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第1章 少々特殊なキャンパスライフ
第3話 パートナー動物 ②
しおりを挟む「そこの四人組がちょうどいいから、例にさせてもらう。まずは日原君。君は保健所から譲渡された動物を飼育する一つ目のパターンだったな。理由は今までに犬猫を飼育したことがないからだったか」
「そうなります。少しでも経験を補えたらなと思いまして」
「いい心がけだ。今までの飼育経験なんて関係ない。獣医としての能力はこれからの勉強姿勢次第だからな」
教授は安心感を持たせるように頷きかけてきた。
選択に際して、日原たちは入学前に志望理由と共に申請書を提出している。
けれども自分は特殊な例になることだろう。
実のところ、今まで普通の愛玩動物を飼育したことがないのだから。
というのも両親が馬を飼っており、その牧場委託でお金を切り詰めていたため、他の動物を飼う余裕なんてなかったからだ。
連れて行かれた牧場で見るのも大型犬が大半で、猫や小動物と触れ合った経験はほぼない。
だからこそ、この選択肢にした。
武智教授はバックスペースに向かうと、一つのペットキャリーを抱えてきた。
中には一匹の猫が入っている。
「君のパートナーは、腎不全の高齢猫だ。猫は腎臓の詰まりを解消する血中タンパク質が上手く働かないために腎不全になりやすいとの研究結果がある。だが、高齢な上に持病があるペットは引き取り手が少ないんだ。この施策の目的は殺処分になりがちな彼らに適切な医療を提供しつつ、君たちの成長にも繋げることだ。重病故に遠からず看取る辛さもあるだろうが、めげずに頑張ってくれ」
「がっ、頑張ります……!」
腎不全は人工透析も必要となる重い病気とは聞くが、猫ではどのような扱いなのかまではわからない。
一癖ありそうなパートナーだとだけ把握した日原は心して頷く。
そう、これは寮で生活費を抑えつつ、ペットまで飼えるという夢の試みではない。
立派な獣医師になるため、命から学び取る授業だった。
「続いて渡瀬君! 君は二つ目。このラウンジ裏手の畜舎の産業動物を共同で飼育する選択肢だな。中でも、羊を希望したそうじゃないか」
「そうです。実家で一頭飼いされていた繁殖和牛から獣医に興味を持ったんですけど、最近は羊もかわいいなと思ってきたんです。あのう、日本で羊は厳しいですか?」
渡瀬は少々不安げに問いかけた。
畜産系の動物といえば牛や豚をまず思い出す。
代表例からいきなり外れる希望なので、視野の狭めすぎを危惧しているのかもしれない。
けれども武智教授は彼女の不安をはっきりと否定した。
「そんなことはない。近年の健康ブームで羊肉にはスポットが当たっている。小動物臨床に人が偏っている現状なら畜産系の獣医師はもとより求められているし、羊も然り。産業動物に対する興味と経験を持ってもらうのは学校としても望ましいことだ」
渡瀬はホッとした様子で胸を撫で下ろす。
目を向けていると、彼女もそれに気付いたらしい。照れ臭そうに、えへへとはにかむと携帯画面を見せてきた。
待ち受けには牛や羊の顔のアップが映っている。
「こういうの、かわいいよね!」
「そうだね。子牛とか羊は愛嬌が……んん?」
スワイプして次々と見せられる写真に日原は首を捻った。
かわいらしい写真特集かと思えばそうではない。
スワイプして見せられる写真は全て反芻類のふっくらとした口唇をクローズアップしている。
ふもっとしたこの部分が彼女のお気に入りらしい。いろいろな趣味があるものだ。
ともあれ、教授がごほんと咳払いで言外の注意をしてきたので姿勢を正す。
続いて教授の視線が向けられるのは鹿島と朽木の二人だ。
「そっちの二人は三つ目。自分で選択した動物を飼育する選択肢だな。これはエキゾチックアニマルなど、近年飼育数が増えた動物の経験を積むのが目的だ」
大学側も資金や設備的に、全ての動物を用意できるわけではない。
ならば元から特異な動物を飼っている生徒に飼育を認め、周囲の生徒にも経験を共有させたい。
そんな狙いで容認されているという前情報を、日原は思い出す。
この説明のための指示だったのだろう。
武智教授はテグーを指差した。
「朽木君は爬虫類のテグーだな。ヒョウモントカゲモドキやフトアゴヒゲトカゲと同様、名前を耳にする機会は増えただろう。当然、動物病院にも診療を求められるが、大学が教える動物は牛、豚、馬、犬が基本だ。鶏、猫、ウサギは教科によっては触れる。しかし、それ以外の動物は卒業後に職場で学ばなければならない」
「えっ、そうなんだ……?」
日原は教授の言葉に目を丸くする。
上級生が家禽疾病学、魚病学などを受講するのは新学期に向けた教科書購入リストに併記されていたので知っていた。
けれども動物病院で必要とされる技術のうち、どこまでを大学が教えてくれるのかは想像もしない領域だ。
他の生徒も意外だったらしく、ざわめいている。
次に教授が目を向けたのは鹿島だ。
「鹿島君が希望したミツバチにも同じことが言える。それにしても、入学当初から蜂に興味を持つ生徒は過去にいなかった。まさか親は養蜂家か、公務員獣医師か?」
風変わりな生徒もいたものだと武智教授は困惑気味に頭を掻く。
鹿島はまるで目の付け所が違う優等生のように眼鏡を光らせると、きびきび答えた。
「母が家畜保健衛生所で働いています」
「なるほど。それならわかる。あそこの職員はミツバチに蔓延するダニや細菌、真菌による病気などを検査しているからな」
日原の他、生徒の大半はその施設も背景も知らないために首を傾げているが、教授はやけに納得した様子だ。有名な施設なのだろうか。
すると、状況を察した武智教授は噛み砕いてくれた。
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