54 / 72
第三章 ザハラ王国編
54 愛って、何?
しおりを挟む
「ねえ、ロイド、あなたはどんな人生を過ごしてきたの……?」
姉さんは、俺のことならなんでも知りたいようで、俺も問われるままに話し続けた。
「……父さまと母さまが亡くなってから、ロイドはどうしてたの?」
うん、まだ赤ん坊だった俺を親父どのが引き取ってくれたんだ。ガスト辺境伯だよ。
奥さまを亡くしたばかりで、ルシアンと俺と、赤ん坊を二人も抱えて大変だったろうな。
「じゃあ、ルシアンさんと一緒に育ったのね」
そう、俺たちは兄弟のようにいつも一緒だった。
小さい頃のルシアンはとても愛らしくてさ、ふわふわの銀髪にきらきら光る藍色の瞳。まるで天使のようだったよ。
「でも、ロイドはどうして騎士になろうと思ったの? 魔力は使えなかったのでしょう?」
どうしてって……ルシアンと一緒にいたかったからだよ。
あいつは辺境伯の息子だから、騎士団に入ることが決まってた。だからさ。
それでも、魔力なしで訓練をこなすのは大変だったんだ。他の人が簡単にできることも俺にはできなかったから、いつも怒鳴られてばかり。訓練が終わって、こっそり木の陰に隠れて涙を拭ったりして……そんな時はいつも、ルシアンが俺の隣にいてくれたんだ。
「そうだったのね……じゃあ、ルシアンさんはどうだったの? 氷魔法とか使いそうよね」
いや、ルシアンは火魔法を使うんだ。騎士団一の使い手だよ。
でも、覚えたての頃はしっちゃかめっちゃかで、ルシアンの放った炎が親父どのの髪の毛に燃え移って、大騒ぎになったこともあったな。
慌てて二人で逃げ出して、日が暮れるまで馬小屋に隠れてたんだけど、結局見つかってさ。大目玉を喰らうと覚悟してたら、馬糞まみれになってた俺たちは、ものすごく臭かったらしい。親父どのに首根っこを掴まれて、そのまま水桶に放り込まれた……って、姉さん、笑いすぎだよ。
「だって、可愛らしくて……そして、二人とも騎士になったのね」
ああ、ルシアンはガスト辺境騎士団の団長。
辺境伯の子息だからじゃないよ、実力で勝ち取ったんだ。火魔法だけじゃない、剣だって誰にも負けない。
「ロイドは?」
俺?……一応、副団長。
「まあ、すごいわ! 頑張ったのね!」
そんなことないよ……親父どのに扱かれたおかげで、剣は人並みに使えるようになったけど。
魔力は、戦闘前にルシアンから分けてもらってた。あいつの魔力は温かくて、とても心地いいんだ。
そう言えば、ルシアンは戦場では銀狼なんて呼ばれてたんだよ。
銀色の髪を靡かせて戦場を駆け抜けるあいつは、本当に眩しかったな。
「銀狼? 勇敢で美しいってことね。目に浮かぶようだわ」
うん、でもその二つ名がついたきっかけがさ――
あれは、雪が降る北方の戦線のこと。俺たちが駆けつけた時、味方の王都軍は圧倒的な数の敵兵を前に、今にも崩れようとしているところだった。
なんとか間に合ったかと、ほっとした矢先、味方の軍から怒鳴り声がした。
『来るのが遅せえんだよっ!』と叫んだのは、闇の牙部隊のアレックス隊長。
その瞬間、ルシアンが目を吊り上げて、いきなりアレックス目がけて火炎砲をぶちまかしたんだ。
なんで味方を攻撃するんだよ!って、俺は慌ててルシアンを止めようとした。
当然アレックスは怒り狂った。
『野郎、血迷ったか! 若造ごときが、この俺さまを殺ろうなんて百年早ぇんだよ!』なんてルシアンを煽るもんだから、ルシアンも『うるせぇ!』って怒鳴り返して、また火炎砲をぶっ放す。
その時、気づいたんだ――なんだか、ルシアンの様子がおかしいって。目は血走ってるし、呂律も回ってない。そう言えば、ここに来る直前、寒さしのぎだと言って酒を飲んでなかったか?
えっ、まさか――
お前、酔ってんのか!?
姉さん、笑いすぎだよ。あの時は、本気でヤバかったんだから。
ルシアンがものすごい勢いでアレックスを追いかけ始めると、アレックスは、わざと敵陣のど真ん中を突っ切って逃げ回る。ルシアンが火炎砲をぶっ放すたび、アレックスじゃなくて敵兵が吹っ飛んだ。
そんなことが続いて……気づいたら、形勢は一気に逆転してた。
後で捕らえた敵兵が、震えながら言ってたらしい――
『銀色の疾風……獲物を狙う獣のような目……奴の炎に焼かれて、仲間が一瞬で灰になったんだ……あ、あれは人じゃない、魔狼だ……』
実は、本人は泥酔してただけなのにさ。
「もう、ロイドったら……笑いすぎて涙が出てきたわ。そうして銀狼伝説が生まれたのね。それで、どうしたの?」
ルシアンを追いかけて、とにかくあいつに追い縋る敵兵を片っ端から蹴散らした。
おかげで、俺にまで妙な二つ名がついて……いいんだよ、姉さんはそんなこと知らなくても。つまんない名だからさ。
「もうっ、じゃあ後でトビアスに聞くわ。それにしても、戦場では本当に大変だったのね……」
国境を守り抜くんだ、俺たちの国に敵を入れてなるのものかと、俺たちは必死に戦った。
恐怖で足が震えても、剣を握って戦い続けられたのは、ルシアンがいたからさ。
どんな大軍でも、あいつはいつも真っ先に敵へと向かっていった。その姿を見れば、勝利は俺たちのものだと信じることができた。剣を振り翳し、馬上に身を屈めるようにして一直線に駆け抜ける。その姿は、まさに獲物に飛びかかろうとする銀狼だった。
俺はその背に追いつき、馬を並べて敵へと突き進む。そして、あいつに誓うんだ――
決して離れない……この命が尽きるまで。
「ルシアンさんのような指揮官に恵まれて、本当に幸運だったわね」
まったくだ。でも、そんなルシアンも、俺と二人きりになると愚痴や泣き言を漏らすんだ。
俺だけには素顔を見せてくれるのが、ちょっと嬉しかったな。
「ふふっ、何でも言い合える仲だったのね。ロイドも愚痴ったりしたの?」
俺は、あまり愚痴ることはなかったかな……夜になって、俺の隣で眠るあいつの寝顔を見れば、疲れも悩みも吹き飛んだから。眠ってるあいつの頬にそっと指を滑らせて、温もりを確かめて――ああ、今日もルシアンを守れたんだって、ほっとした。
夜更けのわずかな一刻、ルシアンは俺だけのもの――それで十分だったんだ。
だから、あの時も迷わなかった――
敵に追い詰められ、気づいたらすっかり囲まれてた。
とにかくルシアンを逃そうと必死だった。
命なんかちっとも惜しくなかった――あいつは、俺のすべてだったから。
そして、アシークに囚われた。
「ロイド……」
姉さん、泣かないで……
殴られたりもしたけど、牢に放り込まれることはなかったんだ。どこかの館に閉じ込められてたから、姉さんが俺に気づかなくても仕方なかった。
あの時、俺の魔力は完全に封じられていたんだし、男神だって、気配も感じなかったって言ってたじゃないか。
ああ、姉さん……泣かないで。
朦朧としながら昼と夜を繰り返すうち、囚われの日々は突然終わりを告げた。
親父どのと仲間が助けに来てくれたんだ。
ルシアンの顔を見た時は、涙が止まらなかったな。あいつも俺を思い切り抱きしめて、いつまでも子供のように泣きじゃくってた。
あいつの温もりが愛しくて……ようやく実感できたんだ。
俺は、まだ生きてる。
こいつのためなら、死んでもいいと思ってた。
でも今は、少しでも長く生きていたい――こいつと共に。
救出された時の俺は、ほんとボロボロでさ。痩せ細って体力もなくて、眠ろうとしてもうなされてばかり。回復するまで、ずっとルシアンが付き添ってくれたんだ。
いつも泣きそうな顔をしてたな……あいつが責任を感じる必要なんかないのに。こんな目に遭うのがあいつじゃなくて良かったのにな。
もう過ぎたことだよ……だから、姉さん、もう泣かないで。
結局、俺は騎士団を退く決心をした。傷の治りも悪くて、もう騎士として満足に働けないと思ったんだ。
あの時は辛かったな……親父どのや仲間たちのいる騎士団は、俺にとっては家族のようなものだったから。
「ルシアンさんとも別れる決心をしたの?」
うん。騎士として一緒にいられないなら離れなきゃいけないって思った。だって、あいつは辺境伯の後継者、身分だって違う。いつか可愛らしい奥さんをもらって、子供も生まれる……その横で笑っていられる自信は、俺にはなかったんだ。
「でも、辞めなかったのね?」
ううっ、辞められなかったんだよ。親父どのに退団願いを出したら、あっさり破られたからね。
補佐をしろ、政治を学べとか言われて、王都に連れて行かれた。そんな難しいこと、俺にできるわけないのにさ……ほんと、笑っちゃうよな。
ルシアンも慣れない貴族の付き合いで苦労して……でも、いつもご令嬢方に囲まれてたな。
……ちぇっ。
「ふうん、ヤキモチ?」
それは……内緒。
でも、無理もないんだ。あいつが貴族らしく装おうと、息を呑むほど美しいから。
「男性なのに美しいって言うの?」
変かな? でもさ……俺の銀狼は、本当に美しいんだ。
「ふふっ、それで王都はどうだったの?」
うん、いろんな人たちに会ったよ。
ルシアンとは、互いに忙しくなって、すれ違ったりして……俺と後輩騎士の仲を疑って、妬いたりしてたな。おかしいだろう? 俺に惚れる奴なんかいるはずないのに。
「そうかしら? ロイドもとっても素敵よ」
そ、それは……姉さんだからそう思うんだよ。
でも、いろいろあったおかげで、気づけたんだ――ずっとあいつの隣にいたいって。
こんなに誰かを好きになれるなんて、思わなかった。
その相手も俺を好きだなんて、信じられるかい?
「……ねえ、気づいてる? 」
「何を?」
「さっきから、ずーっとルシアンさんの話ばかりしてる」
「えっ?」
「それだけ好きってことね……ロイドは、ちゃんと愛する人を見つけたんだ」
姉さんは優しく微笑んで、俺の頬を撫でた。
でも、その声にはどこか寂しさが混ざる。
「姉さんは、誰かを好きになったことはないの?」
「私には……よくわからないの」
黒い瞳が、まっすぐに俺を見据えた。
「ねえ、教えて……愛って、何?」
姉さんは、俺のことならなんでも知りたいようで、俺も問われるままに話し続けた。
「……父さまと母さまが亡くなってから、ロイドはどうしてたの?」
うん、まだ赤ん坊だった俺を親父どのが引き取ってくれたんだ。ガスト辺境伯だよ。
奥さまを亡くしたばかりで、ルシアンと俺と、赤ん坊を二人も抱えて大変だったろうな。
「じゃあ、ルシアンさんと一緒に育ったのね」
そう、俺たちは兄弟のようにいつも一緒だった。
小さい頃のルシアンはとても愛らしくてさ、ふわふわの銀髪にきらきら光る藍色の瞳。まるで天使のようだったよ。
「でも、ロイドはどうして騎士になろうと思ったの? 魔力は使えなかったのでしょう?」
どうしてって……ルシアンと一緒にいたかったからだよ。
あいつは辺境伯の息子だから、騎士団に入ることが決まってた。だからさ。
それでも、魔力なしで訓練をこなすのは大変だったんだ。他の人が簡単にできることも俺にはできなかったから、いつも怒鳴られてばかり。訓練が終わって、こっそり木の陰に隠れて涙を拭ったりして……そんな時はいつも、ルシアンが俺の隣にいてくれたんだ。
「そうだったのね……じゃあ、ルシアンさんはどうだったの? 氷魔法とか使いそうよね」
いや、ルシアンは火魔法を使うんだ。騎士団一の使い手だよ。
でも、覚えたての頃はしっちゃかめっちゃかで、ルシアンの放った炎が親父どのの髪の毛に燃え移って、大騒ぎになったこともあったな。
慌てて二人で逃げ出して、日が暮れるまで馬小屋に隠れてたんだけど、結局見つかってさ。大目玉を喰らうと覚悟してたら、馬糞まみれになってた俺たちは、ものすごく臭かったらしい。親父どのに首根っこを掴まれて、そのまま水桶に放り込まれた……って、姉さん、笑いすぎだよ。
「だって、可愛らしくて……そして、二人とも騎士になったのね」
ああ、ルシアンはガスト辺境騎士団の団長。
辺境伯の子息だからじゃないよ、実力で勝ち取ったんだ。火魔法だけじゃない、剣だって誰にも負けない。
「ロイドは?」
俺?……一応、副団長。
「まあ、すごいわ! 頑張ったのね!」
そんなことないよ……親父どのに扱かれたおかげで、剣は人並みに使えるようになったけど。
魔力は、戦闘前にルシアンから分けてもらってた。あいつの魔力は温かくて、とても心地いいんだ。
そう言えば、ルシアンは戦場では銀狼なんて呼ばれてたんだよ。
銀色の髪を靡かせて戦場を駆け抜けるあいつは、本当に眩しかったな。
「銀狼? 勇敢で美しいってことね。目に浮かぶようだわ」
うん、でもその二つ名がついたきっかけがさ――
あれは、雪が降る北方の戦線のこと。俺たちが駆けつけた時、味方の王都軍は圧倒的な数の敵兵を前に、今にも崩れようとしているところだった。
なんとか間に合ったかと、ほっとした矢先、味方の軍から怒鳴り声がした。
『来るのが遅せえんだよっ!』と叫んだのは、闇の牙部隊のアレックス隊長。
その瞬間、ルシアンが目を吊り上げて、いきなりアレックス目がけて火炎砲をぶちまかしたんだ。
なんで味方を攻撃するんだよ!って、俺は慌ててルシアンを止めようとした。
当然アレックスは怒り狂った。
『野郎、血迷ったか! 若造ごときが、この俺さまを殺ろうなんて百年早ぇんだよ!』なんてルシアンを煽るもんだから、ルシアンも『うるせぇ!』って怒鳴り返して、また火炎砲をぶっ放す。
その時、気づいたんだ――なんだか、ルシアンの様子がおかしいって。目は血走ってるし、呂律も回ってない。そう言えば、ここに来る直前、寒さしのぎだと言って酒を飲んでなかったか?
えっ、まさか――
お前、酔ってんのか!?
姉さん、笑いすぎだよ。あの時は、本気でヤバかったんだから。
ルシアンがものすごい勢いでアレックスを追いかけ始めると、アレックスは、わざと敵陣のど真ん中を突っ切って逃げ回る。ルシアンが火炎砲をぶっ放すたび、アレックスじゃなくて敵兵が吹っ飛んだ。
そんなことが続いて……気づいたら、形勢は一気に逆転してた。
後で捕らえた敵兵が、震えながら言ってたらしい――
『銀色の疾風……獲物を狙う獣のような目……奴の炎に焼かれて、仲間が一瞬で灰になったんだ……あ、あれは人じゃない、魔狼だ……』
実は、本人は泥酔してただけなのにさ。
「もう、ロイドったら……笑いすぎて涙が出てきたわ。そうして銀狼伝説が生まれたのね。それで、どうしたの?」
ルシアンを追いかけて、とにかくあいつに追い縋る敵兵を片っ端から蹴散らした。
おかげで、俺にまで妙な二つ名がついて……いいんだよ、姉さんはそんなこと知らなくても。つまんない名だからさ。
「もうっ、じゃあ後でトビアスに聞くわ。それにしても、戦場では本当に大変だったのね……」
国境を守り抜くんだ、俺たちの国に敵を入れてなるのものかと、俺たちは必死に戦った。
恐怖で足が震えても、剣を握って戦い続けられたのは、ルシアンがいたからさ。
どんな大軍でも、あいつはいつも真っ先に敵へと向かっていった。その姿を見れば、勝利は俺たちのものだと信じることができた。剣を振り翳し、馬上に身を屈めるようにして一直線に駆け抜ける。その姿は、まさに獲物に飛びかかろうとする銀狼だった。
俺はその背に追いつき、馬を並べて敵へと突き進む。そして、あいつに誓うんだ――
決して離れない……この命が尽きるまで。
「ルシアンさんのような指揮官に恵まれて、本当に幸運だったわね」
まったくだ。でも、そんなルシアンも、俺と二人きりになると愚痴や泣き言を漏らすんだ。
俺だけには素顔を見せてくれるのが、ちょっと嬉しかったな。
「ふふっ、何でも言い合える仲だったのね。ロイドも愚痴ったりしたの?」
俺は、あまり愚痴ることはなかったかな……夜になって、俺の隣で眠るあいつの寝顔を見れば、疲れも悩みも吹き飛んだから。眠ってるあいつの頬にそっと指を滑らせて、温もりを確かめて――ああ、今日もルシアンを守れたんだって、ほっとした。
夜更けのわずかな一刻、ルシアンは俺だけのもの――それで十分だったんだ。
だから、あの時も迷わなかった――
敵に追い詰められ、気づいたらすっかり囲まれてた。
とにかくルシアンを逃そうと必死だった。
命なんかちっとも惜しくなかった――あいつは、俺のすべてだったから。
そして、アシークに囚われた。
「ロイド……」
姉さん、泣かないで……
殴られたりもしたけど、牢に放り込まれることはなかったんだ。どこかの館に閉じ込められてたから、姉さんが俺に気づかなくても仕方なかった。
あの時、俺の魔力は完全に封じられていたんだし、男神だって、気配も感じなかったって言ってたじゃないか。
ああ、姉さん……泣かないで。
朦朧としながら昼と夜を繰り返すうち、囚われの日々は突然終わりを告げた。
親父どのと仲間が助けに来てくれたんだ。
ルシアンの顔を見た時は、涙が止まらなかったな。あいつも俺を思い切り抱きしめて、いつまでも子供のように泣きじゃくってた。
あいつの温もりが愛しくて……ようやく実感できたんだ。
俺は、まだ生きてる。
こいつのためなら、死んでもいいと思ってた。
でも今は、少しでも長く生きていたい――こいつと共に。
救出された時の俺は、ほんとボロボロでさ。痩せ細って体力もなくて、眠ろうとしてもうなされてばかり。回復するまで、ずっとルシアンが付き添ってくれたんだ。
いつも泣きそうな顔をしてたな……あいつが責任を感じる必要なんかないのに。こんな目に遭うのがあいつじゃなくて良かったのにな。
もう過ぎたことだよ……だから、姉さん、もう泣かないで。
結局、俺は騎士団を退く決心をした。傷の治りも悪くて、もう騎士として満足に働けないと思ったんだ。
あの時は辛かったな……親父どのや仲間たちのいる騎士団は、俺にとっては家族のようなものだったから。
「ルシアンさんとも別れる決心をしたの?」
うん。騎士として一緒にいられないなら離れなきゃいけないって思った。だって、あいつは辺境伯の後継者、身分だって違う。いつか可愛らしい奥さんをもらって、子供も生まれる……その横で笑っていられる自信は、俺にはなかったんだ。
「でも、辞めなかったのね?」
ううっ、辞められなかったんだよ。親父どのに退団願いを出したら、あっさり破られたからね。
補佐をしろ、政治を学べとか言われて、王都に連れて行かれた。そんな難しいこと、俺にできるわけないのにさ……ほんと、笑っちゃうよな。
ルシアンも慣れない貴族の付き合いで苦労して……でも、いつもご令嬢方に囲まれてたな。
……ちぇっ。
「ふうん、ヤキモチ?」
それは……内緒。
でも、無理もないんだ。あいつが貴族らしく装おうと、息を呑むほど美しいから。
「男性なのに美しいって言うの?」
変かな? でもさ……俺の銀狼は、本当に美しいんだ。
「ふふっ、それで王都はどうだったの?」
うん、いろんな人たちに会ったよ。
ルシアンとは、互いに忙しくなって、すれ違ったりして……俺と後輩騎士の仲を疑って、妬いたりしてたな。おかしいだろう? 俺に惚れる奴なんかいるはずないのに。
「そうかしら? ロイドもとっても素敵よ」
そ、それは……姉さんだからそう思うんだよ。
でも、いろいろあったおかげで、気づけたんだ――ずっとあいつの隣にいたいって。
こんなに誰かを好きになれるなんて、思わなかった。
その相手も俺を好きだなんて、信じられるかい?
「……ねえ、気づいてる? 」
「何を?」
「さっきから、ずーっとルシアンさんの話ばかりしてる」
「えっ?」
「それだけ好きってことね……ロイドは、ちゃんと愛する人を見つけたんだ」
姉さんは優しく微笑んで、俺の頬を撫でた。
でも、その声にはどこか寂しさが混ざる。
「姉さんは、誰かを好きになったことはないの?」
「私には……よくわからないの」
黒い瞳が、まっすぐに俺を見据えた。
「ねえ、教えて……愛って、何?」
2
あなたにおすすめの小説
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる