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7章 クインス再訪編
2. 絵本
浄化の旅の最中、夜は宿にいてもやることがあまりない。
この世界は娯楽が少ないので、パーティーを断っている私たちは本を読むか話をするくらいだ。
理沙は日記として絵を描くようになったので、私はその間を文字の練習に当てていた。
今までは理沙と同じ部屋だったから、時にはターシャちゃんも交えて話をしていたけれど、今は部屋を分けてもらったので、白状すれば時間を持て余しているのだ。
毎日部屋にいる時間すべてを勉強に当てるほど私は勤勉じゃないのよ。
それで思いついたのが、日本の童話のあらすじを書き出すことだ。字を書く練習にもなる。
日本での生活の聞き取り調査の時に、本の読み聞かせの話をしたら、とても興味を持たれた。
そもそも庶民に本は出回っていない。学校の教科書はその場で貸し出されるもので、子どもの数だけないこともめずらしくない。
貴族であっても子ども用の絵本というものが珍しく、神話を子どもも読めるように絵を多めにしたものなどはあるものの、子ども向けに書かれた本はない。
何より娯楽のための本が少ない。私たちが読んでいるのも、歴史書が多い。この世界のことを知るには良いけれど、楽しいかと言われると即答できない。
これは印刷技術の発展を待たないといけない部分なのだろう。
「ねえ理沙、青鬼が村で暴れる理由ってなんだったっけ」
「赤鬼が優しいところを見せるためでしょ」
「そうなんだけど、なんでお芝居することになったのか覚えてなくて」
覚えているようで覚えていないものね。覚えていないところは、私の部屋に話に来ている理沙に聞いている。
あの本は最後に青鬼の心情を思って読んでる私が泣いたんだけど、祐也がぽかんとしてたことはよく覚えているのに。
そこからは、それぞれ覚えている絵本の話になったのだけど、理沙も記憶があいまいだから、これは年齢のせいじゃないわ。よかった。
「結局蕪って抜けたんだっけ?」
「覚えてない。うんとこしょ、どっこいしょ」
「それでもかぶは、ぬけません」
「それは歌ですか?」
掛け声が翻訳されずに呪文のように聞こえたようで、ロニアが興味を持った。
おじいさんが蕪を抜こうとしたけど抜けなくて、それをみんなが手伝って、というお話の中の掛け声なのだと説明した。結末は二人とも覚えていないので、ターシャちゃんに聞いてみないと分からない。
「貴族の子どもの寝かしつけはどうするの?」
「乳母や使用人がついていますので任せます。社交で家にいないこともありますし」
そのため高位になるほど貴族は親子の関係がとても希薄で、むしろ乳母との関係のほうが濃くなるらしい。
「読み聞かせというのは寝るときに聞かせるんですよね?」
「うちはそうだったわ。寝る時間よって言うと、今日はこの本を読んでって持ってくるの。あの頃は素直で可愛かったのにねえ」
「聖女様の世界の子ども向け寝物語として本を作れば、貴族はこぞって手に入れようとするでしょう」
貴族は夜会での話のネタとして流行には敏感らしいので、間違いなく売れるそうだ。
「蕪は最後にネズミが引っ張って抜けます。それで蕪のスープを作って食べますよ」
さすがターシャちゃん、覚えていた。
でもターシャちゃんが覚えているってことは、お話に対して何か言いたいことがあったんじゃないだろうか。
「何か引っかかる点があったの?」
「ネズミがネコを引っ張るのですが、そもそもネズミは自分を捕食するネコに近づくかなと思ったので覚えています」
やっぱりね。童話だろうと譲れないところがあるのねえ。
読み聞かせの絵本を作ったら貴族に売れるのではというロニアの案には、むしろターシャちゃんが乗り気になった。
日本のお話を原案として、ライターさんにこの世界の人物や動物に置き換えて書き直してもらい、絵をつけるのがいいだろうと提案してくれた。
「理沙が絵を描く?」
「え?私?」
「聖女様の絵なら話題になるんじゃない?」
いきなり話が飛んできて理沙が驚いているけど、私に描かせると子どもが泣くかもしれないもの。
「それはいいですね。理沙さんが絵を描いた原本を教会に置けば、教会の面目も保たれます」
「教会?何か関係あるの?」
トルゴードに来てから教会とは関わっていない。だから、教会とは特に繋がりもないと思っていたけど、違っていた。
聖女は神が使わされた者だから教会に属するのが正しいと主張しているそうだ。理沙への面会を求め、それを王様が突っぱねてくれているのも、王が聖女を独占していると非難していた。
「それを絵本で解決できる?」
「理沙さんが浄化が終わった後の仕事を探していることを聞きつけ、教会に所属するように求めています」
「私に出来ることなんてないと思いますけど」
「理沙を広告塔にするつもりね」
そんなことを許したら、理沙の自由がなくなるわ。
「理沙さんの自由を保障するなら、教会に原本を渡すと言えば、条件をのむと思います」
「教会の奥に置いて特別観覧料をとれば儲かりそうだものね」
身も蓋もない言い方にターシャちゃんが苦笑している。
でもそういうことでしょう。教会は理沙を使って権威を高めてお金を集めたい。
「どうせ作るなら、子どもたちに読んでほしいのに」
「それは写本を大量に作れば良いでしょう。各国が協力してくれますよ」
教会が価値を見いだすのは理沙の絵。理沙が重きを置きたいのはその本を手に取る機会。
落としどころとしてはかなり良さそうだ。
この世界は娯楽が少ないので、パーティーを断っている私たちは本を読むか話をするくらいだ。
理沙は日記として絵を描くようになったので、私はその間を文字の練習に当てていた。
今までは理沙と同じ部屋だったから、時にはターシャちゃんも交えて話をしていたけれど、今は部屋を分けてもらったので、白状すれば時間を持て余しているのだ。
毎日部屋にいる時間すべてを勉強に当てるほど私は勤勉じゃないのよ。
それで思いついたのが、日本の童話のあらすじを書き出すことだ。字を書く練習にもなる。
日本での生活の聞き取り調査の時に、本の読み聞かせの話をしたら、とても興味を持たれた。
そもそも庶民に本は出回っていない。学校の教科書はその場で貸し出されるもので、子どもの数だけないこともめずらしくない。
貴族であっても子ども用の絵本というものが珍しく、神話を子どもも読めるように絵を多めにしたものなどはあるものの、子ども向けに書かれた本はない。
何より娯楽のための本が少ない。私たちが読んでいるのも、歴史書が多い。この世界のことを知るには良いけれど、楽しいかと言われると即答できない。
これは印刷技術の発展を待たないといけない部分なのだろう。
「ねえ理沙、青鬼が村で暴れる理由ってなんだったっけ」
「赤鬼が優しいところを見せるためでしょ」
「そうなんだけど、なんでお芝居することになったのか覚えてなくて」
覚えているようで覚えていないものね。覚えていないところは、私の部屋に話に来ている理沙に聞いている。
あの本は最後に青鬼の心情を思って読んでる私が泣いたんだけど、祐也がぽかんとしてたことはよく覚えているのに。
そこからは、それぞれ覚えている絵本の話になったのだけど、理沙も記憶があいまいだから、これは年齢のせいじゃないわ。よかった。
「結局蕪って抜けたんだっけ?」
「覚えてない。うんとこしょ、どっこいしょ」
「それでもかぶは、ぬけません」
「それは歌ですか?」
掛け声が翻訳されずに呪文のように聞こえたようで、ロニアが興味を持った。
おじいさんが蕪を抜こうとしたけど抜けなくて、それをみんなが手伝って、というお話の中の掛け声なのだと説明した。結末は二人とも覚えていないので、ターシャちゃんに聞いてみないと分からない。
「貴族の子どもの寝かしつけはどうするの?」
「乳母や使用人がついていますので任せます。社交で家にいないこともありますし」
そのため高位になるほど貴族は親子の関係がとても希薄で、むしろ乳母との関係のほうが濃くなるらしい。
「読み聞かせというのは寝るときに聞かせるんですよね?」
「うちはそうだったわ。寝る時間よって言うと、今日はこの本を読んでって持ってくるの。あの頃は素直で可愛かったのにねえ」
「聖女様の世界の子ども向け寝物語として本を作れば、貴族はこぞって手に入れようとするでしょう」
貴族は夜会での話のネタとして流行には敏感らしいので、間違いなく売れるそうだ。
「蕪は最後にネズミが引っ張って抜けます。それで蕪のスープを作って食べますよ」
さすがターシャちゃん、覚えていた。
でもターシャちゃんが覚えているってことは、お話に対して何か言いたいことがあったんじゃないだろうか。
「何か引っかかる点があったの?」
「ネズミがネコを引っ張るのですが、そもそもネズミは自分を捕食するネコに近づくかなと思ったので覚えています」
やっぱりね。童話だろうと譲れないところがあるのねえ。
読み聞かせの絵本を作ったら貴族に売れるのではというロニアの案には、むしろターシャちゃんが乗り気になった。
日本のお話を原案として、ライターさんにこの世界の人物や動物に置き換えて書き直してもらい、絵をつけるのがいいだろうと提案してくれた。
「理沙が絵を描く?」
「え?私?」
「聖女様の絵なら話題になるんじゃない?」
いきなり話が飛んできて理沙が驚いているけど、私に描かせると子どもが泣くかもしれないもの。
「それはいいですね。理沙さんが絵を描いた原本を教会に置けば、教会の面目も保たれます」
「教会?何か関係あるの?」
トルゴードに来てから教会とは関わっていない。だから、教会とは特に繋がりもないと思っていたけど、違っていた。
聖女は神が使わされた者だから教会に属するのが正しいと主張しているそうだ。理沙への面会を求め、それを王様が突っぱねてくれているのも、王が聖女を独占していると非難していた。
「それを絵本で解決できる?」
「理沙さんが浄化が終わった後の仕事を探していることを聞きつけ、教会に所属するように求めています」
「私に出来ることなんてないと思いますけど」
「理沙を広告塔にするつもりね」
そんなことを許したら、理沙の自由がなくなるわ。
「理沙さんの自由を保障するなら、教会に原本を渡すと言えば、条件をのむと思います」
「教会の奥に置いて特別観覧料をとれば儲かりそうだものね」
身も蓋もない言い方にターシャちゃんが苦笑している。
でもそういうことでしょう。教会は理沙を使って権威を高めてお金を集めたい。
「どうせ作るなら、子どもたちに読んでほしいのに」
「それは写本を大量に作れば良いでしょう。各国が協力してくれますよ」
教会が価値を見いだすのは理沙の絵。理沙が重きを置きたいのはその本を手に取る機会。
落としどころとしてはかなり良さそうだ。
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