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4章 2年目の中年レーサー
第52話 ロードレース開催
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いよいよロードレースに参加する日となった。
今日のレースは全長約50km。
中盤の標高約900mの山岳地帯が最初の勝負所になるだろう。
北見さんとのトレーニング成果を活かして何とか遅れない様にしなければ。
私のチームからは6人が参加する。
趣味でレースしているチームにしては結構な人数が揃ったと思う。
人数だけなら優勝を狙うような有力チームに見えなくもない。
だが、私達は選手団の後方に集まった。
何故なら、今日のチームの目標は上りコースが苦手な私の完走だからだ。
レースというよりは、チームメンバーの親交を深める為の走行会という気分だな。
私のアシストの為にチームメンバーが整列する。
先頭はチーム内で圧倒的な実力を誇る東尾師匠。
続いて実力不明なエリートレーサー、ギタリスト利男。
その後は持久力に自信があるオールラウンダーの北見さん、タイムトライアルスペシャリストの南原さんが続く。
そして山岳アシスト要員の木野さん。最後に私だ。
後はこの場にはいないけど、西野とひまりちゃんも応援に来てくれている。
応援に来てくれたのは嬉しいが、申し訳ないとの思いもある。
今回のレースはいつもの周回レースと違ってラインレースだから、同じ場所は1回しか通過しない。
僅か数秒間の為に、貴重な休みの1日を使って応援に来てくれているのだ。
二人が観戦場所として選んだのは山岳地帯の頂上だ。
だから、上り坂が苦手であっても途中で挫ける訳にはいかない。
無意識の内にブラケットを握る力が増す。
「中杉君、硬ぇな。そんなに緊張してたらスタート前に疲れちまうぞ」
「そうだぜ。硬直するとリズムが取れないだろう? 演奏もペダリングもリズム感が大事だぜ!」
北見さんと利男の二人に緊張している事を指摘される。
分かりやすいくらいに緊張しているのか。
「そ、そ、そ、そうですよ。気楽にいきましょ、気楽に」
「そういう木野君も緊張し過ぎだっての」
木野さんを見ていると緊張がほぐれる。
流石、私のチームのムードメーカーだな。
「南原さんも大丈夫かな?」
「問題ないですよ、猛士さん」
南原さんは相変わらず反応が渋いな。
楽しんでくれていれば良いのだが。
「おーい、そろそろスタート時間だ」
東尾師匠の声掛けで皆スタートに備えた。
そしてレーススタート時間となり、前を走る選手集団が加速を始めた。
最初の区間はしばらく平地が続く。
直ぐに時速40~45kmの速度で巡行が始まる。この区間は楽に走れそうだ。
私は平地が得意だから、集団の後ろでドラフティング効果が得られている状況では更に足を使わず走れる。
だが、何故か目の前を走る木野さんが苦しそうだ。
「大丈夫ですか木野さん。苦しそうですけど、体調不良ですか?」
「へっ、平地がっ、苦手なだけっ、ですよ」
私の問いかけに木野さんが辛そうに返事する。
「何だい木野君はもう辛いのかい? 中杉君より先にダウンはねぇよな?」
「どうした正? 200W前後だから余裕だろ?」
北見さん……木野さんを励ましたいのは分かるが、もう少しまともな言い方はないのかい?
色物枠だと思っていた利男の方がマシな問いかけだと思うよ。
実際200W前後なんて、木野さんのパワーデータから見れば余裕だと思うのだけどな。
「平地だとっ、パワーが出ないんですよ。足がっ、空回りするようで」
「なるほど。木野君はトルク型か」
「トルク型? 平地の方がパワー出しやすいと思うのですが」
「それは中杉君だからだよ。木野君はヒルクライムみたいな常に負荷がかかる状態で、トルクをかけてクランクを回すのが得意なタイプなんだろう。平地みたいな負荷の低い状態で高回転でパワーを絞り出すのは苦手みたいだな」
「私は逆にヒルクライムの方がパワー出ないですけど、人によって違うのですね」
「そうだよ。ペダリングも筋肉の質によってパワーのかけ方が違うのさ。持久力が高い遅筋が多い木野君みたいなタイプは、クランクが一周回る間に均等に力をかけて回すのが得意だ。瞬間的に力を出すのが得意な速筋が多い中杉君みたいなタイプは、ペダルに一瞬力を込めて後は惰性でクランクを回すのが得意だ。感覚で言えば木野君のペダリングはグイグイで、中杉君はシュッ、シュッだ!」
そういう違いもあるのか。
ペダリングなんて皆同じ物だと思っていた。
レース中だけど勉強になったな。
「おーい、勉強会は終わったか? 木野さんがキツイなら速度を落とそうか?」
師匠から速度を落とす提案を受ける。
木野さんがキツそうだから速度を落としたいが、選手集団から遅れたらもっとキツイような気もする。
メンバー6人いれば挽回出来るとも思うけど……
「だ、大丈夫。キツイっ、だけでっ、ついていけます」
木野さんが辛そうに返事をする。
本人が大丈夫と言うのであれば信じるしかない。
私達は速度を維持して選手集団の後方を走り続ける事を選択した。
「正っ、右は俺に任せろ!」
「なら左は私が」
木野さんを横風から守る為、利男と南原さんが木野さんの左右を走る。
これで少しは木野さんの負担を減らせるだろう。
開始早々に予想外の展開となったが、レースはまだまだ始まったばかりだ。
今日のレースは全長約50km。
中盤の標高約900mの山岳地帯が最初の勝負所になるだろう。
北見さんとのトレーニング成果を活かして何とか遅れない様にしなければ。
私のチームからは6人が参加する。
趣味でレースしているチームにしては結構な人数が揃ったと思う。
人数だけなら優勝を狙うような有力チームに見えなくもない。
だが、私達は選手団の後方に集まった。
何故なら、今日のチームの目標は上りコースが苦手な私の完走だからだ。
レースというよりは、チームメンバーの親交を深める為の走行会という気分だな。
私のアシストの為にチームメンバーが整列する。
先頭はチーム内で圧倒的な実力を誇る東尾師匠。
続いて実力不明なエリートレーサー、ギタリスト利男。
その後は持久力に自信があるオールラウンダーの北見さん、タイムトライアルスペシャリストの南原さんが続く。
そして山岳アシスト要員の木野さん。最後に私だ。
後はこの場にはいないけど、西野とひまりちゃんも応援に来てくれている。
応援に来てくれたのは嬉しいが、申し訳ないとの思いもある。
今回のレースはいつもの周回レースと違ってラインレースだから、同じ場所は1回しか通過しない。
僅か数秒間の為に、貴重な休みの1日を使って応援に来てくれているのだ。
二人が観戦場所として選んだのは山岳地帯の頂上だ。
だから、上り坂が苦手であっても途中で挫ける訳にはいかない。
無意識の内にブラケットを握る力が増す。
「中杉君、硬ぇな。そんなに緊張してたらスタート前に疲れちまうぞ」
「そうだぜ。硬直するとリズムが取れないだろう? 演奏もペダリングもリズム感が大事だぜ!」
北見さんと利男の二人に緊張している事を指摘される。
分かりやすいくらいに緊張しているのか。
「そ、そ、そ、そうですよ。気楽にいきましょ、気楽に」
「そういう木野君も緊張し過ぎだっての」
木野さんを見ていると緊張がほぐれる。
流石、私のチームのムードメーカーだな。
「南原さんも大丈夫かな?」
「問題ないですよ、猛士さん」
南原さんは相変わらず反応が渋いな。
楽しんでくれていれば良いのだが。
「おーい、そろそろスタート時間だ」
東尾師匠の声掛けで皆スタートに備えた。
そしてレーススタート時間となり、前を走る選手集団が加速を始めた。
最初の区間はしばらく平地が続く。
直ぐに時速40~45kmの速度で巡行が始まる。この区間は楽に走れそうだ。
私は平地が得意だから、集団の後ろでドラフティング効果が得られている状況では更に足を使わず走れる。
だが、何故か目の前を走る木野さんが苦しそうだ。
「大丈夫ですか木野さん。苦しそうですけど、体調不良ですか?」
「へっ、平地がっ、苦手なだけっ、ですよ」
私の問いかけに木野さんが辛そうに返事する。
「何だい木野君はもう辛いのかい? 中杉君より先にダウンはねぇよな?」
「どうした正? 200W前後だから余裕だろ?」
北見さん……木野さんを励ましたいのは分かるが、もう少しまともな言い方はないのかい?
色物枠だと思っていた利男の方がマシな問いかけだと思うよ。
実際200W前後なんて、木野さんのパワーデータから見れば余裕だと思うのだけどな。
「平地だとっ、パワーが出ないんですよ。足がっ、空回りするようで」
「なるほど。木野君はトルク型か」
「トルク型? 平地の方がパワー出しやすいと思うのですが」
「それは中杉君だからだよ。木野君はヒルクライムみたいな常に負荷がかかる状態で、トルクをかけてクランクを回すのが得意なタイプなんだろう。平地みたいな負荷の低い状態で高回転でパワーを絞り出すのは苦手みたいだな」
「私は逆にヒルクライムの方がパワー出ないですけど、人によって違うのですね」
「そうだよ。ペダリングも筋肉の質によってパワーのかけ方が違うのさ。持久力が高い遅筋が多い木野君みたいなタイプは、クランクが一周回る間に均等に力をかけて回すのが得意だ。瞬間的に力を出すのが得意な速筋が多い中杉君みたいなタイプは、ペダルに一瞬力を込めて後は惰性でクランクを回すのが得意だ。感覚で言えば木野君のペダリングはグイグイで、中杉君はシュッ、シュッだ!」
そういう違いもあるのか。
ペダリングなんて皆同じ物だと思っていた。
レース中だけど勉強になったな。
「おーい、勉強会は終わったか? 木野さんがキツイなら速度を落とそうか?」
師匠から速度を落とす提案を受ける。
木野さんがキツそうだから速度を落としたいが、選手集団から遅れたらもっとキツイような気もする。
メンバー6人いれば挽回出来るとも思うけど……
「だ、大丈夫。キツイっ、だけでっ、ついていけます」
木野さんが辛そうに返事をする。
本人が大丈夫と言うのであれば信じるしかない。
私達は速度を維持して選手集団の後方を走り続ける事を選択した。
「正っ、右は俺に任せろ!」
「なら左は私が」
木野さんを横風から守る為、利男と南原さんが木野さんの左右を走る。
これで少しは木野さんの負担を減らせるだろう。
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