巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

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1章 召喚編

8. 浄化の旅

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 理沙ちゃんは、さくっと聖女の祈りを発動させて、周りを驚かせた。
 まだ感情に波はあるものの、周りから褒められ貴女が必要なのだと言われて、この世界での存在意義を見出せたようだ。

 今まで停滞していたのがウソのように、事態は一気に動き出した。
 まずは北の森の近くの一番大きな街へ、浄化に出かける。
 そのために、聖女様の護衛の騎士団が編成され、その中の女性騎士が理沙ちゃんの近くで常に警護することになった。

 この国では女性騎士は少なく、全員王族の女性の護衛についている。そのため理沙ちゃんにつける女性騎士が足りず、年齢が近い見習いの子たちが旅に同行することになった。
 聖女召喚するなら、まず先に女性騎士を準備しておくのが道理じゃないのと、準備不足に内心不満だらけだ。呼んでみたら女性だったわけじゃない。聖女というくらいだから女性を呼んだのに。
 それに、王族の女性の護衛を理沙ちゃんにつければいいのに見習いで済ませるというのも、口では聖女様と言いながら、王族よりも下に見ている証拠だ。
 そういうところが、この国をいまいち信用できない理由だ。聖女を召喚させすれば後はなんとかしてもらえるという甘い見通しが見てとれる。

 浄化の旅にはもちろん私も同行する。理沙ちゃんの希望であり、周りからも一緒に行くものと思われている。侍女というか乳母のような立ち位置で振る舞っているので当然だと思われたようだ。
 侍女のローズも一緒に行くが、彼女は少し武術の心得もあるらしいので護衛も兼ねている。異世界の侍女すごいな。


 王様に見送られて、私たちの乗った馬車が城を出る。
 今回は最初なので王太子も同行するそうだが、あわよくば旅の途中でロマンスが生まれてくれればと思っているのだろう。無神経な発言をしそうなので、理沙ちゃんに近寄ってほしくないのに。

 馬車の中は広く、内装も豪華で椅子もふかふかで乗り心地は良いものの、そもそも道が良くない。お城に近い辺りは石畳だったが、城下町を出ると舗装されていない土の道だ。
 窓を開けて景色を見ようとすると、風が強いと砂ぼこりが入ってくる。

「理沙ちゃん、お尻大丈夫?」
「はい。政子さんは大丈夫ですか?」
「腰が痛くなりそうね。休憩の度に運動したほうがいいかも」

 狭くはないのでエコノミークラス症候群にはならないだろうけど、腰にはきそうだ。

 この世界、といってもお城しか知らないけど、上下水道はあった。とりあえずそれが何よりもの救いだ。
 この浄化に行く先にあるのかは分からないが、聖女様を泊めるところだから、それなりの設備は整っているはずと期待している。
 やっぱり衛生面が一番気になるし、心配でもある。
 感染症とかは大丈夫だろうか。この世界にもはしかのような、子どものころかかって免疫ができる病気があるようなのだ。まあ、心配したところでどうすることもできないので、日本での免疫や予防接種が効力を発揮することを祈るしかないけど。


 途中の宿泊した街、そして今回浄化する街での歓迎は熱気あふれるものだった。
 これで魔物に怯えなくてよくなる、そんな明るい表情の住民たちが手を振って出迎えている。安全のために騎士が周りを固めているので近づいては来ないが、声は届く。

「すごいですね」
「理沙ちゃん、理沙ちゃんは善意で応えているのだということを忘れないでね」

 あっけにとられている理沙ちゃんが心配で、おせっかいだと分かっていながら声をかけた。
 これだけ大歓迎されると期待が重く伸し掛かるけど、善意でやっているのであって義務だと思い込まないでほしい。そちらの期待に応えてやってるんだからこちらの要求を呑め、と言えるような子ではないので心配になる。

 浄化の祈りの儀式を行うのは、街の外の草原のようなところだ。この世界、魔物から守るために街は城壁でおおわれている。
 草原の向こう遠くに見える森が、魔物が出てくる北の森らしい。この辺りまで魔物が来ることはめったにないらしいが、周りを騎士が大きくぐるっと囲って警戒している。
 そしてその後ろには、たくさんの住民が見学に来ている。

 理沙ちゃんには、ベールで髪と顔を隠す修道女のような服を用意してもらった。顔が知られてしまえば、浄化が終わった後も自由に外出できなくなるので、顔はあまり見られたくない。
 この世界にも黒髪の人はいるようなので、顔が知られなければ、聖女とはばれないだろう。

 理沙ちゃんは布の敷かれたところに跪き、胸の前で指を組んだ。これが理沙ちゃんの祈りのポーズだ。
 何でもいいらしく、西洋風の世界だからやっぱり祈りはヨーロッパっぽいのがいいかなと思って、と理沙ちゃんは笑っていた。柏手を打つなら巫女さんの格好のほうが様になりそうだけど、それが分かるのは理沙ちゃんと私だけだから、どっちでもよかったような気もする。

 大地に跪いて祈る理沙ちゃんの周りがキラキラと光りだした。そしてその光が、波紋のように周りへと広がっていく。
 その神聖な光景に誰も言葉も発せず動けないでいる。

 しばらくして、遠くから見学した住民たちから歓声が上がった。聖女様!と口々に呼びかけている。
 私の近くで同じように見守っていた王太子とこの街の領主からも感嘆の声が漏れる。

 しばらくして、跪いていた理沙ちゃんが立ち上がろうとして、よろめいた。

「理沙ちゃん!」
「……大丈夫、です」
「誰か、お嬢様を馬車へ!」

 駆け寄って確かめると、意識はあるものの、動くのはしんどいようだ。私の呼びかけに騎士が近寄ってきたので、理沙ちゃんを抱き上げて馬車まで運んでもらった。

 そのまま馬車で街の中に戻り、領主の館で横になっている理沙ちゃんは、口調もしっかりしてきたけど、まだ少し顔色が悪い。

「今までこんなことなかったんですけど、身体から一気に何かが抜けていったと思ったら、力が抜けました」
「ちょっと強く祈りすぎたのかしら」
「強さとか意識したことなかったんですよね」
「うるさくしてごめんなさい。考えるのは後にして、今は休みましょう」

 そうですね、と言って目を閉じた理沙ちゃんは、少しすると寝息を立てだした。呼吸も落ち着いているし、疲れただけなんだと思いたい。
 そのまましばらく見守って、しっかり寝入ったことを確認して、寝室から出ると多くの人が待っていた。

 様子をうかがおうとする王太子も領主も、祈りが素晴らしかったとほめたたえる神官も全て締め出していたのに、部屋に入ってきていたらしい。まずはゆっくり休ませようという意識はないのか。

「聖女様は」
「お休みですので静かにして下さい。部屋から出てください」

 寝室まで入ってきてないとはいえ、なんで女子高生の部屋に許可もなく入ってくるのか、本当に理解できない。
 こちらの貴人では当然だとしても、理沙ちゃんには当然ではないのだ。
 何度も訴えているのに、特にこの王太子が気にせず入ってくる。立場上、気を遣うという経験がなかったのだろうが、いい加減学習してほしい。

「今日の夜、晩餐会を予定していたのですが、明日に延期いたします」
「お嬢様はそういう会には出席されません」

 出発前にお披露目をしてほしいと言われ、この一回だけならと渋々パーティーに出たのだから、もう二度と出るつもりはない。今後も全て断るので、計画しないでほしい。
 そのことは王子に伝えてあるのに、ここの領主の晩餐会の発言に対して何も言わない。協力してくれるならこちらの要望は全て呑むと言ったのは、口だけなのか。

 理沙ちゃんは、次の日も一日ゆっくり休んだら回復したので、王城へと帰ることになった。
 さすが現役女子高生。回復が早い。来るときの馬車で痛くなった私の腰はまだ回復していないのに。
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