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8章 ローズモス編
5. 実演
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「お姫様と何の話をしたの?」
「特には。社交辞令? お母さんは?」
「トルゴードでの生活について聞かれたから答えたわ。後、日本は芸術に力を入れた国だったのかと聞かれたけど、そういうのってどこと比べてなのかが分からなくて答え辛い」
「分かる。困ってることはありませんかって聞かれたんだけど、馬車の振動が辛いって言ってもどうにもならないし、ないって答えるしかないよね」
本当に。電気と水道がないのが困ってますって言ったところで解決方法はないもの。
「そういえば、レリチアさんとターシャさんのお父さんがボターニから来てるんだって」
「パーティーのため?」
「そう。こんな機会でもないと会いに来れないからって。奥さんが亡くなられてからレリチアさんを溺愛していたから、本当はボターニから出したくなかったんだって」
親子関係は希薄だと聞いている貴族にしては珍しいわね。娘自身に溺愛って言わせるなんて余程よ。
「再婚もしていないらしいから、お母さん、どう?」
「え?」
「再婚同士でいいんじゃない? 明日レリチアさんに言ってみよう」
いやいや、ちょっと待って。なんで急に私のお相手探しに乗り気になっているの。
よくよく聞きだしてみると、ベイロールの一件以降周りから気を遣われているのが分かってちょっと煩わしいから、私の恋愛話に注目を移そうという計画だった。
理沙、意外に強かね。
でもあちらにだって好みってものがあるでしょう、と思ったけど、そういえば政略結婚が主流の貴族なら、私モテモテじゃない?
聖女本人が無理ならせめて母親と縁を作りたいって人はたくさんいそう。そんなモテ期、気づきたくなかった。
いよいよ、紙芝居と絵本のお披露目だ。
トルゴードでも詳細を知っているのはごく一部なので、王子様も興味を隠せないでいる。別に秘密にしていた訳ではなく、単純に準備が間に合っていなかっただけだ。
出席しているのは王族だけでなく、官吏や教会の人もいる。
「聖女様の世界では、平民であっても子どものころから本やお話に触れて育つそうです。平民の子どもたちへの啓蒙のために、紙芝居を作成しました。絵は聖女様がお描きになりました」
絵本プロジェクトの担当者が説明の後、実際に紙芝居を披露した。
少女が旅に出て、魔物に出会い、息をひそめてやり過ごし、後から来た馬車に助けを求めて、無事に街へとたどり着く。
理沙の絵に出てくる魔物は恐怖を与えないように抽象化されているけど、子どもの絵からは旅への楽しみ、魔物への怯え、街についた安堵が読み取れる。
紙芝居は好評だった。そもそもこういう娯楽がないので珍しいのだ。
「魔物の被害を減らすために、この絵本を平民の子どもたちの手に届くようにしたいのです。ぜひご協力をお願いいたします」
そう言って頭を下げた理沙に、王様たちが驚いている。
聖女は決して頭を下げてはいけないと言われていた。神の使いなのだから、人に対して下げる必要はないと。
けれど、人に何かを頼むときには誠意を示すものだと、私たちは教わって育ったのだ。それは変えられない。
私も理沙の横で頭を下げた。どうか、未来の聖女たちが辛い思いをしなくていいように、力を貸してください。
「聖女様、どうぞ頭をお上げください。聖女様のお気持ちはしかと受け取りましたので」
「ありがとうございます」
王様は王太子殿下を責任者に任命して、理沙の希望を叶えるようにと言ってくれた。
このプロジェクトがどうなるかはまだ分からない。でも、理沙の願いが一つ形になろうとしている。
この国の周りへの影響力を考えると、味方に付いてくれたことはとても大きい。
「聖女様の世界では、これはどういうところで行われるものですか?」
「人が集まるところであればどこでも」
教会の人は、教会での子どもたちへの話もこのように絵を使えばいいのですねと言っているので、いずれ取り入れられるかもしれない。神話って紙芝居の基本よね。
「例えば、ローズモスで作成した話をもとに、聖女様に絵を描いていただくことはできますか?」
「子どもたちの健康と安全を目的にしたものに限って受け付ける予定です」
紙芝居を実演してくれた絵本プロジェクトの担当者が答えてくれるけど、これは出発前に決めていたことだ。一度引き受けるとあれもこれもと頼まれる可能性があるので、目的を限定しようと。
ローズモスはトルゴードほど魔物の被害が切迫していないので、もう少し日常生活に即したものにしたいそうだ。
細かいことはこれから詰めていくけれど、大きな方向は定まった。
この国でも原本は教会で公開して、写本を実際に使用していく。
「テスト用紙の裏に落書きしていた漫画のような絵が、教会で大切に飾られるって恥ずかしいんだけど」
「この世界にはターシャちゃん以外に分かる人はいないから大丈夫よ」
理沙の絵は十分に可愛いから問題ないわ。
「特には。社交辞令? お母さんは?」
「トルゴードでの生活について聞かれたから答えたわ。後、日本は芸術に力を入れた国だったのかと聞かれたけど、そういうのってどこと比べてなのかが分からなくて答え辛い」
「分かる。困ってることはありませんかって聞かれたんだけど、馬車の振動が辛いって言ってもどうにもならないし、ないって答えるしかないよね」
本当に。電気と水道がないのが困ってますって言ったところで解決方法はないもの。
「そういえば、レリチアさんとターシャさんのお父さんがボターニから来てるんだって」
「パーティーのため?」
「そう。こんな機会でもないと会いに来れないからって。奥さんが亡くなられてからレリチアさんを溺愛していたから、本当はボターニから出したくなかったんだって」
親子関係は希薄だと聞いている貴族にしては珍しいわね。娘自身に溺愛って言わせるなんて余程よ。
「再婚もしていないらしいから、お母さん、どう?」
「え?」
「再婚同士でいいんじゃない? 明日レリチアさんに言ってみよう」
いやいや、ちょっと待って。なんで急に私のお相手探しに乗り気になっているの。
よくよく聞きだしてみると、ベイロールの一件以降周りから気を遣われているのが分かってちょっと煩わしいから、私の恋愛話に注目を移そうという計画だった。
理沙、意外に強かね。
でもあちらにだって好みってものがあるでしょう、と思ったけど、そういえば政略結婚が主流の貴族なら、私モテモテじゃない?
聖女本人が無理ならせめて母親と縁を作りたいって人はたくさんいそう。そんなモテ期、気づきたくなかった。
いよいよ、紙芝居と絵本のお披露目だ。
トルゴードでも詳細を知っているのはごく一部なので、王子様も興味を隠せないでいる。別に秘密にしていた訳ではなく、単純に準備が間に合っていなかっただけだ。
出席しているのは王族だけでなく、官吏や教会の人もいる。
「聖女様の世界では、平民であっても子どものころから本やお話に触れて育つそうです。平民の子どもたちへの啓蒙のために、紙芝居を作成しました。絵は聖女様がお描きになりました」
絵本プロジェクトの担当者が説明の後、実際に紙芝居を披露した。
少女が旅に出て、魔物に出会い、息をひそめてやり過ごし、後から来た馬車に助けを求めて、無事に街へとたどり着く。
理沙の絵に出てくる魔物は恐怖を与えないように抽象化されているけど、子どもの絵からは旅への楽しみ、魔物への怯え、街についた安堵が読み取れる。
紙芝居は好評だった。そもそもこういう娯楽がないので珍しいのだ。
「魔物の被害を減らすために、この絵本を平民の子どもたちの手に届くようにしたいのです。ぜひご協力をお願いいたします」
そう言って頭を下げた理沙に、王様たちが驚いている。
聖女は決して頭を下げてはいけないと言われていた。神の使いなのだから、人に対して下げる必要はないと。
けれど、人に何かを頼むときには誠意を示すものだと、私たちは教わって育ったのだ。それは変えられない。
私も理沙の横で頭を下げた。どうか、未来の聖女たちが辛い思いをしなくていいように、力を貸してください。
「聖女様、どうぞ頭をお上げください。聖女様のお気持ちはしかと受け取りましたので」
「ありがとうございます」
王様は王太子殿下を責任者に任命して、理沙の希望を叶えるようにと言ってくれた。
このプロジェクトがどうなるかはまだ分からない。でも、理沙の願いが一つ形になろうとしている。
この国の周りへの影響力を考えると、味方に付いてくれたことはとても大きい。
「聖女様の世界では、これはどういうところで行われるものですか?」
「人が集まるところであればどこでも」
教会の人は、教会での子どもたちへの話もこのように絵を使えばいいのですねと言っているので、いずれ取り入れられるかもしれない。神話って紙芝居の基本よね。
「例えば、ローズモスで作成した話をもとに、聖女様に絵を描いていただくことはできますか?」
「子どもたちの健康と安全を目的にしたものに限って受け付ける予定です」
紙芝居を実演してくれた絵本プロジェクトの担当者が答えてくれるけど、これは出発前に決めていたことだ。一度引き受けるとあれもこれもと頼まれる可能性があるので、目的を限定しようと。
ローズモスはトルゴードほど魔物の被害が切迫していないので、もう少し日常生活に即したものにしたいそうだ。
細かいことはこれから詰めていくけれど、大きな方向は定まった。
この国でも原本は教会で公開して、写本を実際に使用していく。
「テスト用紙の裏に落書きしていた漫画のような絵が、教会で大切に飾られるって恥ずかしいんだけど」
「この世界にはターシャちゃん以外に分かる人はいないから大丈夫よ」
理沙の絵は十分に可愛いから問題ないわ。
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