知識0から創る異世界辞典(ストラペディア)~チャラ駄神を添えて~

degirock/でじろっく

文字の大きさ
45 / 114
メガネスーツ女子と未知との遭遇

頁23:対複数戦闘とは 1

しおりを挟む
         







 そろりそろりと洞窟内を進む。
 どういう訳か私が前、神々廻ししばさんが後ろだ。普通逆じゃないだろうか? まあいいけど。

《縮小地図があるからと言ってもたった20メートルです。暗闇で無いならば目視の方がずっと遠くまで届くので、私が前方で神々廻ししばさんが後方とそれぞれ分担しながら注意して進みましょう。》
《了解しました!》

 ちなみに私を上官みたいに仮定しているのであれば『了解』は不適切だ。
 それにしても…洞窟と言うから鍾乳洞しょうにゅうどうの様な『ゴツゴツの岩だらけで滑りやすく段差や起伏きふくの多い困難な道程どうてい』を想像していたのだけれど、道はほとんど平坦で通路もそこそこ広く、おまけに明るさもあるので拍子抜けだった。
 天然の洞窟、というよりは人為的に作られた『洞窟っぽい通路』みたいな。まあそもそも本の力により世界に強制的に産み出された時点である意味人工の洞窟と言えるのかもしれないが。

「うわわッ!」

 あんなに声を出す事に神経質になっていた神々廻ししばさんが声を上げる。縮小地図にはまだ何も映っていない。咄嗟とっさに振り返ると洞窟の入り口の方からやってくる飛ぶ眼フライングアイの姿が。恐らく視認された。隠れても無駄だろう。

「どどどどうしよう!」

 それに答えるよりも先に向こうが滑空かっくうして来る。前回みたいに警戒するタイプじゃない様だ。

「どいて!」
「はい喜んで!!」

 どくなよ!!と神速で突っ込んだ。心の中で。
 迫り来る飛ぶ眼フライングアイを真正面に見据みすえ、集中する。
 爪も牙も見当たらないあの形状で攻撃をするのであれば、恐らくは大きな羽による攻撃か体当たり。しかし羽は空中を主戦場とする彼らにとって生命線とも言えるはず。恐らくは後者が攻撃手段だ。
 き出しの目は普通の生物ならば弱点でもあるが、それを隠さないという事は目そのものは攻撃の邪魔にはなっていないという意味だ。ならば必ず突っ込んで来る!

「危ない!」

 どいたクセに何を今更。
 余計な力を抜いた直立姿勢から右足を半歩後ろに、脳天から足元へ真っ直ぐ突き抜けた一本のじくをイメージし、それを曲げない様に。軽く握り締めた右の拳と腕は強弓こわゆみを引きしぼるがごとく脇に携え───

セイ!!」

 ほんのわずかな軸の回転力に乗せて解き放たれた全力の拳を、真っ直ぐに突き進んできた飛ぶ眼フライングアイの眼球中心に叩き込む!
 もしかしたらグチャっとかグニュって気持ち悪い図になるかも…と覚悟していたけれど、意外にもバレーボールを殴った様な張りのある感触だった。その翼の生えたバレーボールは予想外の反撃により派手に吹っ飛び洞窟の岩肌に叩きつけられた。そのまま動かないのをしっかり確認して残心を解く。
 …ごめんね。

「うおお…! すげえ…!!」
「真っ直ぐ飛んでくるボールをただ弾き飛ばしただけです」

 手をパンパンとはたいて身嗜みだしなみを整える。

「! うしろ!!」
「!?」

 縮小地図に表示された『点』に気付き、振り向くよりも先に頭の角度を横にらす。たった今私の頭があった空間を突き抜けていく球体。
 完全には避け切れずに羽がかすったのだろうか、頬が浅く切り裂かれ、髪が一房ひとふさ宙に舞った。

「 観沙稀みさきちゃん! 大丈夫!?」

 彼が慌てて駆け寄ってくる。

「あわわわわわ…血、血が…!!」
「は?」

 彼の目線の先辺りを手の甲で拭うと、べったりと血が。浅いと思ったけれどそこそこ深く切れていた様だ。気付いた事による痛みがワンテンポ遅れて走るがこれしきなら影響はない。

んですし、今は敵に集中しましょう」

 縮小地図が強制的に視界に浮かんでいる為、集中するのにこれ以上余計な物体を視野に入れたくないので眼鏡を外しジャケットの内ポケットにしまう。

「え、メガネ外して見えるの!?」
「ええ、伊達だてなので」
「そうなの!?」

 地図に新たに表示される敵影が一つ。

「挟まれた!!」
「みたいですね。それでは一匹ずつ担当しましょう」
「マジで!?」

 何を今更。二回目。

「何の問題も無い雑魚、ですよ。いいですか、あれはただ真っ直ぐ飛んでくるボールだと思って下さい。目玉なんてむしろ的です。目を背けずにちゃんと軌道きどうを見て、拳を突き出すだけで倒せます」
「簡単に言うけどさァ…」
。ではそっちはお願いします!」

 背中を預け、私は私の相手を見据える。
 彼の身体能力や特技については何も知らないが、この先こうして背中を預けなければならない瞬間はきっと何度も訪れるだろう。その度に不安になるのか? 否、今の私に必要なのは彼を信じる事それだけだ。

「あのサ!」
「何ですかもう?」
「キミ、メガネ外してもキレイだね!」
「はい!?」

 このタイミングで言う事か? 思わず腰から砕けそうになった。
 …まあ、緊張もついでに解れたから良しとしますか。
 今回だけは。


 そう言えば、さっき私の名前をちゃんと呼んでたな。名前で呼ばれるのは抵抗があるけれどそれは別として、どうして普段は普通に呼ばないんだろう?
 まあ、いいか。








   (次頁/23-2へ続く)






しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

処理中です...