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学園編
閑話 たぬたぬの冒険 1
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重い内容が続いてしまったので、お口直しに大福くんのお話をお送りします。明日から本編に戻ります。
――――――――――――
生まれたときから、僕だけ白かった。お父さんとお母さん、それにきょうだいたちは茶色なのに、僕だけ白かった。でもみんな仲良く育った。森の中で、マモノにもニンゲンにも見つからないように、巣穴に隠れて住んでいた。
だけどある日、突然巣穴を追い出されてしまった。僕だけじゃなく、きょうだいたちも。
『もうひとり立ちする時期だよ。出ておいき』
『そんな……』
『元気で頑張るんだよ』
しばらくは巣穴に入れてもらえないか粘ってみたけど、どうしてもだめで、きょうだいは一匹、また一匹と森の中へと旅立っていった。僕も新しい巣穴を探すしかなさそうだ。この近くでしか狩りをしたことがないから、遠くには行きたくない。
だけど近くの安全なところにある巣穴は、先に旅立ったきょうだいたちに取られてしまったから、僕はニンゲンの近くに巣穴を探すことにした。だって、マモノは怖い。一度襲われたのをお父さんが助けてくれたけど、あんなのと戦えば僕は負けてしまう。まだニンゲンのほうがなんとかなりそうだ。
やっと見つけた巣穴は、僕が入るには少し小さい。きっと僕より身体の小さな動物が使っていた巣穴なんだろう。広げようと掘っているけど、上手くいかない。もうちょっと穴を大きくしないと、入れないのに。
「この先の木の実が、そろそろ食べられるはず」
「今年は出来が悪いよなあ」
ニンゲンだ! 隠れなきゃ!
周りを見渡しても、隠れられるようなところがない。仕方ないからこの穴に無理やり入ろうと思ったけれど、頭しか入らない。このままでは見つかってしまう。
焦って必死でもがいていたら、いきなり周りの土が崩れた。
『きゃふん』
「ん? なんかの鳴き声がしたか?」
「ん-、鳥か?」
ぶるぶる震えながら、ニンゲンが去るのを待って、足音も気配も遠くなったところではい出る。どうやら僕は崩れた土の中に埋まっていたらしい。
でもあんなに固くて掘るのに苦労したのに、なんで崩れちゃったんだろう。
何度か試してみて、僕は土を掘る魔法が使えることが分かった。これで安全に暮らしていける。
それからは、ニンゲンの村のそばで、魔法で掘った穴の中で暮らした。
食べ物は、ニンゲンの村の端に行くと、簡単に採ることができる。ときどき落ちているご飯も拾って巣穴に持って帰って食べる。
僕はすばやく動いて、土に隠れることができるので、狩りが上手なのだ。
そんなふうに食べものにも困らず、のんびりと暮らしていたある日、いきなり現れたニンゲンに捕まった。
『きゃん、きゅーん』
「捕まえた。お前は今日から俺の使役獣だ。名前は、そうだな、ブローでいいか」
光が飛んできたと思ったら、ニンゲンの命令に逆らえなくなった。
「兄さん、乱暴はやめてくれ。その子は戦えるような子じゃない」
「俺の使役獣だ。もう契約した。文句があるのか? あ?」
「い、いや」
「こいつを洗ってくれ。金は払う。こんな汚いのを連れていきたくない」
逃げることもできずに、全身をぬらされて洗われてしまった。やめてよ。僕の匂いが消えちゃうじゃないか。
「本当に白いな。このことは誰にも言うなよ。行くぞ」
『きゅう』
「……元気でな。頑張って生きろよ」
行きたくないのに、森から出たくないのに、足が勝手に動いてしまう。やだよ、ニンゲン怖いよ。
森を出てからは、僕は「シンジュウノケンゾク」になった。
それが何かは分からない。でも、いろんなニンゲンが僕にご飯をもってくる。
「ブロー、起きろ。仕事だ」
『きゅーん』
寝ていたのに起こされて、ニンゲンの相手をしなければいけない。でも大人しく触らせたらご飯をくれるから、がまんがまん。
今日は固いお肉がもらえた。これ美味しいな。もうちょっともらえないかな。きゅう。
「干し肉がお気に召しましたか。では後でこちらに届けさせましょう」
「ブローも感謝している。貴方には幸いが訪れるだろう」
「お目にかかれるだけでも光栄でしたのに。ありがとうございます」
美味しいものをくれるニンゲンには、僕から近づいていくと、もっとたくさんくれることが分かった。
ご飯美味しい。森を出てよかったな。こういうのを、冒険っていうんだよね。楽しいな。
だけど、ときどき乱暴にさわるニンゲンもいるから、そこの見極めが難しい。とくに小さいニンゲンは、力いっぱいたたくことがあるから怖い。
それに、お日様が高い時間は眠いんだ。もうちょっと寝させてよ。
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生まれたときから、僕だけ白かった。お父さんとお母さん、それにきょうだいたちは茶色なのに、僕だけ白かった。でもみんな仲良く育った。森の中で、マモノにもニンゲンにも見つからないように、巣穴に隠れて住んでいた。
だけどある日、突然巣穴を追い出されてしまった。僕だけじゃなく、きょうだいたちも。
『もうひとり立ちする時期だよ。出ておいき』
『そんな……』
『元気で頑張るんだよ』
しばらくは巣穴に入れてもらえないか粘ってみたけど、どうしてもだめで、きょうだいは一匹、また一匹と森の中へと旅立っていった。僕も新しい巣穴を探すしかなさそうだ。この近くでしか狩りをしたことがないから、遠くには行きたくない。
だけど近くの安全なところにある巣穴は、先に旅立ったきょうだいたちに取られてしまったから、僕はニンゲンの近くに巣穴を探すことにした。だって、マモノは怖い。一度襲われたのをお父さんが助けてくれたけど、あんなのと戦えば僕は負けてしまう。まだニンゲンのほうがなんとかなりそうだ。
やっと見つけた巣穴は、僕が入るには少し小さい。きっと僕より身体の小さな動物が使っていた巣穴なんだろう。広げようと掘っているけど、上手くいかない。もうちょっと穴を大きくしないと、入れないのに。
「この先の木の実が、そろそろ食べられるはず」
「今年は出来が悪いよなあ」
ニンゲンだ! 隠れなきゃ!
周りを見渡しても、隠れられるようなところがない。仕方ないからこの穴に無理やり入ろうと思ったけれど、頭しか入らない。このままでは見つかってしまう。
焦って必死でもがいていたら、いきなり周りの土が崩れた。
『きゃふん』
「ん? なんかの鳴き声がしたか?」
「ん-、鳥か?」
ぶるぶる震えながら、ニンゲンが去るのを待って、足音も気配も遠くなったところではい出る。どうやら僕は崩れた土の中に埋まっていたらしい。
でもあんなに固くて掘るのに苦労したのに、なんで崩れちゃったんだろう。
何度か試してみて、僕は土を掘る魔法が使えることが分かった。これで安全に暮らしていける。
それからは、ニンゲンの村のそばで、魔法で掘った穴の中で暮らした。
食べ物は、ニンゲンの村の端に行くと、簡単に採ることができる。ときどき落ちているご飯も拾って巣穴に持って帰って食べる。
僕はすばやく動いて、土に隠れることができるので、狩りが上手なのだ。
そんなふうに食べものにも困らず、のんびりと暮らしていたある日、いきなり現れたニンゲンに捕まった。
『きゃん、きゅーん』
「捕まえた。お前は今日から俺の使役獣だ。名前は、そうだな、ブローでいいか」
光が飛んできたと思ったら、ニンゲンの命令に逆らえなくなった。
「兄さん、乱暴はやめてくれ。その子は戦えるような子じゃない」
「俺の使役獣だ。もう契約した。文句があるのか? あ?」
「い、いや」
「こいつを洗ってくれ。金は払う。こんな汚いのを連れていきたくない」
逃げることもできずに、全身をぬらされて洗われてしまった。やめてよ。僕の匂いが消えちゃうじゃないか。
「本当に白いな。このことは誰にも言うなよ。行くぞ」
『きゅう』
「……元気でな。頑張って生きろよ」
行きたくないのに、森から出たくないのに、足が勝手に動いてしまう。やだよ、ニンゲン怖いよ。
森を出てからは、僕は「シンジュウノケンゾク」になった。
それが何かは分からない。でも、いろんなニンゲンが僕にご飯をもってくる。
「ブロー、起きろ。仕事だ」
『きゅーん』
寝ていたのに起こされて、ニンゲンの相手をしなければいけない。でも大人しく触らせたらご飯をくれるから、がまんがまん。
今日は固いお肉がもらえた。これ美味しいな。もうちょっともらえないかな。きゅう。
「干し肉がお気に召しましたか。では後でこちらに届けさせましょう」
「ブローも感謝している。貴方には幸いが訪れるだろう」
「お目にかかれるだけでも光栄でしたのに。ありがとうございます」
美味しいものをくれるニンゲンには、僕から近づいていくと、もっとたくさんくれることが分かった。
ご飯美味しい。森を出てよかったな。こういうのを、冒険っていうんだよね。楽しいな。
だけど、ときどき乱暴にさわるニンゲンもいるから、そこの見極めが難しい。とくに小さいニンゲンは、力いっぱいたたくことがあるから怖い。
それに、お日様が高い時間は眠いんだ。もうちょっと寝させてよ。
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