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2.5章 護衛騎士の理不尽な日々
7. 護衛騎士
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浄化も順調に進み、宿の経営も軌道に乗ってきたある日、聖女様がマサコさんの宿に駆け込んでいらっしゃった。王太子殿下に力づくで襲われたと、泣いていらっしゃる。
その内容もさることながら、その話をしたのは談話室。宿に泊まっている商人がいる前でというのが、非常にまずい。
商人相手に緘口令など意味がない。彼らは簡単に国を移動できるのだ。この国を見限って他の国に行ってしゃべられれば、この国が終わる。
ここではリーザと呼ばれている聖女様を、聖女様だと認識している人はいないが、王城の侍女の制服を着たローザがついてきている、かなり質の良いドレスを着た黒髪の令嬢。これだけで聖女様だと判断されてしまう。
ここに聖女様がいると知れて人々が押しかけてこないように、早急に警備体制を整える必要がある。
客に扮して泊まっていた部下に目配せすると、談話室を出て行った。隣の詰め所に事態を知らせて体制を整えてくれるだろう。他にも客に扮した部下がいるので、この部屋の騒ぎの収集は彼らに任せ、俺は聖女様を追いかけた。
母屋に入られることをマサコさんは嫌うが、この事態で聖女様から離れることはできない。
部屋の外に待機していると、荷物をまとめてマサコさんが出てきたが、ついにこの国を見限ったようだ。今までの経緯を考えると無理もない。正直そうなると覚悟していた。そしてその場合、俺はどう動くべきか。
「レイ君、見逃して」
「聖女様、護衛騎士に命令を」
「え?」
「理沙、国境まで護衛しなさいって命令するのよ」
マサコさんには言いたいことが伝わったようだ。この国はこの人を甘く見すぎた。その代償がこれだ。
戸惑いながらも、聖女様は俺にトルゴードまでの護衛を命じられた。
我々は、国に忠誠を誓った騎士だが、今は聖女様の騎士なのだ。
途中途中待ち受ける領主や騎士に、聖女様を王城に帰すようにと何度も言われたが、これが聖女様のご希望だと突き返した。さすがに聖女様が望んでいらっしゃるのに無理強いもできないのか、渋々と引き下がる。
けれど、トルゴード王国までの道のりでちょうど半分当たりのところで、大勢の騎士を連れた騎士団長が追いついた。
陛下もさすがに力づくでお止めにはならないだろうと思っていたが、聖女様を国外へ出さないためには手段を選んでいられないのかもしれない。
「団長」
「聖女様に合わせてくれ。聖女様のご意志を確認したい」
騒ぎを聞きつけたのか、呼びに行く前に聖女様が出ていらっしゃった。
「私は、私の意志でトルゴード王国に向かいます。彼には国境まで護衛するように私が命令しました」
「陛下より伝言を預かっております。王太子が聖女様に対し大変申し訳ないことをしました。廃嫡しますので、どうぞお戻りください、とのことです」
「嫌よ。勝手に連れてきて、働かせて、挙句の果てに自分の妃になれって、どれだけ人をバカにしてるの?」
キツイことを仰る聖女様に皆が驚いているが、それだけ王城では抑圧されていたのだ。
「今後聖女様のお望みは全て叶えますので」
「そう。だったら、お母さんと私を元の世界に帰してよ。出来もしないことを言わないで」
彼女たちの一番の望みが自分たちの世界に帰ることだと、知らなかったわけでもないだろうに。
口先だけの耳障りのいい言葉を並べたところで、聖女様の心を動かすことはできない。本当に今更だ。
団長は、聖女様がトルゴード行きを強く望んでいらっしゃるので、我々も警護に加わる、と部下たちに告げた。
おそらく断られることは分かった上でのパフォーマンスだったのだろう。
ここで騎士同士がぶつかるようなことがあれば、おそらくトルゴードか、あるいは他国が入ってきて、聖女様を奪われる可能性がある。そんな事態は避けなければならない。
「フレイグラン、指揮はお前が取れ」
「分かりました」
騎士団長に何かあれば、騎士団全体が揺らぐ。矢面に立つのは、俺だけでいい。
国境には、トルゴード王国の騎士が待っていた。クインス王国とトルゴード王国の国境は、北の森から流れる河だ。
河の手前で隊を止めると、橋の中央までトルゴード王国の騎士が近寄ってきたが、その隣にいる女性に見覚えがある。
「トルゴード王国国王の命を受けて参りました、トルゴード王国第2騎士団団長のジェンシャン・ウィロウです」
「クインス王国聖女護衛騎士隊隊長のフレイグラン・オーリブです。聖女様のご希望でトルゴード王国までお連れいたしました」
「聖女様のお越し、誠に有難く存じます。妻のナスターシャが道中の聖女様のお相手を務めさせていただきます」
お互い儀礼にのっとり名乗りあい、ここで護衛を交代する。
ウィロウと言えばトルゴード王国の宰相を勤める公爵家のはずだ。ジェンシャン様に寄り添うあの女性はマサコさんの宿に客として来ていたはずだが、まさか公爵家のご夫人がお忍びで来ていたのか。公爵家には才媛と有名なボターニ王国出身のご夫人がいらっしゃるが、その方なのだろう。
聖女様とマサコさんが、夫人と小さな声で何かを話した後、用意された馬車に乗り込む直前、俺のほうを振り返った。
「レイ君、ずっと付き合ってくれてありがとう。元気でね」
「レイさん、ありがとうございました」
「聖女様、クインス王国へのご協力、誠にありがとうございました。トルゴード王国でのご活躍をお祈りいたしております。マサコさん、お元気で」
ふたりとも笑顔でトルゴードの馬車へと乗り込むのを、騎士全員で整列して見送った。
その内容もさることながら、その話をしたのは談話室。宿に泊まっている商人がいる前でというのが、非常にまずい。
商人相手に緘口令など意味がない。彼らは簡単に国を移動できるのだ。この国を見限って他の国に行ってしゃべられれば、この国が終わる。
ここではリーザと呼ばれている聖女様を、聖女様だと認識している人はいないが、王城の侍女の制服を着たローザがついてきている、かなり質の良いドレスを着た黒髪の令嬢。これだけで聖女様だと判断されてしまう。
ここに聖女様がいると知れて人々が押しかけてこないように、早急に警備体制を整える必要がある。
客に扮して泊まっていた部下に目配せすると、談話室を出て行った。隣の詰め所に事態を知らせて体制を整えてくれるだろう。他にも客に扮した部下がいるので、この部屋の騒ぎの収集は彼らに任せ、俺は聖女様を追いかけた。
母屋に入られることをマサコさんは嫌うが、この事態で聖女様から離れることはできない。
部屋の外に待機していると、荷物をまとめてマサコさんが出てきたが、ついにこの国を見限ったようだ。今までの経緯を考えると無理もない。正直そうなると覚悟していた。そしてその場合、俺はどう動くべきか。
「レイ君、見逃して」
「聖女様、護衛騎士に命令を」
「え?」
「理沙、国境まで護衛しなさいって命令するのよ」
マサコさんには言いたいことが伝わったようだ。この国はこの人を甘く見すぎた。その代償がこれだ。
戸惑いながらも、聖女様は俺にトルゴードまでの護衛を命じられた。
我々は、国に忠誠を誓った騎士だが、今は聖女様の騎士なのだ。
途中途中待ち受ける領主や騎士に、聖女様を王城に帰すようにと何度も言われたが、これが聖女様のご希望だと突き返した。さすがに聖女様が望んでいらっしゃるのに無理強いもできないのか、渋々と引き下がる。
けれど、トルゴード王国までの道のりでちょうど半分当たりのところで、大勢の騎士を連れた騎士団長が追いついた。
陛下もさすがに力づくでお止めにはならないだろうと思っていたが、聖女様を国外へ出さないためには手段を選んでいられないのかもしれない。
「団長」
「聖女様に合わせてくれ。聖女様のご意志を確認したい」
騒ぎを聞きつけたのか、呼びに行く前に聖女様が出ていらっしゃった。
「私は、私の意志でトルゴード王国に向かいます。彼には国境まで護衛するように私が命令しました」
「陛下より伝言を預かっております。王太子が聖女様に対し大変申し訳ないことをしました。廃嫡しますので、どうぞお戻りください、とのことです」
「嫌よ。勝手に連れてきて、働かせて、挙句の果てに自分の妃になれって、どれだけ人をバカにしてるの?」
キツイことを仰る聖女様に皆が驚いているが、それだけ王城では抑圧されていたのだ。
「今後聖女様のお望みは全て叶えますので」
「そう。だったら、お母さんと私を元の世界に帰してよ。出来もしないことを言わないで」
彼女たちの一番の望みが自分たちの世界に帰ることだと、知らなかったわけでもないだろうに。
口先だけの耳障りのいい言葉を並べたところで、聖女様の心を動かすことはできない。本当に今更だ。
団長は、聖女様がトルゴード行きを強く望んでいらっしゃるので、我々も警護に加わる、と部下たちに告げた。
おそらく断られることは分かった上でのパフォーマンスだったのだろう。
ここで騎士同士がぶつかるようなことがあれば、おそらくトルゴードか、あるいは他国が入ってきて、聖女様を奪われる可能性がある。そんな事態は避けなければならない。
「フレイグラン、指揮はお前が取れ」
「分かりました」
騎士団長に何かあれば、騎士団全体が揺らぐ。矢面に立つのは、俺だけでいい。
国境には、トルゴード王国の騎士が待っていた。クインス王国とトルゴード王国の国境は、北の森から流れる河だ。
河の手前で隊を止めると、橋の中央までトルゴード王国の騎士が近寄ってきたが、その隣にいる女性に見覚えがある。
「トルゴード王国国王の命を受けて参りました、トルゴード王国第2騎士団団長のジェンシャン・ウィロウです」
「クインス王国聖女護衛騎士隊隊長のフレイグラン・オーリブです。聖女様のご希望でトルゴード王国までお連れいたしました」
「聖女様のお越し、誠に有難く存じます。妻のナスターシャが道中の聖女様のお相手を務めさせていただきます」
お互い儀礼にのっとり名乗りあい、ここで護衛を交代する。
ウィロウと言えばトルゴード王国の宰相を勤める公爵家のはずだ。ジェンシャン様に寄り添うあの女性はマサコさんの宿に客として来ていたはずだが、まさか公爵家のご夫人がお忍びで来ていたのか。公爵家には才媛と有名なボターニ王国出身のご夫人がいらっしゃるが、その方なのだろう。
聖女様とマサコさんが、夫人と小さな声で何かを話した後、用意された馬車に乗り込む直前、俺のほうを振り返った。
「レイ君、ずっと付き合ってくれてありがとう。元気でね」
「レイさん、ありがとうございました」
「聖女様、クインス王国へのご協力、誠にありがとうございました。トルゴード王国でのご活躍をお祈りいたしております。マサコさん、お元気で」
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