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幸せにしたい人(11)
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「ソフィー?」
皮肉な笑みを浮かべた悪女を訝り皇帝が名を呼んだ。
その声にすらきゅっと胸が締め付けられる。こんな醜い顔を見せたくないと余計な感情が湧いてしまうのを押さえ込み、目を伏せて思い浮かべた。
(シンデレラがこのドレスを着たら……うん、最高ね)
普段は可愛らしいシンデレラがこの色香漂うドレスを身に纏う姿は想像しただけで意外性が更なる魅力となってときめかずにはいられない。
彼女の前では悪女の義姉、裏では彼女の幸せを願うファン。そう、最高じゃないの。
「それって……! お義姉様とお揃いってこと……?」
え? …………あれ?
なんだか、思っていたのと違う。もっとイジワルな義姉の嘲笑に怯えて涙目になるとか、そういうのだと思っていたから返す言葉が出てこない。
シンデレラは愛くるしい瞳でおねだりするようにエルバートを見つめた。ああ、これに抗える男性なんていないでしょう。
「あー……うん。いいよ。そこの君、これで彼女に相応しいドレスを」
エルバートはそういうと、近くにあった桃色の花を摘み取り、垣根の奥に声をかけた。
すると小さなカゴを持ったふくよかな女性がおずおずと現れ、エルバートから恭しく花を受け取る。
彼女の持っていたカゴの中には沢山の白い花が入ってるのが見えた。
「紅茶は甘いほうがいいだろう?」
――あ。あれは、彼が美味しいからって蜜で飴を作ってくれた……。
主人の庭に花の蜜を取りに来ていたのね、と納得しつつ、彼女が隠れていた垣根はエルバートから完全に死角になっていたことに気づく。
彼女もそう思っているのだろう。笑顔の彼から制裁を恐れてぶるぶると震えている。
「あ、叱る気はないよ。服は衣装係が誂えるものだからね。仕事さえしてくれればあとは自由にして構わない」
持っていきな、と花の入ったカゴに手を振り彼女は深く頭を下げた。
「ただ、大事な人との食事は邪魔しないでくれ。気が散るからさ」
「はっ、はいっ。申し訳ございませんでした………っ! で、では、始めさせて頂きます……愛らしい方ですからレースをふんだんに……スカートにはボリュームを……いっち、にの、さんっ、ほっ!」
衣装係が花に呪文を唱えた瞬間、シンデレラの周りにふわりと風が吹いて解けた花びらが舞う。すると、まるでこの瞬間に透明なお針子が彼女を囲っていたのかと思う速さで彼女のドレスは色と形を変えた。
「わあっ! すごいわ! お義姉様見て!」
くるりと回ってみせるシンデレラの愛らしさにその場の空気が和む。
「ソフィー様の分もご用意いたしましょうか? 花でしたらこれなんかも――」
「いいや。ソフィーはいいんだ」
エルバートは足を組み替えると衣装係の言葉を食い気味に遮った。その菫色の瞳が見つめる先はソフィーただひとりであるのは一目瞭然で、提案した彼女も察して静かに下がる。
「ソフィーが身につけるものは彼女が求めるものと僕が愛をこめて魔法をかけたものだけ。ね?」
甘やかな声と視線に心臓がどくん、と叫んだ。
なぜこの人は肉親でさえ見てくれなかったソフィーの内側に触れるような柔らかい視線で真っ直ぐ見つめてくるのだろう。
自分勝手に自分の幸せを望んでもいいと錯覚させられそうになる。ずっとそう望んでいたのだと口にしそうになる。
この人に見つめられるとおかしくなってしまう。耳には彼の声だけが聞こえるようになって、彼の仕草ひとつをどうしても意識してしまう。
……だめ。どれだけ意地を張ろうと、今更悪役になりきろうとしても、彼女の義姉なのだと意識しても、彼のことが好きだという気持ちが消えてくれない。
「エルバート様……私、私……」
震えた声が風に吹かれた。ふわり、ぶわりと。
あるひとりの王子を連れてきた強風が。
「シンデレラ……!!」
肖像画や舞踏会、はたまた義妹の結婚式で散々見た金髪の男性を乗せてきたのだ。
皮肉な笑みを浮かべた悪女を訝り皇帝が名を呼んだ。
その声にすらきゅっと胸が締め付けられる。こんな醜い顔を見せたくないと余計な感情が湧いてしまうのを押さえ込み、目を伏せて思い浮かべた。
(シンデレラがこのドレスを着たら……うん、最高ね)
普段は可愛らしいシンデレラがこの色香漂うドレスを身に纏う姿は想像しただけで意外性が更なる魅力となってときめかずにはいられない。
彼女の前では悪女の義姉、裏では彼女の幸せを願うファン。そう、最高じゃないの。
「それって……! お義姉様とお揃いってこと……?」
え? …………あれ?
なんだか、思っていたのと違う。もっとイジワルな義姉の嘲笑に怯えて涙目になるとか、そういうのだと思っていたから返す言葉が出てこない。
シンデレラは愛くるしい瞳でおねだりするようにエルバートを見つめた。ああ、これに抗える男性なんていないでしょう。
「あー……うん。いいよ。そこの君、これで彼女に相応しいドレスを」
エルバートはそういうと、近くにあった桃色の花を摘み取り、垣根の奥に声をかけた。
すると小さなカゴを持ったふくよかな女性がおずおずと現れ、エルバートから恭しく花を受け取る。
彼女の持っていたカゴの中には沢山の白い花が入ってるのが見えた。
「紅茶は甘いほうがいいだろう?」
――あ。あれは、彼が美味しいからって蜜で飴を作ってくれた……。
主人の庭に花の蜜を取りに来ていたのね、と納得しつつ、彼女が隠れていた垣根はエルバートから完全に死角になっていたことに気づく。
彼女もそう思っているのだろう。笑顔の彼から制裁を恐れてぶるぶると震えている。
「あ、叱る気はないよ。服は衣装係が誂えるものだからね。仕事さえしてくれればあとは自由にして構わない」
持っていきな、と花の入ったカゴに手を振り彼女は深く頭を下げた。
「ただ、大事な人との食事は邪魔しないでくれ。気が散るからさ」
「はっ、はいっ。申し訳ございませんでした………っ! で、では、始めさせて頂きます……愛らしい方ですからレースをふんだんに……スカートにはボリュームを……いっち、にの、さんっ、ほっ!」
衣装係が花に呪文を唱えた瞬間、シンデレラの周りにふわりと風が吹いて解けた花びらが舞う。すると、まるでこの瞬間に透明なお針子が彼女を囲っていたのかと思う速さで彼女のドレスは色と形を変えた。
「わあっ! すごいわ! お義姉様見て!」
くるりと回ってみせるシンデレラの愛らしさにその場の空気が和む。
「ソフィー様の分もご用意いたしましょうか? 花でしたらこれなんかも――」
「いいや。ソフィーはいいんだ」
エルバートは足を組み替えると衣装係の言葉を食い気味に遮った。その菫色の瞳が見つめる先はソフィーただひとりであるのは一目瞭然で、提案した彼女も察して静かに下がる。
「ソフィーが身につけるものは彼女が求めるものと僕が愛をこめて魔法をかけたものだけ。ね?」
甘やかな声と視線に心臓がどくん、と叫んだ。
なぜこの人は肉親でさえ見てくれなかったソフィーの内側に触れるような柔らかい視線で真っ直ぐ見つめてくるのだろう。
自分勝手に自分の幸せを望んでもいいと錯覚させられそうになる。ずっとそう望んでいたのだと口にしそうになる。
この人に見つめられるとおかしくなってしまう。耳には彼の声だけが聞こえるようになって、彼の仕草ひとつをどうしても意識してしまう。
……だめ。どれだけ意地を張ろうと、今更悪役になりきろうとしても、彼女の義姉なのだと意識しても、彼のことが好きだという気持ちが消えてくれない。
「エルバート様……私、私……」
震えた声が風に吹かれた。ふわり、ぶわりと。
あるひとりの王子を連れてきた強風が。
「シンデレラ……!!」
肖像画や舞踏会、はたまた義妹の結婚式で散々見た金髪の男性を乗せてきたのだ。
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ゆっくりですが完結させますので気長に待ってお楽しみいただけると嬉しいです🌼
利用可能な章はすべて読みましたが、次の章でどのようなことが語られるのか興味が尽きません。 エルバートのソフィーへの接し方がびっくりするほどかわいい! 私はこの小説が本当に大好きです! 次回の更新もお楽しみに! 頑張ってね~!
Lilin777様
読んでいただきありがとうございます!
エルバートを可愛いと言っていただけて嬉しいです✨✨
(ソフィーもきっとまんざらでもないはずですw)
大好きだとおっしゃっていただけてとっても嬉しいです、励みになります…!✨
近々次話更新の予定です。お待たせしておりますが少しでも楽しんでいただけると嬉しいです♡
5話目まで読了!
妹のためにツンデレながら頑張るソフィーさん可愛いです🤭
エルバート様とは過去に何かあったのかな…?
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夕月さん
読んでくださりあり、感想までがとうございます🥰
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