追われる身にもなってくれ!

文月つらら

文字の大きさ
54 / 74

一緒に着いてきちゃいました

しおりを挟む

 クライノートの隠れ家に帰って一息ついたあと、思ったよりも長旅になってしまったし一旦リベラシオンへ帰ろうということになった。あまり長く出ているとマクシムも何かあったのかと不安になるだろうし……多分。
 それぞれなぜかアドラーたちもリベラシオンへ向かう準備を整え、よしワープするかとみんなを見回して気づく。何か、ある。どこかで見たことがある、少女を模した大きな……。

「リーナ、なんだ、そいつは。」

 どうせロクなモンじゃないのはわかりきっているが、気になったからには聞かないわけにはいかない。

「何って、どさん子の等身大人形よ。」

 ほらみたことか、と心の中で呟きつつ俺はため息をついた。一体何故そんなものがここにあるのかとか、何故さも当然かのように持っていこうとしているのかとか、疑問しか出てこない。
 しかしここで聞いたところで、どうせ返ってくる返事は俺の思考の斜め上をいくのだろう。今までだってそうだった。俺だけがまるでおかしい感覚を持っているのかと不安になることだらけだった。
 今回もそうに違いない。周りは急に何処からか現れたどさん子人形なんかに驚くこともなく、その状況を受け入れているのだろう。その証拠にアドラーなんてちゃっかりどさん子の肩に手を回している。

「ちょっとアドラー! セクハラよそれ!」

「あぁ? 俺みたいな男に触られて嫌がるわけねぇだろうが。なぁ、どさん子。」

「オレには嫌がってるように見えるからアウトかなー。やっぱガタイが良い眼帯より、このスーパーイケメンフェイスを持つオレの方がイイってさ!」

 一体俺は何を見せられているのだろう。ただ拠点に帰るだけだというのに、何故こうもよくわからない現象が起きるのか。
 もはや突っ込む気力もない俺はソッと石に手をかざしてこっそり念じた。リベラシオンへ、と。



「で、帰ってきたわけですか……。こんなものまで連れて。」

「すまない、マクシム。俺はもう突っ込みたくなかった。帰りたかったんだ。」

 しっかり一緒にワープしてしまったどさん子を見ながら俺は謝った。マクシムまでどさん子のファンだったらどうしようと思っていたが、どうやらそんなことはないらしい。
 そのすっかり呆れたかのような様子に、案の定アドラーやリーナが必死になって引き込もうとどさん子の良さを語り出した。すごく優しい子で、とか、気遣いができる子で、とかちょっと疑問を持つ言葉ばかり聞こえてくる。優しくて気遣いができるなら、あのチュートリアルで俺を貶してきたのは何だったんだと。
 リーナたちの必死の語りにもマクシムは興味ない様子で紅茶を淹れる準備を始めた。2人がかりの語りをものともせず、完全にスルーするメンタルは俺も見習いたい。相槌くらいうってあげてもいいのに完全なスルーだ。

「で、フィンは何にします? 今日のおすすめはこちらにレモンを浮かべたものですが。」

「じゃあそれで頼む。」

「でしたらレモンはわたくしが切りますわ! キッチンをお借りしてもよろしくて?」

 アリーチェがそうマクシムに尋ねると、マクシムは少し驚いた様子を一瞬だけ見せてから微笑んだ。

「これはこれは、アリーチェお嬢様。もちろんお使いいただいて結構ですが、ケガなどなさいませんよう。」

 わかっていますわ、と言ってキッチンに向かうアリーチェ。その姿を見ながら俺は妙な違和感を感じた。
 そういえばあの2人は自己紹介をしていない。それなのにマクシムはスッと名前を呼んでいる。もちろんアリーチェはヒンメルのお姫様だし、メディアに出ることも多い。他国の一般人が知っていても何もおかしなことではない。
 しかし知っているのは普通であっても、普通は言わない言葉をマクシムは言った。

(アリーチェ、お嬢様……?)

 アリーチェは確かに姫だしお嬢様ではあるが、アリーチェ姫とは言ってもお嬢様とは言わないだろう。お嬢様と呼ぶのなんてそれこそ身内か、身の回りの世話をしている者くらいのはずだ。
 そう思ったのはアドラーも同じだったようで、表情をスッと真顔に戻してマクシムを見ていた。

「アリーチェお嬢様、ねぇ……。アゲートの人間にしては不思議な呼び方するじゃねえの。まるでアイツの幼い頃を知っているかのようだ。」

「おっと、これは失礼しました。姫様と言うとあまりにも目立ちすぎるかと思いまして。」

(目立つのを気にしてたらここにそもそも来ないと思うが……)

 もう突っ込む気力もないので、それについては受け入れるしかないのだが。

「……ま、アイツはなんて呼ばれたって構いやしねえだろうが。てっきりアゲートの人間じゃねえのかと思ったぜ。見た目も物腰も、どうにもテメェはアゲートの人間とはかけ離れている感じがするからなぁ?」

 アドラーがそう言うと、マクシムは静かに笑ってそれ以上答えることはしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...