悪役令嬢と私の婚約破棄

戌葉

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4. 悪役令嬢と私の将来

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 卒業パーティーから約4か月たったある日のレリチア様とのお茶会後、帰りの馬車に乗り込む寸前にグローリ公爵から内密にと呼び出された。ロータス様との繋がりを何か言われるのかと身構えていた私にかけられた言葉は、全く予想もしないものだった。

「トルゴード王国のウィロウ公爵家の次男ジェンシャン様から婚約の申し入れがあった」
「おめでとうございます。レリチア様のお気持ちも落ち着かれるでしょう」
「いや、そなたにだ」
「え?」

 公爵は持てる伝手を全てお使いになり、レリチア様の嫁ぎ先を周辺の国で探していらっしゃった。この国にはレリチア様と釣り合うフリーの方はいらっしゃらないし、瑕疵はないとはいえ王子殿下と婚約破棄をしたというマイナスポイントがあっては今後苦労するのが目に見えている。
 そして、トルゴード王国のウィロウ公爵家から、是非にという申し入れがあったそうだ。
 ウィロウ公爵家次男ジェンシャン様は25歳でいらっしゃるが、騎士団に所属し魔物討伐の際に顔に傷を負われたために、国内で婚約者が見つからないでいるらしい。人間性に問題はないようだからと公爵はその話を受けるおつもりだったそうだ。

 そこに、ローズモス王国国王から側妃にどうか、という話が舞い込んだ。国王は公爵よりも年上で、側妃がおふたりいらっしゃるが、それを除けばお相手としてはこれ以上ない。しかもボターニの花と称されるレリチア様が国内で辛い思いをされるくらいなら、側妃に迎えてはどうかと提案されたのは王妃様だったそうだ。王太子への代替わりも見えてきている国内情勢下で、王妃様公認の側妃なら権力闘争に巻き込まれることもない。
 公爵は内々に了承の旨の返事をされたそうで、今後国を通して正式に申し入れが来る。

 ということで、レリチア様はローズモス王国に行くことが決まり、トルゴード王国のウィロウ公爵家にはお断りの連絡をした。さすがにあちらも他国の王家相手では文句も言えない。ただそこで、他にどなたかいい人はいないか、と相談されたそうだ。

「それで、そなたにどうかと思ってな。トルゴード王国は女性でも王宮の官吏として活躍している。親としては、レリチアについてローズモスに行ってほしい思いもあるが、そなたにはトルゴードのほうが合っているのではないか?」
「ですが私は……」
「ボルサ伯爵家はこちらから断っておく。レリチアについてローズモスに行くか、我が家の養女となってトルゴードに行くか、そなたの好きなほうを選べばいい。ただし考える時間は長くは取れない」

 つまり、私にはこの国に残ってロータス様に嫁ぐ未来はないということだ。ロータス様が私を通してグローリ公爵家に繋がりを持つことがお気に召さないのだろう。
 国力から言って、この国も王太子妃殿下のサフラ王国も、ローズモス王国には敵わない。これでグローリ公爵のこの国での発言権は王家であっても無視できないものになる。

 そんな国内情勢はともかく、私の行く先だ。
 私の一存で決められることではないが、家族に相談しても無駄だ。むしろロータス様の婚約者に収まろうと妹が張り切って、両親ともにそちらに注力しそうな気がする。

「レリチア様はこのことはご存じですか?」
「いや、これから話をする」
「でしたら、その後にお話をさせていただくことはできますか?」
「分かった。ナスターシャ、そなたがレリチアに寄り添ってくれたこと、感謝している。だからこそ、そなたが一番良いと思う道を選べ」
「ありがとうございます」

 感謝されるほどのことじゃない。これは前世の私がしてほしかったことだ。あの時は、親友が飛行機の距離に引っ越してしまい、電話で泣きつくしかできなかった。


 遅くなるだろうから、公爵家での夕食に招かれたということにして、家にはすでに連絡の手配がされていた。
 きっとレリチア様は驚くだろうな、と思いながら待っている。待っている間の時間つぶしにどうぞ、と出された本が、ローズモス王国とトルゴード王国の歴史書なのはさすが公爵家だ。私の好みをよく分かっていらっしゃる。
 ローズモス王国が建国されたところまで読んだところで、使用人が呼びに来た。

「ナスターシャ、どうするか決めましたか?」
「いえ、まだです」
「ナスターシャはトルゴードに行くべきよ」

 きっとレリチア様には一緒にローズモス王国に行ってほしいと言われるんだろうなと思いながら、お部屋に入ったのに、意表を突かれた。

「私はレリチア様の女官として王宮に上がるつもりでおりました。それがローズモス王国に変わったというだけだと思いますが」
「ナスターシャ、私は貴女にとても感謝しているわ。みんな離れていったのに、貴女だけは変わらず接してくれたもの。これを機に今までできなかった好きなことをしてみては、と提案してくれたのは貴女よ。貴女が本当にしたいことは女官なの?社交が好きではない貴女が?」

 痛いところを突かれた。令嬢の嗜みとして、社交は最低限こなしているが、好きではない。前世理系だった私は、「人」より「物」に興味を持つと言われる理系の傾向を今も継いでいる。女官はコミュニケーション能力が高くなければやっていけない職業だ。こなせはするだろうけど、天職かと聞かれると違うと言い切れる。

「お父様にはトルゴードのお話を進めてもらうようにお願いしてあるわ。ジェンシャン様はお顔に傷がおありだそうだけど、貴女は気にしないでしょう」

 バレている。身分と見目麗しさで黄色い声を上げている少女たちの中で、誠実さと将来の安定度を重視していればそう思われるのも当然か。やのつく自由業のような方でなければ問題ない。

「トルゴードに行きなさい。私についてくることは許しません」
「畏まりました」

 涙目になりながらも凛として命令を下すレリチア様に、私はそれ以上何も言えなかった。
 レリチア様から離れることに私が罪悪感を感じないように、わざと命令という形をとって下さったこの可愛らしい御方の未来が、どうか明るいものでありますように。
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