悪役令嬢と私の婚約破棄

戌葉

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3. 私の婚約者

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 翌日、急の誘いになってしまったお詫びにとロータス様から届いたドレスと装飾品一式を身に着けてお迎えを待っていると、外出から帰ってきた妹のサフィラと鉢合わせた。

「まあ、お姉様、そんな素敵なドレスお持ちでしたの?」
「ロータス様からの贈り物よ」
「お姉様にはもったいないわ」

 我が家は貧乏にもかかわらず、末っ子の妹を溺愛している両親は、ねだられるままにドレスや宝石を買い与える。
 前世の記憶のために、どう考えても収入よりも支出が多いことが子供のころから分かってしまっていたので、私はあまり物をねだらなかった。さすがに貴族の令嬢として最低限のものは買ってもらったが。

 そんな節約志向の私を妹は馬鹿にしている。
 妹の婚約者も同じく伯爵家の令息だが、ロータス様のボルサ伯爵家ほどの羽振りの良さはないため、負けているようで余計に腹が立つのだろう。ことあるごとにロータス様に私は釣り合わないと言ってくる。
 前世でも旦那の学歴でのマウントがあるのだと、団地に住む友人がこぼしていたが、まさか自分の身に降りかかるとは。
 だいたいロータス様は私に妻の可愛さも癒しも求めていらっしゃらない。ともするとブレーン的な役割を求められているんじゃないだろうかと思うこともある。昨日のようにぽろっと機密事項をもらしてみたりだとか。
 何より、ロータス様というかボルサ伯爵家が欲しいのは侯爵家の爵位だ。凡庸な両親と兄を見ていると、そのうちこの家はボルサ伯爵家に乗っ取られるんじゃないかという気がする。
 こうしてドレスや宝飾品を贈られているということは、我が家の財政状況など調査済みで、虎視眈々と機会を狙っているのだろう。

 頭がお花畑の妹は今もおそらくこの宝石をいかに自分のものにするかを考えているのだろうが、さすがに婚約者からの贈り物を妹に横流しなどできないことくらい理解してほしい。こんな様子で、今後トラブルを起こさないか心配になるが、外面はいいので大丈夫だと信じたい。

「お嬢様、ロータス様がお着きになりました」
「お姉様、私もお出迎えしますわ」

 つんと澄まして、あわよくば見初められて私にとって代わりたいという魂胆が見え見えなのが可愛い。

「待たせてしまったかな?思った通りそのドレスとても似合ってるね」
「ありがとうございます」
「ロータス様、地味なお姉様を華やかに見せるセンスがさすがですわ!」
「お褒めいただき光栄です。サフィラ様」

 あー、うん、妹よ、ディスりたいのは分かるけど、そういうところを見せたら逆効果だとお姉ちゃんは思うなあ。高位貴族のお目に留まりたいなら、もう少しお勉強も頑張ったほうがいいと思うよ。

 妹をさらりとかわしたロータス様と馬車に乗り込み、観劇へと向かう。エスコートも完璧だし、妹が憧れるのも分からなくはない。

「妹さんは変わらず可愛らしいね」
「まだまだ子どもですわ」

 可愛らしいという言葉に、馬鹿っぽいというルビがふってあるような気がするは私の主観が入りすぎだろうか。

 だいたい、ロータス様の愛人の子爵令嬢のほうが可愛い。それはもう本当に可愛い。
 ロータス様の愛人とはどういう方かしらという興味からこっそりと見に行ったが、初めて見た時の衝撃は言葉にならなかった。20歳で可愛らしさの中に色気を潜ませた小悪魔っぷりに、思わず感嘆の声が漏れてしまった。前世なら確実にメディアに出るお仕事にスカウトされていただろうな。観賞用にぜひ近くにいてほしい。

 身分制度は面倒だと思う。ロータス様と子爵令嬢が本当に愛し合っているのか、打算が絡んでいるのかまでは分からないが、最初から愛人と決まっている関係というのはどういうものなのだろう。
 まあこちらも最初から本人同士の相性や好意は一切関係なく婚約者となっているのだが。
 そういう意味では、第二王子殿下の恋人の男爵令嬢は王子妃になる気満々だったが、成り上がる気概があったのか。今後も大変な思いをするだろうに、と他人事ながらも心配になる。

「急の誘いになって悪かったね」
「お気になさらず。歌劇は久しぶりですので嬉しいですわ」
「いろいろあって遅くなったけど、卒業のお祝いにと思ってね」

 どなたかに、卒業祝いをしたのか聞かれたのかもしれない。お互い第二王子殿下の婚約破棄騒動でそれどころではなかったのだから仕方がない。

 ロータス様は、この機にいかにしてグローリ公爵の力を削ぐかに注力していらっしゃるようだ。
 3公爵家が三つ巴ですくみあっている現状を崩さないように、公爵家全体の力を落としながら王家に権力を集めるのがなかなか難しくてね、とにこやかに語っていらっしゃる。王宮内のパワーバランスなんてそんな面倒なことが楽しめるなら、王太子殿下の側近は天職なんだろう。私だったら胃薬が手放せなくなりそうだ。

 私はというと、読書の他は、レリチア様とのお茶会の日々だ。
 婚約破棄で取り巻きの令嬢が離れてしまったレリチア様は、頻繁に私をお茶にお誘いになる。私にだったら弱っているところを見せてもいいと思えるほど信頼を得ているのは、損得勘定を抜きにしても嬉しい。
 何ができるわけではないが、小さいころからすべての時間を王子妃になるべく使ってきて、その目標を失った彼女の心中を思うと、そばにいることが少しでも慰めになればいいと思い、足しげく通っている。
 王子妃ならこういう時にどう振る舞うかを常に最優先にして、自分の感情を押し殺し、ずっと半ば公人として生きてきたのだ。
 今後どうなるのか分からないが、今は私人として、思うままにのんびりとした時間を過ごしてほしいと思う。
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