巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

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7章 クインス再訪編

13. 方向転換

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 翌朝ミュラはクインスの王都へと帰って行った。
 ミュラはこの世界でできた初めての友達だ。彼女がいてくれたから、私はこの世界で自立して宿をやっていけると思えた。
 本当はもっと頻繁に会いたいけれど、それは今のところ難しい。
 けれどいつかまた会える。交通手段は発達していないけど、世界は繋がっているのだから。


 理沙は馬での移動に苦戦しながらも、クインスでの浄化を無事に終わらせた。
 そして、国境を越えてトルゴードに戻ったところで、理沙がホッと小さく息を吐いた、それがとても印象的だった。
 いろんな思いを抱えて頑張った理沙を褒めてあげたい。

「お疲れ様」
「上手く言えないけど、一つ肩の荷が下りた気がする」
「よく頑張ったわ。これで浄化もほとんど終わったわね」

 まだローズモス行きが残っているけど、あそこは半分遊びだ。
 この辺りで一番大きな国だから行ってみたいというのもあるし、ターシャちゃんのお姉さんのお姫様と理沙は仲良く話をしていたから彼女に会いに行くという理由もある。
 今までの旅と違って、観光気分がどうしても出てしまう。
 でも理沙もあのお姫様と会えるのを楽しみにしているようだから、いいわよね。


 トルゴードに戻ってしばらくは、お城でのんびりする。
 移動続きでは疲れてしまうし、ローズがこのお城に慣れる必要もある。

 ということで、その時間を利用して、絵本を作ろうプロジェクト第一回の会議を行おう。
 絵本を作ろうというのは、クインス行きの途中でロニアとターシャちゃんから提案があったことだ。
 日本のお話をもとにして読み聞かせの絵本を作り、理沙が絵を描く。理沙が描いた原本は教会で公開し、写本を売るという計画だ。

 今日の会議は初回なので、まずは担当者の顔合わせと、スケジュールと、どのお話が使えそうかの確認だ。
 私が字の練習がてらお話のあらすじを書き出したものは事前に渡してある。
 クインスに行くために中断していた聞き取り調査の場に、王国史などの文章を書くのがお仕事をしている人たちも出席して開催されている。
 今回は発案者のターシャちゃんに加え、絵を描く予定の理沙が出席しているので、いつも聞き取り調査をしている人たちも緊張しているのが分かる。

 そして会議の冒頭、私が書き出したお話へのダメ出しが行われている。

「オニは魔物のようなものですよね? 魔物が優しいというのは、子どもに誤解を生じさせます」
「あの、この兎の女の子のお話ですが、聖女様の世界では食料の動物もしゃべるのですか?」
「一人で山や川へ行っても危険はないのですね」

 まず、鬼とか妖怪が出てくるものはすべて却下。この世界に代わる存在がいないので、話が成り立たない。
 それから動物の擬人化も却下。そもそも庶民にはペットが身近ではないし、動物型の魔物もいるので魔物に親しみを持たせてしまうかもしれない。
 森とか山が出てくるものは、魔物がいるところへ勝手に行ってしまうと危険なのでダメ。
 日常のひとこまをきりとったものは、こちらの日常の話で新しく作ったほうがいい。

 川に流れてきた果物の中に赤ちゃんがいたら魔物だと思って討伐すると言われた時には、理沙と顔を見合わせてしまった。
 命への脅威として魔物が存在する世界の現実を突き付けられた気がした。
 魔物がいるということを除けば、生活水準が違うだけだと思っていたけれど、それはただ表面に現れないので見えていなかっただけで、魔物の存在がこの世界のすべてに影響を及ぼしているのだ。
 だからこそ、聖女が特別なのだ。

「私たちの世界は関係なく、子どもが読む絵の多い本として、話自体は独自で作成したほうがよさそうですね」
「そうですね。そこに聖女様に絵を描いていただければ、十分に話題となるでしょう」

 子ども向けの本、というものがこの世界にはほとんどないので、それで十分話題になるらしい。
 どんなお話にするかは次までにいくつか候補を考えて持ってきてくれることになった。

「試しに絵を描いてみたので、見てもらってもいいですか? こんな絵で大丈夫ですか?」
「とても可愛らしい絵ですね」

 お話がことごとくダメだしされてしまったので、理沙も心配になったようで遠慮がちに絵を見せた。
 動物の絵は全部使えないから、子どもの絵を描くことになるだろう。けれど私たちは子どもが普段どんな服装をしているのか、家の中では靴を履いているのかどうかも知らない。
 絵を描く前に、細かく打ち合わせをしてもらう必要がありそうだ。

 絵本計画は出だしから方向転換が必要になってしまった。
 今後仕事にしていけそうだと思っていたものがなくなってしまったのは残念だけど、教会に理沙の自由を約束させることはできそうだから、それだけでも十分な成果だ。
 いつだって計画通りに行くことのほうが珍しいのだから、気を取り直して、他に私にできることがあるか考えよう。

「おふたりとも申し訳ございませんでした」
「どうして謝るの?」
「提案した時は問題ないと思ったのですが、日本の記憶があるとこの世界では普通ではないということに気づけないものですね」

 ターシャちゃんは多少設定を変えればこの世界のお話にできると思っていたので、ここまで全滅になるとは思っていたなかったそうだ。
 日本での記憶に引きずられて、ターシャちゃんの常識とこの世界の常識にずれが出ているのだ。
 謝る必要は全くないのだけど、気になることがある。

「ターシャちゃん、今日のことをちゃんとジェン君に話して」
「政子さん?」

 ターシャちゃんは今までこういう周りとのずれを感じたことが何度もあったんじゃないかな。
 ターシャちゃんのお姉さんによるとターシャちゃんはあまり同年代の子たちと親しくしていなかったらしい。もちろん精神年齢の違いが一番だろうけど、なじめない何かを感じて距離を置いていたんじゃないかと思ってしまう。
 けれど、今回のことも含めて、誰にも何も言わずに自分の胸の中に閉じ込めてしまいそうだ。
 せめて一番身近な人には伝えておいてほしい。
 ターシャちゃんとジェン君の関係がどんなものはかは知らないけれど、少なくともジェン君はターシャンちゃんを気遣っているように見えるから、おばちゃんのおせっかいだ。
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