55 / 89
5章 浄化の旅編
3. 料理
しおりを挟む
野営という名のグランピング2日目、今日は料理を作る。キャンプと言えば、料理でしょう。
まあ、キャンプしたことないんだけど。祐也はキャンプ行くくらいなら、家でマンガ読んでいたい子どもだった。
昨日、食事をしている騎士さんたちと話している時に、私たちの世界の食事の話になった。
この世界、食事は普通に美味しい。お米やお醤油はないけど、洋食だと思うと味付けに大きな違いはない。庶民はシンプルな塩の味付けが多いけど、お城だといろんな調味料を使った料理が出てくる。
聖女様の世界ではどんなものを食べているのか食べてみたい、と言われたので、だったら作ってみようとなったのだ。
といっても私はこの世界の調味料をよく知らない。クインスではこの世界にないものを作って目立たないように、味付けはミュラに任せていた。
そこにあるもので出来そうなものを作るしかない。
「今日は何を作る予定だったの?」
「パンと、干し肉と野菜のスープです」
野営の時は生のお肉は持ってこないので、タンパク質はスープに入れて柔らかくした干し肉だけ。野菜は移動中に当たっても傷まない根菜だけで、こちらもスープに入れる。食器は各自で用意するけど、スープ用のお椀しか持ち歩かない。それに大人数の物を効率的に作るとなると、スープが楽なんだろう。
醤油があれば肉じゃがっぽいものが作れるけど、ここにあるもので日本らしさなんて出せないわ。こういうときにネットで調べられたらいいのに。
「うーん、同じようなものしか作れないわ」
「あまり変わらないんですか?」
「私たちの国では醤油っていう調味料をよく使うんだけど、それがないから」
それなりの期間一緒に行動していれば、少しずつ打ち解けてくる。騎士さんたちも気軽に話しかけてくれるようになった。
理沙も騎士さんたちを怖がらず、今は並べられた材料をのぞき込んでいる。
「マッシュポテトは?」
「バターがないし、潰すのに手間がかかるでしょう?」
「ここにあるもので作れるなら作りましょう!」
なんだか興味を持たれてしまったので、マッシュポテトを作ることになってしまった。
バターがないので、チーズと牛乳を混ぜよう。チーズはチェダーチーズのようなハードタイプがあった。牛乳は村の人からの差し入れだ。
「ジャガイモの皮をむいて切って、茹でたら水を捨てて潰すの」
「皮をむくのは我々がやりますので」
理沙が皮をむこうとジャガイモを手に取ったところで止められている。万が一にも聖女様に怪我をされては困るのだろう。
この世界の包丁はペティナイフのような形で、三徳包丁に慣れた身には最初は大変だった。調理は彼らに任せて、監督に専念だ。
大量のジャガイモが手際よく切って茹でられていく。
「剣が使えると、包丁の扱いも簡単?」
「全く違いますよ。剣は得意でも、料理は全然の奴もいます」
同じ刃物で扱えるのかと思ったけど、やっぱり大きさも形も違うものね。
そんな話をしている間に、ジャガイモは茹であがっていたので、お湯を捨てて潰してもらう。
騎士さんの腕力であっという間に潰れたので、牛乳と刻んだチーズを混ぜて、後は塩で味付けだ。
「理沙、味見して」
「なんで私?」
「聖女様が味見したほうが、有難味がありそうじゃない?」
ないわよ、と呆れながらも味見をして、お塩がもうちょっとかな、と調整してくれる。
肉体労働の騎士さんだから、多少は塩気を強めにしたほうがいい気もするけど、足りなければ自分で足してもらえばいいでしょう。
私たちがマッシュポテトを作っている隣でスープも作られていたので、今日の夕食は完成だ。
「今日の夕食は聖女様が作ってくださった。皆、感謝して食べるように」
護衛騎士の隊長さんの呼びかけに、おおーっと野太い歓声が上がっている。そんな大したものじゃないから、食べる前からハードルを上げないでほしい。
スープ用のボールしか器がないので、みんなパンの上に乗せて運んでいる。
私たちはちゃんと食器に盛られて、テントの中でいただく。
外から聞こえる会話では、マッシュポテトは好評のようだ。お世辞でもうれしい。本来野営の料理ではかけない手間をかけて作ってもらったのだし、これで不評だと料理担当の人に申し訳ない。
「マッシュポテト好きだったから、嬉しい」
「今度お城のシェフにちゃんと作ってもらいましょう」
「お母さんは食べたいものないの?」
「そうねえ。お好み焼き」
「私も食べたい!」
小麦粉はあるみたいだし、こんどお城でキッチンを借りて作ってみようかしら。ソースの代わりになるものがあるといいけど。
実は理沙と日本の食べ物の話をするのはこれが初めてだ。理沙が意識的に避けていたのかどうかは分からないけど、私は避けていた。
食べ物ってすごく過去につながりがあるものだと思う。匂いは過去の記憶に強く結びついているし、食べ物の話から日本を思い出して、帰ることができないことに落ち込んでしまうのが怖かった。
こうして話せるようになったということは、理沙の中でも少しずつ望郷の念と折り合いが付けられているのかもしれない。
まあ、キャンプしたことないんだけど。祐也はキャンプ行くくらいなら、家でマンガ読んでいたい子どもだった。
昨日、食事をしている騎士さんたちと話している時に、私たちの世界の食事の話になった。
この世界、食事は普通に美味しい。お米やお醤油はないけど、洋食だと思うと味付けに大きな違いはない。庶民はシンプルな塩の味付けが多いけど、お城だといろんな調味料を使った料理が出てくる。
聖女様の世界ではどんなものを食べているのか食べてみたい、と言われたので、だったら作ってみようとなったのだ。
といっても私はこの世界の調味料をよく知らない。クインスではこの世界にないものを作って目立たないように、味付けはミュラに任せていた。
そこにあるもので出来そうなものを作るしかない。
「今日は何を作る予定だったの?」
「パンと、干し肉と野菜のスープです」
野営の時は生のお肉は持ってこないので、タンパク質はスープに入れて柔らかくした干し肉だけ。野菜は移動中に当たっても傷まない根菜だけで、こちらもスープに入れる。食器は各自で用意するけど、スープ用のお椀しか持ち歩かない。それに大人数の物を効率的に作るとなると、スープが楽なんだろう。
醤油があれば肉じゃがっぽいものが作れるけど、ここにあるもので日本らしさなんて出せないわ。こういうときにネットで調べられたらいいのに。
「うーん、同じようなものしか作れないわ」
「あまり変わらないんですか?」
「私たちの国では醤油っていう調味料をよく使うんだけど、それがないから」
それなりの期間一緒に行動していれば、少しずつ打ち解けてくる。騎士さんたちも気軽に話しかけてくれるようになった。
理沙も騎士さんたちを怖がらず、今は並べられた材料をのぞき込んでいる。
「マッシュポテトは?」
「バターがないし、潰すのに手間がかかるでしょう?」
「ここにあるもので作れるなら作りましょう!」
なんだか興味を持たれてしまったので、マッシュポテトを作ることになってしまった。
バターがないので、チーズと牛乳を混ぜよう。チーズはチェダーチーズのようなハードタイプがあった。牛乳は村の人からの差し入れだ。
「ジャガイモの皮をむいて切って、茹でたら水を捨てて潰すの」
「皮をむくのは我々がやりますので」
理沙が皮をむこうとジャガイモを手に取ったところで止められている。万が一にも聖女様に怪我をされては困るのだろう。
この世界の包丁はペティナイフのような形で、三徳包丁に慣れた身には最初は大変だった。調理は彼らに任せて、監督に専念だ。
大量のジャガイモが手際よく切って茹でられていく。
「剣が使えると、包丁の扱いも簡単?」
「全く違いますよ。剣は得意でも、料理は全然の奴もいます」
同じ刃物で扱えるのかと思ったけど、やっぱり大きさも形も違うものね。
そんな話をしている間に、ジャガイモは茹であがっていたので、お湯を捨てて潰してもらう。
騎士さんの腕力であっという間に潰れたので、牛乳と刻んだチーズを混ぜて、後は塩で味付けだ。
「理沙、味見して」
「なんで私?」
「聖女様が味見したほうが、有難味がありそうじゃない?」
ないわよ、と呆れながらも味見をして、お塩がもうちょっとかな、と調整してくれる。
肉体労働の騎士さんだから、多少は塩気を強めにしたほうがいい気もするけど、足りなければ自分で足してもらえばいいでしょう。
私たちがマッシュポテトを作っている隣でスープも作られていたので、今日の夕食は完成だ。
「今日の夕食は聖女様が作ってくださった。皆、感謝して食べるように」
護衛騎士の隊長さんの呼びかけに、おおーっと野太い歓声が上がっている。そんな大したものじゃないから、食べる前からハードルを上げないでほしい。
スープ用のボールしか器がないので、みんなパンの上に乗せて運んでいる。
私たちはちゃんと食器に盛られて、テントの中でいただく。
外から聞こえる会話では、マッシュポテトは好評のようだ。お世辞でもうれしい。本来野営の料理ではかけない手間をかけて作ってもらったのだし、これで不評だと料理担当の人に申し訳ない。
「マッシュポテト好きだったから、嬉しい」
「今度お城のシェフにちゃんと作ってもらいましょう」
「お母さんは食べたいものないの?」
「そうねえ。お好み焼き」
「私も食べたい!」
小麦粉はあるみたいだし、こんどお城でキッチンを借りて作ってみようかしら。ソースの代わりになるものがあるといいけど。
実は理沙と日本の食べ物の話をするのはこれが初めてだ。理沙が意識的に避けていたのかどうかは分からないけど、私は避けていた。
食べ物ってすごく過去につながりがあるものだと思う。匂いは過去の記憶に強く結びついているし、食べ物の話から日本を思い出して、帰ることができないことに落ち込んでしまうのが怖かった。
こうして話せるようになったということは、理沙の中でも少しずつ望郷の念と折り合いが付けられているのかもしれない。
69
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる