シンデレラの義姉は悪役のはずでしたよね?

梅乃なごみ

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ヒロイン・シンデレラの姉として(3)

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それからソフィーは母に具合が悪いなら取り敢えず大人しくしているようにと言いつけられ馬車へ詰め込まれた。
 国中の令嬢が焦がれた城へ着いても、王子へ挨拶をしてもソフィーの心が晴れることはなかった。
 身元不明の美しい令嬢が現れるまでは。

 (シンデレラ……!)

  誰もがその女性に目を奪われた。
 アイスブルーのドレス、その美しさを際立たせる可憐なアクセサリー。そして、一際存在感を放つ、ガラスの靴。
 恐らく、この大勢の人の中で彼女がシンデレラだと気づいているのはソフィーだけだろう。ソフィーは美しい妹の姿に見とれているが、彼女の視線の先はただひとつだった。
 王子。そして、彼の瞳にもシンデレラだけが映っていた。まるでこれこそが正解だと言わんばかりに二人は寄り添い、ホールの中心で踊る。いつまでも、いつまでも。

 母や姉は不服そうだったけれど、彼女の正体を知っているソフィーは感極まって、泣きそうだった。
 
 (魔法使い様……!)
 
  本当に叶えてくださった。それが嬉しい。
 シンデレラが王子と出会う。これで二人は結ばれるのだ。
 なんて幸福なことだろう。
 そう思っていたのに、シンデレラは十二時の鐘が鳴ると王子を置いて慌てて城を飛び出してしまった。
 風に当たってくると言ってソフィーも追いかけたけれど、どこにもシンデレラの姿はなかった。
 王子が探しているようだったので、慌てて中庭の垣根に隠れてその様子を見守る。けれど、彼女はやはり見つからなかったようで王子はガラスの靴を片方だけ持って立ち竦んでいる。
 ずっと見つめあっていたけれど、二人は一度も言葉を交わしていないようにみえた。もし、王子がシンデレラの名前すら知らなかったとしら――。

「名前くらい言えばよかったのにね」
「やっぱり名前も……! って、魔法使い様……!」
 
 また突然、隣に魔法使いが現れた。本当に、音もなく現われられては心臓に悪い、と思いつつ、ひとまず先程の礼をする。
 
「魔法使い様、本当にありがとうございました。これでシンデレラは幸せになれます」
 
 もうどのような扱いを受けても悔いはない。そう意味を込めて言ったつもりだったが魔法使いはうーん、と唸った。
 
「十二時には魔法が解けるって言ったのに、名前も知らないんじゃ探し用がないよね。王子の持ってる靴もそろそろ魔法が切れるだろうし」
「え……!」
 
 それは大変困る。王子がただ身元不明の美女と踊った一夜になってしまうのは違う。シンデレラと恋に落ち、踊り、結ばれなくてはいけないのに。
 唯一正体を知っているソフィーが王子へ伝えることも出来るかもしれない。けれどそれでは、意地悪な姉という存在は成り立たなくなってしまう。それではだめなのだ。そんなことをすれば、伝える前に喉が裂けてしまう。そんな確信じみた恐怖がある。
 
「ねえ、なんでソフィーはそんなにシンデレラに拘るの? 妹の幸せよりまずは自分じゃない?」
「それは……っ、どうしてもなんです。あの子の姉である以上、私にも分かりませんがどうしてもなんですっ」

 漠然としている自覚はあるが、本当にそれ以上でもそれ以下でもない。それに、今はそんなことを丁寧に説明している場合ではなかった。

「魔法使い様! お願いします、どうかあのガラスの靴の魔法が解けないようにしていただけませんか!」 

 厚かましいのは重々承知の上だ。でもここで怯んでいては後がない気がした。どうにかして、王子にシンデレラを探し出して貰わなければ。

「ソフィーの望みなら。あ、キスして?」
「なっ」
「そしたら叶えてあげる。もちろん、王子がシンデレラの元へ辿り着ける保証付き」
「どう? 自分を犠牲にしてでも妹の幸せを願える?」

 からかうような口調と顔にカチンときた。男のマントを掴んで引き寄せる。
 勢いで唇をマントの中に押し込むと、ふにっと柔らかな感触がした。
 
「犠牲になんてしないわ。姉の……私のためです」
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