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1章 召喚編
1. 慶事
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一人暮らしをしている息子の祐也から、明日帰ってもいいか、とメッセージが来た。
仕事は順調だと言っていたけれど、もしかしたらリストラされたり、望まない部署に移動になって落ち込んでいるのかもしれない。
昔から真面目だけど不器用な子だった。もっと要領よく生きられればいいのにと歯がゆい思いをしながら見守ってきた。
ひとり親としてあんまり手をかけてやれなかったから、せめて息子の好物を用意してやろう。
インターフォンが鳴ったから、息子が着いたんだな。
料理もたくさん準備できたし、息子の好きな銘柄のビールも用意したし、部屋の掃除までは手が回らなかったけど、まあこの家で育ったんだからいいでしょう。
母親として、笑顔で優しく包み込んであげなければ。
「はいはい、お帰り~。わざわざ電話なんかしないで帰ってくれば……、こちらは、どなた?」
「母さん、紹介する。横山美弥さん。結婚を考えてる」
「……はあ?!」
コントばりに驚いてしまった。
そっちか。そっちなのか。先に言っといてよー、息子!
「初めまして。横山美弥です。突然お邪魔して申し訳ございません」
「ええ、はい、いえ、突然だけど、それはうちの息子が悪いので、こちらこそごめんなさい。驚いただけで歓迎してないわけじゃないのよ。ちょっと、先に言いなさいよ!部屋片づけてないじゃない!」
「年頃の息子が帰るって言ったら、普通そうだろ」
「仕事で何かあったんだと思ってあんたの好物用意してたじゃないの。部屋片付けるから30分どこかで時間潰して来なさい」
「いいから入れろよ。美弥、どうぞ」
ああ、もう。せめて最初くらいちゃんと着飾って綺麗な部屋で、感じのいい姑になりますよ、ってアピールしたかったのに。第一印象最悪じゃない。
来客用のスリッパ、息子のスリッパのついでに洗っておいてよかったわ。
「美弥さん、ごめんなさいね。てっきり息子がリストラにでもあって帰ってくるんだと思ってたから」
「いえ。こちらこそすみません」
「いつも一言足りないのよ。大丈夫?あの子が迷惑かけてない?頼りないでしょう?」
「母さん、とりあえず黙って」
しまった。いつもしゃべりすぎて息子に怒られるのに、やってしまった。
美弥さんはとてもしっかりした感じの良いお嬢さんだった。ふたりの将来を堅実に考えている。よくこんなお嬢さんと縁を結べたものだと、我が息子ながら感心する。
そうだ、いいことを思いついた。
「貴方たち、この家に住みなさい。私が出ていくわ」
「母さん、何言ってんだ」
「ひとりには広いから引っ越そうかと思っていたのよ。でも貴方たちが住めばいいわ。いい案よね、そうしましょう。あ、もしかして自分たちで家を建てるつもりだった?それならこの家を売ってもいいし」
「ストップ。母さん、ちょっと考えさせて」
また先走ってしまった。
でも息子が出て行ってから、ひとりで住むにはこの家は広すぎて、掃除も大変なのだ。ワンルームの家を借りて住むのも楽しそうだし。
結局、美弥さんのご家族も賛成してくれて、息子たちが今の家に住むことになって、私は会社の近くにワンルームのアパートを借りた。
最初は私を追い出すようだからと心配していたふたりも、私の物件選びに付き合わせているうちに、私が現状を楽しんでいると分かってくれて、どの部屋がいいか一緒に選んでくれた。
なんで付き合わせたかって?それは、今のご時世、独居老人が部屋を借りるのは難しいからよ。
正社員とはいえアラフィフ、大家さんによっては警戒される可能性もある。この子たち新婚なので邪魔するのも悪くて~、なんて世間話が伝われば、少しは警戒が薄まるかもしれない。
私の引っ越しも済ませ、二人の結婚式も終わり、新居での一人暮らしを楽しんでいた。
子育ても終わったことだし、これを機に自分の楽しみを見つけよう。仕事以外の楽しみがないと、退職後の日々がつまらなくなりそうだ。
何がいいかな。友人に誘われている登山に行ってみようか。昔からちょっと憧れだったバレエを始めてみようか。それとも海外旅行をしてみたいから英会話でも習ってみようか。
始まった新しい生活に、若いころのように胸を高鳴らせていた。
そんなある日、信号待ちをしていた時だった。
前の女子高生のポニーテールが青春って感じね、なんて考えていたら、突然彼女の足元が光った。
「きゃあ!」
「え……、大変!」
「いや!助けて!」
彼女の足元が崩れ、穴に落ちそうになっている。どういうこと?!
私に向かって手を伸ばす彼女の手をしっかりと握ったので、後はこちらへ引き寄せるだけだと思った。私の手を支えに彼女が穴から出て、怖かったわねえと言えるはずだった。
けれど、私も一緒に穴に落ちてしまった。まるで、奈落の底へ引きずれこまれるように。
仕事は順調だと言っていたけれど、もしかしたらリストラされたり、望まない部署に移動になって落ち込んでいるのかもしれない。
昔から真面目だけど不器用な子だった。もっと要領よく生きられればいいのにと歯がゆい思いをしながら見守ってきた。
ひとり親としてあんまり手をかけてやれなかったから、せめて息子の好物を用意してやろう。
インターフォンが鳴ったから、息子が着いたんだな。
料理もたくさん準備できたし、息子の好きな銘柄のビールも用意したし、部屋の掃除までは手が回らなかったけど、まあこの家で育ったんだからいいでしょう。
母親として、笑顔で優しく包み込んであげなければ。
「はいはい、お帰り~。わざわざ電話なんかしないで帰ってくれば……、こちらは、どなた?」
「母さん、紹介する。横山美弥さん。結婚を考えてる」
「……はあ?!」
コントばりに驚いてしまった。
そっちか。そっちなのか。先に言っといてよー、息子!
「初めまして。横山美弥です。突然お邪魔して申し訳ございません」
「ええ、はい、いえ、突然だけど、それはうちの息子が悪いので、こちらこそごめんなさい。驚いただけで歓迎してないわけじゃないのよ。ちょっと、先に言いなさいよ!部屋片づけてないじゃない!」
「年頃の息子が帰るって言ったら、普通そうだろ」
「仕事で何かあったんだと思ってあんたの好物用意してたじゃないの。部屋片付けるから30分どこかで時間潰して来なさい」
「いいから入れろよ。美弥、どうぞ」
ああ、もう。せめて最初くらいちゃんと着飾って綺麗な部屋で、感じのいい姑になりますよ、ってアピールしたかったのに。第一印象最悪じゃない。
来客用のスリッパ、息子のスリッパのついでに洗っておいてよかったわ。
「美弥さん、ごめんなさいね。てっきり息子がリストラにでもあって帰ってくるんだと思ってたから」
「いえ。こちらこそすみません」
「いつも一言足りないのよ。大丈夫?あの子が迷惑かけてない?頼りないでしょう?」
「母さん、とりあえず黙って」
しまった。いつもしゃべりすぎて息子に怒られるのに、やってしまった。
美弥さんはとてもしっかりした感じの良いお嬢さんだった。ふたりの将来を堅実に考えている。よくこんなお嬢さんと縁を結べたものだと、我が息子ながら感心する。
そうだ、いいことを思いついた。
「貴方たち、この家に住みなさい。私が出ていくわ」
「母さん、何言ってんだ」
「ひとりには広いから引っ越そうかと思っていたのよ。でも貴方たちが住めばいいわ。いい案よね、そうしましょう。あ、もしかして自分たちで家を建てるつもりだった?それならこの家を売ってもいいし」
「ストップ。母さん、ちょっと考えさせて」
また先走ってしまった。
でも息子が出て行ってから、ひとりで住むにはこの家は広すぎて、掃除も大変なのだ。ワンルームの家を借りて住むのも楽しそうだし。
結局、美弥さんのご家族も賛成してくれて、息子たちが今の家に住むことになって、私は会社の近くにワンルームのアパートを借りた。
最初は私を追い出すようだからと心配していたふたりも、私の物件選びに付き合わせているうちに、私が現状を楽しんでいると分かってくれて、どの部屋がいいか一緒に選んでくれた。
なんで付き合わせたかって?それは、今のご時世、独居老人が部屋を借りるのは難しいからよ。
正社員とはいえアラフィフ、大家さんによっては警戒される可能性もある。この子たち新婚なので邪魔するのも悪くて~、なんて世間話が伝われば、少しは警戒が薄まるかもしれない。
私の引っ越しも済ませ、二人の結婚式も終わり、新居での一人暮らしを楽しんでいた。
子育ても終わったことだし、これを機に自分の楽しみを見つけよう。仕事以外の楽しみがないと、退職後の日々がつまらなくなりそうだ。
何がいいかな。友人に誘われている登山に行ってみようか。昔からちょっと憧れだったバレエを始めてみようか。それとも海外旅行をしてみたいから英会話でも習ってみようか。
始まった新しい生活に、若いころのように胸を高鳴らせていた。
そんなある日、信号待ちをしていた時だった。
前の女子高生のポニーテールが青春って感じね、なんて考えていたら、突然彼女の足元が光った。
「きゃあ!」
「え……、大変!」
「いや!助けて!」
彼女の足元が崩れ、穴に落ちそうになっている。どういうこと?!
私に向かって手を伸ばす彼女の手をしっかりと握ったので、後はこちらへ引き寄せるだけだと思った。私の手を支えに彼女が穴から出て、怖かったわねえと言えるはずだった。
けれど、私も一緒に穴に落ちてしまった。まるで、奈落の底へ引きずれこまれるように。
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