知識0から創る異世界辞典(ストラペディア)~チャラ駄神を添えて~

degirock/でじろっく

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メガネスーツ女子と未知との遭遇

頁15:人の住み処とは 2

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 それは素材が例の『杉』なのだろうというのは予想が付くのだが、用途やどういう存在なのだろうかという考察をしようとすると何故か思考が途切れてしまい酷く奇妙な物として鎮座していた。やっぱりトルソー的な物だったんだな。
 もしかしたら大きな十字架かとも思ったけれどまだこの世界には信仰が生まれてないはずだし、そもそも十字架クロスがシンボルって決められてる訳ではないもんな。

「どうやって引っかけてるんだろうナ…全く予想出来ない」

 モザイク装備セットを格納された十字のトルソー?は今やモザイクの塊に変貌へんぼうした。部屋の隅にモザイクがかかっている生活って元の世界だったらどんな感覚なんだろうか。
 モザイクフルセットを外すと確かにひろしさんは普通に服を着たおじさんだった。町の人もそうだったけれど、服と言っても我々の感覚で言う洋服とはかけ離れた、言い方はアレで申し訳ないが粗末な物だった。
 布とは思えないゴワゴワで堅そうな素材を無理矢理シャツとズボンの形にした物に、ペンキの刷毛はけで雑に塗ったみたいな染色。紡績ぼうせき技術が本当に最低限の状態なのだろう。

「ま、取り合えず適当にくつろいでくれや。なんも無い家だけどよ!」
「ありがとうございます」

 何も無いと言うがそんな事は無かった。一通りの家財はそろっているし整理整頓もされているが故の『スッキリとした部屋』だ。台所と思しきスペースも綺麗に保清されている様に見える。粗野な振舞いとは裏腹にキチンとした人なのだろう。
 うながされるまま木製の背もたれのあるに座る。……うん?

「お…?」

 向かいのに座った神々廻ししばさんも同じ事を感じたらしい。

「ん? どうかしたかい?」

 我々の反応が気になったらしくひろしさんがこちらを見た。
 反射で目をらしそうになるがもう大丈夫…もう大丈夫……。着てる…着てるから……。

「あ、いえ、いい【椅子】だなぁって」
「イス? そりゃあイスっていうのか? わ! てっきり『  』だとばっかり」
「え? …あ、それは良かったですね! 私の国の呼び方なんですけど!」

 予想外の反応に一瞬ほうけてしまったが咄嗟とっさに話を合わせる。

「ねぇひろっさん、ちょっとこの辺散歩してきてもいいかナ? ウチの国と違ってイロイロ珍しくてさ♪」
「そうか? 俺らにしたらホント何も無い村だがそう言ってもらえて悪い気はしないな。よし、好きなだけ見物してくれていいぞ! 戻ってきたらすぐメシに出来るように準備しとくからよ!」

 ひろしさんは嬉しそうに言った。

「えっ、そんな、食事までお世話になるのは申し訳ないです!」
「いいんだよ、俺がそうしたいだけだって。他所よそからの客人なんてほとんど無い場所だからよ、もてなせる事自体が大変な名誉めいよでもあるのさ、この村はよ」

 胸の奥が、じんわりと熱を帯びた。
 いつ振りだろうか。人の無償の優しさに触れたのは。
 生前の私は自分の正しさにおぼれ常に他人のあら探しばかりしていた。そんな生き方を選んだ自分が他人から友愛を享受きょうじゅ出来るだなんて思ってはいなかったけれど、そこにこそ本当は大切な何かがあったのではないか。死んだ後に気付いても遅いというのに。
 ───いや、今からだって決して遅くなんかない。私は確かに今、ここで生きているのだから。

「ウッソひろしさんマジ神マジパネェ!! ゴチになりまーす!」
「お? え、お、おお、任せろ!」

 多分、何言われたのか分からなかったんだろうな。この星の人達にとっては彼から飛び出す言葉なんて恐らくは外国語並みに理解できない言語だと思う。
 …ん? ??

「じゃあひろっしーさん、また後で来ますね!」
「ひろっしー!? おお俺の事か! 気を付けてな。くれぐれも村の外に出るんじゃないぞ!」
「了解っス! ホレ、行こう」
「あ、はい。ありがとうございます、ちょっと失礼しますね。また後ほど」

 脱いだ靴を下駄箱から取り出して履き、いそいそと表へ。

「あの───」
「あ、どうも~☆」

 私越しにいる誰かに向かって軽い会釈えしゃくをする神々廻ししばさん。一歩遅れて私も振り返り、視線の先にいるまた別の村人さんに慌ててお辞儀をした。

「…オレ達は今『観光に訪れた旅人』って扱いなんだヨ。みさポンの話したい事は何となく分かるけど、とりあえず旅人のフリはしとこう。なんかあった時にひろしさんの立場が悪くなんない様にサ」
「…そうですね」

 正直かなり驚いた。彼が咄嗟とっさにそんな配慮が出来るなんて。
 まだ全然人となりを知らないというのに、彼の事を過小評価して分かったつもりになっていた自分を恥じた。

「今のグッと来たっしょ? ねぇ?」
「…それを自分で言わなければ1マイクロメートルくらいは」

 あっちゃー! と彼は自分の顔をぺしっと叩いた。










   (次頁/16-1へ続く)












           
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