文字の大きさ
大
中
小
68 / 89
6章 ベイロール編
8. 聞き取り調査
ベイロールからトルゴードに戻って、いろいろなことが変わった。
まず、理沙と私の部屋が別々になった。
私は理沙の許可なく理沙の部屋には入らないことに決めている。
祐也の部屋に勝手に入って掃除をして怒られていたけど、理沙もいずれは私に隠したいことができるだろう。
私の部屋にはいつでも入っていいと言ってあるので、何か話したいことがあると、理沙が部屋に来ることが多い。
それから、理沙が貴族の女の子たちとお茶会をするようになった。友達を作ろう作戦だ。
今理沙が仲が良いと言える若い子はターシャちゃんだけだ。
けれどターシャちゃんは前世の記憶と合わせると私と同年代になってしまうので、若い子と言っていいのかちょっと分からない。
それにターシャちゃんは私とも仲が良いので、私とは関わりのないところでの交友関係には入らない。
理沙の世界を広げるという意味では、私が会ったことのない、私に話が伝わる可能性のない友人も必要だろう。
理沙は聖女という身分に関係のない友達が欲しいようだけど、それはこの身分社会では難しいかもしれない。
かといって何もしなければこのまま友達もできないので、多少のことには目を瞑って友人を作ることにしたそうだ。
その決定に私は関わっていない。
「友達を作りたいからお茶会をしたいんだけどどう思う?」
「いいと思うよ」
それがその時に交わした言葉だ。
ちなみに理沙の推しグループを作る作戦は既に頓挫しそうになっている。
ベイロールでの出来事がトルゴードの貴族にも伝わっているようで、ターシャちゃんのもとには帰国と同時に売り込みが殺到しているらしい。
現状理沙に一番近いのがターシャちゃんだから、あわよくば理沙の恋人になりたい人たちが、お見合い候補にいかがですかと公爵家を通して売り込んでくるそうだ。
その中からマー君王子に似た人を理沙に紹介すると、ありもしない希望を与えることになるし、それで勘違いをして理沙に迫られても困る。
そのため推しグループ作戦は、メンバー集めの前に企画が凍結されてしまった。
多分このままなかったことになるのだろう。
ターシャちゃんもここまでの反応があると思っていなかったらしい。
理沙はこの国の貴族と全く関わろうとしてこなかったから無理なんだろうと諦めていたところに、ベイロールでの話が伝わってこれはもしかしたらもしかするのではと、理沙と釣り合う年齢で独身の子どもがいる貴族は皆浮足立った。
「なんだか周りの視線がちょっと煩わしい」
「そういう時は下を向いて悲しそうにしていれば、勝手に解釈してくれるはずよ」
理沙が周りのその期待にすごく戸惑っていたので、アドバイスしておいた。
実際、気丈にしてはいるけど、時々悲しそうな顔をしている。
それが失った恋への感傷なのか、自分の立場へのやるせなさなのか、どういう感情なのかは分からないけど、辛い思いをしたのは確かだ。
理沙と離れた私は何をしているかというと、日本についての聞き取り調査に付き合っている。
昼間は文字の練習をするかロニアと話すくらいしかやることがないので、何かお城で手伝えることはないかと聞いたら、それならば日本の話を聞きたいと言われたのだ。
職業体験のときに、調薬も演奏も経験があることに驚かれたけれど、そのことを知った偉い人から機会があれば日本について知りたいという要望が来ていたらしい。
ターシャちゃんも知っていることではあるけど、ターシャちゃんはターシャちゃんで忙しくて時間が取れない。
それで今回私のところに話が来た。
「人が生まれてから死ぬまでを順に聞いていきたいと思います。まず、子どもはどのようにして生まれるのでしょうか」
「十月十日女性のお腹の中で育って、生まれてきます」
「産むのは家ですか?」
「産院です」
「産院とは?」
こんな感じで質問に答える形で話しているんだけど、そもそも病院とは何かとか、何科があるのかとか、脱線するから全く進まない。
ターシャちゃんなら多分もっと系統立てて説明できるんでしょうけど、私の話もあちこち飛ぶし、聞くほうもその都度分からないことで止めるから、何の話をしていたのか分からなくなるほどだ。
初日の聞き取り調査は、戸籍の話になったところで終わった。
この先どれくらいかかるのか、想像もつかない。
けれど何かしらこの国に貢献できていると思うと気分が軽くなる。
私の話がどれくらい役に立つかは分からないけど、それでも何もしていない時とは心持がかなり違う。
私自身が何もしていない現状にかなり焦っていて、それを感じたターシャちゃんが職業体験を手配してくれたりして、それが余計に理沙を追い詰めてしまったことに気づいた。
聞き取り調査は当分続きそうだけど、同じことを繰り返さないように、これが終わる前に次の仕事のめどを立てておこう。
「理沙、今日のお茶会はどうだった?」
「うーん、今日は仲の悪い人たちが参加していて、お互いバチバチしてた」
対立する派閥の子たちかしらね。
裏で陰険なことをしているよりはマシだけど、見ているほうは気まずいし、あまり見たいものじゃない。
それに聖女様の前でそんなところを見せるのは賢明とは思えないわ。
「巻き込まれないように気を付けてね」
「うん。お母さんは?」
「やっと幼稚園に入園したわ」
「入園おめでとう」
あはは、ありがとう。祐也の入園式を思い出すわね。
先はまだまだ長いし、そろそろクインスに向けて出発するから中断するし、成人するのはいつになることやら。
まず、理沙と私の部屋が別々になった。
私は理沙の許可なく理沙の部屋には入らないことに決めている。
祐也の部屋に勝手に入って掃除をして怒られていたけど、理沙もいずれは私に隠したいことができるだろう。
私の部屋にはいつでも入っていいと言ってあるので、何か話したいことがあると、理沙が部屋に来ることが多い。
それから、理沙が貴族の女の子たちとお茶会をするようになった。友達を作ろう作戦だ。
今理沙が仲が良いと言える若い子はターシャちゃんだけだ。
けれどターシャちゃんは前世の記憶と合わせると私と同年代になってしまうので、若い子と言っていいのかちょっと分からない。
それにターシャちゃんは私とも仲が良いので、私とは関わりのないところでの交友関係には入らない。
理沙の世界を広げるという意味では、私が会ったことのない、私に話が伝わる可能性のない友人も必要だろう。
理沙は聖女という身分に関係のない友達が欲しいようだけど、それはこの身分社会では難しいかもしれない。
かといって何もしなければこのまま友達もできないので、多少のことには目を瞑って友人を作ることにしたそうだ。
その決定に私は関わっていない。
「友達を作りたいからお茶会をしたいんだけどどう思う?」
「いいと思うよ」
それがその時に交わした言葉だ。
ちなみに理沙の推しグループを作る作戦は既に頓挫しそうになっている。
ベイロールでの出来事がトルゴードの貴族にも伝わっているようで、ターシャちゃんのもとには帰国と同時に売り込みが殺到しているらしい。
現状理沙に一番近いのがターシャちゃんだから、あわよくば理沙の恋人になりたい人たちが、お見合い候補にいかがですかと公爵家を通して売り込んでくるそうだ。
その中からマー君王子に似た人を理沙に紹介すると、ありもしない希望を与えることになるし、それで勘違いをして理沙に迫られても困る。
そのため推しグループ作戦は、メンバー集めの前に企画が凍結されてしまった。
多分このままなかったことになるのだろう。
ターシャちゃんもここまでの反応があると思っていなかったらしい。
理沙はこの国の貴族と全く関わろうとしてこなかったから無理なんだろうと諦めていたところに、ベイロールでの話が伝わってこれはもしかしたらもしかするのではと、理沙と釣り合う年齢で独身の子どもがいる貴族は皆浮足立った。
「なんだか周りの視線がちょっと煩わしい」
「そういう時は下を向いて悲しそうにしていれば、勝手に解釈してくれるはずよ」
理沙が周りのその期待にすごく戸惑っていたので、アドバイスしておいた。
実際、気丈にしてはいるけど、時々悲しそうな顔をしている。
それが失った恋への感傷なのか、自分の立場へのやるせなさなのか、どういう感情なのかは分からないけど、辛い思いをしたのは確かだ。
理沙と離れた私は何をしているかというと、日本についての聞き取り調査に付き合っている。
昼間は文字の練習をするかロニアと話すくらいしかやることがないので、何かお城で手伝えることはないかと聞いたら、それならば日本の話を聞きたいと言われたのだ。
職業体験のときに、調薬も演奏も経験があることに驚かれたけれど、そのことを知った偉い人から機会があれば日本について知りたいという要望が来ていたらしい。
ターシャちゃんも知っていることではあるけど、ターシャちゃんはターシャちゃんで忙しくて時間が取れない。
それで今回私のところに話が来た。
「人が生まれてから死ぬまでを順に聞いていきたいと思います。まず、子どもはどのようにして生まれるのでしょうか」
「十月十日女性のお腹の中で育って、生まれてきます」
「産むのは家ですか?」
「産院です」
「産院とは?」
こんな感じで質問に答える形で話しているんだけど、そもそも病院とは何かとか、何科があるのかとか、脱線するから全く進まない。
ターシャちゃんなら多分もっと系統立てて説明できるんでしょうけど、私の話もあちこち飛ぶし、聞くほうもその都度分からないことで止めるから、何の話をしていたのか分からなくなるほどだ。
初日の聞き取り調査は、戸籍の話になったところで終わった。
この先どれくらいかかるのか、想像もつかない。
けれど何かしらこの国に貢献できていると思うと気分が軽くなる。
私の話がどれくらい役に立つかは分からないけど、それでも何もしていない時とは心持がかなり違う。
私自身が何もしていない現状にかなり焦っていて、それを感じたターシャちゃんが職業体験を手配してくれたりして、それが余計に理沙を追い詰めてしまったことに気づいた。
聞き取り調査は当分続きそうだけど、同じことを繰り返さないように、これが終わる前に次の仕事のめどを立てておこう。
「理沙、今日のお茶会はどうだった?」
「うーん、今日は仲の悪い人たちが参加していて、お互いバチバチしてた」
対立する派閥の子たちかしらね。
裏で陰険なことをしているよりはマシだけど、見ているほうは気まずいし、あまり見たいものじゃない。
それに聖女様の前でそんなところを見せるのは賢明とは思えないわ。
「巻き込まれないように気を付けてね」
「うん。お母さんは?」
「やっと幼稚園に入園したわ」
「入園おめでとう」
あはは、ありがとう。祐也の入園式を思い出すわね。
先はまだまだ長いし、そろそろクインスに向けて出発するから中断するし、成人するのはいつになることやら。
感想 93
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった
よっしぃ【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】
皆様の熱い応援、本当にありがとうございます!
ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です!
【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】
電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。
気がついたら異世界召喚。
だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。
52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。
結論――王都の地下下水道に「廃棄」。
玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。
血管年齢は実年齢マイナス20歳。
そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。
だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。
下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。
捨てられた魔道具。
長年魔素を吸い続けた高純度魔石。
そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。
チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。
あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。
汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。
スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。
この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。
魔力は毒である。代謝こそが命である。
軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。
でも、だからこそ――まず1話、読んでください。
【最新情報&著者プロフィール】
代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作!
◆ 2月に待望の【第2巻】刊行!
◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中!
◆ 【コミカライズ企画進行中】!
すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!
クラス全員で異世界召喚されたが、俺だけ教室に取り残されたのでとりあえず帰宅した
中山(ほ) クラス全員で異世界召喚されたが、先生と俺が残っていた。
魔法もチートスキルもステータス画面すら表示されない、ただの「残され損」
異世界に行けなかった俺を待っていたのは、世知辛い現実だった。
AI使用状況
GoogleのGeminiさん使ってます〜
誤字脱字チェックと調べ物お願いしてます
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。