巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

文字の大きさ
16 / 89
2章 城下編

6. 不調

しおりを挟む
 王城に取って返し、理沙の部屋に行く前に、偉い人とちょっと話したいわねと誰にともなく呟くと、そのまま王子の部屋に案内された。

「マサコ殿、聖女様を城下へ誘うなど」

 私たちの会話を誰かがすでに報告したらしい。こういうところがプライバシーがなくて本当に嫌だ。
 だけどどれだけ訴えても、聖女なら当然だと変わらなかった。今後も変える気がないのだろう。

「殿下、今すぐ陛下に会わせてください」
「何を」
「決定権のある方とお話がしたいので。貴方は陛下と相談するとしか仰らないでしょう」

 無礼だぞ、とお付きが怒っているが、無礼はどっちだ。こっちは聖女様だぞ。責任者を出せと言っているのだ。
 このままだと理沙は潰れてしまう。それを分かっているのか?

「すぐには無理だ」
「待ちます」
「陛下はお忙しく、」
「殿下、事態の深刻さをお分かりですか?分からないなら黙って陛下の面会を取り付けなさい!」

 このぼんくら王子には何もできないし、むしろ事態を悪化させるだけだから、責任者に会わせてよ。

 この世界、メンタルサポートは全くないらしい。
 理沙は体調に異常はないから問題ないと思われているみたいだけど、問題なのは身体じゃない。心だ。
 王城以外に理沙の居場所を作ろうと急ぐあまり、理沙から離れたのが裏目に出てしまった。何よりも理沙を優先しなければならなかったのに。

 すったもんだの末、何とか王様の執務室に案内された。

「それで、マサコ殿、何事か。聖女様を城下になど無理です。聖女様にはご静養の後、また浄化に出ていただかないと困ります」
「だったらまずは、貴方の娘をひとりで、浄化の終わった地の施しに行かせなさいよ」
「何を。そんなことできるわけないだろう」

 宰相には理沙と同年代の娘がいると聞いた。自分の娘にはさせられないこと、理沙にはやれというのか。

「聖女様はそんなことをさせられているのよ。分かってんの?こんな文明も発達してない、人権意識もメンタルヘルスの知識もない国で、全く知らない他人のために理沙は働かされてるのよ!本当ならまだ勉強しているはずの子が、親から引き離されて!」
「……それが聖女様の役目だ」
「理沙が一度でも聖女であることを望んだ?あんたたちが押し付けたんでしょう!知り合いもいない、常識も知らないところで、断れるわけないじゃない!なのに来るのが遅いって文句言われて、そんなの理沙の責任じゃないでしょう!」

 私のキレっぷりに、王様と宰相が引いているが、確かに今まで温厚な猫を被ったままで、口調を荒げたことはなかったね。
 でも、冒険者やおばちゃんネットワークのおかげで、王城の援助を打ち切られても何とか暮らしていけるくらいにはこの世界のことも分かったし、そろそろキレてもいいと思ったのだ。

 無理やり連れてきて申し訳ないと口では言いながら、聖女なのだからこの世界のために尽くすのが当然だと思っている、それが気に入らないとさんざん訴えているのに変りもしない。
 どうして呼び出された側が、呼び出した側の常識に合わせなければいけないんだ。バカにするのもいい加減にしろ。

 別に喧嘩を売りたかったわけじゃない。
 もう帰れないなら、ここで上手くやっていくしかない。
 私がそう気持ちを切り替えられたのは、夫とは早くに死別し、一人息子も私がいなくてもやっていける年齢だったからだ。もし息子がまだ独立していなかったら、何としてでも帰ろうとしたはずだ。
 理沙はまだ高校生、親の庇護下にいる年齢だったのだ。こんなところにいきなり放り出されて、気持ちを切り替えてここで生きていこうなんて、1年やそこらで割り切れるはずがない。だから、理沙が辛くならないように配慮しろと言っているのに。
 良い部屋に住まわせて豪華な食事を出しておけば、何の問題もなく働くとでも思っているのか。
 もうこんな奴らに敬語を使う理由もないな。

「私の宿に理沙が泊まりに来れるようにして」
「それはできない。安全が保障できない」
「だからできるようにしてって言ってるの。やる前からできないなんて怠慢よ」

 警備の問題があるのは分かっている。だから隣が空いている建物にしたのだ。そこを国が買い取って警備の拠点にすればいいだろう。こちらだってそれくらいは考えている。
 実現不可能なことで駄々をこねているわけじゃない。ちゃんと落としどころを用意してるのだから、そっちも妥協してほしい。

「聖女様は王城で回復に努めていただく」
「彼女の不調の理由に気付けもしない貴方たちに何ができるの?」
「……」
「私を理沙から遠ざけてごらんなさい、次の浄化になんて一生行けないわよ」

 こんな予想、当たってほしくない。けれど理沙のメンタルはそれほどに危うい。
 今回かけられた言葉が原因じゃない。引き金ではあるだろうけど。今回のことで、無理やりこの世界に連れてこられてからのあれこれが溢れ出したのだ。

「今私が怒っている理由が分からないでしょう。私もこの状況のまずさに貴方たちが気付かない理由が分からない。それくらい育った環境が違うの。1か月後に理沙をうちに泊めさせるから」

 それまでに警備を整えておいて、と言い捨てて部屋を出た。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...