皇帝の寵愛

たろう

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前段

8 新(婚)生活

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 翌日も特にすることもなくのんびり夜まで過ごした。
 朝食は一緒だったが、主上は昼餐と晩餐を客人とどこかで摂ったらしい。どうやら僕を誰かに紹介する気はないようで一緒に食事をしたのは朝だけだった。客室で昼を一人で食べ、夜は僕が頼んで侠舜と一緒に食べた。普通、彼が主上や僕と食事をとることはないのだそうだ。一人の食事はさみしいので、できればこれからも一緒に摂って欲しいとお願いした。
 一緒の食事の間、いろいろとここでの生活の基盤となる常識というやつを教えてもらった。
 まず、こちらからは基本的にお忙しい主上に会いに行くことができない。向こうからの使いがあって初めて会うことが許される。どうしても会う必要のある場合には、お伺いを立て、向こうに時間の余裕があれば会うことが許されるのだそうだ。夫婦で気軽に会えないのは大変だなぁと思った。
 主上の生活には、後宮の妃たちとの兼ね合いもあって、いろいろときまりがある。侠舜によると主上の食事は、ここ皇帝の生活する区画でとるか後宮で妃のだれかと食事をともにするかを本人があらかじめ決めて先触れをだすのだそうだ。
 食事をとる相手には、体調不良でもなければ基本的に拒否権はないのだとか。
 主上の寵愛はみな同じというわけではなく、頻繁に渡る女性と滅多に合わない女性とがいるそうだ。数年お渡りのない妃は、重用する家臣へ下賜されるらしい。結婚しているのに数年会わないというのが信じられないし、下賜ってなんだ。
 皇帝から別の男のもとへ嫁ぐよう言い渡される妃と、皇帝の奥さんを下げ渡される家臣の気持ちとは、それぞれどんなものなのだろう。好きな相手と添い遂げられない貴人というのは、なかなか不自由なものなのだと知った。金にものをいわせて好き勝手に生きているわけではないのだ。
 僕はさすがに誰かに下賜されることはないと信じたい。下げ渡される相手もこまるだろうし。……あとで聞いてみよう。
 主上には今八人の妃がいて、その内四人には子供がいる。合計で六人。一番年上の皇女が五歳におなりだそうだ。主上は皇子皇女のいる妃の元へは、頻繁に顔を見せに後宮へと足を運んでいると教えてもらった。かなり子供を可愛がっているようだ。父親としての自覚をもった素晴らしい皇帝ではないか。なら男に手を出すなよとは思ったが口にはださなかった。
 驚いたことに自分の奥さんと子供にちらっと会おうとするだけでも先触れをださないといけないらしい。女の準備は大変だからとかなんとか。閨事については逐一記録をつけていると付け加えられた。
 閨事とは何ですかと質問したら、あとで主上に教えてもらってくださいと言われた。なんだろう。
 食事が終わって、ほかの宮殿内の知識についてはまた今度教えてくれることになった。そのあとはまた浴場へつれていかれた。僕はなにがあるかわからないから毎日夕食後は身を清めるようにと言われた。何かとはなんなのか。
 湯殿につくと、また彼に全身洗われるのかと戦々恐々としてしまったが、今後は自分一人で済ますように言われて、やっとあの悪夢から解放されると思い嬉しかった。ただし、自分で中まで洗うことを無理やり約束させられた。それは強制なのか……。
 僕が体を洗う様子をじっくり観察して、明日からはもう一人でも良いと許可をいただけた。ほっとした。
 風呂からあがって、少しぼんやりしてから、することもないのでそろそろ寝ようかなと思ったら、突然主上が部屋にやってきた。先触れの話はどうなった。
 主上は少し疲れた様子をしていたが、それでも僕をみると嬉しそうな顔をした。好かれているということはなんとなくわかった。
 寝室に誘われて、昨日と同じように寝台に二人並んで腰かけた。またも高級そうな酒をちびちびと飲みながら、今日一日のことを聞かれるままに話した。こう腰を抱かれながら密着して話すのがきまりなのだろうか。触れ合う部分に感じる体温がすごく気になる。
 夜着越しにまさぐられるのがくすぐったくて、彼の指を掴んで阻止しようとすると、楽しそうに横で笑われた。僕は玩具ではない。
 普段の僕は早寝早起きなのでそろそろ眠いと言うと、布団の中に押し込まれた。当然のように密着してくる。さらに額や瞼や唇に口づけられる。耳をあまがみされて全身に鳥肌がたった。なんだか変な感じだからやめてくれと頼むと、しつこく耳を責め立てられるので両手で隠すはめになった。
 さきほどから太腿に当たっているのが気になって仕方がない。指摘するのもはばかられて気付かないふりをしていると、夕食の話題を思い出して、思い切って質問してみた。
「主上、僕は誰かに下賜されるんですか?」
「……何の話だ。」
「ええと、夕食のときに侠舜さまに教えてもらったんです。数年お渡りのない妃は臣下の元へ下賜されると。それで僕はどうなるんだろうと、侠舜さまがいなくなったあとで思ったんです。」
「お前は平民なので、下賜する理由がない。下賜とは褒美の一つだ。地位のある女性と結婚することで家系を盤石なものにするという目的で下賜は行われる。したがってお前が誰かに下げ渡されるということはない。」
「良かった。じゃあ僕、下賜されるような状況になったら家に帰れるというわけですか?」
 すごい目でにらまれた。
「……恐らく他意はないのだろうが、その話は不快だ。お前が帰ることは絶対とはいえないが、ほぼないと思え。」
 あ、小さくなった。
 怒らせてしまったと気づいた。不機嫌な声音で言われたので、この話はしてはいけないのだと悟った。
「……はい。」
 僕が素直に返事をすると、気を取り直して主上がまた耳を食む。くすぐったい。
「そういえば、閨事ってなんですか?」
「興味があるのか?私はいつでも歓迎だが。」
「いえ、あの、さきほどの会話の続きで、侠舜さまから主上に訊いてくださいと言われたので、訊いてみました。」
「なるほど。」
 あ、なんかまた太腿に当たってる。忙しいことだ。
 主上が考えごとをするように目を細める。
「そうだなぁ。私自身はいますぐでも良いのだが、それでは私の外聞が良くない。未熟な子供に手を出すと言われるのも。あぁ、でももう手をだしたわけだから……。」
 そういって一人悩んでいる。
 かと思うとこちらを見てはぁとため息をついた。
「お前のここが大人になって、もう少し大人の関係というものを理解したら二人で楽しもう。」
 そういっていたずらっぽくにやりと笑い、寝巻の合わせから手が侵入してくると、僕のあそこをまさぐり始めた。
 びっくりして、瞬間顔に血が上るのを感じた。真っ赤になっているだろう僕がやめてほしいと怒って言っても、彼はくつくつと笑うだけでやめてくれなかった。
 両手で彼のごつごつした指を力いっぱい掴んで無理やりやめさせると、その日がくるのが楽しみだと言って抱きしめられる。
 それが心地よくて僕は知らぬ間に眠ってしまった。
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