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8章 ローズモス編
1. 紙芝居
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理沙の最後の訪問地、ローズモス王国行きの準備が進んでいる。
今回、ターシャちゃんはお姉さんに会うという大切な用事があるので、私たちの世話係からは外れる。
幸いローズが来てくれたので、ロニアと二人で理沙と私の世話をしてくれるから、手は足りている。
何の世話が必要かというと、ドレスの着付けだ。
ローズモス王国はこの近辺で一番大きな国で、国としての力もトルゴードとは比べ物にならない。
ローズモスと仲が良いとアピールしておくと、他の国からのちょっかいもローズモスがトルゴードと協力して止めてくれるそうで、理沙のためにもなる。
そのためローズモスでは、いくつか理沙も参加するパーティーが予定されている。
長いものには巻かれておいた方がいいよね、という日本人的発想で理沙も私も納得している。
ローズモスで着用する予定のドレスは、半分はトルゴードで王妃様とターシャちゃんのお母さんが、残りの半分はローズモスでターシャちゃんのお姉さんが用意してくれることになっている。
ターシャちゃんのお姉さんはファッションリーダーだそうだ。今はファッションリーダーって言わないで、インフルエンサーなのかしら。まあとにかく、彼女はおしゃれさんなので、ローズモスの流行のドレスを用意してくれることになっている。
理沙のお披露目パーティーの後に話したときに、理沙とふたりでファッションの話で盛り上がっていたので、きっと理沙の気に入るものを作ってくれるだろう。
さて、絵本を作ろうプロジェクト第二回の会議が、第一回から間をあけずに開催だ。
この絵本をローズモス王国に売り込みたいので、出発するまでに一つでいいから試作品を作りたいということで、担当者の人がちゃんと寝ているのか心配になるスケジュールで進んでいる。
そんな状況で前回大幅な路線変更があったにもかかわらず、絵本の案が出来ていた。国でお仕事する人たちはさすが優秀だ。
「子どもたちへの教訓となるような日常のひとこまということで、魔物に出会ってしまった少女が無事に逃げ切ることができたお話にしてみました」
旅の途中で魔物に出会ってしまったお母さんと少女が物陰で息を殺して魔物をやり過ごし、後から来た馬車に助けを求めて無事に街へ着くというお話だった。
やっぱりどこまでいっても魔物なのね。
ここで約束を守る大切さとか、友情の大切さとかじゃなくて、魔物が一番に出てくるのが切ない。
実際に魔物に会ったときの対処方法としてはこれが推奨される方法で、魔物のスペシャリストである第二騎士団監修らしい。
理沙は親子の旅の服装、馬車の見た目を詳しく聞いて、さらさらと登場する人や物の下絵を描いている。
だけど、読み聞かせの絵本としてこの内容でいいのか、私は疑問だ。
「この絵本って、今のところ買うのは裕福な人が想定されているのよね?」
「そうですね。庶民には本を買う余裕はないでしょうから、教会などで目にできるように工夫するつもりです」
「じゃあこの絵本を実際に手に取る子どもたちは、そもそも魔物に出会うとしても護衛がいるんじゃないの?」
対象と手段がミスマッチな気がする。
貴族や裕福な庶民なら、街の外に出るときには護衛がいるはずだ。もちろんその子どもたちだって対処法は知っておいた方がいいけれど、本を手に取ることのできない、護衛を付ける余裕のない子どもたちのほうが必要になる知識なんじゃないだろうか。そういう子は街の外に出ないと言われればそれまでだけど。
「庶民のおうちに配ったりはできないんですか?」
「聖女様のご希望であれば可能ですが、文字が読める者たちばかりではありませんので……」
理沙が自治体が無料配布している広報のような感じでこのお話を配れないのかと提案したけれど、読み聞かせをしてあげられる親ばかりじゃないからと反対されてしまった。
そもそもこの世界は識字率が高くないということを私も失念していた。
「絵だけで伝わるようにセリフなし? 私、そんなに上手に描けるかなあ」
「あ、紙芝居は?」
児童館で紙芝居が始まると、子どもたちが目を輝かせて見入っていた。話し手の技量が必要だけど、あれは絵だけだからいいんじゃない?
紙芝居がどんなものかを説明すると、それは良い案だと今度は受け入れてもらえた。
「国内を順に周って、そこで教会に子どもを集めてもらえば、小さな街や村の子どもたちにも伝わりますね」
「そうなると、お話はいくつかあるほうがよさそうですね」
だったらご飯の前に手を洗いましょうとかも入れてほしいわ。
高い衛生観念の日本から来た身としては、宿でもけっこう気になったのよね。
ひとまずローズモスへは、魔物から逃げおおせた少女のお話の絵本と紙芝居の試作品を持って行くことに決まったので、理沙はこれから大急ぎでお絵描きだ。
「間に合うかなあ」
「どういうものを作るかが伝わればいいんだから、とりあえず全部下絵を描いて、一つだけちゃんと色を着けておけばいいわよ」
「そんなのでいいの?」
「完成したものを見せるのが目的じゃないでしょう。時間は平等だから、どう頑張っても無理なときは無理よ」
仕事をしているとそんな状況にはよく当たるから、出来る範囲の中でいかに誤魔化すかをまず考えるようになってしまう。
理沙の真面目さを少しは見習わないといけないわね。
今回、ターシャちゃんはお姉さんに会うという大切な用事があるので、私たちの世話係からは外れる。
幸いローズが来てくれたので、ロニアと二人で理沙と私の世話をしてくれるから、手は足りている。
何の世話が必要かというと、ドレスの着付けだ。
ローズモス王国はこの近辺で一番大きな国で、国としての力もトルゴードとは比べ物にならない。
ローズモスと仲が良いとアピールしておくと、他の国からのちょっかいもローズモスがトルゴードと協力して止めてくれるそうで、理沙のためにもなる。
そのためローズモスでは、いくつか理沙も参加するパーティーが予定されている。
長いものには巻かれておいた方がいいよね、という日本人的発想で理沙も私も納得している。
ローズモスで着用する予定のドレスは、半分はトルゴードで王妃様とターシャちゃんのお母さんが、残りの半分はローズモスでターシャちゃんのお姉さんが用意してくれることになっている。
ターシャちゃんのお姉さんはファッションリーダーだそうだ。今はファッションリーダーって言わないで、インフルエンサーなのかしら。まあとにかく、彼女はおしゃれさんなので、ローズモスの流行のドレスを用意してくれることになっている。
理沙のお披露目パーティーの後に話したときに、理沙とふたりでファッションの話で盛り上がっていたので、きっと理沙の気に入るものを作ってくれるだろう。
さて、絵本を作ろうプロジェクト第二回の会議が、第一回から間をあけずに開催だ。
この絵本をローズモス王国に売り込みたいので、出発するまでに一つでいいから試作品を作りたいということで、担当者の人がちゃんと寝ているのか心配になるスケジュールで進んでいる。
そんな状況で前回大幅な路線変更があったにもかかわらず、絵本の案が出来ていた。国でお仕事する人たちはさすが優秀だ。
「子どもたちへの教訓となるような日常のひとこまということで、魔物に出会ってしまった少女が無事に逃げ切ることができたお話にしてみました」
旅の途中で魔物に出会ってしまったお母さんと少女が物陰で息を殺して魔物をやり過ごし、後から来た馬車に助けを求めて無事に街へ着くというお話だった。
やっぱりどこまでいっても魔物なのね。
ここで約束を守る大切さとか、友情の大切さとかじゃなくて、魔物が一番に出てくるのが切ない。
実際に魔物に会ったときの対処方法としてはこれが推奨される方法で、魔物のスペシャリストである第二騎士団監修らしい。
理沙は親子の旅の服装、馬車の見た目を詳しく聞いて、さらさらと登場する人や物の下絵を描いている。
だけど、読み聞かせの絵本としてこの内容でいいのか、私は疑問だ。
「この絵本って、今のところ買うのは裕福な人が想定されているのよね?」
「そうですね。庶民には本を買う余裕はないでしょうから、教会などで目にできるように工夫するつもりです」
「じゃあこの絵本を実際に手に取る子どもたちは、そもそも魔物に出会うとしても護衛がいるんじゃないの?」
対象と手段がミスマッチな気がする。
貴族や裕福な庶民なら、街の外に出るときには護衛がいるはずだ。もちろんその子どもたちだって対処法は知っておいた方がいいけれど、本を手に取ることのできない、護衛を付ける余裕のない子どもたちのほうが必要になる知識なんじゃないだろうか。そういう子は街の外に出ないと言われればそれまでだけど。
「庶民のおうちに配ったりはできないんですか?」
「聖女様のご希望であれば可能ですが、文字が読める者たちばかりではありませんので……」
理沙が自治体が無料配布している広報のような感じでこのお話を配れないのかと提案したけれど、読み聞かせをしてあげられる親ばかりじゃないからと反対されてしまった。
そもそもこの世界は識字率が高くないということを私も失念していた。
「絵だけで伝わるようにセリフなし? 私、そんなに上手に描けるかなあ」
「あ、紙芝居は?」
児童館で紙芝居が始まると、子どもたちが目を輝かせて見入っていた。話し手の技量が必要だけど、あれは絵だけだからいいんじゃない?
紙芝居がどんなものかを説明すると、それは良い案だと今度は受け入れてもらえた。
「国内を順に周って、そこで教会に子どもを集めてもらえば、小さな街や村の子どもたちにも伝わりますね」
「そうなると、お話はいくつかあるほうがよさそうですね」
だったらご飯の前に手を洗いましょうとかも入れてほしいわ。
高い衛生観念の日本から来た身としては、宿でもけっこう気になったのよね。
ひとまずローズモスへは、魔物から逃げおおせた少女のお話の絵本と紙芝居の試作品を持って行くことに決まったので、理沙はこれから大急ぎでお絵描きだ。
「間に合うかなあ」
「どういうものを作るかが伝わればいいんだから、とりあえず全部下絵を描いて、一つだけちゃんと色を着けておけばいいわよ」
「そんなのでいいの?」
「完成したものを見せるのが目的じゃないでしょう。時間は平等だから、どう頑張っても無理なときは無理よ」
仕事をしているとそんな状況にはよく当たるから、出来る範囲の中でいかに誤魔化すかをまず考えるようになってしまう。
理沙の真面目さを少しは見習わないといけないわね。
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