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再び、現実
どハイテクとどアナログがお手手つないで俺の脳を殺しに来るんですが
しおりを挟む「見るがいい…! これが我々の技術の粋を集めて作られた完璧なセキュリティーだッ!!」
※前回はここまで❤
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反射的に俺もその方向を注視する。
何だ…あれ…!?
ここに入って来る時は前方ばかりに気を付けていたから全く気付けなかったが、薄暗い台所の天井、玄関の土間の上あたりにユラユラと浮遊している…金属の?平べったい円筒形の…あれ…? あのフォルム…見覚えがあるような…?
「た…タラ…イ…?」
俺は遥か昔にテレビでよく見ていた、芸人さんの頭上に頻繁に落とされてたその物体の記憶を奇跡的に呼び起こした。そいつにぶっといペンキで乱雑に【トールハンマー】って書いてある。
「イエエエェェェェェェス、ザッツライッッッ!!!」
「アナログうぅぅぅぅぅああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
なんで! 俺は!! こう何度も!!! 騙されちゃうの!!!!
「馬鹿野郎!!!」
心が壊れかけた俺の両肩を掴むと、青沼さんの両腕が力強く揺さぶり俺の意識を辛うじて繋ぎ止めた。
「いいか、ただのタライだったら防犯でも何でもねえ!」
タライの時点で防犯じゃないです!!
「技術の粋を結集して作られたセキュリティだっつったろ! アレにはな……! クソっ、思い出しただけでおっかねぇ」
青沼さんが『絶対にこの人はこんな顔はしないだろう』と勝手に思っていた恐怖に顔を歪めた。
その表情が伝播し、俺自身も全身が泡立った。
「あのタライに…何が…?」
青沼さんは大きく深呼吸すると、目線だけタライに移す。
「あの中にはな…、ぎっちりと詰まってやがるんだよ…」
詰まってる…? 犠牲者の恨みとか怨念とかだろうか。まさか…仕留めた相手の体の一部って事はないよな…?
「ぎっちり…16ポンドのボーリング玉が…5つ…!!!」
「やっぱりぃぃアナログうぅぅぅぅぅぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「合計36.285kg+金盥のトラップだぞ!? 恐ろしいだろうが!!!」
違う、そうじゃない! それはそれで怖いけど!!
「そしてあれは天井の洋灯吊を介してロープで吊られてんだ! 司令がいつでも切って落とせるようにな」
「重さでいつ落ちてもおかしくないじゃないですかああぁぁぁ!? そんなモノの下をくぐらせないで下さい!!」
本気で【無慈悲《むじひ》なる鉄槌《てっつい》】だった。特にこちら側が食らった時な! 生きててよかった!!
そして朧荘の大家さん、頑丈な天井にしてくれて本当にありがとう! 顔知らないけど!
「我々のオーバーテクノロジーを御理解頂けたようだな」
司令が満足げな表情でうんうんと頷いた。
ねえ何で満足げなの? 〇〇なの? *ぬの? 心のマサカズがとうとう敬語を捨てた。
「テクノロジーの一部を明かしたついでに教えてあげるが、君を———」
ピリリリリリリリ!
喋りかけた司令を遮るように電子音がけたたましく鳴る。携帯電話の着信音か?
「あ、ワリィ、俺だ」
青沼さんが片手を立ててごめんねポーズ。
「ああ、こちらは気にしないで出たまえ」
いや気にしましょうよ秘密組織でしょここ。
「サンキュ。…あ、ばーちゃんからだ。なんだろ?」
青沼さんは相手が誰かを画面で確認すると通話ボタンを押す。
ええええーーー、本当にここで出ちゃうの!?
「…で、先ほどの続きだが…」
えええええええええーーーー!? 通話に乗っちゃうかもしれないのに機密説明再開しちゃうの!!?
もうね、なんだかこの人達といると自分の方がおかしくて、この人達の方が実は普通なんじゃないかと思えてくる。
いや命懸けで抵抗してやる。戦争だ。
司令は本当に続きを話し始めた。青沼さんもお構い無しに通話してる。
「君も恐らく何度か疑問に思った事と予想するが、私がどうやって君を探しd」
「もしもし? あ、ばーちゃんどうしたん? もしもぉぉぉぉぉぉし!!! 聴こえる!? あー、うん、そう、俺俺、俺で合ってるよ!」
うるせぇ。
「……突然変異した異能力者は己の変異細b」
「ちょっと声遠いんだけどぉぉぉ!? どこで喋ってんの!!? …いやいや、ちゃんと手に持って耳に当てて喋ってよ! 隣の部屋から喋ったって聴こえる訳ないでしょ!? そう! そうそうそう!」
え、ばーちゃんどういう状況なのそれ。
「……になる。まずは──────脳波探査装t」
「で、何がどうだって? うん…うんうん。……えっ!? マジかよ! ばーちゃん……それもしかして───力に目覚めたんじゃねーの!!?? いやいや、だって、テレビのリモコンなんだろそれ。なのにエアコンが動いたり止まったりするって、どう考えてもおかしいじゃん! ばーちゃんの " エアコンを操る力 " が覚醒したんだよ絶対!!」
…。
それ、もともとエアコンのリモコンだったんじゃ…
「───」
「すげーーーー!! 流石は俺のばーちゃんだぜ! 俺もそういう特殊能力があるんだけどさ、ばーちゃんからの遺伝だったんだな! え? 何言ってるか分からないって? 細かい事はいーーんだよ。帰ったら説明すっからさ、今日はお祝いしようぜ! お赤飯がいいか!? …ああ、うん、とりあえず一旦切るなー。うん、また後で!」
どうしよう。
司 令 の 話 が 全 く 頭 に 入 っ て こ な い 。
「という訳だ」
どういうワケだったんでしょう。ごめんなさい。
「いやー、今日はダブルビックリだな」
青沼さんが通話を終え、こちらに戻ってきた。うっすらと浮かぶ汗、興奮に紅潮した表情で。
「司令…、もしかしたらまた戦士が増えるかもしれねぇぞ…!」
正気ですか。ばーちゃんでしょ…。
「なん…だと…? 後で詳しく聞こう。しかしまずはレッドが先だ」
「おっと、そりゃそうだ!」
青沼さんはやっちまったい!とばかりに手で額をぺしっと叩いてガハハと笑った。
ああ、バッチリがっつりどっぷり正気なんだろうな。俺は早くも諦めた。
司令もあれだけ特大のボリュームで妨害されてたのに内容一切聞いてないのか。ある意味この人達すごい。ホントに人類か?
「さて…」
司令の目が再び俺を見据えた。今までの物とは明らかに違う鋭さを感じる。
「恐らくコレが、君が一番知りたかったであろう答えだ」
よかった、大事な部分がまだ残ってたみたいだ。頭に入らなかった部分はもう最初から無かった事にしてしまおう。そうしよう。
司令は再び椅子に深く身を預けると、何か悪い物でも祓い出すかのように深い息を吐いた。
対して、青沼さんの目が心なしかキラキラしてる気がする。
二人の印象が相反しすぎてて一体どんな秘密なのかの予想も既にパニック状態だ。
「これは———」
一拍間を空けて司令は続ける。
「ある意味、私の弱点にもなり得る重大な秘密だ」
「じゃ、弱点…!?」
そんな人間っぽい部分があったのか…!?
俺の失礼すぎる本音には気付かれた様子はなさそうだが、司令は更に声のトーンを1段下げ、ゆっくりと、そして底知れぬナニカを感じさせる響きで宣った。
「私の好物は………甘口カレーだ……!!!!」
カrei………
「そこ疑問じゃねええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
マサカズがキレた。
「なんだと!!?」
「驚くなよ!!」
二人の今までで一番の驚愕の表情だった。
「馬鹿な…万が一、辛口を仕込まれたら私は…ッ!? これ程の最高機密を差し置いて一体何が知りたいというのだッッ!!!」
司令が本気の焦り顔で迫る。美人でも相変わらず状況が嬉しくない。
「少なくともそれ以外です!」
既にもういくつか聞き逃してるけどな!(101)
キレる心のマサカズに珍しく狼狽えてる二人。
もう収拾がつかないこの状況を打破したのは——
「うるせえ死ねええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
落雷の様な破裂音と共に叩きつけられた襖と、いないものと思い込んでいた第三者の存在だった。
(本編次話【健全な俺達が恐れるのは、世間体と頭文字Rのジャンル分け】へ続くッ!)
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