知識0から創る異世界辞典(ストラペディア)~チャラ駄神を添えて~

degirock/でじろっく

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メガネスーツ女子とジャガイモとトイレ問題

頁50:試される者とは 2

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「え…?」「アレ??」

 何かされた様子も無いし、少なくとも両者の間で明確な動きは無かったはず。しかしあの雪之進ゆきのしん君が激しく息切れを起こし、遠目にも疲弊ひへいしているのが見て取れた。
 近付いても大丈夫なのかしら…? と迷った瞬間に神々廻ししばさんは駆け出していた。【辞典】ストラペディアを放り投げて。

「ユッシー!!」
「ちょっと【本】が───!!」

 地面に落とした衝撃もきっとダメージ判定に…! と惨劇を想像したが、地面に触れる直前に虚空へと消えていった。
 つまり周辺が戦闘状態から解除されたという事だろう。
 ホッと胸をでおろし私も彼の元へと走った。

「ユッシー、どうした!? 大丈夫か!?」

 神々廻ししばさんが彼を気遣うが、汗だくで疲労困憊ひろうこんぱいに見えても目がまだ闘志を宿したままのその気迫にどうしていいのか分からないでいる様だ。

『成程、そのよわいでありながらこれ程の技術、身のこなし…。星が産んだ異端児じゃの』

 お爺さんが呆れた様な、感心した様な嘆息たんそくを吐く。

「オイじーさん、ユッシーに何したんだよ!」

 神々廻ししばさんが詰め寄る。凄い剣幕だ。本気で心配しているんだろう、まだ会ったばかりの彼の事を。

『慌てるでない【つづり人】よ。よく見てみぃ、『  』一つ負っておらんじゃろうが』
「え、ナンだって??」
神々廻ししばさん、恐らく『怪我』か『傷』です」

 ああめんどくさいこの無音システム。

「ナルホド!」
「あの…それで、一体何がどうなってるんでしょうか?」

 雪之進ゆきのしん君の背中をさすりながら全てを知っている存在に問う。

『なに、実際に戦えばおんしらにまで害が及びそうな予感がしたからの。頭の中で戦っておったまでよ』
「え…?」

 お爺さんが自分の石帽子をチョンとつつく。頭の中で、とはどういう意味だろうか。

「マジか…! じーさんすげぇな!! ナニ、VRとか出来ちゃうワケ!? しかも一瞬で体験できちゃってるって事だろ!? だってオレ達見てたけど全然時間経たずに終わってたし!! やっべ、じーさんパネェ!!」
『お? おお?? ぶいあーる? よ、よく分からんがまあそういう事じゃな! どうじゃ凄いじゃろあがたてまつるがよいンホホホホ!!』

 怒っていたと思えば急に尊敬の眼差し…本当に感情が忙しい人だな。お爺さんも乗せられてるし。

「つまり、現実では何も起きてませんでしたけれど、彼の脳内では戦っていたという事ですか?」
『うむ、その通り。中々の戦いであったぞ』
「嘘だ…!」

 私の手を払いけて雪之進ゆきのしん君がよろよろと立ち上がる。

「何一つ通用しなかったじゃないか…! 涼しい顔で全部受け流してさ…!」

 言葉には強さが感じられるが、どう見ても無事だとは思えない疲弊ひへいぶりだ。
 脳内とは言えどれだけの激戦だったのだろうか。

「あんなに必死に訓練してきたのに…! この為だけに頑張ったのに…!! それでも戦闘職プルーフになれないって言うならどうやって生きろって言うんだよ!!」

 鉄仮面だと思っていた少年の目に、気付けば一筋の涙が。
 彼の生き様は私には理解する事は出来ない。でもその涙が語っていた。13歳という幼さで心を閉ざし復讐の為に生きる事を決意したその覚悟を。
 目の前に立っていたのは、傷だらけの少年そのものであった。

「あの、お爺さん、彼は…その、本当に戦闘職プルーフとして失格なのでしょうか? 私もまだ出会ってわずかではありますが、彼の強さは相当な物だと思いますし、その、年齢の割にはちょっと性格はアレだとは思いますがそれは理由があってですね…」

 駄目だ、我ながらここぞという時のフォローがひどい。

「え、じーさん、ユッシー失格なの!? そりゃオレちゃんも実際に戦った姿見てないケドさ、でも同じ戦闘職プルーフのひろっさんよりは間違いなく強いよユッシー? 性格はアレかもしんないけどサ、戦闘職なんだしまずは強さの方が大事じゃね??」

 神々廻ししばさんの場合はフォローじゃなくて本心なんだろう。

「ミサキ…シシバ…。あのさ、フォローしてくれるのは有難いけど、二人して僕の性格がアレだって思ってたんだね…」
「「 あ 」」

 しまった、雪之進ゆきのしん君がまた冷たい目に戻っちゃった! つらい。

『ふむ。【つづり人】にそこまで言わせるとはのぅ…。ちなみにな、小童こわっぱ

 自然と三人ともお爺さんの方に向き直る。

ワシに触れる事が出来たらゆるしを与えると言ったアレじゃが…ぶっちゃけ嘘じゃ。ンホホホホホ』

 お爺さんがさも楽しそうに笑う。
 私はその台詞を聞いた覚えが無かったので彼等の脳内での事なのだろうか。

「な…」

 雪之進ゆきのしん君の手がプルプルと痙攣けいれんしている。

「なんだよそれぇぇ!!!」

 ああ、この子、こんな大きな声出せるんだな。
 私は彼の姿を神々廻ししばさんに怒鳴りつけた時の自分に重ねていた。








   (次頁/51-1へ続く)




      
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