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7章 クインス再訪編
10. 魔物図鑑
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「聖女様のご指示でナスターシャ様が進めていらっしゃる魔物の情報共有に、クインスも協力することになりました」
「魔物図鑑ね」
理沙の聖女召喚を止めたいという希望を受けて、ターシャちゃんが対策を考えているその一つの策として、魔物図鑑を作る話が出ている。
魔物の情報は国を越えて共有されていない。秘匿しているとまではいかないが、積極的に情報開示もされていない。
その情報を集めて図鑑を作ろうというのだ。
魔物の分布、強さ、標準的な倒し方を共有すれば、珍しい魔物が出現した時などに役立つのではないかと考えられている。
国を越えて協力を要請するなんて、聖女の呼びかけでなければ実現しない。
瘴気の影響を受けて特に魔物の多いトルゴード、クインス、ベイロールで協力することが、今回の理沙の訪問の裏で決まった。
冒険者は国を越えて活動するので、冒険者の間で共有されている情報もあるけれど、こうすれば簡単に倒せるというようなマル秘情報は飯のタネとして当然伏せられている。
今回の情報共有は、国の間であって冒険者は含まれていないので、冒険者の仕事には影響ないはずだが、それは蓋を開けてみないと何とも言えない。
ただ、知識があっても経験がなければどうにもならない分野ではあるので、そこまで大きな影響はでないだろう。
「ナスターシャ様はボターニ王国のご出身で魔物にはあまり縁がないでしょうに、あのように熱心に取り組んでいらっしゃるのは、やはりジェンシャン殿のためなのでしょうね」
「あー、そうかもねえ」
フィル君、ポーカーフェースが崩れているわよ。
ターシャちゃんとジェン君のやり取りを見ていると、完全にジェン君が振り回されている様に見えるから笑いたくなる気持ちも分かるけど、私だって耐えてるんだから頑張って。
多分ターシャちゃんはそんな大層な理由じゃなくて、魔物の一覧が欲しいっていうくらいのノリだと思うわ。
知らない魔物が出たら、特徴を入力して倒し方をスマホで検索したい。でもそんな便利なものはないから作っちゃおうって感じでしょう。
「マサコさん、先ほどのズカンというのは何ですか?」
「ほら、冒険者ギルドで薬草の本があったでしょう。ああいう図入りの本」
「マサコさんの世界では庶民でも本を手に取ることができるんでしたね」
そういえば、レイ君と最初に会ったときに、図書館が通じなかったんだわ。
すべて写本で増やしていくとなると、挿絵と違って絵にも正確性が求められる図鑑は大変そうね。
ギルドにあった薬草の本も、本というよりはどちらかというと紙を綴じただけの資料で、採取に必要な情報しか書かれていなかった。
今なら印刷が三大発明と言われるのも頷けるわ。
「フィリップ殿はベイロールへも同行されたのですか?」
「はい」
「国でやはり魔物の違いはありましたか?」
「私は魔物とは遭遇しておりませんが、ベイロールは魔物の種類が全く違ったと聞いています。クインスは北の森が続いているためか似た魔物が多いですね」
同じ森から出て来るなら同じような魔物になるのは当然か。
どうでもいいけど、フィル君の名前ってフィリップだったの。
最初にフィルって自己紹介されたけど、私が長い名前が覚えられなくてみんな2文字で呼んでたからかしら。
そんな話をしているうちに、ギルドで乗り込んだ馬車が代官のお屋敷についた。
「レイ君、今日は付き合ってくれてありがとう」
「どういたしまして。私もマサコさんの冒険者体験に付き合うのは楽しかったですよ」
「そういってもらえると気が楽になるわ」
さすが、最後にリップサービスも忘れない。こういうところ、貴族ってすごいなと感心するわ。子どものころから話術と社交性を磨くのでしょうね。
さわやかな笑顔に送られて部屋に帰ると、理沙がターシャちゃんと話していた。
「お母さん、お帰り」
「お帰りなさい。ギルドはいかがでしたか?」
「ただいま。筋肉痛は大丈夫? ギルドは知り合いがいたので少しだけ話してきたわ。レイ君が魔物図鑑に協力するって言ってたわよ」
「今理沙さんにその話をちょうどしていたところです。宰相のご子息直々とは驚きました」
レイ君のお父さん、きっと理沙と私のレイ君に対する好感度の高さを最大限に利用するつもりでしょう。となると対聖女様のクインス代表はレイ君になる。
魔物図鑑に協力するなら、もしかしたら今後またトルゴードで会う機会もあるかもしれない。
「そうそう、図鑑が通じなかったわ」
「言われてみれば、この世界には写真がないので、図鑑は一般的ではないのでしょう。ほとんど見ませんね」
「魔物の絵って誰が書く予定なんですか?」
「騎士の中に絵の得意な人にお願いする予定です」
理沙が浄化をしているところを絵に残すために画家がついてきているけど、彼らに魔物を観察して描いてもらうより、騎士の中で絵が上手な人を探す方が早いだろう。日頃戦っているからこそ見えることもあるだろうし。
でも理沙がターシャちゃんに協力をお願いしてからまだ半年なのに、ここまで話を進めるターシャちゃんってやっぱり優秀ね。
「それで理沙、明日は動けそうなの?」
「今日寝たら多分治る。治ると信じてる」
少し動くだけでも辛そうなのに明日回復できるなんて、若さが羨ましいわ。
「魔物図鑑ね」
理沙の聖女召喚を止めたいという希望を受けて、ターシャちゃんが対策を考えているその一つの策として、魔物図鑑を作る話が出ている。
魔物の情報は国を越えて共有されていない。秘匿しているとまではいかないが、積極的に情報開示もされていない。
その情報を集めて図鑑を作ろうというのだ。
魔物の分布、強さ、標準的な倒し方を共有すれば、珍しい魔物が出現した時などに役立つのではないかと考えられている。
国を越えて協力を要請するなんて、聖女の呼びかけでなければ実現しない。
瘴気の影響を受けて特に魔物の多いトルゴード、クインス、ベイロールで協力することが、今回の理沙の訪問の裏で決まった。
冒険者は国を越えて活動するので、冒険者の間で共有されている情報もあるけれど、こうすれば簡単に倒せるというようなマル秘情報は飯のタネとして当然伏せられている。
今回の情報共有は、国の間であって冒険者は含まれていないので、冒険者の仕事には影響ないはずだが、それは蓋を開けてみないと何とも言えない。
ただ、知識があっても経験がなければどうにもならない分野ではあるので、そこまで大きな影響はでないだろう。
「ナスターシャ様はボターニ王国のご出身で魔物にはあまり縁がないでしょうに、あのように熱心に取り組んでいらっしゃるのは、やはりジェンシャン殿のためなのでしょうね」
「あー、そうかもねえ」
フィル君、ポーカーフェースが崩れているわよ。
ターシャちゃんとジェン君のやり取りを見ていると、完全にジェン君が振り回されている様に見えるから笑いたくなる気持ちも分かるけど、私だって耐えてるんだから頑張って。
多分ターシャちゃんはそんな大層な理由じゃなくて、魔物の一覧が欲しいっていうくらいのノリだと思うわ。
知らない魔物が出たら、特徴を入力して倒し方をスマホで検索したい。でもそんな便利なものはないから作っちゃおうって感じでしょう。
「マサコさん、先ほどのズカンというのは何ですか?」
「ほら、冒険者ギルドで薬草の本があったでしょう。ああいう図入りの本」
「マサコさんの世界では庶民でも本を手に取ることができるんでしたね」
そういえば、レイ君と最初に会ったときに、図書館が通じなかったんだわ。
すべて写本で増やしていくとなると、挿絵と違って絵にも正確性が求められる図鑑は大変そうね。
ギルドにあった薬草の本も、本というよりはどちらかというと紙を綴じただけの資料で、採取に必要な情報しか書かれていなかった。
今なら印刷が三大発明と言われるのも頷けるわ。
「フィリップ殿はベイロールへも同行されたのですか?」
「はい」
「国でやはり魔物の違いはありましたか?」
「私は魔物とは遭遇しておりませんが、ベイロールは魔物の種類が全く違ったと聞いています。クインスは北の森が続いているためか似た魔物が多いですね」
同じ森から出て来るなら同じような魔物になるのは当然か。
どうでもいいけど、フィル君の名前ってフィリップだったの。
最初にフィルって自己紹介されたけど、私が長い名前が覚えられなくてみんな2文字で呼んでたからかしら。
そんな話をしているうちに、ギルドで乗り込んだ馬車が代官のお屋敷についた。
「レイ君、今日は付き合ってくれてありがとう」
「どういたしまして。私もマサコさんの冒険者体験に付き合うのは楽しかったですよ」
「そういってもらえると気が楽になるわ」
さすが、最後にリップサービスも忘れない。こういうところ、貴族ってすごいなと感心するわ。子どものころから話術と社交性を磨くのでしょうね。
さわやかな笑顔に送られて部屋に帰ると、理沙がターシャちゃんと話していた。
「お母さん、お帰り」
「お帰りなさい。ギルドはいかがでしたか?」
「ただいま。筋肉痛は大丈夫? ギルドは知り合いがいたので少しだけ話してきたわ。レイ君が魔物図鑑に協力するって言ってたわよ」
「今理沙さんにその話をちょうどしていたところです。宰相のご子息直々とは驚きました」
レイ君のお父さん、きっと理沙と私のレイ君に対する好感度の高さを最大限に利用するつもりでしょう。となると対聖女様のクインス代表はレイ君になる。
魔物図鑑に協力するなら、もしかしたら今後またトルゴードで会う機会もあるかもしれない。
「そうそう、図鑑が通じなかったわ」
「言われてみれば、この世界には写真がないので、図鑑は一般的ではないのでしょう。ほとんど見ませんね」
「魔物の絵って誰が書く予定なんですか?」
「騎士の中に絵の得意な人にお願いする予定です」
理沙が浄化をしているところを絵に残すために画家がついてきているけど、彼らに魔物を観察して描いてもらうより、騎士の中で絵が上手な人を探す方が早いだろう。日頃戦っているからこそ見えることもあるだろうし。
でも理沙がターシャちゃんに協力をお願いしてからまだ半年なのに、ここまで話を進めるターシャちゃんってやっぱり優秀ね。
「それで理沙、明日は動けそうなの?」
「今日寝たら多分治る。治ると信じてる」
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