文字の大きさ
大
中
小
7 / 89
1章 召喚編
7. 過去の聖女
聖女召喚は、記録によると過去に4回行われている。理沙ちゃんが5代目だ。
宰相から聞いたのは3人だったような、と思いながら資料を読み進めて、理由が分かった。召喚されたものの、聖女の祈りに目覚める前に亡くなった人が1人いたのだ。それが理沙ちゃんの前の聖女、4代目だ。
召喚された時から体調を崩していたと記録に残っているが、それが身体的なものか精神的なものかは分からない。この人については、あまり記録がなかった。おそらく宰相が記録の開示を渋ったのは、この4代目のことを知らせたくなかったからだろうな。
4代目聖女を除いて、聖女はみな普通に長生きしている。聖女の祈りが命を削ったりはしないようだ。
そして、皆この地で生涯を終えている。つまり、自分の世界に帰った人はいない。
国内の浄化は2年、早ければ1年で終了し、そこから近隣の国に派遣されたり、されなかったりだ。
この国の北に瘴気が溜まる森があり、そのせいでこの国の魔物は狂暴化して被害を出す。
この世界で聖女召喚を行うのはこの国だけで、他の国には召喚陣が伝わっていないらしい。
けれど、北の森には、隣の国も接している。あちらはなぜ聖女がいなくて平気なのか、と午前の授業で質問すると、この国から派遣しているから、という答えが返ってきた。でも記録上は派遣されていない聖女もいる。
4代目が聖女の祈りに目覚めていないのにこの国が続いているということは、聖女がいなくても何とかなる方法があるんじゃないだろうか。
過去の聖女たちは例外なく王族と結婚している。突然知らない地に連れてこられて、親切にしてくれた人と恋に落ちる、というのもあるのだろうけど、聖女を王家につなぎとめておきたいという政治的な意図が見え隠れする。
理沙ちゃんはあまり王子様との恋愛に興味はなさそうなので、強制的に王族と結婚させられるなんて言う事態にならないようにしたい。恋愛の相手が王族だった、というのならいいけど。
理沙ちゃんと話して、聖女の仕事をする報酬として、浄化が終わった後の自由を保障してもらうことにした。
その交渉がしたいと連絡し、部屋に訪れたのは、宰相とあの能天気王子だった。
「今後、聖女様に関しましては、王太子であるハイド殿下が取り仕切ることになりました。聖女様と年齢も近いことですし」
チェンジで、と叫ばなかった自分を褒めたい。不安しかない人選だし、理沙ちゃんと結婚したいという願望がダダ洩れだ。
「お嬢様はこの国に協力してもいいと仰っています」
「それは、ありがたいです!聖女様、ありがとうございます」
「その代わりに、お嬢様の要求を全て呑んでもらいます。また、浄化が終わった後の自由を保障してください。何をするか、どこに住むか、誰と結婚するか、すべてお嬢様の意思で決めます」
「それは他の国へ渡られるということですか……?」
「そうなるかもしれません。私たちの国では、そのすべてが保障されていました。この国はその権利を制限されると仰るのですか?」
やっぱりこの国を出られるのは嫌なのか。浄化が終わっても聖女が国にいることは政治的に有利になるのかもしれないが、そんなことこちらには関係がないことだ。
世界中のほとんどの国に行けるパスポートがもらえる国の出身なのだ。浄化に行った国が気に入るかもしれないし、旅行だってしたくなるかもしれないじゃないか。
「それは……、少し考えさせてください」
「王太子殿下がお決めになるのではないのですか?」
王様と相談しないと決められないという返答だった。取り仕切ると言っても、ただの窓口のようだ。
持ち帰り検討すると言うけど、決定権がないなら先に決めておけと言いたい。話だけ聞かせてと言われてプレゼンに来てるんじゃないんだから。
結局翌日、要求は全て呑むと王様から返事があった。
「ちなみに理沙ちゃん、あの王子様、タイプだったりする?」
「えー、あんまりタイプじゃないです」
「ちなみに、どういうのがタイプ?」
理沙ちゃんは流行りのアイドルの名前を挙げてくれたけど、ごめん。そのグループ名は知ってても、おばちゃんには個々の識別ができないんだ。何人グループなのかも怪しいけど、でも王太子とは路線が違うのは分かる。
王太子に惚れさせて理沙ちゃん囲い込み作戦なんだろうけど、可能性は低そうね。
「政子さんは?」
「もう恋愛なんて何十年もしてないわよ」
「しちゃえばいいじゃないですか。新しいことに挑戦ですよ!」
少し立ち直ってきたら、物おじしない感じは今時の子だな、と思うような面も見えてきた。
時々、それ何語?という言葉も出てくるけど、私が分かってないのに気付くと、ちゃんとわかる言葉で言い直してくれる。
ご両親に愛されて、ちゃんと躾けられた子だと分かる。いい子だ。
宰相から聞いたのは3人だったような、と思いながら資料を読み進めて、理由が分かった。召喚されたものの、聖女の祈りに目覚める前に亡くなった人が1人いたのだ。それが理沙ちゃんの前の聖女、4代目だ。
召喚された時から体調を崩していたと記録に残っているが、それが身体的なものか精神的なものかは分からない。この人については、あまり記録がなかった。おそらく宰相が記録の開示を渋ったのは、この4代目のことを知らせたくなかったからだろうな。
4代目聖女を除いて、聖女はみな普通に長生きしている。聖女の祈りが命を削ったりはしないようだ。
そして、皆この地で生涯を終えている。つまり、自分の世界に帰った人はいない。
国内の浄化は2年、早ければ1年で終了し、そこから近隣の国に派遣されたり、されなかったりだ。
この国の北に瘴気が溜まる森があり、そのせいでこの国の魔物は狂暴化して被害を出す。
この世界で聖女召喚を行うのはこの国だけで、他の国には召喚陣が伝わっていないらしい。
けれど、北の森には、隣の国も接している。あちらはなぜ聖女がいなくて平気なのか、と午前の授業で質問すると、この国から派遣しているから、という答えが返ってきた。でも記録上は派遣されていない聖女もいる。
4代目が聖女の祈りに目覚めていないのにこの国が続いているということは、聖女がいなくても何とかなる方法があるんじゃないだろうか。
過去の聖女たちは例外なく王族と結婚している。突然知らない地に連れてこられて、親切にしてくれた人と恋に落ちる、というのもあるのだろうけど、聖女を王家につなぎとめておきたいという政治的な意図が見え隠れする。
理沙ちゃんはあまり王子様との恋愛に興味はなさそうなので、強制的に王族と結婚させられるなんて言う事態にならないようにしたい。恋愛の相手が王族だった、というのならいいけど。
理沙ちゃんと話して、聖女の仕事をする報酬として、浄化が終わった後の自由を保障してもらうことにした。
その交渉がしたいと連絡し、部屋に訪れたのは、宰相とあの能天気王子だった。
「今後、聖女様に関しましては、王太子であるハイド殿下が取り仕切ることになりました。聖女様と年齢も近いことですし」
チェンジで、と叫ばなかった自分を褒めたい。不安しかない人選だし、理沙ちゃんと結婚したいという願望がダダ洩れだ。
「お嬢様はこの国に協力してもいいと仰っています」
「それは、ありがたいです!聖女様、ありがとうございます」
「その代わりに、お嬢様の要求を全て呑んでもらいます。また、浄化が終わった後の自由を保障してください。何をするか、どこに住むか、誰と結婚するか、すべてお嬢様の意思で決めます」
「それは他の国へ渡られるということですか……?」
「そうなるかもしれません。私たちの国では、そのすべてが保障されていました。この国はその権利を制限されると仰るのですか?」
やっぱりこの国を出られるのは嫌なのか。浄化が終わっても聖女が国にいることは政治的に有利になるのかもしれないが、そんなことこちらには関係がないことだ。
世界中のほとんどの国に行けるパスポートがもらえる国の出身なのだ。浄化に行った国が気に入るかもしれないし、旅行だってしたくなるかもしれないじゃないか。
「それは……、少し考えさせてください」
「王太子殿下がお決めになるのではないのですか?」
王様と相談しないと決められないという返答だった。取り仕切ると言っても、ただの窓口のようだ。
持ち帰り検討すると言うけど、決定権がないなら先に決めておけと言いたい。話だけ聞かせてと言われてプレゼンに来てるんじゃないんだから。
結局翌日、要求は全て呑むと王様から返事があった。
「ちなみに理沙ちゃん、あの王子様、タイプだったりする?」
「えー、あんまりタイプじゃないです」
「ちなみに、どういうのがタイプ?」
理沙ちゃんは流行りのアイドルの名前を挙げてくれたけど、ごめん。そのグループ名は知ってても、おばちゃんには個々の識別ができないんだ。何人グループなのかも怪しいけど、でも王太子とは路線が違うのは分かる。
王太子に惚れさせて理沙ちゃん囲い込み作戦なんだろうけど、可能性は低そうね。
「政子さんは?」
「もう恋愛なんて何十年もしてないわよ」
「しちゃえばいいじゃないですか。新しいことに挑戦ですよ!」
少し立ち直ってきたら、物おじしない感じは今時の子だな、と思うような面も見えてきた。
時々、それ何語?という言葉も出てくるけど、私が分かってないのに気付くと、ちゃんとわかる言葉で言い直してくれる。
ご両親に愛されて、ちゃんと躾けられた子だと分かる。いい子だ。
感想 93
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
【老化返却】聖女の若さは俺の寿命だった〜回復魔法の代償を肩代わりしていた俺を追放した報いだ。回復のたびに毛が抜け、骨がスカスカになるが良い〜
寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった「寿命を削って回復してやってたのに……感謝すらしないんだな」
聖女パーティの荷物持ち兼回復術師だった俺は、ある日突然パーティを追放された。
理由は「回復魔法のコストが寿命で、もうすぐ死ぬ無能はいらない」という勝手な思い込み。
だが、彼らは知らなかった。
俺の正体が、この世界の生命を司る**【世界樹の根源】**そのものだったことを。
俺の寿命は無限であり、俺がパーティにいたからこそ、彼らは「若さ」と「健康」を維持できていたのだ。
「俺がいなくなったら、誰が君たちの老化を止めるの?」
俺がいなくなった途端、聖女たちの身体に異変が起きる。
回復魔法を唱えるたびに、自慢の金髪はバサバサと抜け落ち、肌は土色に。
若さに溺れていた彼女たちは、骨がスカスカになり、杖なしでは歩けない老婆のような姿へと変わり果てていく。
一方、解放された俺は隣国の美少女皇女に拾われ、世界樹の力で枯れた大地を森に変える「現人神」として崇められていた。
「今さら戻ってきて? ……悪いけど、そのハゲ散らかした老婆、誰だっけ?」
すべてを失ってから「俺」の価値に気づいても、もう遅い。
これは、恩を仇で返した連中が、自らの美容と健康を代償に破滅していく物語。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
クラス全員で異世界召喚されたが、俺だけ教室に取り残されたのでとりあえず帰宅した
中山(ほ) クラス全員で異世界召喚されたが、先生と俺が残っていた。
魔法もチートスキルもステータス画面すら表示されない、ただの「残され損」
異世界に行けなかった俺を待っていたのは、世知辛い現実だった。
AI使用状況
GoogleのGeminiさん使ってます〜
誤字脱字チェックと調べ物お願いしてます
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。