願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉

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学園編

閑話 赦し 5(部隊長視点)

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 フォロン侯爵家に向かおうと自分の執務室を出ると、ヴィンセントが待っていた。

「部隊長が来るなら俺も一緒にって呼ばれたんですよ。不在の間、リュカ様はどうでした?」
「少し不安そうではあったが、落ち着いていた」
「そうですか。周りのことがいろいろ分かるこれからが、大変でしょうねえ」

 たしかに、自分の行動が家に及ぼす影響が分かり始めたときが、一番怖かった。暴走させれば、この家から追い出されるのではないかと、父や兄の顔色をうかがっていた覚えがある。
 侯爵家の人たちは愛情深く見守るだろうが、引き取られる前、そして引き取られてからトゥレボルの教会へ預けられたその経緯を、あの赤毛の子はどう感じているのだろうか。火魔法というやっかいな属性を持って生まれた子に同情して表情が暗くなった私に、ヴィンセントが励ますように言った。

「大丈夫ですよ。ちびっこがなんとかしますって」
「あの方に頼るのは違うだろう」
「だとしても、ウィオラスが可愛がっていますからね。ちびっこはウィオラスが悲しまないように手を貸すでしょう」

 こういうときに、ヴィンセントは愛されて育ったのだなと思う。立場や体面といったものよりも、誰かの想いを信じて優先する。私にはできないことだ。
 きっとあの子もこうして愛情を受けて、まっすぐに育つのだろう。

 侯爵家に着くと、執事に出迎えられた。隙のない立ち姿ながらも柔らかい表情に、公爵家の執事はどうだったかと思い出すが、父と並んで恐ろしかった覚えしかない。公爵家の人間として、公爵家にふさわしく、と何度も叱られたものだ。

「何回来ても、緊張するんですよね」
「ただの家だ。あの方以上に緊張する相手などいないだろうに」
「そうは言っても、ちびっこですし」

 その言葉に、前を歩く執事が少し笑ったのが分かった。こちらの緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。
 少し肩の力の抜けたヴィンセントが応接室に入ると、小さな赤い瞳に喜びがパッと開いた。

「たいちょう!」
「リュカ様、こんばんは。お勉強は進んでいますか?」

 ヴィンセントがリュカ様に目の高を合わせて話しているのを横で見守る。私が様子を見に来たときは少し緊張していたが、今はとても楽しそうに、ウィオラスが帰ってきたからいろいろ話を聞かせてもらったのだと報告している。
 そんなリュカ様を温かく見守りながら、ウィオラスが寄ってきた。

「部隊長、不在の間リュカを気にかけてくださって、ありがとうございました」
「私が何かしたわけではないけれど、リュカ様は不安はありながらも、とても落ち着いていらしたよ」
「部隊長に会えて安心だったと言っていました」

 目に属性が現れている者同士、通じる気持ちもある。私の存在が安心につながるなら、これほどうれしいことはない。
 ウィオラスはリュカ様と関わるようになって、他人を思いやる気持ちを表に出すようになったと感じるが、もしかしたら私も同じなのかもしれない。離れて育った私の子どもにはしてやれなかったことだ。

 ヴィンセントと十分に話したリュカ様は、この後仕事の話があるからと自分の部屋に戻された。お茶を置いた執事も出ていき、部屋には三人と神獣様だけだ。神獣様は私を見ている。
 どう切り出せばいいのかと悩んでいるうちに、私が話し出すよりも先に、ウィオラスが口火を切った。

「部隊長、ネウラへの異動を希望していると聞いて、ルジェが心配しています」
『ウィオ、ちょっと待って!』
「異動?」
「ヴィンセント、知らなかったのか」

 部隊長の異動願いを知っているのは、団長か同じ部隊長だけだろうに。ときどきウィオラスは抜けていることがあったが、今も変わらないようだ。神獣様が個人の秘密を勝手にばらすなとウィオラスに説教をしている。
 ヴィンセントには申し訳ないが、神獣様が気にされないなら、ここにいてほしい。このメンバーで緩衝材になれるのは、ヴィンセントだけだ。話がこじれたときに、傷つくであろうウィオラスを支えてやってほしい。

 それから、ヴィンセントが同席したまま異動を希望した理由を話す中で、とんでもない事実を聞かされた。神獣様がこの国に遣わされた理由だ。それは、王宮も、そして周辺国も気にしていたことだが、まさか教会への神罰の是非を判断するためだったとは。しかも、話してはならないことをうっかり話してしまったようで、ヴィンセントに怒られている。

『えーっとね、忘れてほしいな。えへっ』
「だーかーらー、もうちょっと慎重になりましょうよ。そんな重要なこと、さらっと話さないでください」

 フォロン侯爵の言った、神獣様と狐くんは別の存在だというのは、間違っていない気がする。人で言うなら、二つの人格が一つの身体の中にあるのだ。神の使いである神獣と、うっかりやりすぎてしまう幻獣の人格が。神を人の知識で理解しようと思うこと自体がおこがましいのかもしれないが、そう思うと、冷徹な神狐と、温厚な飼い狐のそれぞれの行動に納得がいく。
 残りの騎士人生を神獣様にささげたいと言った私に返された言葉もまた、そうだった。

『神を侮った人間の行く末などあずかり知らぬこと』

 審判は下され赦されたとしても、一度でも神の怒りに触れた者の末路は、決して穏やかなものではない。けれどそのようなまつなことは、神獣様にかかわりのないことだ。

『……だけどね、オレはウィオの師にそんな表情をさせたかったわけじゃないよ』

 神として譲れぬことはあれど、人を傷つけたかったわけではないと言うその優しさは、飼い狐として人に寄り添うものだ。
 それだけで、十分だと思った。これほどに心を寄せてくださる神獣様に、騎士人生だけでなく生涯を捧げる覚悟をさせるには、十分だ。心優しき神獣様を、私たち公爵家の人間は傷つけてしまったのだから。申し訳なさ過ぎて、顔があげられない。

「部隊長、ちびっこがガラにもなく弱気になってるんで、なでてあげてください」

 けれど、顔を上げざるを得なかった。はい、と目の前に差し出された銀色の毛の中からこちらを見る目は、不安に揺れている。ヴィンセントの言葉を借りるなら、嫌われたらどうしようという顔らしい。私が嫌うはずもないのに。
 そっと胸に抱き、背中をなでると、私のほおをペロッとなめてから、首筋に頭を埋めた。ふわふわの毛が、くすぐったい。

『どうせ異動するなら、親子で一緒に住んでもいいんじゃない?』

 耳元でささやかれたどこまでも慈愛に満ちた提案に、ただ「ありがとう」と絞り出すのが精いっぱいだった。

 神獣様に心からの感謝を。そして生涯の献身を誓おう。
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