巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

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2章 城下編

5. 開店準備

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 井戸端会議で何か商売を始めたいんだけどと相談したり、レイ君にはすごく渋られたけど冒険者と一緒に飲みに行ったりして、忙しく過ごしていたある日、お城から呼び出された。

「先日は護衛が職務を怠り、マサコ殿を危険に晒しましたこと、大変申し訳ございませんでした」

 宰相と騎士団長から頭を下げられている。パーム君が何をしていたか正確につかんでいるようだ。あの冒険者が伝えたのかもしれない。
 そして、多分かなりの金額が入った袋を渡された。

「商売を始めようと考えていらっしゃると聞きましたので、その資金に使ってください」
「今も十分に生活にかかる費用を出してもらっていますが?」
「これは、それとは別に今回ご迷惑をおかけしたことへのお詫びです」

 なるほど。パーム君の失態をお金で解決することにしたらしい。

「でしたら、助けてくれた冒険者にここからお礼をしても構いませんか」
「すでにこちらから十分にしております」

 私にも、冒険者にも、これは口止め料なんだ。
 今回のことは理沙に言ってないし、今後も言うつもりはない。終わったことでわざわざ嫌な思いをさせる必要などない。
 お金に色はないのだし、選り好みしていられる状況でもないので、このお金は有意義に使わせてもらおう。


「ねえ、これって家を買えるくらいの金額?」
「家だけでなく、商店が2つほど買える金額です」
「ふーん、これが私の命の値段ってことね」

 レイ君に聞いてみると、かなりの金額らしい。
 講義でお金の価値については学んだとしても、桁は分かっても、それで何が買えるのかまでは分からない。なんとなく日本の10分の1くらいの価値だとしても、家がいくらで買えるのか、その相場が分からない。
 でも商店2つってかなりの金額だ。こんな大金、持ち歩くのが怖い。
 かといって預けられるところもないので、レイ君に持っていてもらうことにした。
 レイ君なら持ち逃げしないだろうと信用しているのもあるけど、それ以上にレイ君がその気になれば預けなくても持ち逃げできるのだから、預けても預けなくても同じだ。
 それにレイ君は多分結構お金持ちの貴族の出身だ。お金に困ってはいないだろう。

 かと言って、大金をずっと持っていたくないので、早々に使うことにしよう。

「ミュラ、いる?」
「あら、マーサ、どうしたの」
「ねえ、本当に宿を始めようと思うんだけど、一緒にやらない?」

 井戸端会議で仲良くなった市場の近所の主婦だ。子どもが独立してから暇を持て余していて、時々食堂などで人手が足りないときに働いている。そして、すごく気が合った。これが何よりも大きい。
 私は時々理沙に会いに王城に行くし、共同経営者になってくれる人が欲しい。

「私は事情があって、常に宿にはいられないの。だから私がいないときも責任者としてまとめてくれる人が欲しくて」
「事情があるのは、その護衛を見てれば分かるわよ。でも私にばっかり有利な条件よ?」

 開店資金は全額私持ちで、売り上げは折半という破格の条件に、ミュラが警戒しているが、もしかしたら面倒ごとに巻き込むかもしれないのだ。その迷惑料も入っている。

「いいわ。事情とやらは相当に面倒そうだけど、マーサのことは信頼してる。やりましょう」
「ありがとう!」

 早々に何から始めるべきか、ミュラと話し合いだ。


 宿の開始に向けて目が回るような日々を過ごしていたある日、理沙が呼んでいるという連絡があった。
 嫌な予感がして、王城へ急ぐ。
 今回の浄化の旅から帰ってきた後、宿の準備にかまけて王城に顔を出せていなかった。今回の旅は7日と短かく、2日休んだら次の旅に出るから、次の旅から帰ってきたときでも問題ないだろうと後回しにしてしまった。理沙は大丈夫だろうか。

 心配しながら入った理沙の部屋で、理沙は生気のない表情をしていた。

「お母さん、私もうどうしていいのか分からなくて……」

 私を見るなり泣き出した理沙を抱きしめて背中をさすると、大声をあげて泣き出した。
 大丈夫だ。泣けるならまだ大丈夫だ。よかった、間に合った。

 理沙は、浄化に行った先で住民になんでもっと早く来なかったんだと詰られたらしい。もう少し早く来れば、子どもが死ぬことはなかったのに、と。
 そんなの自分のせいじゃないという気持ちと、自分がもっと頑張っていればという気持ちがせめぎあい、心のバランスを崩してしまった。次の浄化に行かなければと思うものの、また詰られたらと思うと怖くて部屋から出られないと泣いた。

「勝手に呼び出したこの国のために、貴女が辛い思いをする必要なんてないのよ」
「お母さん……」

 そう言って理沙はまた泣き出した。ひとりで溜め込んで、誰にも弱音を吐けずに辛かったのだろう。
 普通の女の子なのだ。きっと学校では友達とファッションとか、好きなアイドルとか、気になる男の子の話をしていた普通の女子高生だったのだ。
 そんな子がいきなり聖女様と言われて、この国、この世界の未来を背負わされて辛くないはずがない。

「理沙、私ね、下町で宿を始めるの。もう建物も決めて今内装を整えてるところなの。ごめんね、その準備で来るのが遅くなっちゃった。理沙の部屋も一部屋用意しているの。いつでも来ていいからね」
「行きたいけど、今は外に出たくない」

 外に出るのはまだちょっと怖いので、時々訪ねてきてくれる?と申し訳なさそうに言う理沙に、今日は一度宿に帰って、またすぐに来ると約束して部屋を出た。そばにいてやりたいけど、ミュラと話すためにも一度帰らなければならない。

「ミュラ、ごめん。しばらく急用で街を離れることになったの」
「え?準備は?」
「全部任せる。もしかしたら開店まで帰ってこれないかもしれない」

 王城にいるとは言えないので、街を離れると伝えた。
 事情はよく分からないけど宿の準備は任せて、と力強く答えてくれたので、いいようにやってくれるだろう。
 どういう宿にするかという方針は、何度も話し合って、二人で確認している。
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