巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

文字の大きさ
1 / 89
1章 召喚編

1. 慶事

しおりを挟む
 一人暮らしをしている息子の祐也から、明日帰ってもいいか、とメッセージが来た。
 仕事は順調だと言っていたけれど、もしかしたらリストラされたり、望まない部署に移動になって落ち込んでいるのかもしれない。

 昔から真面目だけど不器用な子だった。もっと要領よく生きられればいいのにと歯がゆい思いをしながら見守ってきた。
 ひとり親としてあんまり手をかけてやれなかったから、せめて息子の好物を用意してやろう。

 インターフォンが鳴ったから、息子が着いたんだな。
 料理もたくさん準備できたし、息子の好きな銘柄のビールも用意したし、部屋の掃除までは手が回らなかったけど、まあこの家で育ったんだからいいでしょう。
 母親として、笑顔で優しく包み込んであげなければ。

「はいはい、お帰り~。わざわざ電話なんかしないで帰ってくれば……、こちらは、どなた?」
「母さん、紹介する。横山美弥さん。結婚を考えてる」
「……はあ?!」

 コントばりに驚いてしまった。
 そっちか。そっちなのか。先に言っといてよー、息子!

「初めまして。横山美弥です。突然お邪魔して申し訳ございません」
「ええ、はい、いえ、突然だけど、それはうちの息子が悪いので、こちらこそごめんなさい。驚いただけで歓迎してないわけじゃないのよ。ちょっと、先に言いなさいよ!部屋片づけてないじゃない!」
「年頃の息子が帰るって言ったら、普通そうだろ」
「仕事で何かあったんだと思ってあんたの好物用意してたじゃないの。部屋片付けるから30分どこかで時間潰して来なさい」
「いいから入れろよ。美弥、どうぞ」

 ああ、もう。せめて最初くらいちゃんと着飾って綺麗な部屋で、感じのいい姑になりますよ、ってアピールしたかったのに。第一印象最悪じゃない。
 来客用のスリッパ、息子のスリッパのついでに洗っておいてよかったわ。

「美弥さん、ごめんなさいね。てっきり息子がリストラにでもあって帰ってくるんだと思ってたから」
「いえ。こちらこそすみません」
「いつも一言足りないのよ。大丈夫?あの子が迷惑かけてない?頼りないでしょう?」
「母さん、とりあえず黙って」

 しまった。いつもしゃべりすぎて息子に怒られるのに、やってしまった。

 美弥さんはとてもしっかりした感じの良いお嬢さんだった。ふたりの将来を堅実に考えている。よくこんなお嬢さんと縁を結べたものだと、我が息子ながら感心する。
 そうだ、いいことを思いついた。

「貴方たち、この家に住みなさい。私が出ていくわ」
「母さん、何言ってんだ」
「ひとりには広いから引っ越そうかと思っていたのよ。でも貴方たちが住めばいいわ。いい案よね、そうしましょう。あ、もしかして自分たちで家を建てるつもりだった?それならこの家を売ってもいいし」
「ストップ。母さん、ちょっと考えさせて」

 また先走ってしまった。
 でも息子が出て行ってから、ひとりで住むにはこの家は広すぎて、掃除も大変なのだ。ワンルームの家を借りて住むのも楽しそうだし。

 結局、美弥さんのご家族も賛成してくれて、息子たちが今の家に住むことになって、私は会社の近くにワンルームのアパートを借りた。
 最初は私を追い出すようだからと心配していたふたりも、私の物件選びに付き合わせているうちに、私が現状を楽しんでいると分かってくれて、どの部屋がいいか一緒に選んでくれた。
 なんで付き合わせたかって?それは、今のご時世、独居老人が部屋を借りるのは難しいからよ。
 正社員とはいえアラフィフ、大家さんによっては警戒される可能性もある。この子たち新婚なので邪魔するのも悪くて~、なんて世間話が伝われば、少しは警戒が薄まるかもしれない。

 私の引っ越しも済ませ、二人の結婚式も終わり、新居での一人暮らしを楽しんでいた。
 子育ても終わったことだし、これを機に自分の楽しみを見つけよう。仕事以外の楽しみがないと、退職後の日々がつまらなくなりそうだ。
 何がいいかな。友人に誘われている登山に行ってみようか。昔からちょっと憧れだったバレエを始めてみようか。それとも海外旅行をしてみたいから英会話でも習ってみようか。
 始まった新しい生活に、若いころのように胸を高鳴らせていた。


 そんなある日、信号待ちをしていた時だった。
 前の女子高生のポニーテールが青春って感じね、なんて考えていたら、突然彼女の足元が光った。

「きゃあ!」
「え……、大変!」
「いや!助けて!」

 彼女の足元が崩れ、穴に落ちそうになっている。どういうこと?!
 私に向かって手を伸ばす彼女の手をしっかりと握ったので、後はこちらへ引き寄せるだけだと思った。私の手を支えに彼女が穴から出て、怖かったわねえと言えるはずだった。

 けれど、私も一緒に穴に落ちてしまった。まるで、奈落の底へ引きずれこまれるように。

しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...