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2章 城下編
6. 不調
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王城に取って返し、理沙の部屋に行く前に、偉い人とちょっと話したいわねと誰にともなく呟くと、そのまま王子の部屋に案内された。
「マサコ殿、聖女様を城下へ誘うなど」
私たちの会話を誰かがすでに報告したらしい。こういうところがプライバシーがなくて本当に嫌だ。
だけどどれだけ訴えても、聖女なら当然だと変わらなかった。今後も変える気がないのだろう。
「殿下、今すぐ陛下に会わせてください」
「何を」
「決定権のある方とお話がしたいので。貴方は陛下と相談するとしか仰らないでしょう」
無礼だぞ、とお付きが怒っているが、無礼はどっちだ。こっちは聖女様だぞ。責任者を出せと言っているのだ。
このままだと理沙は潰れてしまう。それを分かっているのか?
「すぐには無理だ」
「待ちます」
「陛下はお忙しく、」
「殿下、事態の深刻さをお分かりですか?分からないなら黙って陛下の面会を取り付けなさい!」
このぼんくら王子には何もできないし、むしろ事態を悪化させるだけだから、責任者に会わせてよ。
この世界、メンタルサポートは全くないらしい。
理沙は体調に異常はないから問題ないと思われているみたいだけど、問題なのは身体じゃない。心だ。
王城以外に理沙の居場所を作ろうと急ぐあまり、理沙から離れたのが裏目に出てしまった。何よりも理沙を優先しなければならなかったのに。
すったもんだの末、何とか王様の執務室に案内された。
「それで、マサコ殿、何事か。聖女様を城下になど無理です。聖女様にはご静養の後、また浄化に出ていただかないと困ります」
「だったらまずは、貴方の娘をひとりで、浄化の終わった地の施しに行かせなさいよ」
「何を。そんなことできるわけないだろう」
宰相には理沙と同年代の娘がいると聞いた。自分の娘にはさせられないこと、理沙にはやれというのか。
「聖女様はそんなことをさせられているのよ。分かってんの?こんな文明も発達してない、人権意識もメンタルヘルスの知識もない国で、全く知らない他人のために理沙は働かされてるのよ!本当ならまだ勉強しているはずの子が、親から引き離されて!」
「……それが聖女様の役目だ」
「理沙が一度でも聖女であることを望んだ?あんたたちが押し付けたんでしょう!知り合いもいない、常識も知らないところで、断れるわけないじゃない!なのに来るのが遅いって文句言われて、そんなの理沙の責任じゃないでしょう!」
私のキレっぷりに、王様と宰相が引いているが、確かに今まで温厚な猫を被ったままで、口調を荒げたことはなかったね。
でも、冒険者やおばちゃんネットワークのおかげで、王城の援助を打ち切られても何とか暮らしていけるくらいにはこの世界のことも分かったし、そろそろキレてもいいと思ったのだ。
無理やり連れてきて申し訳ないと口では言いながら、聖女なのだからこの世界のために尽くすのが当然だと思っている、それが気に入らないとさんざん訴えているのに変りもしない。
どうして呼び出された側が、呼び出した側の常識に合わせなければいけないんだ。バカにするのもいい加減にしろ。
別に喧嘩を売りたかったわけじゃない。
もう帰れないなら、ここで上手くやっていくしかない。
私がそう気持ちを切り替えられたのは、夫とは早くに死別し、一人息子も私がいなくてもやっていける年齢だったからだ。もし息子がまだ独立していなかったら、何としてでも帰ろうとしたはずだ。
理沙はまだ高校生、親の庇護下にいる年齢だったのだ。こんなところにいきなり放り出されて、気持ちを切り替えてここで生きていこうなんて、1年やそこらで割り切れるはずがない。だから、理沙が辛くならないように配慮しろと言っているのに。
良い部屋に住まわせて豪華な食事を出しておけば、何の問題もなく働くとでも思っているのか。
もうこんな奴らに敬語を使う理由もないな。
「私の宿に理沙が泊まりに来れるようにして」
「それはできない。安全が保障できない」
「だからできるようにしてって言ってるの。やる前からできないなんて怠慢よ」
警備の問題があるのは分かっている。だから隣が空いている建物にしたのだ。そこを国が買い取って警備の拠点にすればいいだろう。こちらだってそれくらいは考えている。
実現不可能なことで駄々をこねているわけじゃない。ちゃんと落としどころを用意してるのだから、そっちも妥協してほしい。
「聖女様は王城で回復に努めていただく」
「彼女の不調の理由に気付けもしない貴方たちに何ができるの?」
「……」
「私を理沙から遠ざけてごらんなさい、次の浄化になんて一生行けないわよ」
こんな予想、当たってほしくない。けれど理沙のメンタルはそれほどに危うい。
今回かけられた言葉が原因じゃない。引き金ではあるだろうけど。今回のことで、無理やりこの世界に連れてこられてからのあれこれが溢れ出したのだ。
「今私が怒っている理由が分からないでしょう。私もこの状況のまずさに貴方たちが気付かない理由が分からない。それくらい育った環境が違うの。1か月後に理沙をうちに泊めさせるから」
それまでに警備を整えておいて、と言い捨てて部屋を出た。
「マサコ殿、聖女様を城下へ誘うなど」
私たちの会話を誰かがすでに報告したらしい。こういうところがプライバシーがなくて本当に嫌だ。
だけどどれだけ訴えても、聖女なら当然だと変わらなかった。今後も変える気がないのだろう。
「殿下、今すぐ陛下に会わせてください」
「何を」
「決定権のある方とお話がしたいので。貴方は陛下と相談するとしか仰らないでしょう」
無礼だぞ、とお付きが怒っているが、無礼はどっちだ。こっちは聖女様だぞ。責任者を出せと言っているのだ。
このままだと理沙は潰れてしまう。それを分かっているのか?
「すぐには無理だ」
「待ちます」
「陛下はお忙しく、」
「殿下、事態の深刻さをお分かりですか?分からないなら黙って陛下の面会を取り付けなさい!」
このぼんくら王子には何もできないし、むしろ事態を悪化させるだけだから、責任者に会わせてよ。
この世界、メンタルサポートは全くないらしい。
理沙は体調に異常はないから問題ないと思われているみたいだけど、問題なのは身体じゃない。心だ。
王城以外に理沙の居場所を作ろうと急ぐあまり、理沙から離れたのが裏目に出てしまった。何よりも理沙を優先しなければならなかったのに。
すったもんだの末、何とか王様の執務室に案内された。
「それで、マサコ殿、何事か。聖女様を城下になど無理です。聖女様にはご静養の後、また浄化に出ていただかないと困ります」
「だったらまずは、貴方の娘をひとりで、浄化の終わった地の施しに行かせなさいよ」
「何を。そんなことできるわけないだろう」
宰相には理沙と同年代の娘がいると聞いた。自分の娘にはさせられないこと、理沙にはやれというのか。
「聖女様はそんなことをさせられているのよ。分かってんの?こんな文明も発達してない、人権意識もメンタルヘルスの知識もない国で、全く知らない他人のために理沙は働かされてるのよ!本当ならまだ勉強しているはずの子が、親から引き離されて!」
「……それが聖女様の役目だ」
「理沙が一度でも聖女であることを望んだ?あんたたちが押し付けたんでしょう!知り合いもいない、常識も知らないところで、断れるわけないじゃない!なのに来るのが遅いって文句言われて、そんなの理沙の責任じゃないでしょう!」
私のキレっぷりに、王様と宰相が引いているが、確かに今まで温厚な猫を被ったままで、口調を荒げたことはなかったね。
でも、冒険者やおばちゃんネットワークのおかげで、王城の援助を打ち切られても何とか暮らしていけるくらいにはこの世界のことも分かったし、そろそろキレてもいいと思ったのだ。
無理やり連れてきて申し訳ないと口では言いながら、聖女なのだからこの世界のために尽くすのが当然だと思っている、それが気に入らないとさんざん訴えているのに変りもしない。
どうして呼び出された側が、呼び出した側の常識に合わせなければいけないんだ。バカにするのもいい加減にしろ。
別に喧嘩を売りたかったわけじゃない。
もう帰れないなら、ここで上手くやっていくしかない。
私がそう気持ちを切り替えられたのは、夫とは早くに死別し、一人息子も私がいなくてもやっていける年齢だったからだ。もし息子がまだ独立していなかったら、何としてでも帰ろうとしたはずだ。
理沙はまだ高校生、親の庇護下にいる年齢だったのだ。こんなところにいきなり放り出されて、気持ちを切り替えてここで生きていこうなんて、1年やそこらで割り切れるはずがない。だから、理沙が辛くならないように配慮しろと言っているのに。
良い部屋に住まわせて豪華な食事を出しておけば、何の問題もなく働くとでも思っているのか。
もうこんな奴らに敬語を使う理由もないな。
「私の宿に理沙が泊まりに来れるようにして」
「それはできない。安全が保障できない」
「だからできるようにしてって言ってるの。やる前からできないなんて怠慢よ」
警備の問題があるのは分かっている。だから隣が空いている建物にしたのだ。そこを国が買い取って警備の拠点にすればいいだろう。こちらだってそれくらいは考えている。
実現不可能なことで駄々をこねているわけじゃない。ちゃんと落としどころを用意してるのだから、そっちも妥協してほしい。
「聖女様は王城で回復に努めていただく」
「彼女の不調の理由に気付けもしない貴方たちに何ができるの?」
「……」
「私を理沙から遠ざけてごらんなさい、次の浄化になんて一生行けないわよ」
こんな予想、当たってほしくない。けれど理沙のメンタルはそれほどに危うい。
今回かけられた言葉が原因じゃない。引き金ではあるだろうけど。今回のことで、無理やりこの世界に連れてこられてからのあれこれが溢れ出したのだ。
「今私が怒っている理由が分からないでしょう。私もこの状況のまずさに貴方たちが気付かない理由が分からない。それくらい育った環境が違うの。1か月後に理沙をうちに泊めさせるから」
それまでに警備を整えておいて、と言い捨てて部屋を出た。
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