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7章 クインス再訪編
1. 花束
ベイロールから戻って少しゆっくりしていたが、次はクインスへ向かう。
今回の旅は、まずトルゴード国内のクインス側で浄化していない街を全て周り、その後クインスへ行く予定だ。
理沙がクインスから逃げ出してきたことは広く知られているので、トルゴード国内を後回しにしてクインスへ行くと、国内から反発が出かねない。
クインス国内は一部残ってはいるが、瘴気が濃いところは理沙が浄化しているのだから、急ぎではない。
「リサ様、マサコ様、次の街では普通の宿にお泊りいただきます。警備の都合上、おふたりで一部屋をお使いいただきたいのですが」
「構いませんよ」
「一緒でいいわ」
この旅から、理沙の世話係もロニアが担当するようになった。
ターシャちゃんは瘴気と魔物の研究が忙しいみたいだし、クインスでは王族に会うつもりもないから、ベイロールのようにターシャちゃんにずっとついていてもらう必要もない。
ロニアも浄化の旅に慣れたので、理沙の世話を引き受けても十分に手が回るようになった。
今お城では、理沙と私の部屋を別々にしてもらっている。
理沙が私と話したいときは私の部屋に来るし、今日は一緒に寝ていい?と聞いて来た時は、同じ部屋で寝ている。
理沙の部屋にも私の部屋にもベッドは2つあるので、どちらにも泊まりに行ける。理沙が泊まりに来るときはおそらく何か心に引っかかることがある時なんだとは思うけど、私から聞くことはしていない。ベイロールでのことから完全に立ち直ってはいないだろうけど、話したくなったら自分から話すと信じて見守ろう。
別々の部屋に最初は寂しがっていた理沙も、最近ではターシャちゃんやリリーちゃんたち護衛の当番じゃない人を部屋に招いて話をしたりしているようだ。
お茶会で女の子の友達を作ろう作戦は、まだ部屋に招くほど仲良くなった人はいないみたいなので、進行中なのだろう。
浄化を終えて、今日泊まる宿へ足を踏み入れようとしたとき、護衛の間をすり抜けて、小学校低学年くらいの女の子が花束をもって理沙に駆け寄ってきた。
理沙はしゃがんで受け取ろうとしたけれど、女の子の花束が手に届く直前に、カーラちゃんが理沙と女の子の間に割って入った。
「聖女様、建物にお入りください」
「え、でも」
「お入りください」
受け取ろうとしていた理沙は少し不服そうだったけど、カーラちゃんの言葉に従って宿へと入った。
宿で夕食をいただいてくつろいでいたら、ターシャちゃんが部屋に来てくれた。
あの子が渡そうとしていた花束は後から届けられて、花瓶に挿して机の上に飾られている。
「理沙さん、子どもが近寄ったと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「その花を受け取ろうとしたんですけど、止められちゃって」
「そういう時は、護衛かロニアに代わりに受け取るよう言ってください」
事前にここで花束を受け取ります、などと言われていない場合は、近づいてきた人は全員不審者らしい。
武器などが仕込まれていないかチェックされていないものは直接触ってはいけない。花の棘に毒薬を塗るっていうのがミステリーであったような気がする。
言われてみれば当然だけど、咄嗟にできる気がしないわ。
ターシャちゃんによると、あの女の子を通すというミスをしてしまったので、護衛騎士たちは警護体制の見直しで大騒ぎらしい。
でも子どもって予想もつかない動きをするから、止めるのも大変そうだ。
そんな話をしていたら、護衛騎士の隊長が部屋を訪ねてきた。
土下座はしていないけど、でもこの世界に土下座文化があったらしていそうな雰囲気で、深く頭を下げて謝られた。
「この宿に到着時、聖女様への接近を許したのは我々のミスです。大変申し訳ございませんでした」
「いえ、気にしていませんし、受け取ってもいいと思ったんですが」
「聖女様のお気持ちは尊重したいのですが、前例を作るべきではありません」
あそこでは受け取ったのに、ここではなんでいけないんだと言われないためにも、前例は作らないほうがいい。
理沙は不満そうだ。頭では分かっても納得できないのだろう。
けれど、聖女として振舞っている時に人との距離が近くなるのにはリスクがある。
「理沙、分かるけど、クインスでのようなことがまた起きる可能性もあるのよ」
「それは……」
「差し支えなければ、何があったのかお伺いしてもよろしいでしょうか」
理沙が私を見る。口に出すのが辛いなら私が言うけれど、そうでないなら自分で説明するよう伝えたら、理沙は少し迷ってから話し始めた。
私はその場にいたわけではないので、実際に何が起きたのか知らない。
「浄化に行った先で、来るのが遅すぎる、もっと早く来ていれば、と言われてしまって」
「クインスの護衛は何をしていたのでしょう」
「住民の期待や不満に応えるのも聖女の務めだと言われました」
そんなこと言ってたの?私も知らなかったわ。
ターシャちゃんやカーラちゃんだけでなく護衛騎士の隊長も、それはないだろうという顔をしているから、よっぽど非常識だったらしい。
後でターシャちゃんに聞いたら、王族の好感度アップのために理沙を使ったのだと教えてくれた。聖女の人気が出れば召喚した王族の好感度が上がるし、聖女が直接文句を受ければ王族の好感度は下がらない。
そうではなくて、単純に護衛のスキルが低かっただけかもしれないらしいけど、どちらにせよ理沙にはいい迷惑よ。
「聖女様にそのような義務はございませんよ。それにもし子どもがベールを掴んでしまった場合、多くの者がお顔を拝見することになりかねません。どうぞ今後は誰かが近づいてきても護衛に全てお任せください」
「分かりました」
あの時のように理沙の心が傷ついて折れてしまわないためにも、カーラちゃんたちには頑張ってもらおう。
今回の旅は、まずトルゴード国内のクインス側で浄化していない街を全て周り、その後クインスへ行く予定だ。
理沙がクインスから逃げ出してきたことは広く知られているので、トルゴード国内を後回しにしてクインスへ行くと、国内から反発が出かねない。
クインス国内は一部残ってはいるが、瘴気が濃いところは理沙が浄化しているのだから、急ぎではない。
「リサ様、マサコ様、次の街では普通の宿にお泊りいただきます。警備の都合上、おふたりで一部屋をお使いいただきたいのですが」
「構いませんよ」
「一緒でいいわ」
この旅から、理沙の世話係もロニアが担当するようになった。
ターシャちゃんは瘴気と魔物の研究が忙しいみたいだし、クインスでは王族に会うつもりもないから、ベイロールのようにターシャちゃんにずっとついていてもらう必要もない。
ロニアも浄化の旅に慣れたので、理沙の世話を引き受けても十分に手が回るようになった。
今お城では、理沙と私の部屋を別々にしてもらっている。
理沙が私と話したいときは私の部屋に来るし、今日は一緒に寝ていい?と聞いて来た時は、同じ部屋で寝ている。
理沙の部屋にも私の部屋にもベッドは2つあるので、どちらにも泊まりに行ける。理沙が泊まりに来るときはおそらく何か心に引っかかることがある時なんだとは思うけど、私から聞くことはしていない。ベイロールでのことから完全に立ち直ってはいないだろうけど、話したくなったら自分から話すと信じて見守ろう。
別々の部屋に最初は寂しがっていた理沙も、最近ではターシャちゃんやリリーちゃんたち護衛の当番じゃない人を部屋に招いて話をしたりしているようだ。
お茶会で女の子の友達を作ろう作戦は、まだ部屋に招くほど仲良くなった人はいないみたいなので、進行中なのだろう。
浄化を終えて、今日泊まる宿へ足を踏み入れようとしたとき、護衛の間をすり抜けて、小学校低学年くらいの女の子が花束をもって理沙に駆け寄ってきた。
理沙はしゃがんで受け取ろうとしたけれど、女の子の花束が手に届く直前に、カーラちゃんが理沙と女の子の間に割って入った。
「聖女様、建物にお入りください」
「え、でも」
「お入りください」
受け取ろうとしていた理沙は少し不服そうだったけど、カーラちゃんの言葉に従って宿へと入った。
宿で夕食をいただいてくつろいでいたら、ターシャちゃんが部屋に来てくれた。
あの子が渡そうとしていた花束は後から届けられて、花瓶に挿して机の上に飾られている。
「理沙さん、子どもが近寄ったと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「その花を受け取ろうとしたんですけど、止められちゃって」
「そういう時は、護衛かロニアに代わりに受け取るよう言ってください」
事前にここで花束を受け取ります、などと言われていない場合は、近づいてきた人は全員不審者らしい。
武器などが仕込まれていないかチェックされていないものは直接触ってはいけない。花の棘に毒薬を塗るっていうのがミステリーであったような気がする。
言われてみれば当然だけど、咄嗟にできる気がしないわ。
ターシャちゃんによると、あの女の子を通すというミスをしてしまったので、護衛騎士たちは警護体制の見直しで大騒ぎらしい。
でも子どもって予想もつかない動きをするから、止めるのも大変そうだ。
そんな話をしていたら、護衛騎士の隊長が部屋を訪ねてきた。
土下座はしていないけど、でもこの世界に土下座文化があったらしていそうな雰囲気で、深く頭を下げて謝られた。
「この宿に到着時、聖女様への接近を許したのは我々のミスです。大変申し訳ございませんでした」
「いえ、気にしていませんし、受け取ってもいいと思ったんですが」
「聖女様のお気持ちは尊重したいのですが、前例を作るべきではありません」
あそこでは受け取ったのに、ここではなんでいけないんだと言われないためにも、前例は作らないほうがいい。
理沙は不満そうだ。頭では分かっても納得できないのだろう。
けれど、聖女として振舞っている時に人との距離が近くなるのにはリスクがある。
「理沙、分かるけど、クインスでのようなことがまた起きる可能性もあるのよ」
「それは……」
「差し支えなければ、何があったのかお伺いしてもよろしいでしょうか」
理沙が私を見る。口に出すのが辛いなら私が言うけれど、そうでないなら自分で説明するよう伝えたら、理沙は少し迷ってから話し始めた。
私はその場にいたわけではないので、実際に何が起きたのか知らない。
「浄化に行った先で、来るのが遅すぎる、もっと早く来ていれば、と言われてしまって」
「クインスの護衛は何をしていたのでしょう」
「住民の期待や不満に応えるのも聖女の務めだと言われました」
そんなこと言ってたの?私も知らなかったわ。
ターシャちゃんやカーラちゃんだけでなく護衛騎士の隊長も、それはないだろうという顔をしているから、よっぽど非常識だったらしい。
後でターシャちゃんに聞いたら、王族の好感度アップのために理沙を使ったのだと教えてくれた。聖女の人気が出れば召喚した王族の好感度が上がるし、聖女が直接文句を受ければ王族の好感度は下がらない。
そうではなくて、単純に護衛のスキルが低かっただけかもしれないらしいけど、どちらにせよ理沙にはいい迷惑よ。
「聖女様にそのような義務はございませんよ。それにもし子どもがベールを掴んでしまった場合、多くの者がお顔を拝見することになりかねません。どうぞ今後は誰かが近づいてきても護衛に全てお任せください」
「分かりました」
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