女神様は黙ってて

高橋

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四章 ミネルヴァ

第七話  出世と出征

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 旗艦を中心に見栄えのする陣形で、帝都の宙域を後にする。

「この陣形で戦ったら、あっさり全滅するけどね」

 艦橋の指令座で呟く。
 各艦種の運用効率を全く考慮していない艦隊陣形だ。
 なにせ、大型輸送艦が旗艦より前に配置されている。最前列で突撃するはずの小型の突撃艦が、艦隊の各所に装飾のように配置されている。
 こんな配置では盾代わりにもならない。この陣形なら、敵がウーゴであれば一当たりであっさり勝ってしまうだろう。

「折角、第五艦隊に昇格したんですから、最初の出撃くらい、見栄えを良くしておきたいじゃないですか」

 先日のエーベとのやり取りを聞いていた宰相が手回しをしたのか、その二日後には、階級こそ据え置きであるものの、ウーゴは近衛第十二艦隊司令官から、一気に近衛第五艦隊司令官に昇格していた。

「第五に昇格して、星系軍を召集できるようになったけど……今回、一番近い星系は?」

 誰にともなく聞くと、隣に立つエーベが端末に今回の遠征先と遠征先に近い星系を表示させる。
 さすがに仕事中は平静を装っているが、私室に帰ると未だにエーベは不機嫌だ。兄弟喧嘩は今まで何度もあったけど、三十手前にもなってこれほど長引く喧嘩はあまりない。
 エーベが平静を装っているので、ウーゴもそれを指摘しないように平静を装って端末を見る。

「えー。一番近いのって、ガイア星系じゃん」

 先日、ウーゴが滅ぼしたばかりの国だ。

「やっぱ、無理だよね」

 ウーゴの視線に、艦長が「当然」とでも言うように頷く。

「次に近いのは……シノザキ伯爵領か。……パスで」
「確か、嫡男は士官学校の同期ですよね? 星系軍の司令官は、その嫡男となってますね」
「同期だからこそ、パスで」

 心底嫌そうに次の候補を探そうとする。

「嫌いなんですか?」
「嫌いだし、彼には能力もない。シミュレーターを使った戦術学の授業では、基本、突撃だけだったよ」
「AI任せの猪突猛進戦術ですか。嵌れば、短期決戦で犠牲者が少なくて済みますけど」
「あいつが猪突猛進戦術を採用する理由は、”AIの制御艦のクルーはほぼ平民だから、戦死しても帝国の損害にならない”だそうだ」
「貴族主義ですか。帝国では珍しいですね」

 ゴリゴリの実力主義の帝国でも、少数ではあるが貴族主義はいる。

「あいつはゴリゴリの貴族主義だったから、関わりたくないんだよ。おまけに、実戦経験がないはずなのに少将閣下だよ? 多分、親も貴族主義で、軍のお偉いさんとコネがあるんじゃないかな?」
「なら、兄さんの天敵ですね」
「実際、士官学校では、よく絡まれたしね」

 伯爵より爵位が下の同級生はいなく、平民と見下していたアイゼン家は、平民でありながら資産だけで見たらシノザキ伯爵家より遥かに上だ。

「おまけに、シノザキ伯爵家のご先祖様は、うちのご先祖様となにかあったらしい。その件なのかなんなのか、実家から俺に絡むなってお叱りを受けたみたいでな。それ以降は平和だったけど、度々遠くから睨まれてたのはウザかった」
「シノザキ伯爵家……シノザキ……ああ、あれか」

 次期当主のはずのウーゴより、妹の方がアイゼン家の歴史に詳しかった。

「……え? 説明なし?」
「え? 野郎の御家事情に興味が?」

 言われてみると。

「ないな」

 ただ、次期当主の自分より、妹の方が自家の御家事情に詳しいのが釈然としないだけだった。

「ほんじゃ、気を取り直して、次に近いのは……」
「もう、必要ないのでは?」

 端末を操作しながら眉を寄せるウーゴに、エーベが呆れたように聞く。

「まあ、いなくても勝てるけどさ。いたら盾代わりになるじゃん? 部下が戦死するリスクが減るじゃん?」
「このデータを見た限り、部下が無駄死にするリスクが高くなりそうですけど」
「そうなんだよなー。どこの星系軍も錬度が低い。なんで?」
「戦争を、近衛艦隊任せにしているからですよ」

 数代前の皇帝が、疑心暗鬼から優秀な指揮官を監視しやすい中央に集めた結果だ。戦争の度にその指揮官を前線に派遣して周囲の星系軍を指揮させていたのが、いつからか指揮官自らが鍛え上げた艦隊を率いるようになったのが近衛艦隊の始まりだ。
 優秀な指揮官を近衛艦隊という名誉職に就かせることで裏切りを防ごうという、浅はかな考えから始まったのだが、戦争になったら近衛艦隊が出兵するというのは帝国人の常識になっている。なので必然的に、近衛艦隊の実戦経験は豊富だ。反対に、各星系軍は実戦経験がないのが普通だったりする。

「それにしても酷い。このデータだと、実戦経験がないのに出世する指揮官が指揮するシノザキ伯爵領の星系軍が、一番ましじゃないか」
「”指揮官は要らないから艦隊だけ寄越せ”って言いたいですね」
「言ったら、あいつ絶対来ちゃうよ? 女の子の”来ちゃった”は、大歓迎なんだけどな」
「後で密航者がいないか一応確認しておきます」

 艦長は「そんな馬鹿な」という顔をしているが、一度だけ、まだ近衛艦隊の一艦長時代に、ウーゴの愛人が密航したことがあるので、エーベにとっては「そんな馬鹿な」では済まされない話だ。だから、念のための確認だ。
 エーベが簡単に過去にあったゴタゴタを説明すると、艦長は渋い顔になり、”念のため”の指示を部下に出す。

「巡航速度より遅い観閲速度だから、帝都の宙域を出るにはもう少しかかるな。居るんなら、帝都宙域を出るまでに見つけたいね」

 指令座で片肘を付いて他人事のように言うウーゴに、両サイドに立つエーベと艦長が同時にため息をついた。
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