これはきみとぼくの出逢い〜黎明へと続く夜明け前の物語〜

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第九章 思惑

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「あなた如きに綾都様が怯えるなんて、どう判断したら、そんな結論が出るのかしら。バカじゃないの?」

 ルノエの呟きにムッとして顔を上げる。

「どうしてそんな風に言われないといけない?」

「綾都様のご気性であなたを恐れるわけないじゃない。そんなこともわからかいで、よく世継ぎの皇子を名乗れるわね?」

 どういう意味だ?

 綾都の気性ではアレクを恐れない?

 なにか深い意味のある言葉のような気がする。

 顔色の変わったアレクにルノエも、つい言い過ぎたことに気付いたようだった。

「お喋りが過ぎたようね」

 それだけ言って口を噤む。

 綾都は見かけ通りの気性じゃない?

 この日、得た情報をアレクは、いつまでも考えていた。





「ああっ。もうなんでっ?」

 綾都は宮殿のあちこちを駆けていた。

 理由は至って簡単。

 瀬希皇子や兄にちょっと出掛けたいと言ったのだ。

 ここへ来たときは王都にいたが、それ以外では宮殿しか見ていない。

 いつもアレクの相手をさせられていて(いや。それ自体は別に嫌ではないのだが)自由がなかった。

 だから、すこし出掛けてみたかったのだ。

 だが、ふたりには却下されてしまった。

 それでも粘るとルノエに見張りを頼む始末。

 瀬希皇子は世継ぎとして忙しいし、兄はなんだか最近レスターと仲が良い。

 なにか話し合いがあるらしく、よく彼の部屋に出向く。

 時には瀬希皇子も一緒に。

 綾都も仲間に入れてほしいのだが、この件については誰に言っても仲間に入れてくれない。

 それこそ最近仲間になったばかりの、ルパートやルノエですら仲間に入れるのに、綾都だけがいっつも仲間外れ。

 だから、ちょっとストレスが溜まっていたのだ。

 だからといってアレクに連れ出してほしいと頼むほど綾都もバカじゃない。

 彼にそんなことを言ったら、下手をしたら彼の国に連れ去られてしまう。

 綾都はバカではないので、アレクがそれを狙って綾都に優しくしていることを忘れてはいない。

 こうなると頼める相手がいないのだ。

 だから、ひとりで出かけようとしたのだが、結果は大反対の末、ルノエという見張りをつけられる始末。

 これには温厚な綾都も怒ってしまって、ルノエを撒いて逃げ出したのだった。

 ルノエは余程育ちが良かったのか、あまり人を疑うということをしない。

 特に綾都や朝斗のことは、ほとんど疑わない。

 だから、騙すのに気が引けたが、彼女を撒いて逃げた。

 意外だったのは四精霊を復活させるほどの能力者でも、育ちが良すぎて体力は、それほどでもなかったのか、綾都にすら追いつけなかったことだ。

 綾都だって決して脚は速くないのに。

 でも、問題がひとつあった。

 綾都が宮殿内部に詳しくなかったことだ。

「どうしよう。走り回りすぎて、自分がどこにいるのかがわからない!」

 ルノエは異様に勘がいいので、彼女を撒くのは一苦労だった。

 だから、体力のことなど考えず、思い切り走ったのだが、そのうちどこにいるのかわからなくなってきた。

 できたら城門から外に出たいのに。

 そう思って走っていると角から出てきた誰かと思い切りぶつかった。

 倒れそうになった綾都を、その誰かが受け止めてくれる。

「ごめんなさい。ありがとう!」

 綾都が顔を上げてお礼を言うと、相手は驚いたように瞳を見開いていた。

 ルパートやルノエと同じ金の瞳を。
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