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2 『生』は隠語です!
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『さあ、いらっしゃい! いい酒が入ったよ! 寄ってて!』
夕暮れの空の下、キラキラ光るランタンがふわふわ浮いて活気ある声が響いている。みんなファンタジーゲームに登場するような服を着ているし、おとぎ話みたいな光景だなぁ、なんて呑気に思う。ここから帰るための手段とか、え、もしかして私本当に死んだ?とか、今更どうしよう、なんて悩み始めちゃったわけで。
『そこのお姉さん! 今ならビール半額ですよ!』
半額……?
無意識に足が止まる。そういえばここも結構暑い。
『しかもグラスキンッキンに冷えてますよ! 今ならサービスでグリーム豆がつきます!』
グリーム? よく分からないけど豆ならさすがに喉にも詰まらないだろうし、喉がごきゅっ、と鳴った。
ようやく、ようやくありつける……!!
『1名様ッ! ご来店でーす!!!』
『らっしゃせーー!!!』
席に通されてそこからはもう、最高で。
「はーーーー!!これよ、これ!!!」
サービスのグリーム豆?は茹で具合が最高の枝豆だし、なによりビール!これがまた最高に美味しい!喉越しは芸術だし苦味も程よくて香りもいい。なによりグラスがキンッキン!それに片手じゃ持てないほどデカい!
全てが美味、全てが最高。
――でも、生って感じじゃない。どちらかというと瓶ビールに近い爽やかさというか……ラムっぽい芳醇さというか。
とにかく、私が欲しくてほしくて堪らなかったあの激安居酒屋で飲めるビールではない。欲を言うならあの空きっ腹に響く安心感がほしい。
「すみませーん! 生ってありますか?」
空になったグラスを掲げて言うと『えっ!?』とまわりがザワついた。
え? なんで? 私そんなに変なこと言った??
慌てた様子で出てきた店員さんが声を潜めて耳打ちしてきた。思わず耳を澄ませる。
なに、なんなの?
『あ、あの……本当に生でいいんですか……?』
「えっ、はい……あ、もしかしてもの凄く高い、とか?」
異世界だから有り得るかも、と今更ながらにちょっと後悔する。
『とんでもない! 聖女様がお相手だなんて……寧ろお代はこちらから払わせていただきますので!』
ええ、どういうシステム????
せいじょ……性女……あっ聖女か。聖女ってもしかしてこの国ではお得システムかなにかなのだろうか。
顔パスで飲み放題的な。神様仏様、ありがとうございます。
お得とか無料に弱い私は反射神経で「お願いします」と即答していた。
すると恭しく、そしてどこかたどたどしい店員さんに「ではご案内します」と通されたのは二階の個室だった。
広さはないけれど清潔感があってふかふかの高級ベッドみたいなソファー席を雰囲気のあるキャンドルが照らしている。
例えるならリゾートスパだ。サービスの良さに思わず緊張しかけたが、ほろ酔いの体は蕩けるようにソファーに吸い込まれた。見たとおりふわっふわ。寝ちゃいそう。
生注文しただけでこの好待遇。異世界最高。
「はぁ……最高……ここで生飲めるとか社畜の涙で泳げるって……」
『では、失礼します……!』
「え???」
部屋のドアが閉められて、なぜか彼が失礼したのは私のスカートの中だった。そんなことある???
「やっ、なにしてっ、はぁっ、んっんっ」
んっ、じゃないよ。なにやってるの私。そう思ってるのにほろ酔いの一歩手前の敏感になったところに、突然気持ちいのが与えられて、拒絶が遠のいてしまう。やわやわと下着の上から指が捏ね回すように動いて、続けていいかとお膳立てをする。
『敏感なんですね……そろそろ『生』いかせていただきますね!』
はぁ、と息がかかってびくりと腰が跳ねてしまう。拒否しないことを改めて確認するとじっとり濡れた下着に指がかけられる。
だって彼氏なんてもう何年もいないし、なんなら仕事と俺どっちが大事?とか言われて振られたし、セックスはお前感度悪すぎとか言われて散々だったし、こんなの抗えない。なんでこうなったとは思うけど、あっ、むり。きもちいい。
「やっ……だめっ、もっ……」
軽く擦られてるだけなのに、じわじわ登り詰めてイキそうになる。つま先にぎゅっ、と力を入れたその瞬間。
「こらこら。いけませんよ、他の人でイッてしまっては」
甘い声に耳を擽られたと思ったら唇を塞がれた。
スカートの中の違和感は動かないままだから、え?どういう体制?じゃなくてもう一人いる?いつの間に?
「んっ、んっ~~」
にゅるにゅる口内を動く肉厚な舌に舌の脇を擽られてお腹の奥がじわっと熱くなる。頭を後ろから支えていた手に撫でられたかと思ったら項を指先でツゥッと擽られ力が抜けたところで深くじゅうっと吸われた。
なにこのキス、頭溶けそう。
「ふへえ……????」
ようやく解放されたら涙の膜の向こうに蜂蜜色の髪がぼんやりと見えた。
え、誰。
目をぱちくりさせて涙が押し出されてクリアになった視界に飛び込んできたのはとんでもないイケメン。
長い金髪を後ろで結んだ、動物に例えるなら狐顔。なんだろう、なんか悪いことしてそう。
炎のような赤い瞳が甘く微笑んでいる。よく見ると店員さんと同じ黒シャツにパンツの格好をしているけれど全く別の服に見える。なんか分かんないけど高貴な雰囲気が全く隠せてないような。
ものすごくタイプなんだけどなにこの人。
夕暮れの空の下、キラキラ光るランタンがふわふわ浮いて活気ある声が響いている。みんなファンタジーゲームに登場するような服を着ているし、おとぎ話みたいな光景だなぁ、なんて呑気に思う。ここから帰るための手段とか、え、もしかして私本当に死んだ?とか、今更どうしよう、なんて悩み始めちゃったわけで。
『そこのお姉さん! 今ならビール半額ですよ!』
半額……?
無意識に足が止まる。そういえばここも結構暑い。
『しかもグラスキンッキンに冷えてますよ! 今ならサービスでグリーム豆がつきます!』
グリーム? よく分からないけど豆ならさすがに喉にも詰まらないだろうし、喉がごきゅっ、と鳴った。
ようやく、ようやくありつける……!!
『1名様ッ! ご来店でーす!!!』
『らっしゃせーー!!!』
席に通されてそこからはもう、最高で。
「はーーーー!!これよ、これ!!!」
サービスのグリーム豆?は茹で具合が最高の枝豆だし、なによりビール!これがまた最高に美味しい!喉越しは芸術だし苦味も程よくて香りもいい。なによりグラスがキンッキン!それに片手じゃ持てないほどデカい!
全てが美味、全てが最高。
――でも、生って感じじゃない。どちらかというと瓶ビールに近い爽やかさというか……ラムっぽい芳醇さというか。
とにかく、私が欲しくてほしくて堪らなかったあの激安居酒屋で飲めるビールではない。欲を言うならあの空きっ腹に響く安心感がほしい。
「すみませーん! 生ってありますか?」
空になったグラスを掲げて言うと『えっ!?』とまわりがザワついた。
え? なんで? 私そんなに変なこと言った??
慌てた様子で出てきた店員さんが声を潜めて耳打ちしてきた。思わず耳を澄ませる。
なに、なんなの?
『あ、あの……本当に生でいいんですか……?』
「えっ、はい……あ、もしかしてもの凄く高い、とか?」
異世界だから有り得るかも、と今更ながらにちょっと後悔する。
『とんでもない! 聖女様がお相手だなんて……寧ろお代はこちらから払わせていただきますので!』
ええ、どういうシステム????
せいじょ……性女……あっ聖女か。聖女ってもしかしてこの国ではお得システムかなにかなのだろうか。
顔パスで飲み放題的な。神様仏様、ありがとうございます。
お得とか無料に弱い私は反射神経で「お願いします」と即答していた。
すると恭しく、そしてどこかたどたどしい店員さんに「ではご案内します」と通されたのは二階の個室だった。
広さはないけれど清潔感があってふかふかの高級ベッドみたいなソファー席を雰囲気のあるキャンドルが照らしている。
例えるならリゾートスパだ。サービスの良さに思わず緊張しかけたが、ほろ酔いの体は蕩けるようにソファーに吸い込まれた。見たとおりふわっふわ。寝ちゃいそう。
生注文しただけでこの好待遇。異世界最高。
「はぁ……最高……ここで生飲めるとか社畜の涙で泳げるって……」
『では、失礼します……!』
「え???」
部屋のドアが閉められて、なぜか彼が失礼したのは私のスカートの中だった。そんなことある???
「やっ、なにしてっ、はぁっ、んっんっ」
んっ、じゃないよ。なにやってるの私。そう思ってるのにほろ酔いの一歩手前の敏感になったところに、突然気持ちいのが与えられて、拒絶が遠のいてしまう。やわやわと下着の上から指が捏ね回すように動いて、続けていいかとお膳立てをする。
『敏感なんですね……そろそろ『生』いかせていただきますね!』
はぁ、と息がかかってびくりと腰が跳ねてしまう。拒否しないことを改めて確認するとじっとり濡れた下着に指がかけられる。
だって彼氏なんてもう何年もいないし、なんなら仕事と俺どっちが大事?とか言われて振られたし、セックスはお前感度悪すぎとか言われて散々だったし、こんなの抗えない。なんでこうなったとは思うけど、あっ、むり。きもちいい。
「やっ……だめっ、もっ……」
軽く擦られてるだけなのに、じわじわ登り詰めてイキそうになる。つま先にぎゅっ、と力を入れたその瞬間。
「こらこら。いけませんよ、他の人でイッてしまっては」
甘い声に耳を擽られたと思ったら唇を塞がれた。
スカートの中の違和感は動かないままだから、え?どういう体制?じゃなくてもう一人いる?いつの間に?
「んっ、んっ~~」
にゅるにゅる口内を動く肉厚な舌に舌の脇を擽られてお腹の奥がじわっと熱くなる。頭を後ろから支えていた手に撫でられたかと思ったら項を指先でツゥッと擽られ力が抜けたところで深くじゅうっと吸われた。
なにこのキス、頭溶けそう。
「ふへえ……????」
ようやく解放されたら涙の膜の向こうに蜂蜜色の髪がぼんやりと見えた。
え、誰。
目をぱちくりさせて涙が押し出されてクリアになった視界に飛び込んできたのはとんでもないイケメン。
長い金髪を後ろで結んだ、動物に例えるなら狐顔。なんだろう、なんか悪いことしてそう。
炎のような赤い瞳が甘く微笑んでいる。よく見ると店員さんと同じ黒シャツにパンツの格好をしているけれど全く別の服に見える。なんか分かんないけど高貴な雰囲気が全く隠せてないような。
ものすごくタイプなんだけどなにこの人。
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