44 / 101
4章 2年目の中年レーサー
第44話 新メンバーを任せる
しおりを挟む
私はひまりちゃんの後に続き、最後尾で上り切った。
最後にスプリントすれば追い抜く事も可能だったが、大人げないので止めた。
峠の頂上では西野、北見さん、南原さん、木野さんの4人が談笑しながら待っていた。
「少しは速くなったかしら?」
「お陰様でな」
「誰のお陰様?」
「ノノに決まっているだろう?」
西野といつも通り言葉を交わす。
「お二人は仲が良いのですねっ。結婚されて……苗字が違うから、お付き合いされているのかなっ?」
ひまりちゃんが爆弾発言をする。
いきなり中年男性と付き合っていると言われれば、西野だって機嫌を悪くするだろう。
西野は28才の若い女性なんだ。
「付き合っているというのは誤解だよ。仲が良いのは本当だけどね。変な事を言ったらノノに迷惑がかかるだろう? 好きな人がいたらどうするのだ?」
ほら、西野の顔がみるみる不愉快な表情になっていくではないか。
「ふーん、そういう猛士は好きな人いるの?」
「いないな。私は仕事で戦うのが生きがいだったからな。今はホビーレースで戦うのが生きがいかな。人生を支えてくれる相手を恋人と呼ぶなら、愛車が今の私の恋人って事になるかな」
そういって愛車を眺めた。
惚れ惚れする程に深い深海の様な青色。
圧倒的な空力性能で私のスプリントを支えるディープリムホイール。
ホビーレースを主戦場とする私にとって、これ以上の相棒はいないだろう。
「分かりますよ。その気持ち! 僕も愛車を大切にしていますからねぇ」
「だろう? 乗り込めば乗り込む程、フレームの特性を理解出来て、速く走れるペダリングが身につくんだ」
「そうそう、乗り込むと足に馴染んでくるんですよねぇ」
「それだよ。サイコンに表示されているパワーは変わらないのに、何故か速く進む感覚があるんだ」
「パワーを測定しているのはクランク部だから同じパワーが表示されるけど、実際に駆動部に伝わる力が変わっているのかもしれないですねぇ」
「考えると沼に嵌って時間が足りなくなるのだよ」
「うん、時間が溶けるような感じですよねぇ。でも理論より感覚を重視したい気持ちがあるんだよねぇ」
「分かる! スプリント程じゃないけど体を動かすのは心! 気持ち良く体を動かす感覚は大切だよな」
話が逸れてしまったが、木野さんと熱く語ってしまったな。
私の主戦場である、平地のレースに参戦していて、実力が近い木野さんとは気が合うのだ。
西野とひまりちゃんと南原さんは冷めた目で見ている……北見さんまで飽きれた顔をしているではないか。
「お前らなぁ、こんな若い子目の前にして、何で二人で盛り上がっているんだよ」
私は木野さんと顔を合わせた後、二人で北見さんに向かって言った。
「「ロードバイクの話です」」
北見さんが頭を抱えた。
「あぁーっ。分かったそれで今後の活動の事だけど、どうするよ。新メンバーも増えた事だし考えようや」
北見さんに問われる迄もなく、既に活動は決まっている。
先ずは私と木野さんのクリテリウムを主戦場とした平地のレースへの参戦。
次に去年は参加しなかった西野、木野さんのヒルクライムレースの応援。
そして、ひまりちゃんの事なら最初から決まっている。
「自己紹介の時も言ったけど、ひまりちゃんの事は南原さんに任せるよ」
「猛士さん、私を避けてますか?」
ひたすら南原さんに任せると言い続けたから、ひまりちゃんに誤解をさせてしまったか。
別にひまりちゃんを南原さんに押し付けたい訳ではない。
「そうではないよ。南原さんはひまりちゃんと同じ大学生だから予定が合いやすいと思ったからだよ。参加したいレースがあれば応援するし、私達のレースの応援に来てくれても嬉しいと思っている」
半分本当の事だから、こう言えばひまりちゃんも納得するだろうか。
実際は南原さんに任せた本当の理由は他にあるけど、ここでわざわざ言う必要もないだろう。
趣味に没頭していると忘れかけるが、部下を何人も管理している部長という立場なのだ。
ひまりちゃんの様な女性の部下だっている。だから……
「そうですかぁ。それじゃ、堅司さん宜しくね」
挨拶されてデレデレしている南原さん。
南原さんの緩んだ態度で少し不安を感じたが、彼ならひまりちゃんの問題を解決出来るだろう。
一安心して西野の方を見ると、真剣な目で私を見つめ返された。
「ノノ?」
「今度は何を背負ったのよ?」
何を背負ったか……西野には感づかれたかな。
だが、他のメンバーに知られたくないので誤魔化す。
「まだ減り切らない体脂肪かな。後でダイエットに付き合ってもらえるかな?」
「シッカリ痩せるまで峠を周回させるわよ」
「それはキツイ。甘いものが食べたくなる」
「甘えては駄目よ!」
いつもの西野との漫才で笑った後、皆で下山して別れた。
帰宅後、西野と連絡を取った。
そして、ひまりちゃんについて思っている事を全て打ち明けた。
最終的に西野も私を応援してくれる事になった。
『猛士はお節介ね』の一言と共にーー
最後にスプリントすれば追い抜く事も可能だったが、大人げないので止めた。
峠の頂上では西野、北見さん、南原さん、木野さんの4人が談笑しながら待っていた。
「少しは速くなったかしら?」
「お陰様でな」
「誰のお陰様?」
「ノノに決まっているだろう?」
西野といつも通り言葉を交わす。
「お二人は仲が良いのですねっ。結婚されて……苗字が違うから、お付き合いされているのかなっ?」
ひまりちゃんが爆弾発言をする。
いきなり中年男性と付き合っていると言われれば、西野だって機嫌を悪くするだろう。
西野は28才の若い女性なんだ。
「付き合っているというのは誤解だよ。仲が良いのは本当だけどね。変な事を言ったらノノに迷惑がかかるだろう? 好きな人がいたらどうするのだ?」
ほら、西野の顔がみるみる不愉快な表情になっていくではないか。
「ふーん、そういう猛士は好きな人いるの?」
「いないな。私は仕事で戦うのが生きがいだったからな。今はホビーレースで戦うのが生きがいかな。人生を支えてくれる相手を恋人と呼ぶなら、愛車が今の私の恋人って事になるかな」
そういって愛車を眺めた。
惚れ惚れする程に深い深海の様な青色。
圧倒的な空力性能で私のスプリントを支えるディープリムホイール。
ホビーレースを主戦場とする私にとって、これ以上の相棒はいないだろう。
「分かりますよ。その気持ち! 僕も愛車を大切にしていますからねぇ」
「だろう? 乗り込めば乗り込む程、フレームの特性を理解出来て、速く走れるペダリングが身につくんだ」
「そうそう、乗り込むと足に馴染んでくるんですよねぇ」
「それだよ。サイコンに表示されているパワーは変わらないのに、何故か速く進む感覚があるんだ」
「パワーを測定しているのはクランク部だから同じパワーが表示されるけど、実際に駆動部に伝わる力が変わっているのかもしれないですねぇ」
「考えると沼に嵌って時間が足りなくなるのだよ」
「うん、時間が溶けるような感じですよねぇ。でも理論より感覚を重視したい気持ちがあるんだよねぇ」
「分かる! スプリント程じゃないけど体を動かすのは心! 気持ち良く体を動かす感覚は大切だよな」
話が逸れてしまったが、木野さんと熱く語ってしまったな。
私の主戦場である、平地のレースに参戦していて、実力が近い木野さんとは気が合うのだ。
西野とひまりちゃんと南原さんは冷めた目で見ている……北見さんまで飽きれた顔をしているではないか。
「お前らなぁ、こんな若い子目の前にして、何で二人で盛り上がっているんだよ」
私は木野さんと顔を合わせた後、二人で北見さんに向かって言った。
「「ロードバイクの話です」」
北見さんが頭を抱えた。
「あぁーっ。分かったそれで今後の活動の事だけど、どうするよ。新メンバーも増えた事だし考えようや」
北見さんに問われる迄もなく、既に活動は決まっている。
先ずは私と木野さんのクリテリウムを主戦場とした平地のレースへの参戦。
次に去年は参加しなかった西野、木野さんのヒルクライムレースの応援。
そして、ひまりちゃんの事なら最初から決まっている。
「自己紹介の時も言ったけど、ひまりちゃんの事は南原さんに任せるよ」
「猛士さん、私を避けてますか?」
ひたすら南原さんに任せると言い続けたから、ひまりちゃんに誤解をさせてしまったか。
別にひまりちゃんを南原さんに押し付けたい訳ではない。
「そうではないよ。南原さんはひまりちゃんと同じ大学生だから予定が合いやすいと思ったからだよ。参加したいレースがあれば応援するし、私達のレースの応援に来てくれても嬉しいと思っている」
半分本当の事だから、こう言えばひまりちゃんも納得するだろうか。
実際は南原さんに任せた本当の理由は他にあるけど、ここでわざわざ言う必要もないだろう。
趣味に没頭していると忘れかけるが、部下を何人も管理している部長という立場なのだ。
ひまりちゃんの様な女性の部下だっている。だから……
「そうですかぁ。それじゃ、堅司さん宜しくね」
挨拶されてデレデレしている南原さん。
南原さんの緩んだ態度で少し不安を感じたが、彼ならひまりちゃんの問題を解決出来るだろう。
一安心して西野の方を見ると、真剣な目で私を見つめ返された。
「ノノ?」
「今度は何を背負ったのよ?」
何を背負ったか……西野には感づかれたかな。
だが、他のメンバーに知られたくないので誤魔化す。
「まだ減り切らない体脂肪かな。後でダイエットに付き合ってもらえるかな?」
「シッカリ痩せるまで峠を周回させるわよ」
「それはキツイ。甘いものが食べたくなる」
「甘えては駄目よ!」
いつもの西野との漫才で笑った後、皆で下山して別れた。
帰宅後、西野と連絡を取った。
そして、ひまりちゃんについて思っている事を全て打ち明けた。
最終的に西野も私を応援してくれる事になった。
『猛士はお節介ね』の一言と共にーー
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる