女神様は黙ってて

高橋

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二章 グナー

第十四話 試供品を使うタイミング

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 学校帰りに駅近くのショッピングモールで買い物をすることになり、なにを買うでもなくブラブラしていたら、香の提案で彩歌と香の服を選ぶことになった。
 といっても、愛知が選ぶわけではなく、女の子二人は各々興味の赴くままに服を見ていた。
 そんな二人を視界の隅に捉えながら、チラチラと愛知の顔色を窺う才人と二人、店内でボンヤリとしながら待つ。
 面倒臭いから気づかないフリをしようと思って流していたけど、下校から一時間弱もこの状態が続くと、気づかないフリを続ける方が面倒になる。

「で? 才人。なにが言いたい?」

 話を振られると、才人の目が途端にキラキラ輝く。

「今日の恋愛相談」
「んー。あれか、吉田君のか?」
「うん。愛知は同性愛に賛成なの?」
「賛成も反対もしない。同性であれ異性であれ、好きになったもんはしょうがない。同性愛を勧めるわけでもないし、異性愛を勧めるわけでもない。ちなみに俺はドノーマル」

 最後の一言に、才人が少しだけ肩を落とす。

「まあ、吉田君に関しては”とりあえず、お試しで付き合ってみりゃいんじゃね”って言っといたけど」
「愛知は……お試しで誰かと付き合えるの?」
「人によるな。見るからにヤバそうな人と、怖いもの見たさで付き合ってみようとは思わない」
「……なら……俺は……どう?」

 脳内で女神の『ふぁ』という声が聞こえたが、多分、幻聴だ。恋愛相談ラッシュで、精神的に疲れているだけだ。

「前にも言ったけど、俺はノーマルだよ」
「吉田君に勧めたように、お試しで付き合ってみるってのは?」
「お試しで納得するのか?」

 お試し以上の付き合いはしない、という意味で言った愛知の言葉は、正確に伝わった。

「その言い方はずるい」
「お試しなら、私でもいいじゃない」

 いつの間にか、後に彩歌が立っていた。その後には不動明王がいるように見えたが、これも幻だ。だって、不動明王は休眠中ってグナーが言ってたから。

「んー、サイちゃんには振られちゃったしな」
「うぅ、それは、その」

 妹の自爆に、才人が勝ち誇ったような顔をしている。

「でしたら、私はいかがでしょうか?」

 香の参戦に、勝ち誇った才人の顔が引き攣る。才人は昔からモテて、常に周りに異性がいる状態だったので、女性の扱いに慣れているが、積極的に愛知へ詰め寄る香には苦手意識を持っていた。

「それは魅力的だね」

 愛知は、香と軽口を言い合えるような仲になった、と誤解していた。
 冗談として受け取った愛知に、竜崎兄弟がサムズアップ。それを受けて香は、少しイラッとしたようにも見えたが笑顔を崩さない。

(なんか、空気がピリピリしてる)

 愛知は自分に向けられる好意に疎いが、周囲の空気を読む能力は人並みにある。

「そういえばさ。試供品って、いつ使えばいいのかな」

 話題を変えるにしては唐突だし、変える内容も繋がりが薄い。「お試し」と「試供品」は遠すぎる。言ってから自覚はしたものの、吐いた言葉は戻らない。

「唐突ですね。……ああ、あれですか」

 意図せず助け舟になった彩歌の視線を追うと、通路の反対側にある雑貨屋に、なんの関係があるのかシャンプーの試供品が置かれていた。

「旅行好きなら、あれを持って行くんじゃないかな? できるだけ荷物を少なくしたい人とか。あとは、買い置きがない時とか?」

 首を傾げる才人の姿に店員の一人がときめいていたが、よくあることなので無視。

「けど、最近は、やっすいビジネスホテルですら、最低限のアメニティがあるらしいじゃん? 必要か?」
「んー、まあ、あのシャンプーに興味がある人しか、必要ないか」
「で、なんとなく貰って帰っても、使うタイミングがなくて溜まってくわけだ」
「そういえば、愛知の家にもいくつかあったね」
「古いのは捨ててるんだけどね。サイちゃんが」

 家事は竜崎兄妹任せ。

「って、サイちゃんと雪平さんは? あ、いた」

 各々服選びに戻っていた。

「女の子って、興味がない話をすると冷たいよね」
(才人ほどのイケメンでも、聞いてくれないのか)
「あと、望んだ答えがある質問に対して、望んでない方の返事をした時の、あの目が怖いよね」

 うんうん、と同意する。続く「だから女の子は嫌なんだよ」と言う才人の言葉に流れで危うく同意しそうになったが、急ブレーキを踏んで同意しなかった。
 そんな話をしていたからなのか、早速、その質問が来た。

「愛知先輩。どちらが似合うと思いますか?」

 振り向くと、二着の服を持った香が、期待を込めた目で見ていた。
 右手には白のワンピース。左手には少し暗い緑色のワンピース。
 右手のワンピースは、体のラインが出そうだ。反対に、左手のワンピースはゆったりとした作り。

(どっちが正解だ?)

 彩歌でしか経験がないが、経験上、女性がこう聞く時は、必ず自分で答えを出している時だ。

(不正解を選んだ時の、あの冷めた目は……嫌だ)

 嫌というより恐怖を感じる。人によってはご褒美になるだろうが、性的にノーマルを自称する愛知には、恐怖でしかない。

(雪平さんは右利きだったな。けど、左手の方が上に上がってる)
「先輩? 先輩の好みを知りたいんですけど」
「ん? ああ……そうだな」
(好みなら白ワンピ一択なんだけど……どうするか)

 女性の扱いに慣れているイケメンの幼馴染に意見を求めようと視線だけで横を見ると、身の危険を感じたのか既に離脱していた。

「うん。俺は白ワンピが好き、かな?」

 素直に好みを言ってみた。疑問形になったけど。

「そっか。参考になりました」

 香が笑顔で服選びに戻る。

(どっち? 正解? 不正解? 悪感情は感じなかったけど……どっちだ?)
『いや。純粋に、愛知の好みを聞いただけですよ』

 正解は、女神様から齎された。

「まじっすか……」

 楽しそうに服を選ぶ香の背中を見ていると、後に不穏な気配がした。

「あーちゃん」

 振り向きたくないけど振り向かないと面倒だし、顔を引き攣らせながら振り向くと、予想通り、彩歌が服を二着持って立っていた。いや、普通の服ではなく。

「サイちゃん。なぜ、ドレス? 隣の店から持ってきたの?」

 今いる店は、カジュアルな服を扱っている店だ。ボンヤリ歩いていたから、はっきりとは憶えていないが、隣の店ではこのようなドレスを扱っていたはずだ。

「で? どっちがいい?」
(これも俺の好みを聞いているのか?)

 右手に持つのは「これ着るヤツって、海外セレブだけじゃね?」と言いたくなるような胸元と背中がザックリ開いたマーメードラインの赤いドレス。
 左手は純白でプリンセスラインの……ウェディングドレス。

「待て。どこから持ってきた」

 いくらドレスを取り扱ってるといっても、隣の店にウェディングドレスがあるとは思えない。

「店員さんの私物だって」
「百歩譲って私物だとして、なぜ、仕事場に持ってきてる? なぜ、サイちゃんに貸しちゃう?」
「似合うかな?」
(これはどっちだ? ウェディングドレスを選んでしまうと、なにかが終わるような気がするし、エロいドレスだと蔑まれてしまいそうだし、いや、それはそれでご褒美なのか? ……いや、ないな。蔑まれて悦んだりできねえな。となると、ウェディングドレスか? 昔振られた女の子のこの質問に、ウェディングドレスを選ぶのはなかなかハードルが高いぞ。ああ、もう、わかんねー!)

 もう考えるのが面倒臭いので、右手に持ったエロいドレスを恐る恐る指差す。

「そっちの、エロいのを着たサイちゃんを見た……い」

 言い終わる頃には、彩歌の目は想い人を見る目ではなく、母親の彩音が夫の浮気に気づいた時と同じ目をしていた。具体的に言うと、全国の主婦が、早朝、生ゴミを出す時の死んだような目だ。

『うわ、迂闊ね。今のは嘘でもウェディングドレスでしょう』

 女神からも蔑むような声で言われた。

「わかるんなら教えてよ」

 天を仰いで女神に懇願した。
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