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2章 城下編
8. 居場所
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「ここが私とミュラの宿よ。ミュラ、娘のリーザです」
「リーザです。母がいつもお世話になっております」
「まあまあご丁寧に。ちょっとマーサ、あんたに似ないで可愛い子じゃないの」
「自慢の娘ですので」
嬉しくて鼻が膨らんでしまう。
理沙はリーザと名乗ることにした。私のマーサに合わせてリーザだ。可愛い。
理沙の護衛のエルちゃんとリンちゃんも紹介し、さっそく母屋の理沙の部屋へと案内する。
母屋は、宿から一度外に出て隣の建物になるが、宿との間には屋根がついているので、雨が降っても濡れないで移動できる。
「ここを理沙の部屋にしようと思うんだけどどうかな?カーテンとかは明日買いに行こう」
「わあ、お母さんありがとう!」
「エルちゃんとリンちゃんはこっちね。部屋がないから一緒になって申し訳ないんだけど」
「いえ、十分です」
レイ君はさすがに女性だらけのところに入れるわけにもいかない。
私となら何も問題にならないだろうが、今回は理沙と若い女性騎士もいる。宿に泊まってもらうことにした。
翌日、理沙と街に買い物に来た。といっても許可が出たのは、開店前のいくつかのお店だけだ。
けれどこの世界に来て初めての買い物に、理沙がスキップでもしそうなくらいご機嫌だ。今日は髪をポニーテールにしていて、揺れる髪が高校生の日常と言う感じがして、見てるこちらも嬉しくなる。
古着のスカートを選び、コップなど食器を買い、最後はカーテンだ。
王城と違って庶民の家にはガラス窓ではなく木の窓なのでカーテンを使わないことが多いらしいが、やっぱりカーテンはほしい。
ベッドカバーと合わせて布をかける予定で、理沙がいくつか布を広げて迷っている。
「どっちがいいと思う?こっちだと派手かなあ」
「第一印象でピンと来たほうにしたら?」
「そうね、そうする」
理沙が選んだのは、薄いピンクと黄色の花柄だった。理沙の日本の持ち物から、もっとスタイリッシュなのを選ぶかと思ったのに、可愛らしいものにしたようだ。
お店を出ながら聞いてみると、思わぬ理由だった。
「だって、振袖のドレスの柄に似てたから」
「理沙……」
「お母さんが初めて私のために選んでくれたものだもん」
思わず理沙を抱きしめようとしたら、早く馬車に乗ってください、と無情にもレイ君に急かされてしまった。仕方がないので、馬車に乗ってから理沙を心行くまで抱きしめた。
夜ご飯はミュラの家族と一緒にとることになっていて、料理はミュラと私で作る。
庶民の食事の味付けはシンプルに塩が多いが、今日は王城で砂糖をもらってきたのだ。
「ミュラ、今日のために砂糖をもらってきたわ」
「マーサ!貴女の旦那様はずいぶん太っ腹なのね!」
理沙が旦那様?と首をかしげているので、小声で勘違いだから聞き流して、と言うと納得してくれた。
多分ミュラの中では、私はどこかの貴族の愛人で、理沙はその娘ということになっているのだ。
刃物を使っているので理沙の近くにいるレイ君が苦笑している。
「紹介するわね。夫のロドンと、こどもたちがソーンとサンクァ。こっちが一緒に宿を始めるマーサと、娘のリーザちゃん」
「初めまして。マーサです。よろしくお願いします。娘のリーザはいつもは他の街にいるの」
宿では食事は提供しないので、持ち込んだ食事をしたりお酒を飲んだりできる場所として、食堂は談話室として開放する。
その談話室で、マーサの家族と開店前祝いのパーティーだ。
マーサの子どもは兄と妹で、兄のソーンは父親の仕事である庭師の仕事を一緒にしている。妹のサンクァは理沙より2つ年上だがすでに結婚している。この世界は結婚が早い。
最初は探り探りの会話も慣れてくれば盛り上がる。今一番の話題はやはりなんといっても聖女だ。理沙の前であまりしたい話題ではないが、止めるのも不自然だ。
「聖女様が浄化してくれて街道が安全になったから、宿もこれから人が増えるかもな」
「ありがたいわねえ」
「隣のトルゴード王国からの品が、前よりもたくさん届くようになったとお屋敷の人が言っていたな」
「ここ王都は聖女様を見に来る人が増えるんじゃないか?」
「王都にいたって会えないじゃない」
「会えるかもしれないっていうだけで、来る価値はあるだろ」
みんな聖女には好意的なようでよかった。
街にいると魔物が減ったかどうかは実感がなくても、街道の行き来が増えることで、街の中にもいい影響が出ている。それが好意的に受け入れられているようだ。
話に参加しない理沙に、サンクァが気を遣って話しかけてくれた。
「リーザはいつもは何をしているの?」
「学校で勉強です」
「お貴族様は大変ねえ」
聞かれた時のために、学校に通って勉強しているという設定にしている。この国の学校は17歳で卒業なので、リーザは17歳という設定だ。
ミュラの中でリーザのお貴族様説は確定のようだ。まあそのほうがなんで護衛がいるのか説明しなくてもいいので流しているが。
それからサンクァと理沙で、今街中では女性に何が流行っているかというような話をしている。ファッションと甘いものの話で盛り上がるのは、どこの世界でも同じらしい。
「お母さん、ありがとね」
「どうしたの?」
「今日すごく楽しかった。この世界に来て初めて、聖女じゃなくて普通の人として過ごせたから」
よかった。その言葉に、お城を出てからの努力が報われた気がした。
いろいろあったけど、こうして理沙の居場所を作ることができた。そう考えるとパーム君が一番の功労者だな。あのやらかしのおかげで、この宿を買うことができたのだから。
「リーザです。母がいつもお世話になっております」
「まあまあご丁寧に。ちょっとマーサ、あんたに似ないで可愛い子じゃないの」
「自慢の娘ですので」
嬉しくて鼻が膨らんでしまう。
理沙はリーザと名乗ることにした。私のマーサに合わせてリーザだ。可愛い。
理沙の護衛のエルちゃんとリンちゃんも紹介し、さっそく母屋の理沙の部屋へと案内する。
母屋は、宿から一度外に出て隣の建物になるが、宿との間には屋根がついているので、雨が降っても濡れないで移動できる。
「ここを理沙の部屋にしようと思うんだけどどうかな?カーテンとかは明日買いに行こう」
「わあ、お母さんありがとう!」
「エルちゃんとリンちゃんはこっちね。部屋がないから一緒になって申し訳ないんだけど」
「いえ、十分です」
レイ君はさすがに女性だらけのところに入れるわけにもいかない。
私となら何も問題にならないだろうが、今回は理沙と若い女性騎士もいる。宿に泊まってもらうことにした。
翌日、理沙と街に買い物に来た。といっても許可が出たのは、開店前のいくつかのお店だけだ。
けれどこの世界に来て初めての買い物に、理沙がスキップでもしそうなくらいご機嫌だ。今日は髪をポニーテールにしていて、揺れる髪が高校生の日常と言う感じがして、見てるこちらも嬉しくなる。
古着のスカートを選び、コップなど食器を買い、最後はカーテンだ。
王城と違って庶民の家にはガラス窓ではなく木の窓なのでカーテンを使わないことが多いらしいが、やっぱりカーテンはほしい。
ベッドカバーと合わせて布をかける予定で、理沙がいくつか布を広げて迷っている。
「どっちがいいと思う?こっちだと派手かなあ」
「第一印象でピンと来たほうにしたら?」
「そうね、そうする」
理沙が選んだのは、薄いピンクと黄色の花柄だった。理沙の日本の持ち物から、もっとスタイリッシュなのを選ぶかと思ったのに、可愛らしいものにしたようだ。
お店を出ながら聞いてみると、思わぬ理由だった。
「だって、振袖のドレスの柄に似てたから」
「理沙……」
「お母さんが初めて私のために選んでくれたものだもん」
思わず理沙を抱きしめようとしたら、早く馬車に乗ってください、と無情にもレイ君に急かされてしまった。仕方がないので、馬車に乗ってから理沙を心行くまで抱きしめた。
夜ご飯はミュラの家族と一緒にとることになっていて、料理はミュラと私で作る。
庶民の食事の味付けはシンプルに塩が多いが、今日は王城で砂糖をもらってきたのだ。
「ミュラ、今日のために砂糖をもらってきたわ」
「マーサ!貴女の旦那様はずいぶん太っ腹なのね!」
理沙が旦那様?と首をかしげているので、小声で勘違いだから聞き流して、と言うと納得してくれた。
多分ミュラの中では、私はどこかの貴族の愛人で、理沙はその娘ということになっているのだ。
刃物を使っているので理沙の近くにいるレイ君が苦笑している。
「紹介するわね。夫のロドンと、こどもたちがソーンとサンクァ。こっちが一緒に宿を始めるマーサと、娘のリーザちゃん」
「初めまして。マーサです。よろしくお願いします。娘のリーザはいつもは他の街にいるの」
宿では食事は提供しないので、持ち込んだ食事をしたりお酒を飲んだりできる場所として、食堂は談話室として開放する。
その談話室で、マーサの家族と開店前祝いのパーティーだ。
マーサの子どもは兄と妹で、兄のソーンは父親の仕事である庭師の仕事を一緒にしている。妹のサンクァは理沙より2つ年上だがすでに結婚している。この世界は結婚が早い。
最初は探り探りの会話も慣れてくれば盛り上がる。今一番の話題はやはりなんといっても聖女だ。理沙の前であまりしたい話題ではないが、止めるのも不自然だ。
「聖女様が浄化してくれて街道が安全になったから、宿もこれから人が増えるかもな」
「ありがたいわねえ」
「隣のトルゴード王国からの品が、前よりもたくさん届くようになったとお屋敷の人が言っていたな」
「ここ王都は聖女様を見に来る人が増えるんじゃないか?」
「王都にいたって会えないじゃない」
「会えるかもしれないっていうだけで、来る価値はあるだろ」
みんな聖女には好意的なようでよかった。
街にいると魔物が減ったかどうかは実感がなくても、街道の行き来が増えることで、街の中にもいい影響が出ている。それが好意的に受け入れられているようだ。
話に参加しない理沙に、サンクァが気を遣って話しかけてくれた。
「リーザはいつもは何をしているの?」
「学校で勉強です」
「お貴族様は大変ねえ」
聞かれた時のために、学校に通って勉強しているという設定にしている。この国の学校は17歳で卒業なので、リーザは17歳という設定だ。
ミュラの中でリーザのお貴族様説は確定のようだ。まあそのほうがなんで護衛がいるのか説明しなくてもいいので流しているが。
それからサンクァと理沙で、今街中では女性に何が流行っているかというような話をしている。ファッションと甘いものの話で盛り上がるのは、どこの世界でも同じらしい。
「お母さん、ありがとね」
「どうしたの?」
「今日すごく楽しかった。この世界に来て初めて、聖女じゃなくて普通の人として過ごせたから」
よかった。その言葉に、お城を出てからの努力が報われた気がした。
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