巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

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7章 クインス再訪編

12. 話題提供

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「ミュラさん!」
「リーザちゃん、大人っぽくなって、綺麗になったわねえ」
「え、ありがとうございます。こんなところまで来て、宿は大丈夫なんですか?」
「平気よ。心配してくれてありがとね」

 久しぶりにリーザと呼ばれた理沙は嬉しそうだ。
 そういえば、理沙のお城以外での知り合いは、ミュラの家族だけだ。
 私は冒険者や下町でおしゃべりをしていた主婦仲間がいたけれど、理沙が浄化の旅以外でお城から出て泊ったところは、トルゴードを含めてもミュラの宿しかない。
 やっぱり理沙の友達作りは急務ね。

「理沙、今日は馬は平気だった?」
「一昨日よりは」
「ロニア、今日も理沙のマッサージをお願いできる?」

 ミュラがいるからマッサージは後にしてほしいと理沙は言ったけど、マッサージしながらでも話せるからというミュラの言葉に大人しくソファに横になった。
 また昨日のような筋肉痛になりたくないのだろう。
 ミュラは気にしないだろうけど、お行儀がよくないのは許してほしい。

「ミュラさん、いつまでこちらに?」
「明日帰るわ。宿は娘のサンクァに任せてきたんだけど、長くは留守にできないから」
「お嬢さんに手伝ってもらってるの?」
「そうよ。あんたが急にいなくなったから従業員が足りないのよ。でも信用できない人を雇う訳にいかないから、今は近所の主婦にも手伝ってもらってるわ」

 申し訳ない。
 しかも聖女様がいた宿として大繁盛しているから常に満室で、人手が足りないらしい。
 クインスの下町で聖女様に関するどんな噂があるのかや、宿に来る人のこともいろいろと教えてくれた。

「聖女様の泊った部屋に泊まりたいって言う人が多くてね。従業員用だから無理ですって言ってもなかなか引き下がってくれないのよ」
「ええ、なんかちょっと気持ち悪い」
「理沙だって、推しのアイドルが泊まったホテルに泊まるんだったら、同じ部屋がいいんじゃないの?」
「言われてみれば同じ……?」

 あそこはホテルの部屋じゃなくて自室だったから理沙の気持ちは当然だけど、ホテルの部屋だと思うとお客さんの気持ちも分かるわ。単純にミーハーなだけでしょう。

「それでね、リーザちゃんがお部屋にかけるために選んだ布があるでしょう。同じ布を談話室の机にかけて、聖女様が選んだ柄ですって言ってるの。ちょっと違うけど、いいよね?」
「ミュラ、それはだいぶ事後承諾じゃないの」
「リーザちゃんなら許してくれると思って」
「構いませんよ。嘘じゃないし」

 まあ嘘じゃないわ。理沙が選んだ布には違いない。談話室の机用じゃないけど。
 でもそれはまだミュラのお願いの序の口だった。

「お客さんに言っても平気な聖女様のネタはないかしら」
「ネタって?」
「まずは、慣れない移動で身体が辛い中でも笑顔で『ミュラさん、会えて嬉しいです』って言ってくれたって自慢するでしょう。後はなんかない? マーサの宿でもあるんだから、なんか話題を提供してよ」

 クインスに理沙が来ている、ミュラが休みを取った、これが重なれば会いに行ったと思われるでしょうね。で、お客さんにその話をするのに、何かいいネタはないかってことね。
 何がいいかしら。
 ミュラは、理沙は普通の少女で、それなのに浄化を頑張っているという風に噂を広めてくれたようだから、そういう話がいいわよね。

「トルゴードで薬草から簡単なポーションを作るのに挑戦したら上手にできたっていうのはどう?」
「そんなことしてたの?」
「一度だけ体験させてもらったのよ。理沙は薬草採取が全くダメだったけど」
「お母さん!」

 ミュラがそれは良い話題だと乗り気だけど、理沙はバラされて不満そうだ。ごめんね。

「ミュラさん、薬草採取が出来なかったっていうのは言わないでください。その代わりに、お母さんがダンスが全然できなかったっていうのは言ってもいいです」
「踊れてたでしょう? くるくるしてたし」
「お母さん、何回お相手の足踏んだ?」

 数えきれないくらい? なんでか足を出したところにお相手の騎士さんの足があったのよ。
 私のせいじゃないと言いたいけど、私のせいね。理沙はデイジーちゃんの足を踏んでなかったし。
 私たちがあの時はどうだったと言っているのを見て、ミュラが笑っている。

「ふたりともトルゴードで楽しくやってるみたいで安心したわ」
「ミュラ?」
「あんな風にクインスを出ることになったからね。これでも心配してたのよ」

 ああ、そうか。ミュラは理沙が傷ついて、これ以上お城にいたくないと言ったところを見ている。
 それからほとんど話せないままに国を出てしまった私たちのことを心配してくれていたのだ。
 いつも通りに図々しい感じで接してくれていたのも、きっと気遣いなのだろう。ちょっと自信がないけど。

「ミュラさんと話してるとお母さんが楽しそうで、私も嬉しいです」
「理沙……」
「リーザちゃん、本当にいい子ねえ。マーサにはもったいないわ」
「あげないわよ」

 理沙がいい子なのは私が一番よく知ってるわよ。

 その日の夕食は料理長の作ってくれたチーズハンバーグを食べながら、私たちがクインスを出てからどんなことがあったのか、お互いに話が尽きなかった。
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