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メガネスーツ女子と死後?の世界
頁31:デスペナルティーとは 2
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「そこにいるんでしょう」
「むぐっ!」
ひろしさんがふらふらと立ち去って暫くした後、気配が騒がしい物陰に向かって問いかけた。
バレているのに出てこない。仕方ないからこちらから近付くと、なんかバタバタしている音がする。
「…何やってるんですか」
「…!!」
必死になって顔を拭いていたらしく、ヨレヨレのTシャツの裾が更に伸びて酷い事になっていた。
「…聞いていたんですね」
「ナ…ナハハ…」
目が充血し、その周りは腫れぼったくなっていた。別に隠さなくてもいいのに。
「分かりましたよ。我々が全滅した事に対するペナルティーが何なのか」
「マジで!?」
「ええ」
本を開き大陸地図のページを表示させる。スタ・アトと名称が表示され村の位置を意味するアイコンの下、そして近くのダンジョンのアイコンの下にも今までに無かった表示が。
「【経過/Y01・M00・D00】 やっぱり…」
「え? 何? ドユコト?」
神々廻さんも自分の本を呼び出して同じページに齧りつく。
「時間の経過です」
「へ?」
完全に理解不可能という表情でこちらを見る。
「一年という時間が強制的に経過させられるんです。早送りの様に時間が進むのではなく、事実だけが」
「え…ちょ、本当に意味が分かんないんだケド…」
「私だって自分で何を言ってるのか分からないですよ!」
話しながらおかしくなりそうな頭を必死に冷静にさせて思考を整理しているのだ。
「ご、ごめん…なさい…」
「───すいません。貴方のせいじゃないのに…」
腹の底まで届く深い呼吸を一つ。全身にくまなく酸素を送り込む様に。
「私なりに前世の世界の常識や理屈を取っ払って考えました。まず、この村の人達にとっての事実が『一年前に我々が失踪した事』と『村の仲間が敵対生物によって弑された事』です」
「うん、つまり実際にこの星では一年の時間が経過していたって意味でショ?」
「所がそうじゃないんです」
「え??」
目を真ん丸にして驚く。
「村の様子ですけど、覚えている限り死んで拠点に戻される前と今現在で時間経過的変化が無いんです。ほぼ」
「????」
あ、これはダメだな。
「───ああ、かまわん。続けてくれ」
同じ事を思ったのかシュウさんが即座に入れ替わってくれた。
「ひろしさんが着ている服の傷み具合、建物の風化具合や風雨に晒されて付く筈であろう汚れ…それらが全くと言っていい程無く、村の中に所々生えていた小さな杉の木も無名の植物も全く成長していない様に見えました。一年も経過してるのに、ですよ?」
「しかし村の人間そのものには明確な変化があった、と」
流石シュウさん。
「そうです。本の大陸地図にいつの間にか追加されたこの数字…。これは恐らく強制的に経過させられた『事実としての時間』なんだと思います。そして…」
「ダンジョンの時間も経過しているという事は、だ」
───これが、私達の負った【責任】。
「歴史と共に成長をしていくという設定の敵対生物が、世界設定を与えられずに文明が停滞している愚かな人類を喰った、という訳だ」
「…その通りです」
それはつまり。
私達の全滅が引き金となり、村の人達を殺した事になるのだ。
罪悪感で吐きそうな感覚に襲われるがここで私が吐くのはお門違いだ。
「大陸の他の町に時間経過が科せられていないのを見ると、恐らくは名前を付けられるか我々が関与するかした時点からペナルティーの対象とされるのかもしれません。今はまだ予測の範疇ですが」
「それだけで十分だ。もしその予測が正解だったら世界の名称をほぼ設定していなかった志雄のファインプレーだな」
発した言葉の割に特に表情に変化が見られないシュウさんは一体この事実をどう受け取ったのだろうか。初対面の私をあれだけ蹂躙する指示を神々廻さんに平気で出したのだし、偏見で申し訳無いがもしかすると何とも思っていない可能性もある。まだまだ私は彼の事を知らない。
「それと、私達のミッションは想像しているよりも遥かにこの星に影響を及ぼすみたいです」
「さっきの会話か」
「ええ…」
やっぱり聞いていたのか。
「どういう基準なのかは分かりませんが、名前を持たずとも存在し認識出来る物と、名前が無い限り変化が訪れない物があるみたいですね。その一つが…」
並んだ棺桶の方を見る。【棺桶/棺】という名称を今さっき与えられた大きな死者の寝床、そして埋葬という行為、大地に分解されいつか土へと還る仕組みを得た亡骸達。
腐敗が進まずに時間が停滞していた眠る人々の時間が、恐らくこれで動き出しただろう。
本来であれば埋葬の形式やら土中分解の理屈なども細部に渡り存在しているのだが、神々廻さんに言わせればそれを解き明かすのはこの星の人間でもいいし、解き明かされなくても多分問題は無いのだろう。
「私の勝手で私の死者に対する礼節や知識をこの星に根付かせてしまいました。それに…変わらない姿で残り続ける事が出来る選択も奪ってしまった…」
「それがあんたにとっての最適解だったんだろう? だったら気にするな。もしくは一生気にしてやればいい」
「え…」
無表情のままでシュウさんが呟いた。
「悪いが俺は忘れながら生きさせてもらう。だからあんたは背負いながら生きればいい。当面は死ねない以上、好きに生きるだけだ」
「……」
「それに───」
更に言葉を続けた彼に視線だけ向ける。
「土に還らなかったら、いつか地上が死体で埋まるぞ」
そう吐き捨てるとプイッとそっぽを向いた。
言われてみれば確かに…。
死体が溢れる世界を想像し、申し訳無いけれどちょっとゾッとした。
「その通りですよね…」
「…フン」
これは彼なりの冗談だったのだろうか。私にはいまいちまだ分からなかった。
(次頁/32-1へ続く)
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