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第1章 少々特殊なキャンパスライフ
第2話 パートナー動物 ①
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中学や高校時代を思い出してみよう。
当時はクラスメイトと教室で顔合わせを終えてから入学式を迎えたものだった。
一方、大学の入学式は格段にあっさりしている。
予約した大型バスでホテルの会場に向かい、学部単位で大雑把に決められた席で式を終えると初めてクラスメイトが一か所に集まって記念撮影。
なんとそれで解散する流れだった。
けれども、獣医学科というものは人数が少ないだけに上級生との結びつきが非常に強いらしい。
式に駆け付けた上級生が希望者をファミレスに連れていき、軽い懇親会を催してくれた。――なんでも、上級生はこれだけに収まらず、学年ごとに連日宅飲みが計画しているそうだ。
早速、衝撃的な洗礼が待っていることには驚かされる。
学校行事だけでなく、遠方での一人暮らしという環境といい、今までとは大きく違う。
おまけにクラスメイトも個性派ぞろいだった。
そもそも獣医師は動物病院で働くだけが全てじゃない。
それは実に全体の約四割。
動物が関わる現場の数だけ獣医師がおり、職域の分だけ個性も増えていく。
運命の試験に居合わせ、記憶に残った生徒三人がまさに好例だった。
少し浮いた彼らとのファーストコンタクトは、そうそう忘れられるものじゃない。
試験前に学問の神様に祈りを捧げていた男子生徒は鹿島友則。
彼は優等生そうな見かけに反し、浪人覚悟での挑戦だったらしい。
しかし山勘が大当たりし続けて合格という奇跡に恵まれたそうだ。
夢か現かと、さ迷い歩くようだった彼とは入学式会場で再会した。
続けて、受験に遅れそうだった女生徒が渡瀬明香里。
スポーティな見かけもそのはず。高校時代はバスケットボール少女だったらしい。
快活な彼女はあの日の記憶に残ったもう一人の女子を引き連れ、こちらを見つけてくれた。
最後の一人は試験前にも寝ていた特殊な女子なんだけど――その前に状況をおさらいしよう。
入学式を終えたメンバーは諸々が終わったあとに大学に戻った。
というのも、担任教授が昼前にオリエンテーションを催すとのことだからだ。
集合場所は教室ではなく、寮に面したラウンジ。
ここは獣医学科が主催する犬のしつけ教室などで利用される場所らしい。
教室で催さない点といい、『ここで説明される内容』がもしやと予想される。
ともあれ四人は一度寮に荷物を置いてから再集合し、同じ卓を囲んだ。
さて、話題を戻そう。
もう一人の女子、朽木夕日がわざわざ寮から持ってきたものに日原は困惑した。
(なんでテグーを抱えてここに来ているのかな!?)
テグー。
それは全長一メートルほどにもなる大型のトカゲだ。
ペット業界では犬猫以外の動物という意味合いで使われるエキゾチックアニマルの代表例で、ウサギやフェレットに続き、ハリネズミなどと共に近年人気が高まっている。
朽木が胸に抱いたそれはテーブルに両前脚を乗せ、舌をちろちろとさせながらこちらを見つめていた。
顔つきはまさに恐竜。
見慣れない日原はごくりと生唾を飲んでしまう。
「わーっ、これがテグーね! 私、初めて見るよ。この子がクッチーのパートナー?」
「そう。説明ついでに連れてきてって教授に言われて」
はしゃいで見つめる渡瀬に朽木は頷きを返す。
なかなか特殊な彼女なので、ペットを連れ歩こうとしたのかと想像が頭を過ってしまった。
けれどこの場所に集合したことに加えてパートナーという一言に、日原は納得する。
「パートナー動物を連れてこさせるってことは大学の特色もオリエンテーションで説明するのかもね」
ありえそうな話だと日原が納得を示すと、鹿島もなるほどと手を叩く。
手持ち無沙汰なだけに談笑はこの『パートナー動物』に発展しそうだったが、タイミングよく担任教授がラウンジに到着したことで会話は止まった。
「よーし、全員集まっているな? それじゃあオリエンテーションを始めるぞ」
教卓に立つのは受験の時に試験官を担当した内科学の武智教授だ。
無精ひげが似合う、ダンディーな教授である。
彼はピシッと着たスーツのネクタイが窮屈なのか、少し緩めてから話を続ける。
「えー、皆さん。入学式の際にも言ったかと思いますが、瀬戸内大学獣医学科の第十二期生として合格おめでとう」
教授はラウンジに集まった生徒を見回す。
日本の獣医大学は一九六六年に北里大学が加わって以来、数十年と十六大学だったが、近年になって二校増えて十八大学となった。
瀬戸内大学獣医学部獣医学科一年生の学友は、総勢三十名。
現役、多浪、中には三十代、四十代もおり、男女比はほぼ半々。
これが六年間付き合うメンバーだ。
「さて、念願の獣医学生となれたわけだが羽目を外し過ぎてはいけない。一日の停学でもそのまま一年の留年に繋がるし、親元を離れたのを狙って様々な勧誘もあるので――」
と、まずは大学生活の幕開けとして諸注意が語られる。
薬物はダメ、学生らしく公序良俗に則った生活をという内容だ。高校でも聞き飽きた心得だけにこちらも今更感を覚えながら耳にした。
けれど、面白い話題もある。
それは話と共に配られたプリントに記載された大学の特色についてだ。
日原は改めて朽木とテグーに目を向ける。
彼女とパートナーの動物。これがこの大学の獣医学生を象徴する姿なのだ。
「次に寮生活についてだ。もう住んでいるので知るところだろうが、本校の獣医学科には他大学にはない独自のシステムがある。それが全寮制と、寮における動物の飼育だ。一部の動物専門学校がしていることと似ているな」
この点に期待してこの大学を目指した者は多いだろう。
気配を察した生徒は待っていましたとばかりに居住まいを正した。
渡瀬はそわそわとしながら仲間を見回してくる。
「あっ。やっぱりこの話が来たね……!」
日原としては獣医となる上でどこの大学がいいという希望はなかったが、両親はこの特殊性に注目して本校を強く推してきたものだ。
寮での動物の飼育には三つのパターンがある。
一つ。保健所から譲渡された動物を飼育する。
二つ。寮生が共同で産業動物を飼育する。
三つ。エキゾチックアニマル等、自分が所有する動物を飼育する。
武智教授は何故こんなパターンがあるのか説明するのだろう。
こちらに目を向けた。
当時はクラスメイトと教室で顔合わせを終えてから入学式を迎えたものだった。
一方、大学の入学式は格段にあっさりしている。
予約した大型バスでホテルの会場に向かい、学部単位で大雑把に決められた席で式を終えると初めてクラスメイトが一か所に集まって記念撮影。
なんとそれで解散する流れだった。
けれども、獣医学科というものは人数が少ないだけに上級生との結びつきが非常に強いらしい。
式に駆け付けた上級生が希望者をファミレスに連れていき、軽い懇親会を催してくれた。――なんでも、上級生はこれだけに収まらず、学年ごとに連日宅飲みが計画しているそうだ。
早速、衝撃的な洗礼が待っていることには驚かされる。
学校行事だけでなく、遠方での一人暮らしという環境といい、今までとは大きく違う。
おまけにクラスメイトも個性派ぞろいだった。
そもそも獣医師は動物病院で働くだけが全てじゃない。
それは実に全体の約四割。
動物が関わる現場の数だけ獣医師がおり、職域の分だけ個性も増えていく。
運命の試験に居合わせ、記憶に残った生徒三人がまさに好例だった。
少し浮いた彼らとのファーストコンタクトは、そうそう忘れられるものじゃない。
試験前に学問の神様に祈りを捧げていた男子生徒は鹿島友則。
彼は優等生そうな見かけに反し、浪人覚悟での挑戦だったらしい。
しかし山勘が大当たりし続けて合格という奇跡に恵まれたそうだ。
夢か現かと、さ迷い歩くようだった彼とは入学式会場で再会した。
続けて、受験に遅れそうだった女生徒が渡瀬明香里。
スポーティな見かけもそのはず。高校時代はバスケットボール少女だったらしい。
快活な彼女はあの日の記憶に残ったもう一人の女子を引き連れ、こちらを見つけてくれた。
最後の一人は試験前にも寝ていた特殊な女子なんだけど――その前に状況をおさらいしよう。
入学式を終えたメンバーは諸々が終わったあとに大学に戻った。
というのも、担任教授が昼前にオリエンテーションを催すとのことだからだ。
集合場所は教室ではなく、寮に面したラウンジ。
ここは獣医学科が主催する犬のしつけ教室などで利用される場所らしい。
教室で催さない点といい、『ここで説明される内容』がもしやと予想される。
ともあれ四人は一度寮に荷物を置いてから再集合し、同じ卓を囲んだ。
さて、話題を戻そう。
もう一人の女子、朽木夕日がわざわざ寮から持ってきたものに日原は困惑した。
(なんでテグーを抱えてここに来ているのかな!?)
テグー。
それは全長一メートルほどにもなる大型のトカゲだ。
ペット業界では犬猫以外の動物という意味合いで使われるエキゾチックアニマルの代表例で、ウサギやフェレットに続き、ハリネズミなどと共に近年人気が高まっている。
朽木が胸に抱いたそれはテーブルに両前脚を乗せ、舌をちろちろとさせながらこちらを見つめていた。
顔つきはまさに恐竜。
見慣れない日原はごくりと生唾を飲んでしまう。
「わーっ、これがテグーね! 私、初めて見るよ。この子がクッチーのパートナー?」
「そう。説明ついでに連れてきてって教授に言われて」
はしゃいで見つめる渡瀬に朽木は頷きを返す。
なかなか特殊な彼女なので、ペットを連れ歩こうとしたのかと想像が頭を過ってしまった。
けれどこの場所に集合したことに加えてパートナーという一言に、日原は納得する。
「パートナー動物を連れてこさせるってことは大学の特色もオリエンテーションで説明するのかもね」
ありえそうな話だと日原が納得を示すと、鹿島もなるほどと手を叩く。
手持ち無沙汰なだけに談笑はこの『パートナー動物』に発展しそうだったが、タイミングよく担任教授がラウンジに到着したことで会話は止まった。
「よーし、全員集まっているな? それじゃあオリエンテーションを始めるぞ」
教卓に立つのは受験の時に試験官を担当した内科学の武智教授だ。
無精ひげが似合う、ダンディーな教授である。
彼はピシッと着たスーツのネクタイが窮屈なのか、少し緩めてから話を続ける。
「えー、皆さん。入学式の際にも言ったかと思いますが、瀬戸内大学獣医学科の第十二期生として合格おめでとう」
教授はラウンジに集まった生徒を見回す。
日本の獣医大学は一九六六年に北里大学が加わって以来、数十年と十六大学だったが、近年になって二校増えて十八大学となった。
瀬戸内大学獣医学部獣医学科一年生の学友は、総勢三十名。
現役、多浪、中には三十代、四十代もおり、男女比はほぼ半々。
これが六年間付き合うメンバーだ。
「さて、念願の獣医学生となれたわけだが羽目を外し過ぎてはいけない。一日の停学でもそのまま一年の留年に繋がるし、親元を離れたのを狙って様々な勧誘もあるので――」
と、まずは大学生活の幕開けとして諸注意が語られる。
薬物はダメ、学生らしく公序良俗に則った生活をという内容だ。高校でも聞き飽きた心得だけにこちらも今更感を覚えながら耳にした。
けれど、面白い話題もある。
それは話と共に配られたプリントに記載された大学の特色についてだ。
日原は改めて朽木とテグーに目を向ける。
彼女とパートナーの動物。これがこの大学の獣医学生を象徴する姿なのだ。
「次に寮生活についてだ。もう住んでいるので知るところだろうが、本校の獣医学科には他大学にはない独自のシステムがある。それが全寮制と、寮における動物の飼育だ。一部の動物専門学校がしていることと似ているな」
この点に期待してこの大学を目指した者は多いだろう。
気配を察した生徒は待っていましたとばかりに居住まいを正した。
渡瀬はそわそわとしながら仲間を見回してくる。
「あっ。やっぱりこの話が来たね……!」
日原としては獣医となる上でどこの大学がいいという希望はなかったが、両親はこの特殊性に注目して本校を強く推してきたものだ。
寮での動物の飼育には三つのパターンがある。
一つ。保健所から譲渡された動物を飼育する。
二つ。寮生が共同で産業動物を飼育する。
三つ。エキゾチックアニマル等、自分が所有する動物を飼育する。
武智教授は何故こんなパターンがあるのか説明するのだろう。
こちらに目を向けた。
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