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3章 レースチームを立ち上げる中年
第31話 作戦会議する不器用な男
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今月は木野さんと一緒にクリテリウムに出場する事にした。
前回同様、エントリーしたのはビギナークラスだ。
違うのは同じチームとして出場している事だ。
チームジャージは完成していないけど、同じチームなのでスタートリストに、私と木野さんの名前が並んで載っている。
レースに参加する私と木野さんと東尾師匠の3人で今日の作戦を練る。
「俺は違うクラスだけど、二人は協力して走るんだよな。作戦は決まっているのか?」
「そうですねぇ、スプリントが得意な中杉さんがエースですかな?」
東尾師匠に作戦を問われて、木野さんが私がエースだと答えた。
普通だったら木野さんの言う通り、スプリント力がある私がエースになるのだろう。
でも、私には別の考えがある。
「いや、今日のエースは木野さんだよ。私がアシストする」
「どうしてですか? アシストしてもらえるのは嬉しいですけど」
「まだまだインターバル耐性が低くて、完走がギリギリなのですよ。木野さんにアシストして頂いてもゴールスプリントする余裕はないのです」
「でもゴール前までアシストして頂いても、僕はスプリントする力が元々ないですよ」
木野さんの言う事はもっともだ。
私がエースだと先頭集団に残れずゴールスプリントに参加する事すら出来ない。
木野さんがエースだとゴールスプリントで負ける。
どうしたら良いのだろうか?
「それなら猛士がアタックして他の選手の足を削るのはどうだ?」
東尾師匠が提案してくれた。
「アタックして他の選手の足を削る? どうやるのですか?」
「逃げを狙う様に見せかけて、立ち上がりでアタックを繰り返すんだ。他の選手に立ち上がりでパワーを使わせれば、かなり足を削れるはずだ。それで他の選手の足が消耗させておいて、木野さんがラスト2周くらいでしれっと逃げれば勝てるんじゃないか」
「なるほど。他の選手のスプリント力が落ちていれば、スプリントが苦手な木野さんでも勝てる見込みが出ますね」
「その通りだ。どうかな木野さん?」
「有り難いですけど、僕がエースで良いんですかねぇ」
木野さんが遠慮がちに言う。仲間なんだから気を使わなくて良いのに。
「もちろんだ。同じチームの仲間だろう? ビギナークラスだけど表彰台の頂点にチーム名を掲げよう」
「よしっ、頑張りますよ」
私の提案を受け入れてくれた木野さんが、自分の頬を叩き気合を入れる。
「その意気だ。あと、俺のレースを忘れるなよ」
あぁ、前回話し込んで師匠のレースを見逃したのを根に持っているな……
「3人共準備はOKかな? 北見と南原は二人の雄姿を撮影するって張り切っているわよ」
飲み物を買いに行っていた西野が戻って来た。
「カッコ悪い所は見せられないな」
「恥ずかしいですね」
「チームメイトに格好いいところを見せてやろうぜ!」
応援組の北見さんと南原さんの張り切りを知って、レース参加組の私達も気を引き締めるのであった。
*
レース開始まで時間があるので、西野が買ってきたお茶を飲みながら二人で話をする事にした。
「前回は完走出来たから、今回は順位アップを狙うの?」
「今回は木野さんのアシストに徹する予定だよ。結構無理するから、恐らくリタイアになるだろうな」
「それで良いの? プロのレースじゃないんだからチーム戦略とか必須じゃないでしょ。自由に走れば良いのに」
「自分の順位が多少上がるより、仲間の木野さんが勝った方が嬉しいからね」
「素直になりなさいよ。本当は自分が勝ちたいんでしょ。勝てたら泣くほど嬉しいくせに」
素直になりなさいか……先週の私のようだな。
「正直に言ってるよ。本当は自分が勝ちたいけどね。普段のトレーニングデータを見ていれば確実に勝てない事が分かっているのだ。出来ない事を望むより、可能性がある方を選んだだけだよ」
「そういう所イヤだな。猛士は正しさを追求し過ぎるから少し辛い……」
西野が心底嫌そうな顔をしている。
やはり先週の事で怒らせたのだろうか。
「この前の事を怒っているのか?」
「怒ってはいないわよ。色々辛い思いもあるけど気持ちがスッキリしたから。あれだけ堂々と言い切ってたのに気にしてるの?」
「気にしてるさ。辛い思いをさせた自覚はあるからな」
「自覚があるって……なんでそんな嫌な思いをしてまで蓮の話をしたのよ」
西野が今度は困った顔をする。
西野にどの様に思われても私は自分の意志を貫く事しか知らない。
「峠を走るのが楽しかった思い出と同じ様に、蓮さんの事も楽しく素敵な思い出であって欲しかっただけだ」
「お節介なんだから」
「お節介にもなるさ。年長者なんだからな」
「猛士は辛くならないの?」
西野が心配そうな顔をする。
怒らせたり、困らせたり、心配されたり……私も未熟だな。
お茶を一口含み、気持ちをリセットする。
「何故辛くなるのだ? 間違った事を続ける方が辛いだろう?」
「はぁ、面倒な人なんだから。どうしてこんな人なんだろう」
西野がため息交じりに言った。
『どうしてこんな人なんだろう』とは、どういう意味だろう?
若い女性にとって中年の私は面倒な人と思われるのだろうな。
まぁ、嫌われてはいないようだから良しとしようーー
前回同様、エントリーしたのはビギナークラスだ。
違うのは同じチームとして出場している事だ。
チームジャージは完成していないけど、同じチームなのでスタートリストに、私と木野さんの名前が並んで載っている。
レースに参加する私と木野さんと東尾師匠の3人で今日の作戦を練る。
「俺は違うクラスだけど、二人は協力して走るんだよな。作戦は決まっているのか?」
「そうですねぇ、スプリントが得意な中杉さんがエースですかな?」
東尾師匠に作戦を問われて、木野さんが私がエースだと答えた。
普通だったら木野さんの言う通り、スプリント力がある私がエースになるのだろう。
でも、私には別の考えがある。
「いや、今日のエースは木野さんだよ。私がアシストする」
「どうしてですか? アシストしてもらえるのは嬉しいですけど」
「まだまだインターバル耐性が低くて、完走がギリギリなのですよ。木野さんにアシストして頂いてもゴールスプリントする余裕はないのです」
「でもゴール前までアシストして頂いても、僕はスプリントする力が元々ないですよ」
木野さんの言う事はもっともだ。
私がエースだと先頭集団に残れずゴールスプリントに参加する事すら出来ない。
木野さんがエースだとゴールスプリントで負ける。
どうしたら良いのだろうか?
「それなら猛士がアタックして他の選手の足を削るのはどうだ?」
東尾師匠が提案してくれた。
「アタックして他の選手の足を削る? どうやるのですか?」
「逃げを狙う様に見せかけて、立ち上がりでアタックを繰り返すんだ。他の選手に立ち上がりでパワーを使わせれば、かなり足を削れるはずだ。それで他の選手の足が消耗させておいて、木野さんがラスト2周くらいでしれっと逃げれば勝てるんじゃないか」
「なるほど。他の選手のスプリント力が落ちていれば、スプリントが苦手な木野さんでも勝てる見込みが出ますね」
「その通りだ。どうかな木野さん?」
「有り難いですけど、僕がエースで良いんですかねぇ」
木野さんが遠慮がちに言う。仲間なんだから気を使わなくて良いのに。
「もちろんだ。同じチームの仲間だろう? ビギナークラスだけど表彰台の頂点にチーム名を掲げよう」
「よしっ、頑張りますよ」
私の提案を受け入れてくれた木野さんが、自分の頬を叩き気合を入れる。
「その意気だ。あと、俺のレースを忘れるなよ」
あぁ、前回話し込んで師匠のレースを見逃したのを根に持っているな……
「3人共準備はOKかな? 北見と南原は二人の雄姿を撮影するって張り切っているわよ」
飲み物を買いに行っていた西野が戻って来た。
「カッコ悪い所は見せられないな」
「恥ずかしいですね」
「チームメイトに格好いいところを見せてやろうぜ!」
応援組の北見さんと南原さんの張り切りを知って、レース参加組の私達も気を引き締めるのであった。
*
レース開始まで時間があるので、西野が買ってきたお茶を飲みながら二人で話をする事にした。
「前回は完走出来たから、今回は順位アップを狙うの?」
「今回は木野さんのアシストに徹する予定だよ。結構無理するから、恐らくリタイアになるだろうな」
「それで良いの? プロのレースじゃないんだからチーム戦略とか必須じゃないでしょ。自由に走れば良いのに」
「自分の順位が多少上がるより、仲間の木野さんが勝った方が嬉しいからね」
「素直になりなさいよ。本当は自分が勝ちたいんでしょ。勝てたら泣くほど嬉しいくせに」
素直になりなさいか……先週の私のようだな。
「正直に言ってるよ。本当は自分が勝ちたいけどね。普段のトレーニングデータを見ていれば確実に勝てない事が分かっているのだ。出来ない事を望むより、可能性がある方を選んだだけだよ」
「そういう所イヤだな。猛士は正しさを追求し過ぎるから少し辛い……」
西野が心底嫌そうな顔をしている。
やはり先週の事で怒らせたのだろうか。
「この前の事を怒っているのか?」
「怒ってはいないわよ。色々辛い思いもあるけど気持ちがスッキリしたから。あれだけ堂々と言い切ってたのに気にしてるの?」
「気にしてるさ。辛い思いをさせた自覚はあるからな」
「自覚があるって……なんでそんな嫌な思いをしてまで蓮の話をしたのよ」
西野が今度は困った顔をする。
西野にどの様に思われても私は自分の意志を貫く事しか知らない。
「峠を走るのが楽しかった思い出と同じ様に、蓮さんの事も楽しく素敵な思い出であって欲しかっただけだ」
「お節介なんだから」
「お節介にもなるさ。年長者なんだからな」
「猛士は辛くならないの?」
西野が心配そうな顔をする。
怒らせたり、困らせたり、心配されたり……私も未熟だな。
お茶を一口含み、気持ちをリセットする。
「何故辛くなるのだ? 間違った事を続ける方が辛いだろう?」
「はぁ、面倒な人なんだから。どうしてこんな人なんだろう」
西野がため息交じりに言った。
『どうしてこんな人なんだろう』とは、どういう意味だろう?
若い女性にとって中年の私は面倒な人と思われるのだろうな。
まぁ、嫌われてはいないようだから良しとしようーー
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