34 / 101
3章 レースチームを立ち上げる中年
第34話 最上位クラスを観戦する
しおりを挟む
さて次は師匠のレースだ。
前回エキスパートクラスで優勝しているから。
今回は最上位のエリートクラスで参戦だ。
北見さんと南原さんは、それぞれ写真を撮りにゴール前と最終コーナー付近に向かっていった。
私と西野と木野さんの3人は第2コーナーを抜けたバックストレートの入口付近に陣取った。
西野がお菓子と飲み物を取り出す。私はアウトドア用の簡易チェアを3人分用意した。
「ボロボロの東尾に楽しくヤジを飛ばすわよ!」
ヤジ?
私と木野さんには声援を送っていたのに?! しかもボロボロだって?
でもヤジを飛ばす機会は来るのだろうか?
いくら上のクラスに上がったとはいえ、エキスパートクラスでぶっちぎり優勝を果たしたのだ。
「ヤジだって? 優勝は無理でも結構良い順位になると思うけど?」
「ボロボロは言い過ぎだけど、厳しいレースになると思いますよ」
「その通り! だから何周持つか賭けましょう」
木野さんも厳しいレースになると思っているのか。
それだけ最上位クラスは特別なのか?
でもヤジを飛ばす必要はないよな?
「普通に応援しよう。完走出来る様に」
「そうですね。全員完走で帰りましょう!」
「私は15周でドロップすると思うわ」
西野は遠慮ないな……
パァーン!
ピストルの音が会場に鳴り響いた。
師匠のレース展開について話している間にレースが開始されたのだ。
ローリングスタートで速度を落とした集団が私達の前を通過する。
いた、師匠だ!
ロードバイクを含めた全身が赤い師匠は目立つ。
「師匠!」
「東尾さん!」
私と木野さんが声援を送ると、師匠が前を向いたまま頭を下げて反応した。
派手好きな師匠なのに地味な反応しかしないのは、集団走行でよそ見や手放しは危険だからだ。
それでも、位置取りは集団の先頭付近だったし、ニヤニヤしていたから上位を狙っている事は分かる。
そして1周を終えリアルスタートを迎えた。
爆発的に加速する先頭集団。
一気に第1コーナー、第2コーナーを抜けて私達の前を通過し始めた。
師匠は何処だ? あまりの速さに見失う。
既に大半の選手が先頭集団から遅れ。第2、第3集団と小さい集団に分断されている。
「師匠は何処に?」
「私も見失ってしまいましたねぇ」
「一応先頭集団にいたわよ」
何だ私と木野さんが見逃す程の状況で、師匠を見つけられる程度には良く見てくれているではないか。
西野も師匠を心配してくれているのだろうな。
3周目、再び先頭集団が私達の前を通過する。
先頭集団の10名の中に師匠がいる。
いや、正確に言うと先頭集団の中ではなく最後尾だ。
「頑張れ師匠!」
「ファイトですよぉー」
「15周踏ん張りなさいよ」
再び声援+αを送る。
初めて見る師匠の余裕のない横顔……これが師匠の本気か?
師匠達先頭集団が走り去った5秒後、10名程の第2集団が通過する。
「5秒差! まだ追えるわよ!」
西野が第2集団に声援を送る。師匠には送らないのに……
「今の集団ノノの知り合いがいたのか?」
「いないわよ。同じ趣味で頑張っている選手には声援を送りたくなるでしょ。周りの観客も同じで声援を送っているじゃない?」
そういう事なら納得だな……いや、納得出来ないだろう。
ゲスト扱いだが師匠は同じチームだ!
他の選手に声援を送る理由は理解出来たけど師匠も応援しようよ。
更に5名程の第3集団が通過したので、私と木野さんも西野と一緒に声援を送った。
第3集団は第2集団から更に5秒遅れている。
先頭からはたったの10秒差だけど、平均時速45kmでは125mの差がつくのだ。
このままのペースで離されたら後4周程度でラップアウトが適用されてしまう。
全部で20周回の内、まだ3周目なのに……
その後も選手が観戦している私達の前を通過していく。
ただでさえ遅れているのに集団ではないので、空気抵抗を減らすためのローテーションを行えないのだ。
挽回出来ず、次の周回でラップアウトとなるだろう……それでも周囲の観客と一緒に声援を送った。
そうしている内に先頭集団が戻って来た。
早いな、私達のレースより1周20秒程早いのではないか?
先頭集団は既に1名減って9名になっていたが、師匠は無事に先頭集団に残っていた。
「頑張れー!」
「負けるなー!」
「遅れ始めてるわよ!」
師匠は私達が送った声援に反応しなかった。
何かに嚙みつくのではないかと思えるように、大きな口を開けて荒い呼吸をしている師匠。
既に声援を聞く余裕が無いのだろう。
それでも声援を送るのを止める事はしない。
「東尾持たなそうね。このままだと全員外れかな」
「ノノ! 師匠を信じようよ」
「そうですよ。まだまだ先頭集団に残れているのだから凄いですよ!」
「ギリギリ完走が持ち味の猛士の師匠だからね。東尾も師匠としてギリギリ完走の見本を見せないとね」
何か吹っ切れたのか、西野が益々遠慮なく毒を吐くようになったな。
話込んでいる間に第2集団が通過する。
先頭集団との差は5秒を維持か……少しレース展開が落ち着いたのだろうか。
続く第3周集団は先頭から15秒差。更に差を開けられている。
このままでは後3周程度でラップアウトになる計算だ。無事に完走出来る様に声援を送った。
残りの集団から遅れた5名の選手は4周目でラップアウトとなってしまった。
残り25名……最上位クラスなだけあって激しいレースだな。
自分自身のレースより観戦の方が時間を忘れて白熱してしまう。
レース中は余裕が無いけど、落ち着いて観戦するとレース展開が良く見えて面白いからだ。
これもレース参加の醍醐味の一つだな。
前回エキスパートクラスで優勝しているから。
今回は最上位のエリートクラスで参戦だ。
北見さんと南原さんは、それぞれ写真を撮りにゴール前と最終コーナー付近に向かっていった。
私と西野と木野さんの3人は第2コーナーを抜けたバックストレートの入口付近に陣取った。
西野がお菓子と飲み物を取り出す。私はアウトドア用の簡易チェアを3人分用意した。
「ボロボロの東尾に楽しくヤジを飛ばすわよ!」
ヤジ?
私と木野さんには声援を送っていたのに?! しかもボロボロだって?
でもヤジを飛ばす機会は来るのだろうか?
いくら上のクラスに上がったとはいえ、エキスパートクラスでぶっちぎり優勝を果たしたのだ。
「ヤジだって? 優勝は無理でも結構良い順位になると思うけど?」
「ボロボロは言い過ぎだけど、厳しいレースになると思いますよ」
「その通り! だから何周持つか賭けましょう」
木野さんも厳しいレースになると思っているのか。
それだけ最上位クラスは特別なのか?
でもヤジを飛ばす必要はないよな?
「普通に応援しよう。完走出来る様に」
「そうですね。全員完走で帰りましょう!」
「私は15周でドロップすると思うわ」
西野は遠慮ないな……
パァーン!
ピストルの音が会場に鳴り響いた。
師匠のレース展開について話している間にレースが開始されたのだ。
ローリングスタートで速度を落とした集団が私達の前を通過する。
いた、師匠だ!
ロードバイクを含めた全身が赤い師匠は目立つ。
「師匠!」
「東尾さん!」
私と木野さんが声援を送ると、師匠が前を向いたまま頭を下げて反応した。
派手好きな師匠なのに地味な反応しかしないのは、集団走行でよそ見や手放しは危険だからだ。
それでも、位置取りは集団の先頭付近だったし、ニヤニヤしていたから上位を狙っている事は分かる。
そして1周を終えリアルスタートを迎えた。
爆発的に加速する先頭集団。
一気に第1コーナー、第2コーナーを抜けて私達の前を通過し始めた。
師匠は何処だ? あまりの速さに見失う。
既に大半の選手が先頭集団から遅れ。第2、第3集団と小さい集団に分断されている。
「師匠は何処に?」
「私も見失ってしまいましたねぇ」
「一応先頭集団にいたわよ」
何だ私と木野さんが見逃す程の状況で、師匠を見つけられる程度には良く見てくれているではないか。
西野も師匠を心配してくれているのだろうな。
3周目、再び先頭集団が私達の前を通過する。
先頭集団の10名の中に師匠がいる。
いや、正確に言うと先頭集団の中ではなく最後尾だ。
「頑張れ師匠!」
「ファイトですよぉー」
「15周踏ん張りなさいよ」
再び声援+αを送る。
初めて見る師匠の余裕のない横顔……これが師匠の本気か?
師匠達先頭集団が走り去った5秒後、10名程の第2集団が通過する。
「5秒差! まだ追えるわよ!」
西野が第2集団に声援を送る。師匠には送らないのに……
「今の集団ノノの知り合いがいたのか?」
「いないわよ。同じ趣味で頑張っている選手には声援を送りたくなるでしょ。周りの観客も同じで声援を送っているじゃない?」
そういう事なら納得だな……いや、納得出来ないだろう。
ゲスト扱いだが師匠は同じチームだ!
他の選手に声援を送る理由は理解出来たけど師匠も応援しようよ。
更に5名程の第3集団が通過したので、私と木野さんも西野と一緒に声援を送った。
第3集団は第2集団から更に5秒遅れている。
先頭からはたったの10秒差だけど、平均時速45kmでは125mの差がつくのだ。
このままのペースで離されたら後4周程度でラップアウトが適用されてしまう。
全部で20周回の内、まだ3周目なのに……
その後も選手が観戦している私達の前を通過していく。
ただでさえ遅れているのに集団ではないので、空気抵抗を減らすためのローテーションを行えないのだ。
挽回出来ず、次の周回でラップアウトとなるだろう……それでも周囲の観客と一緒に声援を送った。
そうしている内に先頭集団が戻って来た。
早いな、私達のレースより1周20秒程早いのではないか?
先頭集団は既に1名減って9名になっていたが、師匠は無事に先頭集団に残っていた。
「頑張れー!」
「負けるなー!」
「遅れ始めてるわよ!」
師匠は私達が送った声援に反応しなかった。
何かに嚙みつくのではないかと思えるように、大きな口を開けて荒い呼吸をしている師匠。
既に声援を聞く余裕が無いのだろう。
それでも声援を送るのを止める事はしない。
「東尾持たなそうね。このままだと全員外れかな」
「ノノ! 師匠を信じようよ」
「そうですよ。まだまだ先頭集団に残れているのだから凄いですよ!」
「ギリギリ完走が持ち味の猛士の師匠だからね。東尾も師匠としてギリギリ完走の見本を見せないとね」
何か吹っ切れたのか、西野が益々遠慮なく毒を吐くようになったな。
話込んでいる間に第2集団が通過する。
先頭集団との差は5秒を維持か……少しレース展開が落ち着いたのだろうか。
続く第3周集団は先頭から15秒差。更に差を開けられている。
このままでは後3周程度でラップアウトになる計算だ。無事に完走出来る様に声援を送った。
残りの集団から遅れた5名の選手は4周目でラップアウトとなってしまった。
残り25名……最上位クラスなだけあって激しいレースだな。
自分自身のレースより観戦の方が時間を忘れて白熱してしまう。
レース中は余裕が無いけど、落ち着いて観戦するとレース展開が良く見えて面白いからだ。
これもレース参加の醍醐味の一つだな。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる