90 / 101
最終章 最強部長はロードレースでも最強を目指す
第90話 仲間の為のゴールスプリント
しおりを挟む
遂に辿り着いた最後の山岳地帯。
この山岳地帯は約14kmあるが、下り区間もあるから実質約7km上ればよい。
そんなに厳しい上りではないが、疲れ切った今のコンディションでは先頭集団に残るのは難しいだろう。
500m上った所で最初のアタックがかかる。
私がいるのは先頭集団の最後尾だから先頭の状況は分からないが、最後の山岳地帯だから、ヒルクライムが得意な選手が優勝を狙って加速したのだろう。
今回のレースの最後は5kmの平地区間。
スプリントが得意な選手が勝ちやすいレースだから当然の展開といえる。
実際にスプリントが得意で、最後まで残れば優勝の可能性がある私も遅れ始めている。
最後まで先頭集団を追いかけるのは難しくても、諦めるには早い。
この山岳地帯の途中までは食らいつくのだ!
遅れた分を取り戻す為に、腰を上げてスプリントをしようとするが……
パワーが出ない?! 何故だ?
最後にスプリントをしたのは、先の平地区間の入口。
高速巡行で回復が遅れていたが、それでも30分近く経っている。
一番パワーを抑えたスプリント、ディバイディング・スプリント・トレイなら使えるハズなのに。
練習でつかんだ感覚と合わない。
何か大事な事を忘れているのか?
答えが出ないまま、先頭集団が離れていく。
今回の私のレースはここまでか……
悔しいけど結構頑張れたよな。
他に先頭集団から脱落した選手がいないから、一人で淡々と上り続ける。
そして山頂付近に辿り着いた所で……
「やっと追いついたよ。巡行も上りも苦手だから、集団に残れないとキツイな」
背後から東尾師匠に声をかけられた。
あの状況から追いついて来たのか!
凄いな師匠は!
「残念ながら、この上り区間の入口で力尽きてしまいましたよ。予想よりパワーが出なくなってしまって……」
「予想よりパワーが出ない? 補給はちゃんとしてるか?」
補給?! 師匠の言葉で思い出した。
今回のレースの全長は約140kmで、長い距離を走るから補給食を準備していたのだった。
レース終盤なのに、私の背中のポケットに補給食が大量に詰まっている。
結局、一つも食べていなかった。
苦手な上り区間では補給食を食べる余裕はなかった。
得意な平地区間も遅れを挽回する為に必死だった。
下り区間では補給食を食べる為に片手を放すのは危険だから無理だ。
実力不足なのに先頭集団に残ろうとしたから、結果的に補給を怠ってしまった。
一応、ボトルで水分補給をしているから、全く補給をしていない訳ではない。
それでも140kmを走り切るには、補給が不十分なのは明らかだ。
これではパワーが出なくて当然だな。
「その様子だと補給を忘れていたのかな? この後の下りでは危険だから、最後の平地区間で一応補給しておきますか?」
「そうですね。先頭集団に追いつく事は無いけど、出来るだけ追いかける予定ですから」
「そうすると、また俺遅れるのか。猛士さんの新車の空力性能は化け物だよな。下りで自信を無くすくらいに差を付けられるから」
「師匠も乗り換えますか? 私のはシゲさんのスペシャルカラーだけど、メーカー標準のカラーなら在庫ありましたよ」
「買えるお金がないよ。仕事じゃ敵わないな」
「一応部長なので!」
「一応で部長になれるかー!」
師匠と話しているうちに、山頂を越えて下り区間に突入した。
ここから先は話す余裕はない。
オーバースピードにならない様に、ブレーキで速度を調整しながら一気に下る。
そして、何事もなく最後の平地区間に辿り着いた。
周りに他の選手はいない。
今なら安全に補給食を食べられるだろう。
背中のポケットから補給用のジェルを取り出し、開封して一気に吸い込む。
独特な甘い味が口の中に広がる。
北見さんの話では、昔はもっと不味かったというけど……
「補給は済んだかな?」
下りで差がついたはずの師匠が追いついてきた。
機材性能の差をものともしないのは流石だな。
「今更だとは思うけど、念のために済ませておきました」
「その方がいいよ。ゴール前で力尽きる可能性もあるからね」
「残り5kmでリタイアはキツイですね。後少し頑張りますよ」
「その意気だ! 時速40kmくらいで先頭を引くけど大丈夫か?」
「問題ないですよ。力尽きているとはいえ、その程度はこなせますよ」
「さて、最後まで頑張ろう」
師匠の後ろについて最後の平地区間を走る。
既に勝負は終わっているから何事も起きないまま、ゴール前の直線区間に辿り着いた。
先頭集団に残った選手は既にゴールしているようだ。
「最後にスプリント出来ますか?」
ずっとアシストしてくれていた師匠にスプリント出来るか問われる。
本来なら、平地区間で前を引いてくれた師匠に譲るべきだ。
だが、あえてスプリント出来るか聞いて来たという事は、ゴール地点で私のスプリントを期待している勇也くんの為だろう。
それなら期待に応える必要がある。
補給を取ったし、師匠のアシストのお陰で多少は回復している。
「出来ますよ。最大出力は出せそうもないですけど」
「それで充分じゃないかな。さぁ、どうぞ!」
師匠に促されてスプリントを開始する。
下ハンドルを握り、腰を上がて必死にバイクを振る。
予想通りパワーは出ないな。
それでも時速50kmは何とか超えられた。
普段の私にとっては大した事はない速度だが、一応ゴールスプリントに見えるだろう。
そして最後までペダルを踏み抜き、ゴールラインを通過した。
この山岳地帯は約14kmあるが、下り区間もあるから実質約7km上ればよい。
そんなに厳しい上りではないが、疲れ切った今のコンディションでは先頭集団に残るのは難しいだろう。
500m上った所で最初のアタックがかかる。
私がいるのは先頭集団の最後尾だから先頭の状況は分からないが、最後の山岳地帯だから、ヒルクライムが得意な選手が優勝を狙って加速したのだろう。
今回のレースの最後は5kmの平地区間。
スプリントが得意な選手が勝ちやすいレースだから当然の展開といえる。
実際にスプリントが得意で、最後まで残れば優勝の可能性がある私も遅れ始めている。
最後まで先頭集団を追いかけるのは難しくても、諦めるには早い。
この山岳地帯の途中までは食らいつくのだ!
遅れた分を取り戻す為に、腰を上げてスプリントをしようとするが……
パワーが出ない?! 何故だ?
最後にスプリントをしたのは、先の平地区間の入口。
高速巡行で回復が遅れていたが、それでも30分近く経っている。
一番パワーを抑えたスプリント、ディバイディング・スプリント・トレイなら使えるハズなのに。
練習でつかんだ感覚と合わない。
何か大事な事を忘れているのか?
答えが出ないまま、先頭集団が離れていく。
今回の私のレースはここまでか……
悔しいけど結構頑張れたよな。
他に先頭集団から脱落した選手がいないから、一人で淡々と上り続ける。
そして山頂付近に辿り着いた所で……
「やっと追いついたよ。巡行も上りも苦手だから、集団に残れないとキツイな」
背後から東尾師匠に声をかけられた。
あの状況から追いついて来たのか!
凄いな師匠は!
「残念ながら、この上り区間の入口で力尽きてしまいましたよ。予想よりパワーが出なくなってしまって……」
「予想よりパワーが出ない? 補給はちゃんとしてるか?」
補給?! 師匠の言葉で思い出した。
今回のレースの全長は約140kmで、長い距離を走るから補給食を準備していたのだった。
レース終盤なのに、私の背中のポケットに補給食が大量に詰まっている。
結局、一つも食べていなかった。
苦手な上り区間では補給食を食べる余裕はなかった。
得意な平地区間も遅れを挽回する為に必死だった。
下り区間では補給食を食べる為に片手を放すのは危険だから無理だ。
実力不足なのに先頭集団に残ろうとしたから、結果的に補給を怠ってしまった。
一応、ボトルで水分補給をしているから、全く補給をしていない訳ではない。
それでも140kmを走り切るには、補給が不十分なのは明らかだ。
これではパワーが出なくて当然だな。
「その様子だと補給を忘れていたのかな? この後の下りでは危険だから、最後の平地区間で一応補給しておきますか?」
「そうですね。先頭集団に追いつく事は無いけど、出来るだけ追いかける予定ですから」
「そうすると、また俺遅れるのか。猛士さんの新車の空力性能は化け物だよな。下りで自信を無くすくらいに差を付けられるから」
「師匠も乗り換えますか? 私のはシゲさんのスペシャルカラーだけど、メーカー標準のカラーなら在庫ありましたよ」
「買えるお金がないよ。仕事じゃ敵わないな」
「一応部長なので!」
「一応で部長になれるかー!」
師匠と話しているうちに、山頂を越えて下り区間に突入した。
ここから先は話す余裕はない。
オーバースピードにならない様に、ブレーキで速度を調整しながら一気に下る。
そして、何事もなく最後の平地区間に辿り着いた。
周りに他の選手はいない。
今なら安全に補給食を食べられるだろう。
背中のポケットから補給用のジェルを取り出し、開封して一気に吸い込む。
独特な甘い味が口の中に広がる。
北見さんの話では、昔はもっと不味かったというけど……
「補給は済んだかな?」
下りで差がついたはずの師匠が追いついてきた。
機材性能の差をものともしないのは流石だな。
「今更だとは思うけど、念のために済ませておきました」
「その方がいいよ。ゴール前で力尽きる可能性もあるからね」
「残り5kmでリタイアはキツイですね。後少し頑張りますよ」
「その意気だ! 時速40kmくらいで先頭を引くけど大丈夫か?」
「問題ないですよ。力尽きているとはいえ、その程度はこなせますよ」
「さて、最後まで頑張ろう」
師匠の後ろについて最後の平地区間を走る。
既に勝負は終わっているから何事も起きないまま、ゴール前の直線区間に辿り着いた。
先頭集団に残った選手は既にゴールしているようだ。
「最後にスプリント出来ますか?」
ずっとアシストしてくれていた師匠にスプリント出来るか問われる。
本来なら、平地区間で前を引いてくれた師匠に譲るべきだ。
だが、あえてスプリント出来るか聞いて来たという事は、ゴール地点で私のスプリントを期待している勇也くんの為だろう。
それなら期待に応える必要がある。
補給を取ったし、師匠のアシストのお陰で多少は回復している。
「出来ますよ。最大出力は出せそうもないですけど」
「それで充分じゃないかな。さぁ、どうぞ!」
師匠に促されてスプリントを開始する。
下ハンドルを握り、腰を上がて必死にバイクを振る。
予想通りパワーは出ないな。
それでも時速50kmは何とか超えられた。
普段の私にとっては大した事はない速度だが、一応ゴールスプリントに見えるだろう。
そして最後までペダルを踏み抜き、ゴールラインを通過した。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる