4 / 89
1章 召喚編
4. 交渉
しおりを挟む
食事とお風呂をいただき、理沙ちゃんと一緒にふかふかのベッドで眠った翌日、普通に目が覚めた。我ながら図太いな。
キングサイズ相当なんだろうベッドだったので、これなら一緒に寝ても蹴ったりしないだろうということで理沙ちゃんと一緒に寝た。誰かに何か言われたら、理沙ちゃんが知らない場所でひとりだと不安で眠れないから、と説明することにしている。
「おはよう。眠れた?」
「なんとか、少しだけ」
「もしかして私のいびきで眠れなかった?」
「違いますよ」
やっと理沙ちゃんが少しだけ笑ってくれた。
理沙ちゃんは朝食も少ししか口にしなかったけれど、それでも少しは食べたことに安心した。私は、普通に食べている。こういう時なのにお腹がすく自分の食欲にちょっと感心してしまうが、死ななければきっと何とかなる。
朝食後、王様と話がしたいと伝えたところ、部屋に来たのは宰相だった。彼が代表して話をするようだ。
「聞きたいことが2つ、お願いが2つあります。聞きたいことは、私たちの生活の保障についてと、聖女の仕事についてです。お願いは、まず、こちらの国や世界についての講義をお願いします。そういう本があればそちらも。それから、画家の方に描いて欲しいものがあります」
先にどういう要求がいくつあるのかを伝えてから話すと、相手は聞いてくれやすい。これは私が営業職に就いた最初の頃に先輩から言われたことだ。
宰相からの答えは、私たちの生活の面倒は死ぬまで国が責任を持ってみるということだった。かかる費用も全て国がもつ。聖女の仕事は、各地に行って祈るための浄化の旅に出ることらしい。ただ1か月行って帰ってくる、といった感じで、ずっと旅暮らしではないそうだ。その時には護衛に騎士団がつく。
「過去の聖女の記録を見せてください」
「それは……」
「見せられない何かがあるのですか?」
「いえ、手配します」
見せられるけど見せたくないということは、見られると印象の悪くなることが書いてあるのだろう。
聖女の祈りが発動したかどうかは、キラキラと輝くので見てわかるそうだ。その祈りを発動できるまでの時間は人それぞれで、記録にある3人の場合、最短で当日、次が1か月、最長で1年だった。それは召喚されて喜んだか、嘆いたかの差なんじゃないかと想像するけど、記録を見ればわかるだろう。
聖女の祈りが命を削ることはないと言っているが、これは本当かどうかわからない。何歳まで生きたのか聞きたいが、その答えが本当かの判断もできない。だったら原本を見せてもらいたい。幸い字は読めるようだし。
もっと渋られると思ったのにあっさり開示してくれることに内心驚いていたけど、どうやら昨日の報酬は何かという発言がかなり効いているようだ。
泣き落としというか、感情に訴えても応じてもらえそうにないので、持てる情報を開示して協力を要請するという方針を、あの後王様と話し合って決めていた。召喚されたことに対して決していい感情を持っていないことに気付いたのだ。
この世界や国についての講義は、明日から朝食後、昼食までの間に毎日行われることになった。7日に1回休みを取ったほうがいいかと思ったけど、目途が立つまでは休みなしで急いだほうがいいと、理沙ちゃんと相談して決めた。
「それで、画家ということですが」
「肖像画を模写してほしいのです。まずは何か作品を見せてください。それでどの方にお願いするか決めます」
「模写、ですか。分かりました。数日中にお持ちします」
昨夜、眠れない理沙ちゃんはスマホの家族の写真を見て泣いていた。けれど、スマホはいつかバッテリーが切れてしまう。だからその前に、その写真を絵にしてもらおう。
こちらの要求の回答が終わったところで、宰相から昨日の質問の回答があった。理沙ちゃんは何を得られるのか、という質問の答えだ。
一生の生活を保障する。
浄化が終わった後は好きなことをしていい。
望むなら王族との結婚も可能。
最後の答えで評価がマイナスになった。
「王族との婚姻は、そちらにしかメリットがないと思いますが?我々の一番の要求は、元居たところに帰ることです。それが叶わない願いであるというのに、出てきた答えがそれですか。再検討をお願いします」
「申し訳ございません」
この世界なら、王族との婚姻は憧れなのだろうけど、私たちは身分制度のない世界で育っているのだ。
最初からこの回答を受け入れるかは保留にするつもりだったけど、ちょうどいいマイナスポイントが出てきたので、突き返させてもらおう。過去の聖女たちの記録を読んでから判断したい。
最後に宰相から侍女を紹介された。昨日から食事を持って来てくれている人だ。
「聖女様の身の回りのお世話を担当するものの責任者のローズです。何かありましたら彼女にお知らせください」
「彼女の権限は?」
「権限と申しますと?」
「例えば王族の方がお嬢様に会わせろと乗り込んでいらしたときに、彼女にはそれを断る権限があるのですか?」
身分社会がよく分からないけど、庶務課の平社員には、取締役が乗り込んできたときに止める権限はない。理沙ちゃんが嫌がっているのに、相手が王族だからと味方されるなら、最初からいないほうがいい。
「……、聖女様の周りのものには、聖女様の命令が最上位であることを改めて周知します」
「私の言葉はお嬢様の言葉だということも、徹底してください」
「分かりました」
別に無理を言うつもりはないが、不服を訴えなければ了承したと取られても困る。なんとなく中世ヨーロッパっぽいから、日本のように察する文化ではないと思って進めているけど、要求が多すぎると煙たがられるのは望みじゃない。まだ2日目では判断が難しい。
「政子さん、すごかったです」
「最初に舐められると、あれこれ要求されそうでしょう。でも条件によっては協力する気はあるのだというのも見せないとだし。上手くいっているといいんだけど」
仕事よりも気を使った。仕事は、まあ正直失敗しても死にはしないが、ここは下手をすると命が危ない。
めんどくさい聖女だから始末して次を呼ぼう、などと思われないように匙加減が難しい。やりすぎていないといいのだけど。
キングサイズ相当なんだろうベッドだったので、これなら一緒に寝ても蹴ったりしないだろうということで理沙ちゃんと一緒に寝た。誰かに何か言われたら、理沙ちゃんが知らない場所でひとりだと不安で眠れないから、と説明することにしている。
「おはよう。眠れた?」
「なんとか、少しだけ」
「もしかして私のいびきで眠れなかった?」
「違いますよ」
やっと理沙ちゃんが少しだけ笑ってくれた。
理沙ちゃんは朝食も少ししか口にしなかったけれど、それでも少しは食べたことに安心した。私は、普通に食べている。こういう時なのにお腹がすく自分の食欲にちょっと感心してしまうが、死ななければきっと何とかなる。
朝食後、王様と話がしたいと伝えたところ、部屋に来たのは宰相だった。彼が代表して話をするようだ。
「聞きたいことが2つ、お願いが2つあります。聞きたいことは、私たちの生活の保障についてと、聖女の仕事についてです。お願いは、まず、こちらの国や世界についての講義をお願いします。そういう本があればそちらも。それから、画家の方に描いて欲しいものがあります」
先にどういう要求がいくつあるのかを伝えてから話すと、相手は聞いてくれやすい。これは私が営業職に就いた最初の頃に先輩から言われたことだ。
宰相からの答えは、私たちの生活の面倒は死ぬまで国が責任を持ってみるということだった。かかる費用も全て国がもつ。聖女の仕事は、各地に行って祈るための浄化の旅に出ることらしい。ただ1か月行って帰ってくる、といった感じで、ずっと旅暮らしではないそうだ。その時には護衛に騎士団がつく。
「過去の聖女の記録を見せてください」
「それは……」
「見せられない何かがあるのですか?」
「いえ、手配します」
見せられるけど見せたくないということは、見られると印象の悪くなることが書いてあるのだろう。
聖女の祈りが発動したかどうかは、キラキラと輝くので見てわかるそうだ。その祈りを発動できるまでの時間は人それぞれで、記録にある3人の場合、最短で当日、次が1か月、最長で1年だった。それは召喚されて喜んだか、嘆いたかの差なんじゃないかと想像するけど、記録を見ればわかるだろう。
聖女の祈りが命を削ることはないと言っているが、これは本当かどうかわからない。何歳まで生きたのか聞きたいが、その答えが本当かの判断もできない。だったら原本を見せてもらいたい。幸い字は読めるようだし。
もっと渋られると思ったのにあっさり開示してくれることに内心驚いていたけど、どうやら昨日の報酬は何かという発言がかなり効いているようだ。
泣き落としというか、感情に訴えても応じてもらえそうにないので、持てる情報を開示して協力を要請するという方針を、あの後王様と話し合って決めていた。召喚されたことに対して決していい感情を持っていないことに気付いたのだ。
この世界や国についての講義は、明日から朝食後、昼食までの間に毎日行われることになった。7日に1回休みを取ったほうがいいかと思ったけど、目途が立つまでは休みなしで急いだほうがいいと、理沙ちゃんと相談して決めた。
「それで、画家ということですが」
「肖像画を模写してほしいのです。まずは何か作品を見せてください。それでどの方にお願いするか決めます」
「模写、ですか。分かりました。数日中にお持ちします」
昨夜、眠れない理沙ちゃんはスマホの家族の写真を見て泣いていた。けれど、スマホはいつかバッテリーが切れてしまう。だからその前に、その写真を絵にしてもらおう。
こちらの要求の回答が終わったところで、宰相から昨日の質問の回答があった。理沙ちゃんは何を得られるのか、という質問の答えだ。
一生の生活を保障する。
浄化が終わった後は好きなことをしていい。
望むなら王族との結婚も可能。
最後の答えで評価がマイナスになった。
「王族との婚姻は、そちらにしかメリットがないと思いますが?我々の一番の要求は、元居たところに帰ることです。それが叶わない願いであるというのに、出てきた答えがそれですか。再検討をお願いします」
「申し訳ございません」
この世界なら、王族との婚姻は憧れなのだろうけど、私たちは身分制度のない世界で育っているのだ。
最初からこの回答を受け入れるかは保留にするつもりだったけど、ちょうどいいマイナスポイントが出てきたので、突き返させてもらおう。過去の聖女たちの記録を読んでから判断したい。
最後に宰相から侍女を紹介された。昨日から食事を持って来てくれている人だ。
「聖女様の身の回りのお世話を担当するものの責任者のローズです。何かありましたら彼女にお知らせください」
「彼女の権限は?」
「権限と申しますと?」
「例えば王族の方がお嬢様に会わせろと乗り込んでいらしたときに、彼女にはそれを断る権限があるのですか?」
身分社会がよく分からないけど、庶務課の平社員には、取締役が乗り込んできたときに止める権限はない。理沙ちゃんが嫌がっているのに、相手が王族だからと味方されるなら、最初からいないほうがいい。
「……、聖女様の周りのものには、聖女様の命令が最上位であることを改めて周知します」
「私の言葉はお嬢様の言葉だということも、徹底してください」
「分かりました」
別に無理を言うつもりはないが、不服を訴えなければ了承したと取られても困る。なんとなく中世ヨーロッパっぽいから、日本のように察する文化ではないと思って進めているけど、要求が多すぎると煙たがられるのは望みじゃない。まだ2日目では判断が難しい。
「政子さん、すごかったです」
「最初に舐められると、あれこれ要求されそうでしょう。でも条件によっては協力する気はあるのだというのも見せないとだし。上手くいっているといいんだけど」
仕事よりも気を使った。仕事は、まあ正直失敗しても死にはしないが、ここは下手をすると命が危ない。
めんどくさい聖女だから始末して次を呼ぼう、などと思われないように匙加減が難しい。やりすぎていないといいのだけど。
120
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる