少女は無機質な声で返答する。
「ん…わかった…」
少女…ネルはベッドから降りて身体を伸ばす。
「さてと、私も準備しなくちゃね。」
アリスが身支度をして、出る準備を終えるとアリスの案内の元にアリスと同じ様に身支度していたネルが言う。
「ん…ボク…ついて行く…」
「じゃあ、ネルさんにも着いてきてもらおうかな?」
「ん…わかった…」
そう言うとネルはクルッと右に回ると一瞬で薄い珊瑚色のカンカン帽と胸のところに大きなリボンがある背中が大きく開いた月白のワンピースの姿になる。
「凄い!今のどうやったの?」
アリスが言うとネルは得意げな顔をして言う。
「ん…ボクの固有能力…瞬間換装…ボクが異空間に収納してる服と防具を一瞬で入れ替える…ボクが触れた相手の服も入れ替えれる…逆に服や防具を剥ぎ取ることも出来る…大きさも自動で調節される…とても便利…」
「そうなんだ!じゃあ、ネルさんは服に困る事があんまりなさそうだね。」
「ん…そうかも…」
そんな会話をして、私たちはギルドに向かう。
…
少ししてギルドに着くと眠そうな受付の女性が言う。
「らっしゃいませ︎ぇ…」
「すみません。パーティー登録の書類とダンジョン情報の書類を貰えませんか?」
「めん…じゃなくて…かしこまりましたぁ…」
面倒くさそうに女性が書類を用意する。
「あ、忘れてた…」
女性がアリスを見る。
「冒険者カードを見せてくださぁい…」
アリスが女性にカードを見せる。
「はぁ?!アンタがあの大英雄のアリスさんなの?!ウチらの国何度も救ってるあの大英雄様?!」
女性が驚いた様子で大声を出す。
「え、えぇ…大英雄…うん…まあ…そうなるんですけど…」
アリスが困惑した様子で言うと女性が言う。
「マジ適当な態度取ってすんませんっした!」
女性がものすごい勢いで頭を下げる。
「あ、はい。大丈夫ですよ。」
アリスが言うと女性は先程よりも書類を用意する速度が上がり、仕事も丁寧になる。
「おまたせしました!これが例の書類っす!」
女性から書類を受け取って、必要事項の確認や記入をすませる。
「はい。これで大丈夫ですか?」
「確認するっす!」
アリスが書類を提出すると女性はテキパキと作業を行う。
「後はこの装置にネルさんの手をかざしてほしいっす。」
ネリエルが手をかざすと「S級」の文字とともに測定不能の文字が出る。
「あれ?エラーが出たみたいっすね。ちょっと待っててほしいっす。」
女性はエラーが出た装置を回収して、別の装置を出す。
「今度こそ正常に行けると思うのでさっきと同じ様にしてほしいっす。」
ネルは再び手をかざすと「S級」の文字とともに測定不能の文字が出る。
「嘘でしょ?!ちょっと待っててほしいっす!」
女性がギルド長の部屋にダッシュで行き、ギルド長を連れて戻ってくる。
「お、アリスじゃねぇか!久しぶりだな!」
グラディオスが大きな声でアリスに言う。
「グラディオスさん、お久しぶりです!」
アリスの挨拶を聞くとネルを見る。
「そんでお前さんが測定不能のお嬢さんか?」
ネルは無機質な声で言う。
「ん…そうだと思う…」
「だと思うって…まあ良い。」
グラディオスが後ろの扉を指さして言う。
「じゃ、着いてきな。まあ、やる事は変わんねぇけどな。」
「ん、わかった。」
ネルとアリスはグラディオスについて行く。
「そう言えば、今って魔力測定があるんですか?」
部屋についてアリスが言うとグラディオスが言う。
「そうそう。この間から義務化されたみたいでな。めんどくさい手続きが増えたから、困ってんだ。」
「それギルド長が言っていいセリフじゃないですよ…」
「ガッハッハッ!俺とお前の仲だし、大丈夫だろ!」
グラディオスは豪快に笑いながら、壁に接合された先程の装置よりも大きな装置を指さす。
「んじゃ、さっきと同じようにアレに手をかざしてきな。」
グラディオスが言うとネルが首を傾げる。
「ネルさんの事だよ。」
「ん、わかった。」
ネリエルはアリスから聞くとそのまま装置に手をかざす。
【測定結果:魔力総量→104^1790^98。SS級。能力指数:178。】
「魔力総量もそうだが、能力指数もすげぇな…」
グラディオスが驚きを通り越してもはや呆れたような声で言う。
「そんなに凄いんですか?」
不思議に思ったアリスが言うとグラディオスが言う。
「まず、魔力総量に変な記号がついたのは初めてだな。通常は高くても2(億)くらいが上限で魔力が多い種族でも9(億)が上限なんだが、能力指数においても別格だ。通常なら高くても10が限度なんだが、それを軽々どころか大幅に超えすぎて意味わかんねぇって感じだ。アリスもやってみたら、よくわかると思うぜ。」
グラディオスに勧められてネルと交代したアリスが機械に手をかざす。
【測定結果:魔力総量→測定不能。SS級。能力指数:278。】
「えっと…能力指数は100だけ私が大きいですね。」
アリスが結果に対して言うとグラディオスは目を丸くしながら言う。
「待て待て待て待て!この機械でも測定不能な魔力量ってどんだけ魔力が多いんだよ!それに能力指数も100しか違わねぇじゃねぇか!あ、いや、100も違うのは桁違いなんだけど!」
グラディオスの反応を見て、アリスも理解する。
グラディオスが落ち着きを取り戻すまで待って、手続きを進める。
「んで、ネルをアリスのパーティーに入れたいと…いやぁ、マジですげぇな…アリスのとこだけは絶対に敵にしたくない相手だわ。」
「あはは…」
グラディオスの言葉にアリスが苦笑する。
そして、手続きが終わってグラディオスが言う。
「これで手続きは完了だが、なにか聞きたい事はあるか?」
グラディオスがネルに聞くとネルは少し考えるように首を傾げて、自分の事だと理解する。
「ん、ボクの名前…本当の名前…知りたい…」
「じゃあ、こっちでも調べておくよ。あいにく、今はわかんねぇからな。」
「ん、わかった。」
ネルはそう言うとアリスを見る。
「ん、早く行こ…」
「では、行きますね。」
「ああ、気をつけてな。」
そうして、ギルド長の部屋から出て、ダンジョンに向かう。
「今回のダンジョンは10階層でA級みたいだね。ランク的には負ける要素が無いけど、油断は禁物だよ。」
「ん、わかった。」
アリスがそう言うとネルは頷いて言う。
そして、転移魔法でダンジョンの入口の近くまで来るとそのまま中に入る。
「ん、空気変わった…」
「ダンジョンの中に入ったからね。」
そんな事を言っていると早速目の前にゴブリンの群れが現れる。
「じゃあ、ネルさん、あいつらをやっつけちゃって!」
「ん、わかった。」
ネリエルはそう言うと凄まじい速さでゴブリンに接近し、手に持った普通の鉄の短剣で切り裂く。
ゴブリンの群れは瞬きするよりも早く殲滅される。
「ん、簡単…」
「うんうん。これくらいなら、楽勝だね!」
そうして、あっと言う間にボス部屋まで辿り着く。
「ネルさん、ここから先はボス部屋と言って、これまでの雑魚とは比べ物にならない強さのモンスターがいるわ。怪我しないように気をつけてね。」
「ん、わかった。」
そうして、二人がボス部屋に入ると文字が浮き出る。
『能力使用不可、汝らの力を示せ。』
同時に能力が使えなくなり、ボスが2体出現する。
「あれはS級の人型モンスター、赤い方はサンライズと青い方はムーンライトね。あいつらは同時に倒さないと復活するから分かれて戦うわよ!」
「ん、わかった。」
アリスがそう言った瞬間、サンライズが火炎を纏って突撃してくる。
同時に別々の両端に移動し、アリスの方にムーンライトが槍を振るう。
アリスも瞬時にエクスカリバーを取り出して受け流す。
「良かった。空間収納は使えるみたいね。」
ネルはサンライズの攻撃をくるっと回って回避しながら、固有能力で耐熱性の高いスーツに着替えて、魔力を纏わせた手刀で応戦する。
「ネルさん、危なくなったら、私に任せて!」
「ん…わかった。」
アリスはムーンライトをネルがサンライズと応戦する。
「ん…こっち…」
ネルは魔力を纏わせて的確にサンライズのコアを狙う。
サンライズもそれを理解しているのか、コアを移動させたり、炎で応戦する。
「そりゃ!」
アリスが剣を振るうとムーンライトは槍で防御する。
ムーンライトにはコアの様なものはなく、ただ純粋に斬り倒せば良さそうであった。
問題は…
「ん…面倒…」
ネルが相手をしているサンライズのコアを破壊しなければダメと言う点だろう。
復活する度に少しづつ力を増していく特性もあるので、ネルがコアを破壊するタイミングとムーンライトの首を取るタイミングを合わせないといけないところだろうか。
そんな事を考えているうちにネルの目が輝く。
「ん…見切った」
ネルが魔力を槍のように飛ばしてサンライズのコアを貫くと同時にアリスもムーンライトの首を切り落す。
「よし、今日も絶好調ね!」
アリスはネルとハイタッチをする。
「なんだか、私たち、昔からずっと居たみたいに感じるね!」
「ん…そうかも…ボクも初めての気がしない…変なの…」
「あっはは!でも、悪い気はしないでしょ?」
アリスが笑顔で言うとネルもどこかで見たような笑顔で言う。
「ん…そうかも」
そうして、アリスたちが宝箱を開けて、ダンジョンから出るとダンジョンが崩壊する。
「え?崩壊した…って事は、シークレットダンジョンだったの?」
本来、シークレットダンジョン以外は構造の変化が無いので崩壊しないのだ。
事前情報にシークレットダンジョンであると記載が無かったことから、安心して居たのだが…
「ん…シークレットダンジョン?」
ネルが首を傾げる。
「うん。本来なら、事前調査とかで事前情報にシークレットダンジョンであるとか記載があるからわかるんだけど、ここはそう言った記載が無かったんだ。」
アリスはそこまで言って「ハッ」とした様子で目を見開く。
「そうだった…ネルさんは記憶喪失でわからないんだったね。」
「ん…そうだね」
ネルはどことなく楽しげに言う。
「シークレットダンジョンって言うのはね…」
アリスは帰りの龍車を待つ間に説明する。
「ん…不思議のダンジョンみたい…」
ネルはそう言った後で首を傾げる。
「ん…不思議のダンジョン…?アリス…不思議のダンジョンって何?」
「えっ?えっと…不思議のダンジョン?」
「ん…ボク、そう言った…でも、ボクにもわからない…どうしてこんな言葉が出たのか…だから、教えて…」
ネルが真剣な眼差しで言う。
「ん~…昔、一緒に冒険してた人が言ってた気がするんだけど…なんだったかなぁ…でも、話の流れ的にはシークレットダンジョンの事っぽいよね。」
「ん…なら、その人に会いたい…ボクの事知ってるかもしれないし…」
「あ~…今は無理なんだよね…」
アリスは昔を思い出して困った様に頬を掻く。
「ん…聞いてもいい?」
ネルが少し優しげな表情をした気がした。
「…楽しいお話じゃ無いわよ?」
「ん…それでも…ボクは知りたい…アリスのことも…もっと…」
「…そっか。じゃあ、少しだけ話しましょうか。」
アリスは学生時代に仲が良かった鏡華と言う転生者について少し話す。
「…って感じで、私にとってはかけがえのない家族の一人だったんだ。今はもう会えないんだけどね…」
ネルは最後まで優しげな表情で聞いていた。
「クルルル!」
龍が喉を鳴らしながらやってくる。
「お、君は…ピロシキの子供かい?」
「キュッ!」
アリスが優しく微笑むと龍は嬉しそうに鳴く。
「そうなんだ!ピロシキは元気にしてる?」
「キュルル、キュ、キュイ!キュル、ルルル…」
「そうなんだ…私も気になるけど、ピロシキは今は私の龍じゃ無いしなぁ…自然の龍に干渉するのはあまり勧められてないんだ。特にピロシキみたいに歳をとってるとね…」
「キュルル…」
龍がしょんぼりとした様子で鳴く。
「…ん?いや、待てよ…」
アリスがニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「私の立場を利用すれば、会いに行けるかも!」
「キュルル!?」
アリスはネルを見て言う。
「ネルさん、ギルドに戻るよ!私はその後ですぐ出るけどね。」
「ん…待って…ボクも行きたい…」
アリスが龍を見る。
「キュル、キュルルル。」
「わかったわ。」
アリスがそう言うと龍は少しだけ申し訳なさそうにしていた。
「龍の森は森の龍に認められないと入れない場所だからダメだって。私はピロシキ経由で森の龍に認めてもらってるんだけどね。」
※
森の龍はその森に住む龍を管理する存在だ。
龍車としてヒトの中で働く龍はもちろん、森で産まれる龍も森の龍が管理を担当している。
これはヒトと龍の契約に基いて、ヒトと龍のどちらも守る為に森の龍と大昔のヒトによってかけられた誓約のようなものらしい。
森の龍が認めたヒトには森の龍からの加護が与えられ、龍を従える力を得る。
ちなみにアリスが龍の言葉である龍言語がわかるのも森の龍の加護を受けているからだ。
アリスは数少ない森の龍に会ったことのある人物の1人であり、森の龍の龍言語を理解出来る森の龍に会ったことのある人物の中でも珍しい能力を持っていることから、一部の龍からは森の龍の遣いだと思われている。
ちなみにアリスはその事を覚えていないので、ピロシキ経由で森の龍に認めてもらっていると思っている。
※
アリスは龍とネルを連れて急いでギルドに戻った後、ネルに伝言を頼んで龍に乗って龍の森に向かう。
龍の森の前まで来ると龍が止まる。
「森の龍よ。我が声を受け入れてたまえ…」
応えるように森の木々がざわめく。
「キュル!」
「お願い!」
龍が進み始める。
龍に乗って全力で森の中を走ること数十分、龍の走る速度が低下し、見覚えのある鱗が見える。
「ピロシキ!」
ピロシキと呼ばれた龍がピクリと動いて反応する。
「グオォ…」
ピロシキは小さく鳴くとアリスの方に首を持ち上げる。
「ピロシキ、大丈夫?無理はしないでね。」
「グオン…」
ピロシキは「大丈夫だ」と言いたげに鳴いてアリスの顔を舐める。
「あはは!くすぐったいよ~」
ピロシキは一通りアリスの顔を舐めた後、ゆっくりと目を閉じる。
「ピロシキ?」
アリスはピロシキの安らかな顔を見て悟る。
「ピロシキ…」
ピロシキは森に還る時が来たのだ。
最後に主であるアリスに会いたかったのだろう。
アリスはそっとその身体を撫でて祈りを捧げる。
「ピロシキ、どうか…幸せにね…」
アリスはそっと立ち上がって龍に言う。
「私、帰るね。送ってくれてありがとう。」
「クルル…」
アリスは龍に見送られながら、森の中を走り、龍に乗っていた時よりも速く森を出る。
「待たれよ。」
出口の付近で少女の声がする。
アリスが振り返るとそこには翡翠の翼と長い髪のエメラルドグリーンの瞳の龍人族の背の低い少女がいた。
アリスが驚いていると龍人族の少女が堂々とアリスより大きな胸を張って言う。
「我が母に認められし者よ。我と契約する気は無いか?」
「我が母…?」
アリスが首を傾げると少女が言う。
「汝ら、ヒトの子が森の龍と呼称する存在だ。我はその龍より産まれし者。故に我は汝を選んだ。」
少女は真剣な表情で言う。
「えっと…確かに私は森の龍に認められて、ここに入ってますけど…それがどうして貴方が契約したい理由になるんですか?それだけなら、私以外にももっと適正のあるヒトがいると思うのですが…」
少女はアリスの言葉を聞いても全く動じることなく言う。
「我が知る限り、我が母に直接会って認められた者は汝だけだ。故に我は契約をするなら汝のような者であるべきだと考えた。我が母も汝なら良いと認めてくれたのでな。」
少女はアリスの目をじっと見る。
少女からは絶対に引かないと言う覚悟がその目からも伝わってくる。
「森の龍が直々に認められたのですか?!私、そんなにこの森と関わってないのに…」
アリスが言うと少女は「ふむ…」と顎に手を置いて言う。
「汝は思い違いをしておるな。汝が大切にしておったあの龍は我が母に次いで位の高い龍なのだ。その龍が汝の事を悪く言うことは無かった。それだけでも誇るべき事なのだ。汝も知っておると思うが、龍は誇り高き種族。それも高位の龍ともなれば、その傾向はより顕著に出る。その龍に不満を持たせなかった。我が母にとっても、我にとってもそれだけで信用に値する存在なのだ。故に我も我が母も汝を信頼し、汝を好いている。我がこうしてヒトの姿をとろうと考えるほどに汝は我らにとって信頼するに値する存在なのだ。それに…」
少女は腰に手を当てて胸を張ってドヤ顔で言う。
「我の意思で汝を選ぶのだ!」
「ふわぁ…」
アリスは大きな欠伸をする。
「うっし、今日もダンジョン行こうかな。」
そんな事を言いながら、両端の少女を避け…
「…?」
避けようとした手の感触に違和感を感じて見る。
「…ん?」
アリスは隣に居るのがいつもの少女(リリア)でない事に気がつく。
逆に反対側はいつも通りのパリスで足元に何故か全裸で寝てるリリアが居た。
「…どうなってるの?」
アリスは寝起きの頭をフル回転させて、このわけのわからない状況を理解しようとする。
※
普段なら右側にリリア、左側にパリスが居る状況で右側に見知らぬ少女、左側にパリス、足元に震えるリリア。
パリスはいつも通りに薄っぺらいシャツとパンツ姿だ。
リリアは何故か服を着ていないどころか、下着すらも着ていない。
リリアが服を着てないのはよくある事だが、下着すら着てないのは初めてだ。
最後に隣の見知らぬ少女だが、背中のガッツリ開いたメイド服を着た姿でどことなく見覚えがある顔をしていたが、背中に白い翼、夜明け前の月光に照らされて煌めく左半分が瑠璃色で右半分が猩々緋の長い髪、背丈は小さいが胸には確かな膨らみがあった。
なんか皆、私よりも胸があるの腹たってくるな…
まあ、良いけど。
※
アリスが状況を理解するのを待っていたかのように少女が起きる。
「ん…おはよう…」
少女の無機質な声が聞こえる。
少女の目は髪の色とは反対の猩々緋の左眼と瑠璃色の右眼だった。
「あ、おはようございます?」
アリスが若干疑問形な口調で挨拶した事で少女が思い出したように言う。
「ん…君、誰?」
少女はアリスを指さして言うと周囲を見回して、不思議そうな表情をしていた。
「私はアリスですけど…貴方は?」
「ん…ボクは…」
少女はそこまで言って首を傾げる。
「ん…わからない…」
「記憶喪失って事ですか?」
「ん…そう…かも?」
少女はさほど気にしてない様子で言う。
「待って…ネルちゃん…むにゃむにゃ…」
パリスの寝言に一瞬少女が反応する。
(心当たりがあるのかな?)
アリスは少女に言う。
「じゃあ、とりあえず、ネルさんって呼んでも良いかな?本当の名前を思い出すまでで良いからさ。」
少女は無機質な声で返答する。
「ん…わかった…」
少女…ネルはベッドから降りて身体を伸ばす。
「さてと、私も準備しなくちゃね。」
アリスが身支度をして、出る準備を終えるとアリスの案内の元にアリスと同じ様に身支度していたネルが言う。
「ん…ボク…ついて行く…」
「じゃあ、ネルさんにも着いてきてもらおうかな?」
「ん…わかった…」
そう言うとネルはクルッと右に回ると一瞬で薄い珊瑚色のカンカン帽と胸のところに大きなリボンがある背中が大きく開いた月白のワンピースの姿になる。
「凄い!今のどうやったの?」
アリスが言うとネルは得意げな顔をして言う。
「ん…ボクの固有能力…瞬間換装…ボクが異空間に収納してる服と防具を一瞬で入れ替える…ボクが触れた相手の服も入れ替えれる…逆に服や防具を剥ぎ取ることも出来る…大きさも自動で調節される…とても便利…」
「そうなんだ!じゃあ、ネルさんは服に困る事があんまりなさそうだね。」
「ん…そうかも…」
そんな会話をして、私たちはギルドに向かう。
…
少ししてギルドに着くと眠そうな受付の女性が言う。
「らっしゃいませ︎ぇ…」
「すみません。パーティー登録の書類とダンジョン情報の書類を貰えませんか?」
「めん…じゃなくて…かしこまりましたぁ…」
面倒くさそうに女性が書類を用意する。
「あ、忘れてた…」
女性がアリスを見る。
「冒険者カードを見せてくださぁい…」
アリスが女性にカードを見せる。
「はぁ?!アンタがあの大英雄のアリスさんなの?!ウチらの国何度も救ってるあの大英雄様?!」
女性が驚いた様子で大声を出す。
「え、えぇ…大英雄…うん…まあ…そうなるんですけど…」
アリスが困惑した様子で言うと女性が言う。
「マジ適当な態度取ってすんませんっした!」
女性がものすごい勢いで頭を下げる。
「あ、はい。大丈夫ですよ。」
アリスが言うと女性は先程よりも書類を用意する速度が上がり、仕事も丁寧になる。
「おまたせしました!これが例の書類っす!」
女性から書類を受け取って、必要事項の確認や記入をすませる。
「はい。これで大丈夫ですか?」
「確認するっす!」
アリスが書類を提出すると女性はテキパキと作業を行う。
「後はこの装置にネルさんの手をかざしてほしいっす。」
ネリエルが手をかざすと「S級」の文字とともに測定不能の文字が出る。
「あれ?エラーが出たみたいっすね。ちょっと待っててほしいっす。」
女性はエラーが出た装置を回収して、別の装置を出す。
「今度こそ正常に行けると思うのでさっきと同じ様にしてほしいっす。」
ネルは再び手をかざすと「S級」の文字とともに測定不能の文字が出る。
「嘘でしょ?!ちょっと待っててほしいっす!」
女性がギルド長の部屋にダッシュで行き、ギルド長を連れて戻ってくる。
「お、アリスじゃねぇか!久しぶりだな!」
グラディオスが大きな声でアリスに言う。
「グラディオスさん、お久しぶりです!」
アリスの挨拶を聞くとネルを見る。
「そんでお前さんが測定不能のお嬢さんか?」
ネルは無機質な声で言う。
「ん…そうだと思う…」
「だと思うって…まあ良い。」
グラディオスが後ろの扉を指さして言う。
「じゃ、着いてきな。まあ、やる事は変わんねぇけどな。」
「ん、わかった。」
ネルとアリスはグラディオスについて行く。
「そう言えば、今って魔力測定があるんですか?」
部屋についてアリスが言うとグラディオスが言う。
「そうそう。この間から義務化されたみたいでな。めんどくさい手続きが増えたから、困ってんだ。」
「それギルド長が言っていいセリフじゃないですよ…」
「ガッハッハッ!俺とお前の仲だし、大丈夫だろ!」
グラディオスは豪快に笑いながら、壁に接合された先程の装置よりも大きな装置を指さす。
「んじゃ、さっきと同じようにアレに手をかざしてきな。」
グラディオスが言うとネルが首を傾げる。
「ネルさんの事だよ。」
「ん、わかった。」
ネリエルはアリスから聞くとそのまま装置に手をかざす。
【測定結果:魔力総量→104^1790^98。SS級。能力指数:178。】
「魔力総量もそうだが、能力指数もすげぇな…」
グラディオスが驚きを通り越してもはや呆れたような声で言う。
「そんなに凄いんですか?」
不思議に思ったアリスが言うとグラディオスが言う。
「まず、魔力総量に変な記号がついたのは初めてだな。通常は高くても2(億)くらいが上限で魔力が多い種族でも9(億)が上限なんだが、能力指数においても別格だ。通常なら高くても10が限度なんだが、それを軽々どころか大幅に超えすぎて意味わかんねぇって感じだ。アリスもやってみたら、よくわかると思うぜ。」
グラディオスに勧められてネルと交代したアリスが機械に手をかざす。
【測定結果:魔力総量→測定不能。SS級。能力指数:278。】
「えっと…能力指数は100だけ私が大きいですね。」
アリスが結果に対して言うとグラディオスは目を丸くしながら言う。
「待て待て待て待て!この機械でも測定不能な魔力量ってどんだけ魔力が多いんだよ!それに能力指数も100しか違わねぇじゃねぇか!あ、いや、100も違うのは桁違いなんだけど!」
グラディオスの反応を見て、アリスも理解する。
グラディオスが落ち着きを取り戻すまで待って、手続きを進める。
「んで、ネルをアリスのパーティーに入れたいと…いやぁ、マジですげぇな…アリスのとこだけは絶対に敵にしたくない相手だわ。」
「あはは…」
グラディオスの言葉にアリスが苦笑する。
そして、手続きが終わってグラディオスが言う。
「これで手続きは完了だが、なにか聞きたい事はあるか?」
グラディオスがネルに聞くとネルは少し考えるように首を傾げて、自分の事だと理解する。
「ん、ボクの名前…本当の名前…知りたい…」
「じゃあ、こっちでも調べておくよ。あいにく、今はわかんねぇからな。」
「ん、わかった。」
ネルはそう言うとアリスを見る。
「ん、早く行こ…」
「では、行きますね。」
「ああ、気をつけてな。」
そうして、ギルド長の部屋から出て、ダンジョンに向かう。
「今回のダンジョンは10階層でA級みたいだね。ランク的には負ける要素が無いけど、油断は禁物だよ。」
「ん、わかった。」
アリスがそう言うとネルは頷いて言う。
そして、転移魔法でダンジョンの入口の近くまで来るとそのまま中に入る。
「ん、空気変わった…」
「ダンジョンの中に入ったからね。」
そんな事を言っていると早速目の前にゴブリンの群れが現れる。
「じゃあ、ネルさん、あいつらをやっつけちゃって!」
「ん、わかった。」
ネリエルはそう言うと凄まじい速さでゴブリンに接近し、手に持った普通の鉄の短剣で切り裂く。
ゴブリンの群れは瞬きするよりも早く殲滅される。
「ん、簡単…」
「うんうん。これくらいなら、楽勝だね!」
そうして、あっと言う間にボス部屋まで辿り着く。
「ネルさん、ここから先はボス部屋と言って、これまでの雑魚とは比べ物にならない強さのモンスターがいるわ。怪我しないように気をつけてね。」
「ん、わかった。」
そうして、二人がボス部屋に入ると文字が浮き出る。
『能力使用不可、汝らの力を示せ。』
同時に能力が使えなくなり、ボスが2体出現する。
「あれはS級の人型モンスター、赤い方はサンライズと青い方はムーンライトね。あいつらは同時に倒さないと復活するから分かれて戦うわよ!」
「ん、わかった。」
アリスがそう言った瞬間、サンライズが火炎を纏って突撃してくる。
同時に別々の両端に移動し、アリスの方にムーンライトが槍を振るう。
アリスも瞬時にエクスカリバーを取り出して受け流す。
「良かった。空間収納は使えるみたいね。」
ネルはサンライズの攻撃をくるっと回って回避しながら、固有能力で耐熱性の高いスーツに着替えて、魔力を纏わせた手刀で応戦する。
「ネルさん、危なくなったら、私に任せて!」
「ん…わかった。」
アリスはムーンライトをネルがサンライズと応戦する。
「ん…こっち…」
ネルは魔力を纏わせて的確にサンライズのコアを狙う。
サンライズもそれを理解しているのか、コアを移動させたり、炎で応戦する。
「そりゃ!」
アリスが剣を振るうとムーンライトは槍で防御する。
ムーンライトにはコアの様なものはなく、ただ純粋に斬り倒せば良さそうであった。
問題は…
「ん…面倒…」
ネルが相手をしているサンライズのコアを破壊しなければダメと言う点だろう。
復活する度に少しづつ力を増していく特性もあるので、ネルがコアを破壊するタイミングとムーンライトの首を取るタイミングを合わせないといけないところだろうか。
そんな事を考えているうちにネルの目が輝く。
「ん…見切った」
ネルが魔力を槍のように飛ばしてサンライズのコアを貫くと同時にアリスもムーンライトの首を切り落す。
「よし、今日も絶好調ね!」
アリスはネルとハイタッチをする。
「なんだか、私たち、昔からずっと居たみたいに感じるね!」
「ん…そうかも…ボクも初めての気がしない…変なの…」
「あっはは!でも、悪い気はしないでしょ?」
アリスが笑顔で言うとネルもどこかで見たような笑顔で言う。
「ん…そうかも」
そうして、アリスたちが宝箱を開けて、ダンジョンから出るとダンジョンが崩壊する。
「え?崩壊した…って事は、シークレットダンジョンだったの?」
本来、シークレットダンジョン以外は構造の変化が無いので崩壊しないのだ。
事前情報にシークレットダンジョンであると記載が無かったことから、安心して居たのだが…
「ん…シークレットダンジョン?」
ネルが首を傾げる。
「うん。本来なら、事前調査とかで事前情報にシークレットダンジョンであるとか記載があるからわかるんだけど、ここはそう言った記載が無かったんだ。」
アリスはそこまで言って「ハッ」とした様子で目を見開く。
「そうだった…ネルさんは記憶喪失でわからないんだったね。」
「ん…そうだね」
ネルはどことなく楽しげに言う。
「シークレットダンジョンって言うのはね…」
アリスは帰りの龍車を待つ間に説明する。
「ん…不思議のダンジョンみたい…」
ネルはそう言った後で首を傾げる。
「ん…不思議のダンジョン…?アリス…不思議のダンジョンって何?」
「えっ?えっと…不思議のダンジョン?」
「ん…ボク、そう言った…でも、ボクにもわからない…どうしてこんな言葉が出たのか…だから、教えて…」
ネルが真剣な眼差しで言う。
「ん~…昔、一緒に冒険してた人が言ってた気がするんだけど…なんだったかなぁ…でも、話の流れ的にはシークレットダンジョンの事っぽいよね。」
「ん…なら、その人に会いたい…ボクの事知ってるかもしれないし…」
「あ~…今は無理なんだよね…」
アリスは昔を思い出して困った様に頬を掻く。
「ん…聞いてもいい?」
ネルが少し優しげな表情をした気がした。
「…楽しいお話じゃ無いわよ?」
「ん…それでも…ボクは知りたい…アリスのことも…もっと…」
「…そっか。じゃあ、少しだけ話しましょうか。」
アリスは学生時代に仲が良かった鏡華と言う転生者について少し話す。
「…って感じで、私にとってはかけがえのない家族の一人だったんだ。今はもう会えないんだけどね…」
ネルは最後まで優しげな表情で聞いていた。
「クルルル!」
龍が喉を鳴らしながらやってくる。
「お、君は…ピロシキの子供かい?」
「キュッ!」
アリスが優しく微笑むと龍は嬉しそうに鳴く。
「そうなんだ!ピロシキは元気にしてる?」
「キュルル、キュ、キュイ!キュル、ルルル…」
「そうなんだ…私も気になるけど、ピロシキは今は私の龍じゃ無いしなぁ…自然の龍に干渉するのはあまり勧められてないんだ。特にピロシキみたいに歳をとってるとね…」
「キュルル…」
龍がしょんぼりとした様子で鳴く。
「…ん?いや、待てよ…」
アリスがニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「私の立場を利用すれば、会いに行けるかも!」
「キュルル!?」
アリスはネルを見て言う。
「ネルさん、ギルドに戻るよ!私はその後ですぐ出るけどね。」
「ん…待って…ボクも行きたい…」
アリスが龍を見る。
「キュル、キュルルル。」
「わかったわ。」
アリスがそう言うと龍は少しだけ申し訳なさそうにしていた。
「龍の森は森の龍に認められないと入れない場所だからダメだって。私はピロシキ経由で森の龍に認めてもらってるんだけどね。」
※
森の龍はその森に住む龍を管理する存在だ。
龍車としてヒトの中で働く龍はもちろん、森で産まれる龍も森の龍が管理を担当している。
これはヒトと龍の契約に基いて、ヒトと龍のどちらも守る為に森の龍と大昔のヒトによってかけられた誓約のようなものらしい。
森の龍が認めたヒトには森の龍からの加護が与えられ、龍を従える力を得る。
ちなみにアリスが龍の言葉である龍言語がわかるのも森の龍の加護を受けているからだ。
アリスは数少ない森の龍に会ったことのある人物の1人であり、森の龍の龍言語を理解出来る森の龍に会ったことのある人物の中でも珍しい能力を持っていることから、一部の龍からは森の龍の遣いだと思われている。
ちなみにアリスはその事を覚えていないので、ピロシキ経由で森の龍に認めてもらっていると思っている。
※
アリスは龍とネルを連れて急いでギルドに戻った後、ネルに伝言を頼んで龍に乗って龍の森に向かう。
龍の森の前まで来ると龍が止まる。
「森の龍よ。我が声を受け入れてたまえ…」
応えるように森の木々がざわめく。
「キュル!」
「お願い!」
龍が進み始める。
龍に乗って全力で森の中を走ること数十分、龍の走る速度が低下し、見覚えのある鱗が見える。
「ピロシキ!」
ピロシキと呼ばれた龍がピクリと動いて反応する。
「グオォ…」
ピロシキは小さく鳴くとアリスの方に首を持ち上げる。
「ピロシキ、大丈夫?無理はしないでね。」
「グオン…」
ピロシキは「大丈夫だ」と言いたげに鳴いてアリスの顔を舐める。
「あはは!くすぐったいよ~」
ピロシキは一通りアリスの顔を舐めた後、ゆっくりと目を閉じる。
「ピロシキ?」
アリスはピロシキの安らかな顔を見て悟る。
「ピロシキ…」
ピロシキは森に還る時が来たのだ。
最後に主であるアリスに会いたかったのだろう。
アリスはそっとその身体を撫でて祈りを捧げる。
「ピロシキ、どうか…幸せにね…」
アリスはそっと立ち上がって龍に言う。
「私、帰るね。送ってくれてありがとう。」
「クルル…」
アリスは龍に見送られながら、森の中を走り、龍に乗っていた時よりも速く森を出る。
「待たれよ。」
出口の付近で少女の声がする。
アリスが振り返るとそこには翡翠の翼と長い髪のエメラルドグリーンの瞳の龍人族の背の低い少女がいた。
アリスが驚いていると龍人族の少女が堂々とアリスより大きな胸を張って言う。
「我が母に認められし者よ。我と契約する気は無いか?」
「我が母…?」
アリスが首を傾げると少女が言う。
「汝ら、ヒトの子が森の龍と呼称する存在だ。我はその龍より産まれし者。故に我は汝を選んだ。」
少女は真剣な表情で言う。
「えっと…確かに私は森の龍に認められて、ここに入ってますけど…それがどうして貴方が契約したい理由になるんですか?それだけなら、私以外にももっと適正のあるヒトがいると思うのですが…」
少女はアリスの言葉を聞いても全く動じることなく言う。
「我が知る限り、我が母に直接会って認められた者は汝だけだ。故に我は契約をするなら汝のような者であるべきだと考えた。我が母も汝なら良いと認めてくれたのでな。」
少女はアリスの目をじっと見る。
少女からは絶対に引かないと言う覚悟がその目からも伝わってくる。
「森の龍が直々に認められたのですか?!私、そんなにこの森と関わってないのに…」
アリスが言うと少女は「ふむ…」と顎に手を置いて言う。
「汝は思い違いをしておるな。汝が大切にしておったあの龍は我が母に次いで位の高い龍なのだ。その龍が汝の事を悪く言うことは無かった。それだけでも誇るべき事なのだ。汝も知っておると思うが、龍は誇り高き種族。それも高位の龍ともなれば、その傾向はより顕著に出る。その龍に不満を持たせなかった。我が母にとっても、我にとってもそれだけで信用に値する存在なのだ。故に我も我が母も汝を信頼し、汝を好いている。我がこうしてヒトの姿をとろうと考えるほどに汝は我らにとって信頼するに値する存在なのだ。それに…」
少女は腰に手を当てて胸を張ってドヤ顔で言う。
「我の意思で汝を選ぶのだ!」
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なるほど…
確かに重要度によっては必要である措置の可能性はありますね。
ただ、個人的にはちょっと悪ふざけ気味に書いた部分ではありますので、読んでもらえてたらいいなくらいに考えています。
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貴重なご意見ありがとうございましたm(_ _)m
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
感想の投稿ありがとうございます!
おぉ…!お気に入り登録までしていただけるなんて…!
これは私も真面目に執筆せねばなりませんね(いつも真面目に執筆しろ!)
めっちゃありがとうございます!
超絶ウルトラ嬉しいでやがります!
筆が遅い節があるので、時間はかかりますけど、気長に待っていただけると幸いです(遠い目)