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メガネスーツ女子と未知との遭遇
頁22:ダンジョン探索初級とは 2
しおりを挟む◇◆◇◆◇◆
「こいつぁ…イカにもイカにも、って感じだネ…」
【ヴィクティムの巣】と名称が変更されたダンジョンは崖の裾元にぽっかりと口を開けた天然の洞窟の様だった。
それを我々は少し離れた茂みから観察している。
「実際に自分が突入する側になると…緊張がパネェっす…」
「巣と言う割にはあまり敵の姿が見えませんね? 蝙蝠の巣みたいに飛ぶ眼がわっさわっさと出入りしている物だと想像してましたけど」
「気持ち悪い事言わないでくれる!?」
だって自分でそれを退治するって言ったんじゃないですか。
「待ってても仕方無いですし、暗くなる前に行きましょうか」
「ちょちょちょちょっと待って!」
スッと腰を浮かす私を慌てて止める神々廻さん。何やら本を必死に調べている。
「設定…設定設定設定…難易度設定は…無し…無いのかよ…! 採光方式…物理光源じゃなくて常灯…これは助かる…オートマッピング有り…縮小マップ網膜表示有り…ヨシ……敵座標表示有り…ヨシ…!」
何をブツブツヨシヨシ呟いてるんだろう。ゲーマーって分からない。
暫くその作業を眺めていると、私の本が勝手に召喚されページが開く。
《 世界設定/基本設定/探索 が変更されました。》
この変更はCP消費はないのか。何を変更したのかは分からないけれど、保身だけは必死な彼が決める事だし不利に働く事は無いと思うが…。
「よっし、出来る限りはやった…! ダイジョーブ、きっと初級…初級だ…!」
不安だ。
まあ知識皆無な私も人の事は言えないんだけれど。
「い、行こう…!」
やっぱりやめよう!と言わない辺り、意外ではあった。一応成長してるのかしら。
◇◆◇◆◇◆
洞窟の中はひんやりとして少し湿った土の匂いがした。
想像とは全く違う。生物が棲み付いているのであれば獣臭やら腐敗臭などの悪臭で満たされている物だと覚悟はしていた。
「あっ…」
視界に突如起きた変化に思わず声を漏らしてしまい、鬼の形相の神々廻さんに『(シーーー!!)』とされてしまった。不覚。
すると彼は本を指差した。
ああ、成程。私も本を呼び出すとチャットページを開く。
《すいません、視界に何か表示されて咄嗟の事で驚いてしまいました。》
《あ、そうか、ごめん! さっき探索設定の中にダンジョン内でのミニマップ表示の設定があったからONにしたヨ。向いてる方が上、立っている場所から20メートル以内の情報が表示されるって。敵対生物が範囲内にいるとこれも点で表示されるみたい》
20メートル…確認してから仮に突進されたとしても何とか対処できる距離だ。しかも目視では分からない死角や壁の向こう側、背後でも範囲内であれば存在を判別できる。これは便利かもしれない。
ただ、透過されてるとは言え視界の端に強制的に異なる画像が差し込まれるのはモニターを至近距離で凝視しているみたいで慣れない。酔いそう。
それと。
《明かりも無いのに明るいですね、中。》
《松明🔥とかの光源を置かなきゃいけない『リアル設定』か、なぜかいつでも明るい『ゲーム的ご都合設定』のどっちかから選べたからご都合設定にしたのヨ✨ そこまでリアルな難易度にはしたくないからサ。》
身も蓋も無いな。あと突然使ってくる絵文字がうざい。
《今の所…敵の表示は無いみたいですね。ゲームの常識だとこれからどうするのですか?》
《恐らくは討伐目標としてボスが奥にいるハズだからそれを倒す。雑魚はたぶん永遠に湧くから、全部を相手にしないでとにかく進むのを第一にした方がいいかもネ。もしかしたらお宝とかもあるかも…》
《お宝?? それって誰かがここに財産を隠したという事ですか? わざわざ? こんな場所に?? 自宅の金庫じゃダメなのですか??》
敵がうろついててセキュリティーも微妙で衛生状態も良くはなさそうなのになぜこんな場所を選ぶのだろうか。異世界って分からない。
《いや、そんな事を言われましても…》
《え、しかもそれを勝手に持って行く心算ですか? 誰のかも分からないのに? 立派な犯罪じゃないですか。警察は無いっぽいので代わりに私が叩きのめしますよ?》
《本当に申し訳ございませんでした…。》
謝られた。彼が罪を犯す前に防げてよかった。
《ところで『心算』ってなんて読むんでしょうか…。しんざん?》
《つもり。》
《アザース!》
学校か。
《では気を取り直して、急な接敵に注意しながら進みましょう。》
《イエス、マム!》
いつから私は上官になったんだろう。
(次頁/23-1へ続く)
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