ホビーレーサー!~最強中年はロードレースで敗北を満喫する~

大場里桜

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最終章 最強部長はロードレースでも最強を目指す

第81話 連続アタック

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 先頭集団との距離は700m。
 簡単に追いつきそうで追いつかない。
 平地が苦手な木野さんを気遣って速度を上げられないからだ。
 速度を上げて木野さんが遅れたら、自分一人で先頭集団を追わなければならない。
 独走で追うには持久力が足りないから難しい。
 先頭集団に追いついた後に力尽きたら、ゴールスプリントで勝負が出来ない。
 だから、私と木野さんの二人で無理なく維持出来る速度で、先頭交代のローテーションしながら先頭集団を追っている。

「速度が出なくてすみませんねぇ」
「こちらこそ、長く先頭を引けなくてすまない」
「この先のアップダウン区間は先に行ってください」
「木野さんはどうする?」
「地道に追いかけますよぉ。猛士さんのペースとは合わないですからねぇ。上り自体は得意ですから心配無用ですよぉ」
「先に利男に追いついておく。待ってるよ木野さん」
「頑張りますよぉ。追いつくって約束ですからねぇ」

 先頭集団から離されない様に、速度を維持しながら平地区間の走行を終えた。
 そして、短いアップダウンが続く区間に突入した。

「それでは先行しますよ!」

 私は木野さんに先行する事を告げた後、加速した。
 ここは私が得意な区間だ。
 腰を上げてパワーをかけて速度を上げて、上り坂に突入する。
 上りが苦手な私でも速度を上げて慣性をつけておくと楽に上り切れる。
 900W台のビッグパワーで加速して勢いをつけて、300W台で速度を維持して200m程度の短い上り坂を乗り越える。
 900Wはスプリントが苦手な選手にとっては全力のスプリントに相当するパワーだ。
 だが、今の私にとっては何度も繰り返せるパワーだ。
 今日の私の脚は調子が良い。
 そして、直ぐに下りとなる。
 下り区間は愛車の圧倒的な空力性能で一気に加速する。
 中盤のダウンヒルでも感じたが、明らかに速い!
 徐々に先頭集団が近づいてくるのが見える。
 このまま一気に先頭集団に追いついてみせる!
 ビッグパワーの連続アタックで、短いアップダウンを何度も乗り越え距離を詰める。
 そして、最後の平地区間に突入した。
 先頭集団との距離は100m。
 アップダウン区間で追いつく事は出来なかったが、十分距離を詰められている。
 ここで、先頭集団に追いつけなければ勝負は終わりだ。
 なら、全力を出すのは今しかない!
 腰を上げてスプリント体勢に入る。
 全力でバイクを振り、ペダルを踏み込む脚に力を込める。
 サイコンに表示されるパワーが急激に増加する。
 1412Wか……私にとってのベストパワーだ!
 時速65kmを越え、一気に先頭集団に追いつく。
 ゴール直前に追いついた!
 先頭集団の最後尾を走っていた利男の後ろにつき声をかける。

「やっと追いついたよ、利男」
「信じてたぜ猛士! ただしはどうした?」
「この後、追いかけてくる予定だ」
「今回は諦めてないか。それなら、追いついてくるのを信じてゴールを目指そう!」

 先頭集団は私を含めて13人。
 一緒に走っている選手を観察する。
 どうやら私と利男以外の選手はスプリントが得意そうではないみたいだ。
 ゴール前。
 スプリントが苦手な選手が、先行しようと速度を上げる。
 だが、ゴール直前で先行を許す事はない。
 選手全員で入れ替わりながら速度を上げる。
 先頭集団の速度が時速50kmまで上がり、一気にゴールとの距離が縮まる。
 残り400mか……後少しだな……300mまだ早い……200m今だ!
 腰を上げてスプリントを開始する。
 あれっ、何故だ? パワーが出ない。
 アップダウン区間では、何度でもアタック出来そうな感覚だったのに、何故かパワーが出ない。
 前を見ると、他の選手が次々にゴールしていくのが見える。
 折角先頭集団に追いついたのに……
 私はスプリント出来ず、そのまま失速した状態でゴールラインを通過した。
 先頭集団最下位の13位か……

「やっと追いついたぁぁぁぁっ!」

 木野さん?!
 アップダウン区間で遅れた木野さんが続いてゴールした。
 ゴールスプリントで力が出なかったのは残念だが、チームメンバー全員無事に完走出来て良かった。
 コースから出てチームメンバーで集まった。

「無事に優勝したぜ! 猛士が勝つと思ったのだけどな」

 利男が優勝した事を報告した。
 今回のレースに勝ったのは利男だったのか。
 チームで優勝者が出るのは嬉しい事だな。

「何故かパワーが出なくて、スプリント出来なかった。先頭集団最後尾の13位だったよ」
「それは残念だったな。でも、先頭集団に追いついたから成長はしてるよな。ただしは残念ながら追いつけなかったな」
「後少しだったんですけどねぇ」
「でも、ゴールしたのは私と殆ど同じタイムだから健闘したと思う」
「そうだな。得意じゃないコースレイアウトなのに、結構頑張ったと思うぜ!」
「ありがとうですよ~」
「後は利男の表彰式を見て帰ろうか」
「ばっちり写真を撮りますよぉ」
「カッコよく撮ってくれよ!」

 表彰式が始まり、私と木野さんで表彰台の頂点に立つ利男の写真を撮る。
 笑顔が眩しいな。
 今日の利男の雄姿は、木野さんがチームブログに掲載してくれるだろう。
 私にとっては残念な結果に終わったが、自分の弱点を洗い出す目的は果たした。
 自分では急にスプリントが出来なくなった原因が分からないが、私にスプリントを教えてくれた東尾師匠なら分かるかもしれない。
 明日、連絡してみよう!
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