ホビーレーサー!~最強中年はロードレースで敗北を満喫する~

大場里桜

文字の大きさ
29 / 101
3章 レースチームを立ち上げる中年

第29話 初めての勝利だから

しおりを挟む
 スプリント対決で勝利した私を称えてくれた師匠が、そのままコース外へ先導してくれた。
 そしてピットロードに戻った所で師匠と別れた。
 今日の師匠は他のチームメンバーと一緒に参加しているからだ。
 だから今日のレースの話は後日会った時にする事にした。
 私達のピットに戻ると西野、北見さん、南原さんの3人が出迎えてくれ、それぞれ労いの言葉をかけてくれた。

「お疲れ! スプリントだけは凄いじゃないの!」
「お疲れさん。最後を中杉君に任せたのは正解だったな」
「お疲れ様です。凄かったですよ」

 ロードバイクから降りて、ピット脇に愛車を立てかけた。
 皆のお陰で師匠とスプリント対決出来たのだ。
 ハッキリとお礼を言わないとな。

「ありがとう御座います。皆さんが距離を稼いでくれたお陰です。あれだけ後続と距離を離してくれていたのに最後はギリギリでした」
「戻りが遅かったから少し焦ったな」
「まぁ、私にとっては想定内よ。猛士の上りの遅さは知ってるから。最終コーナーだけで追いつかれたのでしょ?」

 西野に上りの遅さを指摘される。
 まぁ、初めて峠を上った時からずっと一緒に走っているのだ。
 私の上りの実力は西野が一番把握しているのは当然の事だな。

「その通りだよ。下りと平地区間は参加者の中で速い方だからね。最終コーナーの上りで一気に距離を詰められてしまった。南原さんが最後まで走った方が楽に勝てたのでは?」
「自分が最終走者だったらスプリントでまくられてましたよ。高速巡行で逃げ切れる相手ではなかったので。自分はアシストとしての仕事をしただけです。勝てたのは猛士さんのお陰ですよ」

 南原さんが謙遜する。
 南原さんはチーム内で一番年下なのに一番シッカリしている。
 逆に最年長の北見さんの方がやんちゃな雰囲気なのが不思議だ。

「南原は謙遜し過ぎなんだよ。もっと堂々と自慢しようぜ。優勝なんだぜ?」

 ほらね。この調子だ。
 まだまだ話し足りないが、私達のレースは終わっていない。
 ソロエントリーの木野さんがゴールしていないからだ。

「まだまだ話したいけど、木野さんを応援しよう。まだ頑張って走っているからな」
「そうね、先頭集団からはドロップしたけど、結構ハイペースで走っているから後数周でゴールすると思うわよ」

 提案する私に西野が賛同してくれた。
 私達4人はコース脇の観戦スペースに向かい、レースを観戦する事にした。

「木野さーん!」
「頑張ってー!」
「頑張れや!」
「ファイトです! 木野さん!」

 木野さんがホームストレートを通過する毎に、みんなで声援を送る。
 私達が声援を送る度に少し恥ずかしそうだが、嬉しそうに頷きながら走り去っていく。
 そして木野さんもゴールして、ピットロードに戻って来た。

「いやぁ、皆さんのサポートのお陰で目標より速く走れましたよ」

 木野さんにピットインした時にボトル交換を手伝った事を感謝された。
 前回一人で参加した時は、ピットインした後に自分でドリンクを詰めたり、不足したドリンクを購入する為に自販機まで買いに行っていたそうだ。
 全員ケガもなく無事に完走出来たのは良かった。
 後は表彰式を待つだけだーー

 *

 レースが終了してピット裏の受付付近で表彰式が始まった。
 先ずは男子ソロエントリーの表彰。
 東尾師匠が堂々と表彰台の一番高いところに上る。
 主催者の人から優勝トロフィーと賞状を受け取り、高く掲げた。私達は師匠の雄姿を写真に収めた。
 続いて女子のソロエントリーの表彰……だが、知り合いがいないのでスルーした。
 そして、私達が参加した団体エントリーの表彰。
 私達4人で表彰台に上る。
 優勝トロフィーと賞状を受け取り高々と掲げた。
 木野さんと東尾師匠が写真を撮ってくれている。
 僅か50cm程度の高さの簡易表彰台。
 大した高さではない。だけど……私にとっては、今まで上ったどこの峠よりも遥かに高いと思える場所だった。
 今の自分自身の力では絶対に立つ事が出来なかった場所だから。
 表彰式が終わり、帰宅する為に駐車場で愛車の積み込みを始めた。

「なんで泣いてるのよ」

 西野は突然何を言い出しているのだ。誰が泣いているのだ?
 疑問に思う私と西野の目が合う……泣いているのは私か?
 西野の指摘で自分が泣いている事に気付かされた。
 初めての勝利で気持ちが昂り過ぎたか?

「初勝利で感動したからかな。全力で戦って負けたならスッキリ出来る。だから、今まで参加したレースは負け続けたけど最高だったよ。でも……勝てたらそれ以上に最高だった」
「感動したのは分かったけど、泣くのは帰ってからにしてよ」

 西野が困惑している。
 一回りも年下の女性を困らせているとはな……何をしているのだ私は!

「それじゃ、メンドクサイのは任せたよ。南原君と木野君は私が送っていくから」

 車に乗った北見さんに声をかけられた。いつの間にか南原さんと木野さんも同乗している。

「チョット! 置いていくの?」

 慌てて引き留めようとする西野に3人は別れの挨拶をする。

「じゃあな!」
「失礼します!」
「またご一緒しましょう!」

 私と西野はあっさり置いていかれた。
 置いていかれたといっても、私が車で西野を送っていけば良いだけなの事なのだがな。
 だが、今は帰宅する事より、初勝利の余韻に浸っていたい……西野を少し待たせる事になるのは申し訳ないけどな。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...