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4章 2年目の中年レーサー
第55話 ポニーテールの導き
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「右通ります」
師匠が周囲の選手に声をかけながら、前方の選手を追い抜いていく。
ついていくのに必死で、声掛けする余裕がないので助かる。
私はただ黙々と、前を走る二人に合わせようと頑張る。
二人のお陰でパワーは500Wで一定に保てるようになったから、後は走りを合わせてもっと効率的に走らないと。
だけど、師匠は俺の巻き起こす風に合わせろと言うし、利男はリズムだノリだと言う。
両方意味は分からないが、まだ利男の方がマシかな。
リズムがつかめる物……何かないのか?
何か目印になる物がないか、前を走る二人を観察する。
師匠は利男に隠れて良く見えないから、利男に合わせるしかないな。改めて利男を観察する。
あった、リズムがつかめる物!
上り区間で利男が腰を上げて走る度に踊る様に動くアレ。
利男のポニーテール!!
力強くペダルを踏み込むためにロードバイクを振る度に、ポニーテールがメトロノームの様に振れているのが見える。
ポニーテールの振りに合わせてペダルを踏み込むと、不思議な事だが一体感を感じながら走れる。
リズムを合わせて走っていると、嬉しい事にアップダウン区間で10人も追い抜けた。
残り10人。
ついにゴール前の最後の平坦部に辿り着く。
後はスプリントで少しでも順位を上げるだけだ。
だけど、どうやらここまでのようだ。
今の私の実力ではこれ以上の力は出せない。
スプリントする力は無く、逆に失速し始める。
次々に他の選手に追い抜かれていく。
苦手な上り区間で遅れた分を追い上げられたのが奇跡だったな。
後は、師匠と利男の二人に任せよう。
「猛士さん、まだ走れますか?」
「シッカリしろよ! ゴールは目の前だぜ!」
師匠と利男が減速して私の両脇を走る。
今までずっとアシストしてくれたのだ、私に気を使わなくても良いのに。
「力尽きたので……先に行ってください」
「最後まで一緒に走りましょう。もうゴールですよ」
「そうだぜ。3人一緒にゴールしようじゃないか」
前を見ると、他の選手達が次々にゴールラインを越えている。
折角、ゴール直前で先頭集団に追いついたのにな。
やっと追いついた20名の選手全員がゴールした後、3人並んでゆっくりゴールラインを通過した。
悔しさがこみ上げる……だけど……これはこれで良かったのかな。
途中、チームメンバーが3人も脱落したけど、こうして仲間と一緒にゴール出来たのだ。
ロードバイクから降り、ゴール前で残りの仲間を待つ。
10分後、北見さん、南原さん、木野さんの3人が一緒にゴールした。
チームメンバー全員で集まって、全員完走出来た事を喜び合った。
「なんだよ木野さん元気そうじゃないか。もっと頑張っても良かったのでは?」
「いえいえ、あのまま一緒にいたら平地で足を引っ張ってましたよ」
木野さんが手をパタパタ振りながら謙遜する。
本当に足を引っ張ったのは私なのだけどな。
「私はゴール前で足を引っ張ってしまいましたよ。実力不足でした」
「そんな事ねぇだろ。中杉君の実力で最後まで先頭付近で残れたのは凄げぇよ。実力が上の南原君が先に脱落したのは想定外だったけど」
「すみません……その……練習不足で」
少し落ち込む私を北見さんがフォローしてくれる。
だけど、南原さんと比較したので、今度は南原さんが落ち込む。
でも、週末に欠かさず走りに行っている南原さんが練習不足なのは不思議だな。
「大学が忙しかったのかな」
「女だろ女。学生なんだからデートで忙しかったんだろ」
「それは無いよ。堅司は大学で交際している相手はいなかったよな」
「えぇ、交際はしていないのですが……」
いつもはハッキリしている南原さんが言うのをためらっている。
どうやら南原さんは悩みがあるようだ。
これ以上追求して困らせない様に話を切り上げよう。
「まぁ、困ってるみたいだからここまでにしよう」
「何だい、もう終わりか。俺は音楽とロードの次くらいに恋愛話は好きだぜ」
「それなら中杉君に話してもらおうではないか」
「あっ、それ僕も興味あります」
北見さんが南原さんの話の代わりに、私の恋愛話を提案する。
木野さんが同意したが何故だろう? 私が恋愛?!
「どうして私なのだ? 話せるような恋愛話はないのだが」
「何だよ隠すのかい? 何時も西野と一緒にいるじゃないか? 実際の所、どうなんだい?」
なんだ西野の話か……恋愛の話を振られたと驚いたではないか。
最近は西野と一緒に走っている話しを皆にしていないから、近況を話しておこう。
「情けないけど全然追いつけないな。遺伝的に持久力が育ちにくい事は分かっているが、男女の差があるから互角に走れないのは不甲斐ないと思っている。今までと同じ状況だよ」
「あーっ、駄目だこのオッサン。報われねぇな」
「なんだか申し訳ない気分になりますね。謝りたい気分です」
何故か呆れる北見さんと木野さんの二人。
私が女性の西野に勝てない話をしたせいで、気を使わせてしまったか。
皆は西野の話を振るのに、実際に話すと毎回呆れるのだよな。
「話すのも楽しいけど、応援の二人を迎えに行った方が良いかな」
「それでは解散しましょう。今日は有難う御座いました」
東尾師匠の提案で解散する事にした。
私は皆に別れを告げ、峠の頂上で応援してくれた、西野とひまりちゃんを迎えに行った。
師匠が周囲の選手に声をかけながら、前方の選手を追い抜いていく。
ついていくのに必死で、声掛けする余裕がないので助かる。
私はただ黙々と、前を走る二人に合わせようと頑張る。
二人のお陰でパワーは500Wで一定に保てるようになったから、後は走りを合わせてもっと効率的に走らないと。
だけど、師匠は俺の巻き起こす風に合わせろと言うし、利男はリズムだノリだと言う。
両方意味は分からないが、まだ利男の方がマシかな。
リズムがつかめる物……何かないのか?
何か目印になる物がないか、前を走る二人を観察する。
師匠は利男に隠れて良く見えないから、利男に合わせるしかないな。改めて利男を観察する。
あった、リズムがつかめる物!
上り区間で利男が腰を上げて走る度に踊る様に動くアレ。
利男のポニーテール!!
力強くペダルを踏み込むためにロードバイクを振る度に、ポニーテールがメトロノームの様に振れているのが見える。
ポニーテールの振りに合わせてペダルを踏み込むと、不思議な事だが一体感を感じながら走れる。
リズムを合わせて走っていると、嬉しい事にアップダウン区間で10人も追い抜けた。
残り10人。
ついにゴール前の最後の平坦部に辿り着く。
後はスプリントで少しでも順位を上げるだけだ。
だけど、どうやらここまでのようだ。
今の私の実力ではこれ以上の力は出せない。
スプリントする力は無く、逆に失速し始める。
次々に他の選手に追い抜かれていく。
苦手な上り区間で遅れた分を追い上げられたのが奇跡だったな。
後は、師匠と利男の二人に任せよう。
「猛士さん、まだ走れますか?」
「シッカリしろよ! ゴールは目の前だぜ!」
師匠と利男が減速して私の両脇を走る。
今までずっとアシストしてくれたのだ、私に気を使わなくても良いのに。
「力尽きたので……先に行ってください」
「最後まで一緒に走りましょう。もうゴールですよ」
「そうだぜ。3人一緒にゴールしようじゃないか」
前を見ると、他の選手達が次々にゴールラインを越えている。
折角、ゴール直前で先頭集団に追いついたのにな。
やっと追いついた20名の選手全員がゴールした後、3人並んでゆっくりゴールラインを通過した。
悔しさがこみ上げる……だけど……これはこれで良かったのかな。
途中、チームメンバーが3人も脱落したけど、こうして仲間と一緒にゴール出来たのだ。
ロードバイクから降り、ゴール前で残りの仲間を待つ。
10分後、北見さん、南原さん、木野さんの3人が一緒にゴールした。
チームメンバー全員で集まって、全員完走出来た事を喜び合った。
「なんだよ木野さん元気そうじゃないか。もっと頑張っても良かったのでは?」
「いえいえ、あのまま一緒にいたら平地で足を引っ張ってましたよ」
木野さんが手をパタパタ振りながら謙遜する。
本当に足を引っ張ったのは私なのだけどな。
「私はゴール前で足を引っ張ってしまいましたよ。実力不足でした」
「そんな事ねぇだろ。中杉君の実力で最後まで先頭付近で残れたのは凄げぇよ。実力が上の南原君が先に脱落したのは想定外だったけど」
「すみません……その……練習不足で」
少し落ち込む私を北見さんがフォローしてくれる。
だけど、南原さんと比較したので、今度は南原さんが落ち込む。
でも、週末に欠かさず走りに行っている南原さんが練習不足なのは不思議だな。
「大学が忙しかったのかな」
「女だろ女。学生なんだからデートで忙しかったんだろ」
「それは無いよ。堅司は大学で交際している相手はいなかったよな」
「えぇ、交際はしていないのですが……」
いつもはハッキリしている南原さんが言うのをためらっている。
どうやら南原さんは悩みがあるようだ。
これ以上追求して困らせない様に話を切り上げよう。
「まぁ、困ってるみたいだからここまでにしよう」
「何だい、もう終わりか。俺は音楽とロードの次くらいに恋愛話は好きだぜ」
「それなら中杉君に話してもらおうではないか」
「あっ、それ僕も興味あります」
北見さんが南原さんの話の代わりに、私の恋愛話を提案する。
木野さんが同意したが何故だろう? 私が恋愛?!
「どうして私なのだ? 話せるような恋愛話はないのだが」
「何だよ隠すのかい? 何時も西野と一緒にいるじゃないか? 実際の所、どうなんだい?」
なんだ西野の話か……恋愛の話を振られたと驚いたではないか。
最近は西野と一緒に走っている話しを皆にしていないから、近況を話しておこう。
「情けないけど全然追いつけないな。遺伝的に持久力が育ちにくい事は分かっているが、男女の差があるから互角に走れないのは不甲斐ないと思っている。今までと同じ状況だよ」
「あーっ、駄目だこのオッサン。報われねぇな」
「なんだか申し訳ない気分になりますね。謝りたい気分です」
何故か呆れる北見さんと木野さんの二人。
私が女性の西野に勝てない話をしたせいで、気を使わせてしまったか。
皆は西野の話を振るのに、実際に話すと毎回呆れるのだよな。
「話すのも楽しいけど、応援の二人を迎えに行った方が良いかな」
「それでは解散しましょう。今日は有難う御座いました」
東尾師匠の提案で解散する事にした。
私は皆に別れを告げ、峠の頂上で応援してくれた、西野とひまりちゃんを迎えに行った。
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