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1章 召喚編
3. 作戦会議
「とりあえず自己紹介しましょう。私は高山政子。年齢は、アラフィフよ。それ以上は聞かないで」
「風間理沙です。高2です」
「その制服、県立高校の制服よね。うちの息子も通ったのよ」
「はい。あの……巻き込んですみませんでした」
とてもとても小さな声で、理沙ちゃんが謝った。理沙ちゃんが悪いわけじゃないのに。
「貴女は悪くないわ。悪いのは聖女召喚?したこの国よ。謝らないで」
「でも、私があの時手を引っ張らなかったら」
「目の前で穴に落ちそうな子を見捨てられなかったのは、私よ」
ああ、きっと根が真面目な子なんだろう。私のことまで背負い込まないでいいのに。
「ねえ理沙ちゃん、もし次に地震が起きる場所が分かって、そこに行って祈ったら地震を止められる子どもがこの世界にいるとして、その子を本人にも親にも許可を取らずに日本に連れて行って、地震が起きそうになるたびにその地に派遣するってどう思う?許されると思う?」
「……ダメでしょうね」
「今貴女がされているのは、まさにそういうことよ。貴女は被害者なの。この世界の人にも私にも、申し訳なく思う必要なんてないの」
あの宰相のお涙頂戴話に流されてしまったのだろうけど、そもそも自分の足元がしっかりしていないのに、人のことまで構っていられない状況なのだ。優先順位を間違えてはいけない。
「まずは、私たちの安全確保が最優先ね。ちょっとまってね、メモ帳があったはず」
「私、ノートがあります。学校の帰りだったから」
そう言って学生鞄からノートを取り出した理沙ちゃんは、ノートを握りしめて、下を向いてしまった。
「もう、学校に行けないんですかね……」
「分からないわ。帰り方を探しましょう」
「でも帰れないって」
「帰れないと彼らが言っている。でも本当かどうかは分からないわ。望みは薄くても、探しましょう」
下手に期待を持たせられないけれど、希望を潰すのも忍びない。
けれど理沙ちゃんは帰れないと思っているようだ。帰れるなら、帰すからそれまで協力してくれ、と言うような気もするから、帰れない可能性は濃厚だと私も思っているけど。
「明日、テストだったんです。テストが嫌で、学校行かなくてよくなればいいのにって思ったから……」
「それは違うわ」
「帰りたい……。お父さんとお母さんに会いたい……」
理沙ちゃんが泣き出してしまった。高校生が、まだ未成年の子が、いきなり親から引き離されたのだ。無理もない。
半世紀近く生きてきた私だって泣きたい。
でも泣いたってどうにもならないのだ。何も事態は好転しない。自分で変えていくしかない。
幼い祐也を抱きしめながらひとりで途方に暮れて、何度泣きながら眠れない夜を過ごしたことか。
大丈夫だ。あんなに大変だった日々も、今では笑い話にできるくらい、祐也はちゃんと育ってくれた。あの子には美弥さんがついていてくれる。だから私は理沙ちゃんを守ろう。
いつかこの日を笑い話にできる時が、きっと来る。そう信じて。
泣いている理沙ちゃんの背中を撫でながら、これからすべきことを考える。
まずは安全の確保。この部屋をいつまで使わせてもらえるのか。私はいつまで理沙ちゃんのそばに置いてもらえるのか。もし理沙ちゃんから離されてしまった時のことを考えると、お互いひとりで生きていかなければならない。
そう考えると、この世界の常識、私にできる仕事があるならそのための知識も必要だ。
それから理沙ちゃんの聖女のお仕事の内容。理沙ちゃんに危険のなることなのかどうか、世間の聖女への認識はどうなのか。
この世界に味方が欲しいが、一朝一夕にできるものでもないし、信用できるかも判断がつかない。これは追々だな。
その時、部屋のドアがノックされた。どうぞ、と声をかけると、侍女といった感じの人たちが、食事を運んできた。
私の腕の中で泣いている理沙ちゃんを見てどうすべきか迷ったのか、私に聞いてきた。
「お食事は、もう少し後のほうがよろしいでしょうか」
「ええ、そうして下さい」
「廊下に控えておりますので、声をおかけください」
そう言って部屋から出て行った。彼女たちには申し訳ないが、食べる前に、話しておきたいことがある。
こんな状況でお腹は空いていないし、食事をする気分ではないけど、喉は乾いたし、それに腹が減っては戦はできぬと言うし。
人が入ってきたことで気分が切り替わって少し落ち着いたのか、理沙ちゃんが顔を上げた。
「政子さん、すみません」
「いいのよ。泣けるときに泣いておいたほうがいいわ。ところで、食事の前に話しておきたいことがあるの」
さっき考えたすべきことを理沙ちゃんに話して聞かせる。もしも、私が理沙ちゃんから引き離されてしまったら、理沙ちゃんはこのお城でひとりでやっていくしかない。
「政子さんはずっと一緒にいてくれますよね?」
「そうしたいけど、実力行使で排除されたら無理だから」
「そんな……」
「今はいろんな可能性を考えて対策を練っておきましょう」
食事に睡眠薬が混ぜられていて、寝ている間に私だけお城から出される、あるいは考えたくないが殺されることだってないとは言えない。そんなこと理沙ちゃんには教えないけど。
いつだって最悪の状況を想定して、対策を練っておく。それが私がひとり親生活で身に着けた知恵だ。子育てなんて想定外の連続だ。何かがあった時、1馬力ではすぐに対応できないのだから。
当分私は理沙ちゃんのお付き、しかも生まれた時から母代わりとなって面倒を見てきた人間という設定でいくことを決めた。それなら理沙ちゃんが落ち着くまでは、排除されることもないだろう。
「風間理沙です。高2です」
「その制服、県立高校の制服よね。うちの息子も通ったのよ」
「はい。あの……巻き込んですみませんでした」
とてもとても小さな声で、理沙ちゃんが謝った。理沙ちゃんが悪いわけじゃないのに。
「貴女は悪くないわ。悪いのは聖女召喚?したこの国よ。謝らないで」
「でも、私があの時手を引っ張らなかったら」
「目の前で穴に落ちそうな子を見捨てられなかったのは、私よ」
ああ、きっと根が真面目な子なんだろう。私のことまで背負い込まないでいいのに。
「ねえ理沙ちゃん、もし次に地震が起きる場所が分かって、そこに行って祈ったら地震を止められる子どもがこの世界にいるとして、その子を本人にも親にも許可を取らずに日本に連れて行って、地震が起きそうになるたびにその地に派遣するってどう思う?許されると思う?」
「……ダメでしょうね」
「今貴女がされているのは、まさにそういうことよ。貴女は被害者なの。この世界の人にも私にも、申し訳なく思う必要なんてないの」
あの宰相のお涙頂戴話に流されてしまったのだろうけど、そもそも自分の足元がしっかりしていないのに、人のことまで構っていられない状況なのだ。優先順位を間違えてはいけない。
「まずは、私たちの安全確保が最優先ね。ちょっとまってね、メモ帳があったはず」
「私、ノートがあります。学校の帰りだったから」
そう言って学生鞄からノートを取り出した理沙ちゃんは、ノートを握りしめて、下を向いてしまった。
「もう、学校に行けないんですかね……」
「分からないわ。帰り方を探しましょう」
「でも帰れないって」
「帰れないと彼らが言っている。でも本当かどうかは分からないわ。望みは薄くても、探しましょう」
下手に期待を持たせられないけれど、希望を潰すのも忍びない。
けれど理沙ちゃんは帰れないと思っているようだ。帰れるなら、帰すからそれまで協力してくれ、と言うような気もするから、帰れない可能性は濃厚だと私も思っているけど。
「明日、テストだったんです。テストが嫌で、学校行かなくてよくなればいいのにって思ったから……」
「それは違うわ」
「帰りたい……。お父さんとお母さんに会いたい……」
理沙ちゃんが泣き出してしまった。高校生が、まだ未成年の子が、いきなり親から引き離されたのだ。無理もない。
半世紀近く生きてきた私だって泣きたい。
でも泣いたってどうにもならないのだ。何も事態は好転しない。自分で変えていくしかない。
幼い祐也を抱きしめながらひとりで途方に暮れて、何度泣きながら眠れない夜を過ごしたことか。
大丈夫だ。あんなに大変だった日々も、今では笑い話にできるくらい、祐也はちゃんと育ってくれた。あの子には美弥さんがついていてくれる。だから私は理沙ちゃんを守ろう。
いつかこの日を笑い話にできる時が、きっと来る。そう信じて。
泣いている理沙ちゃんの背中を撫でながら、これからすべきことを考える。
まずは安全の確保。この部屋をいつまで使わせてもらえるのか。私はいつまで理沙ちゃんのそばに置いてもらえるのか。もし理沙ちゃんから離されてしまった時のことを考えると、お互いひとりで生きていかなければならない。
そう考えると、この世界の常識、私にできる仕事があるならそのための知識も必要だ。
それから理沙ちゃんの聖女のお仕事の内容。理沙ちゃんに危険のなることなのかどうか、世間の聖女への認識はどうなのか。
この世界に味方が欲しいが、一朝一夕にできるものでもないし、信用できるかも判断がつかない。これは追々だな。
その時、部屋のドアがノックされた。どうぞ、と声をかけると、侍女といった感じの人たちが、食事を運んできた。
私の腕の中で泣いている理沙ちゃんを見てどうすべきか迷ったのか、私に聞いてきた。
「お食事は、もう少し後のほうがよろしいでしょうか」
「ええ、そうして下さい」
「廊下に控えておりますので、声をおかけください」
そう言って部屋から出て行った。彼女たちには申し訳ないが、食べる前に、話しておきたいことがある。
こんな状況でお腹は空いていないし、食事をする気分ではないけど、喉は乾いたし、それに腹が減っては戦はできぬと言うし。
人が入ってきたことで気分が切り替わって少し落ち着いたのか、理沙ちゃんが顔を上げた。
「政子さん、すみません」
「いいのよ。泣けるときに泣いておいたほうがいいわ。ところで、食事の前に話しておきたいことがあるの」
さっき考えたすべきことを理沙ちゃんに話して聞かせる。もしも、私が理沙ちゃんから引き離されてしまったら、理沙ちゃんはこのお城でひとりでやっていくしかない。
「政子さんはずっと一緒にいてくれますよね?」
「そうしたいけど、実力行使で排除されたら無理だから」
「そんな……」
「今はいろんな可能性を考えて対策を練っておきましょう」
食事に睡眠薬が混ぜられていて、寝ている間に私だけお城から出される、あるいは考えたくないが殺されることだってないとは言えない。そんなこと理沙ちゃんには教えないけど。
いつだって最悪の状況を想定して、対策を練っておく。それが私がひとり親生活で身に着けた知恵だ。子育てなんて想定外の連続だ。何かがあった時、1馬力ではすぐに対応できないのだから。
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