15 / 89
2章 城下編
5. 開店準備
しおりを挟む
井戸端会議で何か商売を始めたいんだけどと相談したり、レイ君にはすごく渋られたけど冒険者と一緒に飲みに行ったりして、忙しく過ごしていたある日、お城から呼び出された。
「先日は護衛が職務を怠り、マサコ殿を危険に晒しましたこと、大変申し訳ございませんでした」
宰相と騎士団長から頭を下げられている。パーム君が何をしていたか正確につかんでいるようだ。あの冒険者が伝えたのかもしれない。
そして、多分かなりの金額が入った袋を渡された。
「商売を始めようと考えていらっしゃると聞きましたので、その資金に使ってください」
「今も十分に生活にかかる費用を出してもらっていますが?」
「これは、それとは別に今回ご迷惑をおかけしたことへのお詫びです」
なるほど。パーム君の失態をお金で解決することにしたらしい。
「でしたら、助けてくれた冒険者にここからお礼をしても構いませんか」
「すでにこちらから十分にしております」
私にも、冒険者にも、これは口止め料なんだ。
今回のことは理沙に言ってないし、今後も言うつもりはない。終わったことでわざわざ嫌な思いをさせる必要などない。
お金に色はないのだし、選り好みしていられる状況でもないので、このお金は有意義に使わせてもらおう。
「ねえ、これって家を買えるくらいの金額?」
「家だけでなく、商店が2つほど買える金額です」
「ふーん、これが私の命の値段ってことね」
レイ君に聞いてみると、かなりの金額らしい。
講義でお金の価値については学んだとしても、桁は分かっても、それで何が買えるのかまでは分からない。なんとなく日本の10分の1くらいの価値だとしても、家がいくらで買えるのか、その相場が分からない。
でも商店2つってかなりの金額だ。こんな大金、持ち歩くのが怖い。
かといって預けられるところもないので、レイ君に持っていてもらうことにした。
レイ君なら持ち逃げしないだろうと信用しているのもあるけど、それ以上にレイ君がその気になれば預けなくても持ち逃げできるのだから、預けても預けなくても同じだ。
それにレイ君は多分結構お金持ちの貴族の出身だ。お金に困ってはいないだろう。
かと言って、大金をずっと持っていたくないので、早々に使うことにしよう。
「ミュラ、いる?」
「あら、マーサ、どうしたの」
「ねえ、本当に宿を始めようと思うんだけど、一緒にやらない?」
井戸端会議で仲良くなった市場の近所の主婦だ。子どもが独立してから暇を持て余していて、時々食堂などで人手が足りないときに働いている。そして、すごく気が合った。これが何よりも大きい。
私は時々理沙に会いに王城に行くし、共同経営者になってくれる人が欲しい。
「私は事情があって、常に宿にはいられないの。だから私がいないときも責任者としてまとめてくれる人が欲しくて」
「事情があるのは、その護衛を見てれば分かるわよ。でも私にばっかり有利な条件よ?」
開店資金は全額私持ちで、売り上げは折半という破格の条件に、ミュラが警戒しているが、もしかしたら面倒ごとに巻き込むかもしれないのだ。その迷惑料も入っている。
「いいわ。事情とやらは相当に面倒そうだけど、マーサのことは信頼してる。やりましょう」
「ありがとう!」
早々に何から始めるべきか、ミュラと話し合いだ。
宿の開始に向けて目が回るような日々を過ごしていたある日、理沙が呼んでいるという連絡があった。
嫌な予感がして、王城へ急ぐ。
今回の浄化の旅から帰ってきた後、宿の準備にかまけて王城に顔を出せていなかった。今回の旅は7日と短かく、2日休んだら次の旅に出るから、次の旅から帰ってきたときでも問題ないだろうと後回しにしてしまった。理沙は大丈夫だろうか。
心配しながら入った理沙の部屋で、理沙は生気のない表情をしていた。
「お母さん、私もうどうしていいのか分からなくて……」
私を見るなり泣き出した理沙を抱きしめて背中をさすると、大声をあげて泣き出した。
大丈夫だ。泣けるならまだ大丈夫だ。よかった、間に合った。
理沙は、浄化に行った先で住民になんでもっと早く来なかったんだと詰られたらしい。もう少し早く来れば、子どもが死ぬことはなかったのに、と。
そんなの自分のせいじゃないという気持ちと、自分がもっと頑張っていればという気持ちがせめぎあい、心のバランスを崩してしまった。次の浄化に行かなければと思うものの、また詰られたらと思うと怖くて部屋から出られないと泣いた。
「勝手に呼び出したこの国のために、貴女が辛い思いをする必要なんてないのよ」
「お母さん……」
そう言って理沙はまた泣き出した。ひとりで溜め込んで、誰にも弱音を吐けずに辛かったのだろう。
普通の女の子なのだ。きっと学校では友達とファッションとか、好きなアイドルとか、気になる男の子の話をしていた普通の女子高生だったのだ。
そんな子がいきなり聖女様と言われて、この国、この世界の未来を背負わされて辛くないはずがない。
「理沙、私ね、下町で宿を始めるの。もう建物も決めて今内装を整えてるところなの。ごめんね、その準備で来るのが遅くなっちゃった。理沙の部屋も一部屋用意しているの。いつでも来ていいからね」
「行きたいけど、今は外に出たくない」
外に出るのはまだちょっと怖いので、時々訪ねてきてくれる?と申し訳なさそうに言う理沙に、今日は一度宿に帰って、またすぐに来ると約束して部屋を出た。そばにいてやりたいけど、ミュラと話すためにも一度帰らなければならない。
「ミュラ、ごめん。しばらく急用で街を離れることになったの」
「え?準備は?」
「全部任せる。もしかしたら開店まで帰ってこれないかもしれない」
王城にいるとは言えないので、街を離れると伝えた。
事情はよく分からないけど宿の準備は任せて、と力強く答えてくれたので、いいようにやってくれるだろう。
どういう宿にするかという方針は、何度も話し合って、二人で確認している。
「先日は護衛が職務を怠り、マサコ殿を危険に晒しましたこと、大変申し訳ございませんでした」
宰相と騎士団長から頭を下げられている。パーム君が何をしていたか正確につかんでいるようだ。あの冒険者が伝えたのかもしれない。
そして、多分かなりの金額が入った袋を渡された。
「商売を始めようと考えていらっしゃると聞きましたので、その資金に使ってください」
「今も十分に生活にかかる費用を出してもらっていますが?」
「これは、それとは別に今回ご迷惑をおかけしたことへのお詫びです」
なるほど。パーム君の失態をお金で解決することにしたらしい。
「でしたら、助けてくれた冒険者にここからお礼をしても構いませんか」
「すでにこちらから十分にしております」
私にも、冒険者にも、これは口止め料なんだ。
今回のことは理沙に言ってないし、今後も言うつもりはない。終わったことでわざわざ嫌な思いをさせる必要などない。
お金に色はないのだし、選り好みしていられる状況でもないので、このお金は有意義に使わせてもらおう。
「ねえ、これって家を買えるくらいの金額?」
「家だけでなく、商店が2つほど買える金額です」
「ふーん、これが私の命の値段ってことね」
レイ君に聞いてみると、かなりの金額らしい。
講義でお金の価値については学んだとしても、桁は分かっても、それで何が買えるのかまでは分からない。なんとなく日本の10分の1くらいの価値だとしても、家がいくらで買えるのか、その相場が分からない。
でも商店2つってかなりの金額だ。こんな大金、持ち歩くのが怖い。
かといって預けられるところもないので、レイ君に持っていてもらうことにした。
レイ君なら持ち逃げしないだろうと信用しているのもあるけど、それ以上にレイ君がその気になれば預けなくても持ち逃げできるのだから、預けても預けなくても同じだ。
それにレイ君は多分結構お金持ちの貴族の出身だ。お金に困ってはいないだろう。
かと言って、大金をずっと持っていたくないので、早々に使うことにしよう。
「ミュラ、いる?」
「あら、マーサ、どうしたの」
「ねえ、本当に宿を始めようと思うんだけど、一緒にやらない?」
井戸端会議で仲良くなった市場の近所の主婦だ。子どもが独立してから暇を持て余していて、時々食堂などで人手が足りないときに働いている。そして、すごく気が合った。これが何よりも大きい。
私は時々理沙に会いに王城に行くし、共同経営者になってくれる人が欲しい。
「私は事情があって、常に宿にはいられないの。だから私がいないときも責任者としてまとめてくれる人が欲しくて」
「事情があるのは、その護衛を見てれば分かるわよ。でも私にばっかり有利な条件よ?」
開店資金は全額私持ちで、売り上げは折半という破格の条件に、ミュラが警戒しているが、もしかしたら面倒ごとに巻き込むかもしれないのだ。その迷惑料も入っている。
「いいわ。事情とやらは相当に面倒そうだけど、マーサのことは信頼してる。やりましょう」
「ありがとう!」
早々に何から始めるべきか、ミュラと話し合いだ。
宿の開始に向けて目が回るような日々を過ごしていたある日、理沙が呼んでいるという連絡があった。
嫌な予感がして、王城へ急ぐ。
今回の浄化の旅から帰ってきた後、宿の準備にかまけて王城に顔を出せていなかった。今回の旅は7日と短かく、2日休んだら次の旅に出るから、次の旅から帰ってきたときでも問題ないだろうと後回しにしてしまった。理沙は大丈夫だろうか。
心配しながら入った理沙の部屋で、理沙は生気のない表情をしていた。
「お母さん、私もうどうしていいのか分からなくて……」
私を見るなり泣き出した理沙を抱きしめて背中をさすると、大声をあげて泣き出した。
大丈夫だ。泣けるならまだ大丈夫だ。よかった、間に合った。
理沙は、浄化に行った先で住民になんでもっと早く来なかったんだと詰られたらしい。もう少し早く来れば、子どもが死ぬことはなかったのに、と。
そんなの自分のせいじゃないという気持ちと、自分がもっと頑張っていればという気持ちがせめぎあい、心のバランスを崩してしまった。次の浄化に行かなければと思うものの、また詰られたらと思うと怖くて部屋から出られないと泣いた。
「勝手に呼び出したこの国のために、貴女が辛い思いをする必要なんてないのよ」
「お母さん……」
そう言って理沙はまた泣き出した。ひとりで溜め込んで、誰にも弱音を吐けずに辛かったのだろう。
普通の女の子なのだ。きっと学校では友達とファッションとか、好きなアイドルとか、気になる男の子の話をしていた普通の女子高生だったのだ。
そんな子がいきなり聖女様と言われて、この国、この世界の未来を背負わされて辛くないはずがない。
「理沙、私ね、下町で宿を始めるの。もう建物も決めて今内装を整えてるところなの。ごめんね、その準備で来るのが遅くなっちゃった。理沙の部屋も一部屋用意しているの。いつでも来ていいからね」
「行きたいけど、今は外に出たくない」
外に出るのはまだちょっと怖いので、時々訪ねてきてくれる?と申し訳なさそうに言う理沙に、今日は一度宿に帰って、またすぐに来ると約束して部屋を出た。そばにいてやりたいけど、ミュラと話すためにも一度帰らなければならない。
「ミュラ、ごめん。しばらく急用で街を離れることになったの」
「え?準備は?」
「全部任せる。もしかしたら開店まで帰ってこれないかもしれない」
王城にいるとは言えないので、街を離れると伝えた。
事情はよく分からないけど宿の準備は任せて、と力強く答えてくれたので、いいようにやってくれるだろう。
どういう宿にするかという方針は、何度も話し合って、二人で確認している。
111
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる