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二章 グナー
第十話 後悔は先に立たない
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竜崎彩歌の弱点は、落ち込みやすいところだ。落ち込んで、引き摺って、なかなか立ち直れない。
自覚はあるのだが、心の問題だから、そうそう簡単には治らない。
「竜崎さん? 大丈夫ですか?」
隣を歩く雪平の声が、思考の海に沈んだ意識を引き上げる。
「その、ごめんなさい」
立ち止まり頭を下げる雪平に、慌ててしまう。
「え? えっと……なにが?」
「私のせいで、嫌なことを思い出してしまったみたいなので」
心配性なのだろうか、彩歌の周りにいないタイプの人間のため、対応に戸惑う。
「私は大丈夫です。それより、雪平さんこそ大丈夫ですか? 先輩が、無遠慮に踏み込んでましたけど」
「はい。どうやら先輩は、同病を相憐れんだようですね。本当に心配していただけたのがわかったので、嫌な気持ちにはなりませんでした」
(なるほど、心配したんじゃなく、口説こうとしたのか。この子、あーちゃんの好みのドストライクだ)
愛知のことを好きになってから、ずっと観察してきた愛知の好み。主な情報源は、愛知のPCの外付けハードに入っている、エロゲコレクションだ。ちなみに、ムカつくので定期的に消して愛知を泣かせている。
(礼儀正しくて、お淑やかで、人の気持ちを慮ることができて、黒髪ロングの美少女。ついでに貧乳)
目の前の少女は、まさしく愛知の理想の女性だ。
(あのエロゲのヒロインと、あのエロゲのサブヒロインを足した感じか……ムカつく。帰ったら、あーちゃんのエロゲ円盤を割ろう)
心の中で強く誓う。きっと、女神様も許してくれるはずだ。
一度だけ、外付けハードを風呂に放り込んだことがあるが、その時は一ヶ月も口を聞いてくれないくらい怒って、女神の口添えでようやく許してもらえた。
今回も怒るかもしれないが、理由をふんわりと説明すれば女神が察してくれるはずだ。
(うん。今日は早く帰らなきゃ)
「あの、竜崎さん?」
「え? あ、ごめんなさい。えっと……なんだっけ?」
「愛染先輩のことです」
「え?」
彩歌が愛知のコレクションを破壊する決意を固めている間に、話が進んでいたようだ。
「愛染先輩って、優しい人ですね」
愛知は他人に対して無関心に見えるが、本当は人に嫌われるのを怖がっているだけで、他人との距離感を慎重に測っているだけだ。優しいというには少しばかり配慮が足りないが、気に入った相手に対してはとことん気にかける。踏み込んで嫌われるのが怖いから、気にかけるだけで終わってしまうが。
誤解されがちな愛知の性格を、良い方へ勘違いしてくれたことが、幼馴染として嬉しくもある。が、愛知を想う一人の女として、少し焦る。
「そんなことはありませんよ。朝は起こされるまで起きないし、食べ終わった食器を流しに持ってこないし、脱ぎっぱなしにするし脱いだ靴下は裏っ返しだし、食べてすぐ横になるし、エロゲの箱は……」
まるで、熟年夫婦みたいな愚痴を言っていることに気づいて、横目で雪平の様子を窺う。
そこには、生暖かい「おやおや」的な目で見ながら、笑いを噛み殺している雪平がいた。
「ともかく、あーちゃんはダメ人間なんです」
「あーちゃん?」
雪平の鸚鵡返しに耳まで赤くなる。
「あ、いや。昔は、その」
つい、昔の呼び方が出てしまった。なにをどう誤魔化せばいいかわからず、いたずらに思考が空転する。そんな「あー」とか「うー」しか言わない彩歌を、楽しそうに見つめる雪平。
(こいつ嫌い)
「あーちゃん先輩は、いい人みたいですね」
「別に、いい人とは言ってないです」
「私は竜崎さんっていい人だと思いますよ。その竜崎さんが、そんな風に言う人なんて他にいないでしょ? きっと、いい人だからですよ」
「それ繋がってる?」
論旨が滅茶苦茶な気がする。
指摘しても、口に手を当ててお上品に笑うだけ。
「はぁ、なんかもう、いいや。……うん。あーちゃんはいい人だよ。ちょっと最近は諦め癖が出てきてるけど、本当は努力家で、負けず嫌いで、寂しがり屋で、泣き虫で、エロゲ好きで、二次元の巨乳好きで、リアルの貧乳好きで」
「そこまでは聞いてませんよ」
愛知の個人情報が、だだ漏れだ。
「それにしても、本当に好きなんですね。愛染先輩のこと」
改めて指摘されると、なんだか気恥かしい。
「わ、悪い?」
恥かしさを誤魔化すために、少し強めの口調になってしまう。
「悪くはないんだけど、少し困りましたね」
「困る?」
「ええ。竜崎さんとお友達になりたいと思っていたんですけど」
「友達なら別に困らない。私も、雪平さんとは仲良くしたい」
愛知が好きそうな女の子は、可能な限り愛知から遠ざけたい。できないなら、味方にして愛知との仲を進展させる手伝いをしてもらいたい。そんな妥協の混じった返事だったが、素直に喜ぶ雪平に、胸が少し痛くなる。
「嬉しいです。けど、ますます困りましたね」
「だから、困る理由はなに?」
「私も愛染先輩のこと、素敵な人だなって思ってます」
一瞬、言葉につまる。
「な、にを」
搾り出した言葉は弱々しい。
「うん。まあ、これが好きって気持ちかわからないけど、少なくとも、敦君に向けていた気持ちと少し違うってことは、わかるわ」
「それで、あーちゃんに告白するの?」
「それで振られたら、なんの憂いもなく竜崎さんと友達になれるわね」
愛知のヘタレっぷりは、よくわかっている。一度振った相手と付き合ったりはしない。そんな甲斐性はない。
だから、雪平が振られてしまったら、彼女はもう彩歌の脅威にはならない。
「竜崎さんって、顔に出やすいのね」
自覚していない表情を指摘され、頬を一撫でする。
「まだ、告白はしませんよ。今、告白しても、振られるだけですし、竜崎さんと仲良くしたいというのも本当ですから。仲良くしながら、愛染先輩に私を知ってもらおうと思っています」
「そ。ご、ご自由に」
たっぷりの強がりを混ぜて、それだけ言う。それだけしか言えない。
「ええ。それでは”彩歌さん”って呼んでいいですか? それとも、私も”サイちゃん”って呼んだ方がいいですか?」
「それは嫌」
自分を”サイちゃん”と呼ぶのは、今まで愛知しかいなかった。別に呼び方一つでなにかが変わるわけでもないが、愛知と同じ呼び方を雪平にだけはしてほしくない。
「彩歌でいいわ」
「それじゃあ、私のことも香と呼んでください」
おっとりとした表情なのに、大股で彩歌との心の距離を詰めてくる。
彩歌自身のコミュニケーション能力は、愛知と比較したら高いが、一般的には普通レベルだ。そんな彩歌にとって、雪平の距離の詰め方は少しばかりテンポが速いので、戸惑ってしまう。
愛知が好きそうな笑顔で手を差し出す雪平。
「よろしくね。彩歌さん」
ここで勝とうが負けようが、愛知が勝者に惚れてくれるわけではないので関係ないのだが、主導権を握られ続けるのは癪だ。
「よろしく。雪平さん」
「壁が厚いなぁ」
疑心暗鬼気味かもしれない。愛知好みのこの困ったような笑顔が、自分より高いコミュニケーション能力の賜物のように思える。
「彩歌さんって、人見知りだったりするのかな?」
楽しい玩具に出会えたような笑顔に、ため息しか出ない。
「うんうん。人見知りっていうより、ヘタレなのかな?」
「ヘタレはあーちゃんです」
一応の反論。
「愛染先輩のことを好きになったのは、いつ頃かな? 小学生の頃に告白されて振ったんだから、それ以前ってことはないわよね? それ以降なら……すぐってことは」
彩歌の表情を読みながら進められる話に、表情を硬くする。
(告白されて一ヵ月後には、好きになっていたな)
「え? すぐなの?」
「エスパーか!」
思わず、肯定の意味を持つツッコミを入れてしまった。
微妙な沈黙の後、上品に笑う雪平の視線が優しく刺さる。
一年生の教室の近くまで来たので、周りに顔見知りが増えているが、美少女二人の会話に割って入ろうとする者はいなく、微妙な沈黙は数秒続いた。
「ごめんなさい」
沈黙と雪平の生暖かい視線に耐えられず、謝ってしまった。
「ん? 友達になれないってこと? そんな、ひどいわ」
「ち、ちがっ!」
「うん。わかってる」
必死に抗弁しようとした自分が恥かしい。
掌の上をコロコロ転がっている気分だ。いつか愛知をコロコロ転がしたいと思っていたが、相手がこんな気分になるのなら、やめた方がいいのだろうか。
「彩歌さんはコロコロ転がるわね」
(よし。あーちゃんを転がす人になろう)
人生の目標ができた。
「彩歌さんの目標ができたみたいだし、そろそろ教室に行こ?」
愛知には言わなかったが、彩歌と雪平は同じクラスだ。
考えすぎだが、愛知と雪平が知り合うきっかけになってしまうような気がして教えなかった。まあ、明後日の方向から知り合ってしまったのは、どうしようもないので諦めている。
「あの、雪平さん」
「ん? 愛染先輩は、洋食より和食の方が好きそうだけど、どうかな?」
(なぜ知っている。本当に心を読めるのか?)
話を逸らされたことより、そちらが気になる。
「当たりかぁ。作るなら洋食より和食の方が得意だから、ありがたいかな」
(私は洋食の方が得意)
最近になって、ようやく愛知好みの味噌汁を作れるようになったばかりだ。
「彩歌さんは洋食かぁ」
「だから、なんでわかるの?」
「だって……そんなに顔に出てたら、誰でもわかるよ」
「え? マジで?」
自分では、今度こそ表情を制御できていると思っていた。
実際、彩歌は表情が読みにくい。読みにくいはずだが、なぜか雪平にはわかる。
これは、後日、愛知がなんとなくでやった二人の相性チェックで判明する。二人は双方向に90台後半の高い相性値だったのが原因だ。ちなみに、彩歌が雪平の表情を読めないのは、才人と愛知しか興味がないから他の人の顔を見慣れていないからだ。
「ともかく、愛染先輩には、そのうち告白するからね。けど、先に彩歌さんが告白したら……諦めるわ」
最後だけおどけた感じで言う。
「ま、彩歌さんはヘタレだから、私が先になると思うけど」
「うっさいよ。香」
なんだかんだで、彩歌に生涯付き合える親友ができた。
自覚はあるのだが、心の問題だから、そうそう簡単には治らない。
「竜崎さん? 大丈夫ですか?」
隣を歩く雪平の声が、思考の海に沈んだ意識を引き上げる。
「その、ごめんなさい」
立ち止まり頭を下げる雪平に、慌ててしまう。
「え? えっと……なにが?」
「私のせいで、嫌なことを思い出してしまったみたいなので」
心配性なのだろうか、彩歌の周りにいないタイプの人間のため、対応に戸惑う。
「私は大丈夫です。それより、雪平さんこそ大丈夫ですか? 先輩が、無遠慮に踏み込んでましたけど」
「はい。どうやら先輩は、同病を相憐れんだようですね。本当に心配していただけたのがわかったので、嫌な気持ちにはなりませんでした」
(なるほど、心配したんじゃなく、口説こうとしたのか。この子、あーちゃんの好みのドストライクだ)
愛知のことを好きになってから、ずっと観察してきた愛知の好み。主な情報源は、愛知のPCの外付けハードに入っている、エロゲコレクションだ。ちなみに、ムカつくので定期的に消して愛知を泣かせている。
(礼儀正しくて、お淑やかで、人の気持ちを慮ることができて、黒髪ロングの美少女。ついでに貧乳)
目の前の少女は、まさしく愛知の理想の女性だ。
(あのエロゲのヒロインと、あのエロゲのサブヒロインを足した感じか……ムカつく。帰ったら、あーちゃんのエロゲ円盤を割ろう)
心の中で強く誓う。きっと、女神様も許してくれるはずだ。
一度だけ、外付けハードを風呂に放り込んだことがあるが、その時は一ヶ月も口を聞いてくれないくらい怒って、女神の口添えでようやく許してもらえた。
今回も怒るかもしれないが、理由をふんわりと説明すれば女神が察してくれるはずだ。
(うん。今日は早く帰らなきゃ)
「あの、竜崎さん?」
「え? あ、ごめんなさい。えっと……なんだっけ?」
「愛染先輩のことです」
「え?」
彩歌が愛知のコレクションを破壊する決意を固めている間に、話が進んでいたようだ。
「愛染先輩って、優しい人ですね」
愛知は他人に対して無関心に見えるが、本当は人に嫌われるのを怖がっているだけで、他人との距離感を慎重に測っているだけだ。優しいというには少しばかり配慮が足りないが、気に入った相手に対してはとことん気にかける。踏み込んで嫌われるのが怖いから、気にかけるだけで終わってしまうが。
誤解されがちな愛知の性格を、良い方へ勘違いしてくれたことが、幼馴染として嬉しくもある。が、愛知を想う一人の女として、少し焦る。
「そんなことはありませんよ。朝は起こされるまで起きないし、食べ終わった食器を流しに持ってこないし、脱ぎっぱなしにするし脱いだ靴下は裏っ返しだし、食べてすぐ横になるし、エロゲの箱は……」
まるで、熟年夫婦みたいな愚痴を言っていることに気づいて、横目で雪平の様子を窺う。
そこには、生暖かい「おやおや」的な目で見ながら、笑いを噛み殺している雪平がいた。
「ともかく、あーちゃんはダメ人間なんです」
「あーちゃん?」
雪平の鸚鵡返しに耳まで赤くなる。
「あ、いや。昔は、その」
つい、昔の呼び方が出てしまった。なにをどう誤魔化せばいいかわからず、いたずらに思考が空転する。そんな「あー」とか「うー」しか言わない彩歌を、楽しそうに見つめる雪平。
(こいつ嫌い)
「あーちゃん先輩は、いい人みたいですね」
「別に、いい人とは言ってないです」
「私は竜崎さんっていい人だと思いますよ。その竜崎さんが、そんな風に言う人なんて他にいないでしょ? きっと、いい人だからですよ」
「それ繋がってる?」
論旨が滅茶苦茶な気がする。
指摘しても、口に手を当ててお上品に笑うだけ。
「はぁ、なんかもう、いいや。……うん。あーちゃんはいい人だよ。ちょっと最近は諦め癖が出てきてるけど、本当は努力家で、負けず嫌いで、寂しがり屋で、泣き虫で、エロゲ好きで、二次元の巨乳好きで、リアルの貧乳好きで」
「そこまでは聞いてませんよ」
愛知の個人情報が、だだ漏れだ。
「それにしても、本当に好きなんですね。愛染先輩のこと」
改めて指摘されると、なんだか気恥かしい。
「わ、悪い?」
恥かしさを誤魔化すために、少し強めの口調になってしまう。
「悪くはないんだけど、少し困りましたね」
「困る?」
「ええ。竜崎さんとお友達になりたいと思っていたんですけど」
「友達なら別に困らない。私も、雪平さんとは仲良くしたい」
愛知が好きそうな女の子は、可能な限り愛知から遠ざけたい。できないなら、味方にして愛知との仲を進展させる手伝いをしてもらいたい。そんな妥協の混じった返事だったが、素直に喜ぶ雪平に、胸が少し痛くなる。
「嬉しいです。けど、ますます困りましたね」
「だから、困る理由はなに?」
「私も愛染先輩のこと、素敵な人だなって思ってます」
一瞬、言葉につまる。
「な、にを」
搾り出した言葉は弱々しい。
「うん。まあ、これが好きって気持ちかわからないけど、少なくとも、敦君に向けていた気持ちと少し違うってことは、わかるわ」
「それで、あーちゃんに告白するの?」
「それで振られたら、なんの憂いもなく竜崎さんと友達になれるわね」
愛知のヘタレっぷりは、よくわかっている。一度振った相手と付き合ったりはしない。そんな甲斐性はない。
だから、雪平が振られてしまったら、彼女はもう彩歌の脅威にはならない。
「竜崎さんって、顔に出やすいのね」
自覚していない表情を指摘され、頬を一撫でする。
「まだ、告白はしませんよ。今、告白しても、振られるだけですし、竜崎さんと仲良くしたいというのも本当ですから。仲良くしながら、愛染先輩に私を知ってもらおうと思っています」
「そ。ご、ご自由に」
たっぷりの強がりを混ぜて、それだけ言う。それだけしか言えない。
「ええ。それでは”彩歌さん”って呼んでいいですか? それとも、私も”サイちゃん”って呼んだ方がいいですか?」
「それは嫌」
自分を”サイちゃん”と呼ぶのは、今まで愛知しかいなかった。別に呼び方一つでなにかが変わるわけでもないが、愛知と同じ呼び方を雪平にだけはしてほしくない。
「彩歌でいいわ」
「それじゃあ、私のことも香と呼んでください」
おっとりとした表情なのに、大股で彩歌との心の距離を詰めてくる。
彩歌自身のコミュニケーション能力は、愛知と比較したら高いが、一般的には普通レベルだ。そんな彩歌にとって、雪平の距離の詰め方は少しばかりテンポが速いので、戸惑ってしまう。
愛知が好きそうな笑顔で手を差し出す雪平。
「よろしくね。彩歌さん」
ここで勝とうが負けようが、愛知が勝者に惚れてくれるわけではないので関係ないのだが、主導権を握られ続けるのは癪だ。
「よろしく。雪平さん」
「壁が厚いなぁ」
疑心暗鬼気味かもしれない。愛知好みのこの困ったような笑顔が、自分より高いコミュニケーション能力の賜物のように思える。
「彩歌さんって、人見知りだったりするのかな?」
楽しい玩具に出会えたような笑顔に、ため息しか出ない。
「うんうん。人見知りっていうより、ヘタレなのかな?」
「ヘタレはあーちゃんです」
一応の反論。
「愛染先輩のことを好きになったのは、いつ頃かな? 小学生の頃に告白されて振ったんだから、それ以前ってことはないわよね? それ以降なら……すぐってことは」
彩歌の表情を読みながら進められる話に、表情を硬くする。
(告白されて一ヵ月後には、好きになっていたな)
「え? すぐなの?」
「エスパーか!」
思わず、肯定の意味を持つツッコミを入れてしまった。
微妙な沈黙の後、上品に笑う雪平の視線が優しく刺さる。
一年生の教室の近くまで来たので、周りに顔見知りが増えているが、美少女二人の会話に割って入ろうとする者はいなく、微妙な沈黙は数秒続いた。
「ごめんなさい」
沈黙と雪平の生暖かい視線に耐えられず、謝ってしまった。
「ん? 友達になれないってこと? そんな、ひどいわ」
「ち、ちがっ!」
「うん。わかってる」
必死に抗弁しようとした自分が恥かしい。
掌の上をコロコロ転がっている気分だ。いつか愛知をコロコロ転がしたいと思っていたが、相手がこんな気分になるのなら、やめた方がいいのだろうか。
「彩歌さんはコロコロ転がるわね」
(よし。あーちゃんを転がす人になろう)
人生の目標ができた。
「彩歌さんの目標ができたみたいだし、そろそろ教室に行こ?」
愛知には言わなかったが、彩歌と雪平は同じクラスだ。
考えすぎだが、愛知と雪平が知り合うきっかけになってしまうような気がして教えなかった。まあ、明後日の方向から知り合ってしまったのは、どうしようもないので諦めている。
「あの、雪平さん」
「ん? 愛染先輩は、洋食より和食の方が好きそうだけど、どうかな?」
(なぜ知っている。本当に心を読めるのか?)
話を逸らされたことより、そちらが気になる。
「当たりかぁ。作るなら洋食より和食の方が得意だから、ありがたいかな」
(私は洋食の方が得意)
最近になって、ようやく愛知好みの味噌汁を作れるようになったばかりだ。
「彩歌さんは洋食かぁ」
「だから、なんでわかるの?」
「だって……そんなに顔に出てたら、誰でもわかるよ」
「え? マジで?」
自分では、今度こそ表情を制御できていると思っていた。
実際、彩歌は表情が読みにくい。読みにくいはずだが、なぜか雪平にはわかる。
これは、後日、愛知がなんとなくでやった二人の相性チェックで判明する。二人は双方向に90台後半の高い相性値だったのが原因だ。ちなみに、彩歌が雪平の表情を読めないのは、才人と愛知しか興味がないから他の人の顔を見慣れていないからだ。
「ともかく、愛染先輩には、そのうち告白するからね。けど、先に彩歌さんが告白したら……諦めるわ」
最後だけおどけた感じで言う。
「ま、彩歌さんはヘタレだから、私が先になると思うけど」
「うっさいよ。香」
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